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香里奈が語る“今”。
「一瞬一瞬を大切にして生きていく」

私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも真似できない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”にこだわりを持つ生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。H_styleを語っていただく最初のゲストは、モデル、女優として活躍する香里奈さんです。

香里奈

「自分に集中する。それが自分で見つけた答え」


観る者の心を揺さぶり、動かし、笑わせたり、泣かせたりーー演じるという仕事は、とてつもなく難しく、想像を超えるほどの葛藤があるに違いない。作品ごとに求められるものが異なり、その都度、新たな課題が持ち受けている。数多くの映画やドラマに出演してきた香里奈さんは、どんな気持ちで“演じる”ことに臨んできたのでしょうか。

「撮影現場では、いい意味で“自己中心的”になること。それは単純に我がままになるということではなくて、自分に集中するという意味です。それが結果的にいいものにつながるんだーーと気づいてからは、演じることへの取り組み方が変わりました」

そんな一つの答えにたどり着いたのは、名作ドラマとして多くのひとの記憶に刻まれている『僕の歩く道』(関西テレビ系/2006年放映)でヒロインを演じたときのこと。何度もテストを繰り返してから本番に入るという撮影プロセスのなかで、当時の香里奈さんはすべてを100%で演じようとしてーー壁にぶつかってしまう。

「それまで経験したことのないシリアスな作品で、ヒロイン役に抜擢していただいたプレッシャーも感じていたので、とにかく目の前のことを一所懸命やろうと気持ちが張っていました。そんななかで、“泣く”シーンの撮影があったのですが、テストでは泣けるのに、本番になると涙が出ない。その日のロケ場所は、道路際で車の騒音がひどくて、集中力を削がれるようなところだったりもして。何度か繰り返すうちに、気持ちは焦るし、周りに迷惑をかけている申し訳なさで、ますます萎縮してしまって。思うようにできなかったことで、悶々としながら、どうすれば上手くできたのだろうと、落ち込んだ一日でした。

その夜、当時のチーフマネージャーから『どうだった、今日?』と聞かれて報告すると、『で、結果は? 観てる人には、過程は関係ないから。本番でやらなかったら意味ないから』と。なぐさめられたり、激励されたかったわけじゃない。でも、どこかでそういう言葉を期待していたのかもしれません。だから、予想外の言葉に、落ち込んでいたはずが、とても悔しくなって。今振り返ると、私の性格をわかっていて、あえてそういう言い方をしてくれたんだと思います(笑)。

どうしたらいいんだろうと突き詰めて考えていくと、そこには“自分がやりやすいように、自分のやり方で自分をコントロールするしかないんだ”という、あたりまえかもしれないけれど、気づけなかったことに思い当たってハッとしました。

カメラの前に立つのは自分、演じるのも自分。周りの状況に左右されずにいい形で自分を本番まで持っていくことは、私自身にしかできない。テストも本番もきちんと涙を流せる役者さんもいるけれど、私は本番に焦点をあてて、そこで力を出せるようにやっていこう。そうすればできるはず、それが自分のやり方だと決めました」

テストのときに涙を流さないことで、“大丈夫か!?”と思うスタッフもいるかもしれないけれど、そこを気にしすぎて自分のペースを崩すと、結果、本番で思うように表現できず迷惑をかけてしまう。香里奈さんの思う「自分に集中する」とは、自分らしく演技するための、そして自分の責任を果たすための方法なのでした。

香里奈
ワンピース¥39,600/ブルーサージ

自分のやり方を模索しながら進む香里奈さんが、仕事に感じている“ものづくりの楽しさ”をよりいっそう実感するに至ったのは、『だいすき!!』(TBS系/2008年放映)の現場だったそう。知的障害を持つ柚子という役で主演。その難しい役柄に、周囲から「できるのか?」と心配する声も聞こえてくるなかでの挑戦ーー。


「それまでは、演じることに対してまだどこか気恥ずかしさを持っていたのだと思います。でも、柚子という役は、自分の弱さとか、不要な自意識にこだわっていたらできない。要らないものを捨ててぶつかっていくことで、吹っ切れたんだと思います。

それからこの現場で、監督やスタッフと意見を交わしながらドラマをつくっていくことを体験させてもらいました。自分の考えや思うことを、もっと伝えていいんだ・・・もっと伝えなければ!と、目の前の扉が開いた感じでした。言われたことにがむしゃらに応えようとしていた今までと違って、この役をこうしたいという思いが強く湧いてきて。自分のなかの大きな転機です。納得がいかなかったら『もう一回お願いします』と、よりちゃんとした意思を持って恥ずかしがらず言えるようになったのは、この『だいすき!!』という作品がきっかけ。誰もが“作品をより良くしよう”と思っているわけですから、意見のやり取りはとても貴重だし、ものづくりの大切な基本だなと思っています」

