ホラン千秋が実践する、自分に嘘をつかない生き方
私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも負けない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”を大切にする生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。ここから3回にわたり、キャスターとして活躍するホラン千秋さんをフィーチャー。
ブラウス¥10,500、スカーフ¥10,500、スカンツ¥18,500/コントワー・デ・コトニエ(コントワー・デ・コトニエ ジャパン)
「こだわりを手放したことで、求められる自分に」
ホランさんのキャリアは、キッズモデルからはじまりました。その後、14歳で大手芸能事務所に所属し、初めての連続ドラマ出演は高校生のときで、戦隊シリーズの悪役。そこから数々のドラマ、映画に出演し、忙しい日々が続くと思いきや・・・現実はオーディションを受けても願う結果につながらない。役者としての活路を見出せないまま、大学に進学。演劇を学ぶために1年間の海外留学も経験しますが、帰国後も思い描いていた夢に辿り着くことはできなかったそう。
— 過去のインタビューなどで、キャスターになるまでの紆余曲折を語られていました。振り返ってみて、ターニングポイントはいつだったと思いますか?
「学生という肩書がなくなったらどう生きていけばいいのか・・・を考えたとき、役者だけでなくありとあらゆる可能性を探そうと思えたことが、私にとっては大きな転機だったと思います。あのとき、頑なに役者の道だけを追い求めていたら、今の自分はいないですね。改めて自分のやりたいことを見つめ直して、『広い意味で“伝える仕事”がしたい』と思い、就職活動の際にテレビ局を受けたのも、自分の可能性を探す一つでした。留学から帰ってきてすぐだったので、エントリーシートの書き方もわからないし、写真も街中にある証明写真機で撮ったスピード写真。みんなちゃんとした場所で撮っているなんて後から知りました(笑)。周りは何ヵ月も前から準備をしてきている方ばかりなので、受からなくて当然だと当時も思っていたんです。
就活自体はうまくいきませんでしたが、アメリカ留学帰りで良くも悪くもポジティブマインドになっていたので、『これは今までどおり芸能界で頑張れって言われているのかも!』と解釈していました(笑)。結果的に、就活を受けるきっかけとなった『芝居だけにこだわらず、自分の言葉で“何かを伝える仕事”をしたい』という思いが、仕事の幅を広げてくれて、今の私につながっているんです。オーディションにも受かるようになると、求められることに喜びを感じて、より柔軟に物事を考えられるようにもなりました。人間って、求められると素直にうれしいものですよね」
今回の撮影を行ったのは、ANAインターコンチネンタルホテル東京内のシャンパン・バー by テルモン。味のある床やテーブルは古材を再利用したもの。ブランコ式のシートを揺らすことにより発生する電力で、壁面のディスプレイが光るユニークな仕掛けが楽しめるサステナブルなバー。
役者へのこだわりを手放して方向転換すると、次第に仕事が増えて、2012年には『NEWS ZERO』のキャスターに抜擢されました。現在は、『Nスタ』のキャスターとして、すっかり夕方の顔に。
— 報道・情報番組に限らず、バラエティ番組でも活躍されていて、テレビで観ない日はないほど多忙な生活に。今、とても充実されているのでは。
「一つひとつの仕事で結果を出さないと次はない世界ですから、常に必死。今は『Nスタ』があるので、ひとまずは半年、一年先までのスケジュールが見えていますが、こういうケースの方がレアです。基本的には、自分の行動や言葉一つで明日仕事を失うということもあり得ますから、いつも危機的状況なのは変わらないと思って仕事に臨んでいます。
ただ、自分に嘘はつきたくないので、できないことをできますと言ったり、やっていないことをやっていますと言ったりすることはしたくない。自分の意思表示は、大切だと思います。何もできなかった最初のころは、実力がないくせに自分の意見を主張することはできなかったですし、制作側の期待に応えたいという気持ちも持っていますから、両方の妥協点を探してもがいていました。
年齢や経験を重ねていくと、相手が求めていることもわかってきますし、それに応える力もついてくる。そうすると、自分が表現したいことと、相手に求められることにズレが生じているなと感じたら、ただNOと言うのではなく自分なりの提案ができるようになります。やはり毎日現場にいると、鍛えられますね。自分にできないこととできることも明確にみえてきます。とにかく報道でもバラエティでも、違和感のあること、自分の信念に背く表現は、相手も自分も傷つくことになりますから、細かいところまで見逃さないように気をつけています」
「仕事は手段ではなく目的。生きていくなかで、楽しみの一つです」
求められずにもがき苦しんだ10代を経て、求められるようになった20代。求められることへの喜びと、自分に嘘はつきたくないという葛藤が20代半ばまではあったと語るホランさん。答えはすぐに見つかるわけもなく、明確な答えもない世界の難しさ。
— 自分を常にアップデートしながら、試していくしかないというかんじでしょうか?
