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布袋寅泰に聞くNOW&NEXT「今も10代のころのように、夢を追いかけている」

私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも真似できない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”にこだわりを持つ生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。ここから2回にわたりH_styleを語っていただくゲストは、2月1日に通算20枚目のアルバムをリリースしたギタリストの布袋寅泰さんです。

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ジャケット¥253,000、シャツ¥61,600、パンツ¥116,600/すべてエトロ(エトロ ジャパン) シューズ¥265,100/ジョン ロブ(ジョン ロブ ジャパン)

「僕の人生は、いつも音楽が前向きにしてくれた」

― デビュー40周年を迎えた昨年は、パラリンピックの開会式でのパフォーマンスやNHK紅白歌合戦出場など大きなイベントがたくさんありましたね。

「40周年という記念すべき年を、コロナとともに迎えるなんて想像していませんでした。大々的にツアーも回る予定でしたが、それも制限があり、はじめはどうしていいかわからないくらい目の前が真っ暗になって動揺しました。

けれど僕の人生は、いつも音楽が前向きにしてくれました。それと同じように、こんなときだからこそ、みなさんの毎日が生き生きするような音楽を届けたいと強く思いましたね。だから昨年は立ち止まることなく、できることすべてやってみました」

― 今回のアルバムのテーマは「夢」だそうですね。

「夢を語るには現実が重苦しい時代です。でもだからこそ“夢”というキーワードが必要なのです。僕は40周年を迎えましたけど、今も10代のころのように夢を追いかけています。“夢”という言葉は常に原動力になってくれる。それを多くの世代の方に伝えたい、それがこのアルバムのコンセプトなんですよ。

昨年のパラリンピックの開会式での経験も、やはりこのテーマに行き着くうえでは大きなものでした。パラアスリート、パラアーティストたちはハンデだと思われているものをプラスにして、とても前向きに生きている。彼らとの出会いは、目が覚めるような出来事でした。そこから“夢”という言葉に辿り着きました」

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「年代とともに、尖っていた部分がいい意味でまろやかになった」

— 今回のアルバム制作で、今までと異なる部分はありましたか?

「10年前からイギリスで暮らしているのですが、パラリンピックで日本に戻ってきて、そこからロンドンと東京間を何往復かしようと思っていたんです。でも移動が自由にできなくなったこともあり、そこから半年、イギリスには帰らず東京で制作しました。

家族にも会えず不安なこともありましたが、日本でアルバムを作るなら、原点回帰して作ってみようと思ったんです」

― 原点回帰とは、具体的にはどのようなことを?

「僕は群馬県高崎の生まれです。群馬でバンドをはじめたころ、ギターを手にしたころを思い出して、タイムスリップした感じで、今一度自分のキャリアを振り返ってみようと高崎のスタジオに入りました。そこに3日間こもって一筆書きのように一気に作った曲が、今回のアルバムに多く収録されています」

― そして、今回のジャケットは、デヴィット・ボウイやT.レックスを撮影してきた伝説的な写真家 鋤田正義さんが撮影されました!

「感慨深かったですね。10代のときに、高崎のレコードショップで、鋤田さんが撮影したT.レックスのマーク・ボランのモノクロのポスターを見たんです。写真からは音は出ないはずなのに、ギターの“ジャカジャーン”って音が聞こえたんですよ。それが僕がギターをはじめた大きな理由の一つなんです。

そんな人生の大きなきっかけとなった大先輩とこうやって、“夢”というキーワードでフォトセッションできたことは本当にうれしかった。僕のギターにあわせて、鋤田さんがカシャリカシャリとシャッターを押す、そんなセッションでした。年代と時代を超えて一緒に制作できて、不覚ながら、セッションが終わったときに涙が出てしまいました。

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『Still Dreamin’』〈通常盤〉/ユニバーサル ミュージック 60歳の誕生日に発売されたオリジナルアルバム。デヴッィド・ボウイのポートレイト撮影などでも有名な写真家 鋤田正義が担当。

