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ホラン千秋の仕事スタイル「期待に応えたいからこそ、できないことに目を向けたい」

『Nスタ』のキャスターを務めてもうすぐ丸5年。夕方の顔として活躍するだけでなく、音楽番組やバラエティ番組にも出演し、老若男女のファンをつかんでいるホラン千秋さん。前回のインタビューvol.1に続き、vol.2では多彩な顔を持つ彼女の仕事スタイルについて伺います。

ホラン千秋
トップス¥18,500/コントワー・デ・コトニエ(コントワー・デ・コトニエ ジャパン)

「いい現場の空気をつくるのは、笑顔とあいさつ」


役者からキャスターへと方向転換して大きく飛躍し、すでにキャスター歴も10年に。バラエティ番組では、自虐ネタを交えながら歯切れのいい会話で場を盛り上げていく。番組のジャンルを問わず、いつもそこには飾らず自然体のホランさんがいます。浮き沈みの激しい芸能界で、確固たる地位を築き始めているホランさんの仕事に向き合う姿勢は、私たちにもヒントをくれそうです。

― 今日のように取材を受ける機会もあれば、キャスターとしてインタビューをする側に立つこともあるホランさんは、コメント力があり、相手から話を引き出すスキルを身につけていらっしゃいますよね。日頃から心がけていることはあるのでしょうか?

「自分の意見を押しつけないように、質問には幅を持たせるようにしています。そして考えを伝えるときは、自分の言葉に責任を持つことも大切です。どんな番組でも“いい雰囲気の番組だな”と思っていただけるような場の空気をつくるように心がけています。

ニュース番組では、扱うテーマによってピリッと張りつめた状況になることもありますが、そんな場面でも“話しやすい雰囲気”というのはつくれるもの。インタビューなどでも話しやすい空気にすると、普段は話してくれないことや本音がポロッと出てくる。そんな貴重な言葉を引き出せるのは、質問よりも場の雰囲気なのかもしれません」

― 確かに、話しやすい雰囲気は大切ですね。昨今はオンラインでの取材も多いですが、こうして対面でお話をするときは、その場の空気感を肌で感じながら会話が進んでいくように思います。ホランさんが、いい雰囲気をつくるために実践していることは何でしょう?

「いい雰囲気、心地よい空気感をつくるには、あいさつが重要な要素だと思っています。
新人のころ、とにかくあいさつをしっかりとしようと実践していました。『NEWS ZERO』に抜擢されたときも、初めての報道番組で何もできないけれど元気にあいさつだけはしようと、現場に入ると大勢いるスタッフさんに声をかけていましたね。

そうすると、最初は“名前も知らない新人”だったところから、“大きな声でいつも挨拶する元気な新人”になり、スタッフさんも笑顔であいさつを返してくれたり、話しかけてくれるようになりました。ムスッとしているよりも笑顔のほうが断然いいし、距離が縮まるのが早いです。

私は原稿読みもまだまだですし、特化した専門知識があるわけでもありません。でも、いい空気を流すことはできるんじゃないかなと思っています。仕事を円滑に進めるためには、笑顔とあいさつが大事だなと日々実感しています。挨拶と笑顔なんて、仕事の内容以前の話ですよね? でもこれが本当に大事なんですよ」

― 専門知識はないとおっしゃいましたが、テンポのいい会話術や、生放送での対応力は、特別なスキルだと思います。

「ありがとうございます。もちろん新聞やネットで日々のニュースには目を通したり、最低限のことはしています。でも、友だちとおしゃべりをするとか、買い物に行く、街を歩く・・・そんな日常のささいなことが、ニュースで扱う内容につながっていくので、日々の生活をおろそかにしないことが大事だと思っています。

スーパーマーケットに買い物に行けば、野菜の値段が上がっていることを実感できますし、友だちとの何気ない会話のなかでリアルな流行を知ることもありますし、一般企業ではどんなことが課題になっているのかも見えてきます。

最近はYouTubeを観ることも増えました。テレビは大勢の視聴者向けなので、幅広く情報を扱いますが、YouTubeは一つのテーマに絞って深く掘り下げている番組が多いですよね。これが知りたいという明確なものがあるときに、YouTubeをチェックしています」

「自分らしくいられるために、意思表示はしっかりと」


― バラエティや情報番組では、ストレートな発言で“強気な女性”というイメージもありますが、どこまでが本当のホランさんなのでしょうか?