「そうですね、自分が“試される現場”が好きなんです。そもそも安定を望んでいたなら、芸能界の仕事は選びません。自分の仕事を評価してもらって、もし駄目だったら仕事が入らないのは仕方ないですよね。全責任は自分にある。足りないなら、磨けば良いだけ。自分ができることを増やして、『ホラン千秋なら』と頼られる人になりたい。自分でも想像していなかったようなことを依頼されて、自分自身を試すこともできる。それって、すごくワクワクするじゃないですか? 自分に対しても仕事に対してもワクワクできなくなったら、仕事はお金をいただく“手段”になってしまうので、嫌なんです。お金を稼いで、そのお金で趣味を楽しみたいとか、好きなものを買いたいというわけではなく、私にとって仕事は人生の楽しみの一つであり、目的ですから」
― ホランさんのなかで、報道番組とバラエティ番組での見せ方はどう異なりますか?
「一見すると別物に見えますが、どちらも言葉を扱う仕事。バラエティであっても報道であっても自分の言葉に責任を持つことは同じですね。扱う内容は異なりますが、言葉を慎重に選ぶ作業は変わりません。
『Nスタ』は生放送なので、チーム一丸となって秒単位のスケジュールのなかで作業を調整するという難しさもあります。私はキャスターという中立的な立場にいて、専門家、コメンテーターの意見を引き出すことが仕事です。3~5分くらいのコーナーのなかで、どのように偏りなく意見を聞くことができるかが難しいところですね。視聴者の方が、『なるほど、そういう考えもあるのか』と思ってもらえるような違う視点を引き出せるようにと常に頭のなかで考えています。
『NEWS ZERO』から約10年、報道番組に関わってきて5秒あればこれだけ話せるな、10秒では・・・少しずつ感覚として身についてはきましたが、1秒、2秒のタイムスケジュールの管理は、アナウンサーの方たちにはまだまだかないません。職人技なので、その域に達するまでは相当の修行が必要ですね」
幼稚園時代からスタートした芸能活動は25年以上に。大学卒業間際の方向転換が、視野を広げ、彼女の未来の可能性をも広げることに。逆にキャスターになってからのこの10年間は、自身のなかで「転機らしい転機はなかった」と振り返ります。毎日のようにテレビの現場に立ち、変容する世界に触れ続けることで、自身も「常に変化し続けているからではないか」と自己分析。試行錯誤を繰り返し、自分らしさを確立してきたからこその、今。でき得る限り、偽らず、つくらず、装わない。それが、ホラン千秋というひとが求められている理由であり、そのしなやかな強さに私たちは魅了されてしまうのです。
インタビューvol.2では、ホラン千秋さんの仕事スタイルについて伺います。
Profile
ホラン千秋(ほらんちあき)
1988年東京都生まれ。アイルランド人の父と日本人の母をもつ。6歳よりモデルを始める。現在は、「Nスタ」(TBS)、「SONGS OF TOKYO」(NHK)をはじめ、バラエティ・報道番組などで数々のレギュラー番組に出演するほか、新聞、雑誌でも連載をもつ。
Brog https://ameblo.jp/chiakihoran/
Instagram @chiakihoran_official
SHOP LIST
コントワー・デ・コトニエ ジャパン
https://www.comptoirdescotonniers.co.jp/
STYLING = カワダイソン
HAIR & MAKE-UP = 窪田健吾
TEXT = 岩淵美樹
SPECIAL THANKS = シャンパン・バー by テルモン(ANAインターコンチネンタルホテル東京)