僕が鋤田さんや、さまざまな先輩方から影響を受けたように、僕のギターを聴いて音楽をはじめたという方も、うれしいことにいらっしゃるんです。そして今、その息子さんや娘さん、お孫さんまで世代を超えて聴いてくれている。そういう意味では40年というキャリアはさまざまな世代の方とつながれるので、これは本当に幸せなことだなと思いますよ。

以前は、ライヴのお客さんは9割男性で。会場には野太い声援が響き渡っていましたが(笑)、最近は女性も来てくださるようになったんですよ。中高校生もいるかな。幅広い世代の方たちが曲にあわせて楽しそうに踊っているのを見ると、とてもうれしいですね。ロックといったら大音量で荒々しい、そういうものに思われるかもしれませんが、僕も年代とともに尖っていた部分が、いい意味でまろやかになった。角がとれたというと何かを捨てたみたいに思われるかもしれないけど、転がっていくうちに角はとれていくもの。

子育てを終えて、大人になってからゆっくりロックを楽しむ、そういう文化は欧米にはありますが、日本でも大人のロックを作っていきたいです。大人も若い人も一緒に楽しめる、そういうアーティストにこれからはなりたいですね」

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「相手が受け取れないような球を投げても、自分に返ってこない」

― 原点回帰は、サウンドの面でも意識されましたか?

「最近はデジタルで音楽を作ることも多くなりましたが、少し冷たく感じる部分もあって、あえてバンドでレコーディングしてバンドサウンドに回帰しようと。いい意味で時代に逆らうのも面白いアプローチかなと思ったんです。

前回のアルバムは、イギリスが完全にロックダウンしたなかで制作しましたから、スタジオにも行けず、一人で自宅でつくったんです。勉強になったけれど、やはり“ひと”とのコミュニケーションは、自分のイマジネーションをさらに増幅させた大きなものにつながる。自分だけでは100パーセントにはならない。コロナ禍を通して、人同士のケミストリーが大事だと改めて感じましたね」

― 制作の現場では、コミュニケーションをとることを第一に、相手が心地よく仕事ができるようにと心掛けているそうですね。

「相手が受け取れないような球を投げても、自分に返ってこない。相手にとって心地よいものを投げかけて、返ってきたものをお互いの好奇心で膨らませながら作っていくーーそれが僕のスタイルです。

洞察力って言葉も好きですし、僕自身は根っからのプロデューサー気質があるのかもしれません。自分自身をプロデュースするのは、自分を許せなかったり、超えられなかったりして難しいけれど、相手をプロデュースするのは得意ですね。こう見えて実は、自分第一のアーティストではないんですよ(笑)」


今年はデビュー41年目。円熟しつつも新鮮味あふれる音楽とその紳士的な人柄で、若い世代からも憧れとリスペクトを受け、彼らを鼓舞する存在になっている布袋さん。だからこそコロナ禍にあったパラリンピックでのパフォーマンスで、多くの人々に勇気と夢をもたらしてくれたのでしょう。彼が音楽を通して伝えてくれるメッセージを、私たちは心に刻み、夢を追いかけていく気持ちを忘れずにいたいものです。


※インタビューvol.2では、イギリスでの暮らし、そこで見えてきた新しい可能性についてお伺いします。


Profile
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月1日生まれ、群馬県出身。‘81年にロックバンドBOØWYでデビュー。解散後はソロ活動に加えてCOMPLEXとして‘90年まで活動。2014年にザ・ローリング・ストーンズの公演に参加。世界を股にかけ活躍する。
https://jp.hotei.com/
Instagram @hotei_official
Twitter @Official_Hotei


SHOP LIST
エトロ ジャパン https://www.etro.com/jp-ja/
ジョン ロブ ジャパン https://www.johnlobb.com/ja_jp/


PHOTO = 薄井一議
STYLING = 井嶋一雄(Balance)
HAIR & MAKE-UP = 原田忠(資生堂)
TEXT = 安井桃子

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