与えられるだけでなく、参加していく、一緒につくっていく。誰が演じても同じように見えてしまうものではなくて、「香里奈がやる意味」を大切にしたいと再認識できたそう。

「仕事を辞めたいと思ったことは何度もあった」


15歳の終わりにモデルの仕事を始め、その1年後からは演技にも挑戦、気が付けばこの世界でのキャリアは人生の半分以上を占める年月に。「香里奈」として活動してきた約21年間の、表舞台からは見えないヒストリーを聞いてみるとーー。

「モデルになったのは、姉(三姉妹の長女)が先にモデルの仕事をしていた縁で、もう一人の姉(次女)と一緒にモデル事務所に入るという流れでした。子供のときから3人でバレエを習っていたこともあり、みんなで同じことをするという習い事のような気持ちと、まだ学生だったのでアルバイト的な感覚もありました。

でも、初めての撮影現場で、こんなふうに作品が作られていくんだ・・・と制作の裏側を知って、ものづくりの面白さに目覚めました。企画テーマに合わせた衣装やヘアメイク、他のモデルたちのポージングのバリエーションや、スタジオのライティングの様子、現場独特の高揚感とか緊張感——すべてが目新しくて。何よりも、スタッフ全員がいいものをつくろうと集中しているその時間が、とにかく楽しかったし、心地よかった。それが、今もこの仕事を続けている大きな理由になっていると思います」

アルバイト的な感覚から、これが“自分の仕事だ”と意識が変化したのは、18歳で東京に拠点を移したタイミングだったという香里奈さん。バレエという基礎があったことでモデルの仕事には躊躇なく臨めていたものの、増えていく映画やドラマの仕事で壁にぶつかることも多かったよう。

「名古屋出身で地元の高校に通っていたので、東京でファッション誌の撮影があるたびに新幹線で往復していました。私のなかではずっと“東京=仕事をする場所”だったので、東京に住むということは、まさしく仕事のため。親元を離れて東京に行く、ここからは仕事としてやっていくんだという覚悟みたいなものはありました。

東京の事務所に移って、今までとまったく違う芸能という世界にも足を踏み入れたので、正直、戸惑うことばかり。何本かの作品を同時に撮ったり、そのなかでいきなり主演の仕事もさせてもらいました。でも、当時の自分はまるで力不足だったので、現場でスタッフさんに怒られながら、周りの方々に育てられたと思っています」

上京した18歳から20代前半は、「実力以上の恵まれた環境に対して、努力で埋め合わせをしていく期間だった」と振り返ります。主演という立場の人間はどうあるべきか、ということについても怒られながら学び、いろいろな現場を経験していくなかで、責任感が生まれ強まっていったそう。

「バレエで培った基礎が、モデルの仕事で活かせた。そしてモデルをやっていることが女優の仕事につながったけれど、そのスタートは周りの力で引き上げてもらった部分が大きいというのも事実。周囲から『どうせモデルだから』と演技は期待していないよという目で見られることも、『モデルは可愛いだけで(演技で頑張らなくても)いいんだよ』とはっきりと言われることもありました。でも逆にそれが私のなかの“負けず嫌い”を刺激して、そう言われれば言われるほど、“モデル”だけど何ですか? 見返してやる!という気持ちが強くなっていきました(笑)。

弱いところを見せたくないタイプなので、そうは見えないように振る舞っていたけれど、辞めたいと思ったことは何度もあった、というのが正直なところ。10代後半は、あまりにも忙しくて、友達と会う約束もできないような生活。まだ学生気分でしたから、仲間の輪から外れているような疎外感を感じることもあって、普通の生活がしたいな、と思ったこともありました。

20代はさらにプライベートの時間が持てなくて、時間的にも気持ち的にも仕事に追われる毎日。スタジオと自宅の往復で四季を感じる余裕もないし、旬の食べ物をじっくりと味わったり、20代の女の子らしい恋愛を楽しむことも難しかったので、“生きている”っていう実感が少なかったですね。ここが自分の頑張りどきなんだと思って走りきりましたが、30代は自分でシフトチェンジしていく必要性を感じていました」