「そうですね(笑)。バラエティ番組での対立構造は、全体を盛り上げるためにも少し誇張することもあると思います。
お仕事をいただけるようになった20代前半は、求められることがうれしくてそこに身をゆだねてみようと考えて、先輩方の胸を借りて、噛み付くことも多かったです(笑)。結果を残さなければ次はない世界。私に与えられた役割をしっかりとこなさなければ、来週には違う人がその席に座ってしまう。

でも、だんだんと自分らしさや自分がやりたいことと、求められる自分にズレが生じる部分も出てくるんです。全部じゃないですよ。でも、この表現は時代にあっていないなとか、私の考えとは違うなと感じることがあると悩みましたね。制作スタッフも出演者も、どうしたら面白くなるかを常に考えているので、私も番組を盛り上げるために貢献したい。どうすれば自分らしさも失わずに、スタッフさんたちの求められることにも応えられるのかという試行錯誤を、20代半ばから始めていきました」

― 求められることはうれしいけれど、それに応え続ける難しさもあるのですね。

「売れない時代がありましたから、求められるのは本当にうれしいことですし、期待に応えたいのも本音で、嘘ではありません。相手をがっかりさせたくないですから。でも、自分のポリシーに反することを一度でもすると、次の仕事はそれを基に行わなくてはいけなくなる。『あの番組でこう言っていましたよね?』って。また、自分自身をがっかりさせるし、傷つけてしまう。折り合いをつけるというといい子っぽいかもしれませんが、トライ&エラーをくり返しながら、そのズレを極力小さくする術を身に着けていきました。

経験を積んで、何もできなかった頃とは違い、今は意志表示をするようになりました。番組の事前打ち合わせで『この表現は今の時代ならこう言った方が良いですよね?』とか、『これって少し私たち本位の聞き方なので、こう聞いてみるのはどうですか?』と、単に否定するだけでなく代案も添えるようにしています。『やりたくない』というのは簡単ですが、それでは番組は成立しませんし、選手交代になってしまうかもしれない。私が選ばれた理由、ここにいる意味を考えつつ、自分の意思や信念をしっかりと伝えれば、相手も理解してくれるものです。愛情を持ってやっている仕事だからこそ、自分らしくいられるための意思表示はこれからもしていきたいですね」

ホラン千秋

「何ができて、できないか。自分の現在地を知ること」


― お話を伺っていると、ホランさんは常に全体のバランスを考えて、俯瞰でものを見ていらっしゃるようですね。

「番組ってMCでもゲストでも、チームの一員なので、全体を見るクセがついていると思います。今はあのひとが話をする時間だから割って入らないようにしようとか、あのひとはまだ1回も発言していないなとか。ゲストで呼ばれたときにも、笑いはあの方に任せて私ははっきりとした意見を言う立場でいようとか、周りを見渡して自分の役割りを全うできるように考えますね」

― 自分のポジションをきちんと理解するのは、なかなか難しいですよね。

「バラエティ番組に出るようになって、自分の特徴をしっかりとアピールすることの大切さを、身をもって感じています。そのために、自分は何ができるのか、何ができないのかを知っておくことが大事。自分自身を知らないのに、自己表現はできないですよね。

私にはルーティンもないですし、ゲン担ぎもしません。これをしないとダメ、これがないと困るという状況をつくると、なくなったときにストレスになりますし、ダメージを受けるから。とか言って、ただ忘れちゃうので、私はそういうものは必要ない人間なんだと思ってるだけなんですけど(笑)。
Nスタでも資料を目の前にたくさん置いておくと、探すことに気を取られてしまって結局使いこなせない。最終的に自分のなかにあるものでしか、とっさのときには勝負できないんですよね。だから、いろんなことを軽量化しておいた方が、身軽に戦えます。

できることよりもできないことを認識するほうが、戦略を立てやすいもの。できないのにできるとアピールをしてもいい結果は出ないだろうし、誰も得をしません。期待に応えたいからこそ、地に足をつけて自分自身の現在地を知っておきたいですね」

求められる存在でありたい、期待に応えたいという言葉からは、がむしゃらに頑張る姿を想像してしまいますが、ホランさんは文字どおり自然体。俯瞰から自身を客観的に見つめていくことが、いい意味で無理をせず、自分らしく走り続けていける秘訣なのかもしれません。自分の仕事を“持続可能”にしていくヒントを、ありがとうございました!


インタビューvol.3では、心と体の健康のために取り入れていること、プライベートの過ごし方について伺います。


Profile
ホラン千秋(ほらんちあき)
1988年東京都生まれ。アイルランド人の父と日本人の母をもつ。5歳よりモデルを始める。現在は、「Nスタ」(TBS)、「SONGS OF TOKYO」(NHK)をはじめ、バラエティ・報道番組などで数々のレギュラー番組に出演するほか、新聞でも連載をもつ。
Brog https://ameblo.jp/chiakihoran/
Instagram @chiakihoran_official


SHOP LIST
コントワー・デ・コトニエ ジャパン 
https://www.comptoirdescotonniers.co.jp/


PHOTO = 古谷利幸
STYLING = カワダイソン
HAIR & MAKE-UP = 窪田健吾
TEXT = 岩淵美樹
SPECIAL THANKS = シャンパン・バー byテルモン(ANAインターコンチネンタルホテル東京)

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