香里奈
ピアス¥2,980/ヘンカ 中指リング¥1,870、左人差し指リング¥2,310/ともにシースキー 右薬指リング¥12,100/リプサリス

「自分らしく生きるために、仕事をしている」


― 20代は「仕事をするために生きていた」と、過去の多忙ぶりを表現した香里奈さん。今、30代半ばになって、それは大きく変化しているそう。

「30代になってからは、もっと自分らしいやり方で仕事をできるようにしたいと考えて動いています。体調や気持ちを整えるのも、自分にしかできないこと。自分を大切にできるのは自分しかいないんだと自覚して、もっと自分に目を向けようと思っています。気持ちに正直に、自分の軸でしっかり生きていれば、仕事に対してさらに丁寧に向き合えたり、いろいろなことが見えてくるのかなって。

年齢とともに、演じる役柄はより複雑になってきたし、求められることも深くなっていくと思います。いくつかのドラマでは主演を支える役割もやらせていただいて、いろいろな視点から作品全体を見ることができると、新しい景色が見えて、学ぶことも多い。それが自分の財産になると思います。毎回の撮影が、今そこでしかつくれないものをつくっていて、そこに参加できているんだと思うと、一瞬一瞬が大切だし、やはり私はものづくりが好きなのだと実感できたときは、幸せだなぁって思いますね。

仕事に関していえば、出来上がった作品を観てくださった方が評価してくれるので、良くも悪くも結果がわかる。でもプライベートは、そうはいかないから難しいですよね。誰かに決めてもらうことはできないので、自分で決めたことがすべてですし、決めたことが良かったのかどうか、その結果がいつ出るのかわからない。もしかしたら答えが出ずに一生が終わることもあるかもしれないと思うと、人生って大変。悩みは尽きないなと思います。でもそれが、生きていくことの面白さでもあるのかな」

“自分らしく”生きていくために、「香里奈」として表現していくことを楽しみたい。その一方で、本名で過ごすプライベートの自分としてやれることは「まだまだ探したい」と笑顔に。これからについてを、どのように思い描いているのでしょうか?

「プライベートをどう充実させるかは、今までもこれからも大きなテーマ。仕事と違って、何を選択すればいいのか、なかなか自信を持てなかったりしますよね。でもコロナ禍もあって、いつ何が起こるかわからない世界なのだと実感すると、私も躊躇して立ち止まっていられないなと。これからは、よりいっそう自分の時間を大切にすることが必要だと思っています。自分らしく生きるという基盤のうえに、仕事の充実もあると思うから。

一つ決めていることは、自分の直感に忠実になろう、ということ。自分に正直に。幸せの基準はそれぞれ違うので、自分の正解を探していけばいい。結果が出るのを待つのではなく、“これでOK”と自分で決めてしまう強さも持ちたい。とにかく、“自分らしく”という基準を持っていれば、どんなことも楽しんでいける気持ちになっています」


まずは「自分を大事に」すること。それができなければ、「本当の意味で他人を大事にすることはできないと思うから」という香里奈さんの言葉がとても印象的。これからも、今を大事にしながら、「自分の探す答えを見つけたい」という好奇心を携えて前へと進んでいくその姿が、たくさんの人々を魅了することでしょう。その先の未来は遠くてまだ見えなくても、彼女ならすべてを“正解”に変えていくはず。“自分らしく”を楽しむ、その方法をもう掴んでいるから。

インタビユーvol.2では、香里奈さんが考えるサステナブルについてを伺います。


Profile
香里奈(かりな)
1984年2月21日生まれ。愛知県出身。2000年~ファッション誌『Ray』(主婦の友社)専属モデルを務め、現在は『GINGER』(幻冬舎)レギュラーモデル、ドラマ・映画を中心に女優としても活動。近年では、プロデュースも手掛け、ペットブランド「BESTIES」を展開。2015年~東京ガールズコレクション×国連の友アジアパシフィックとともにSDGs推進活動(女性の活躍推進)を行う。2018年7月~GINGER連載にてサステナブルをテーマに「今、できること」を発信し、啓発活動にも取り組む。
https://tencarat.co.jp/karina/
Instagram @karina_official_221


SHOP LIST
シースキー https://seasukii.com/
ブルーサージ http://seni-ikuei.org/blueserge/
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リプサリス https://ripsalis.stores.jp/


MODEL = 香里奈
PHOTO = 土山大輔(TRON)
STYLING = 豊島優子
HAIR & MAKE-UP = 髙取篤史(SPEC)
TEXT = Humming編集部

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