「ペットボトル」とどう向き合う?
便利な暮らしと環境問題を考える。
私たちの身近にあるペットボトル。軽量で丈夫、便利な容器である一方で、近年は石油資源の枯渇や製造時のCO2排出、海洋プラスチックごみ問題など、環境への負荷が懸念されています。そんなニュースを見聞きして、ペットボトルを購入することに罪悪感を覚える人もいるのではないでしょうか。
これから先、私たちはペットボトルとどのように向き合うべきなのでしょうか―—そこで今回は国内飲料メーカーのSDGs推進活動に注目。サントリー食品インターナショナル株式会社 ジャパン事業本部 サステナビリティ担当を務める、佐藤慶一さんにお話を伺いました。
ペットボトルはゴミではなく、資源となりうるもの
―御社は「サステナビリティ(持続可能性)と品質(中味の品質保持・容器の使いやすさ)の両立」を軸に、容器の軽量化やリサイクルなどにより、環境負荷の少ない新たなペットボトルの開発に取り組まれているとのこと。まず、ペットボトルはどのような問題を抱えているのでしょうか。
ペットボトル自体はリサイクル可能な資源である一方で、飲み終わったあとの取り扱いを誤るとゴミになってしまう問題があります。飲み終わったあとのペットボトルを確実に、そしてキレイな状態で回収する方法を探っているところです。
特に野外の自動販売機横のリサイクルボックスに関しては、ゴミ箱と勘違いされ、適切な回収ができなくなってしまうケースが多発しています。
―おそらく、多くの人が自販機で購入した飲み物を、飲み残しがあるまま捨てている。さらにはペットボトル以外のゴミをリサイクルボックスに捨ててしまうこともあるのではないでしょうか。
全国清涼飲料連合会の調査でも、リサイクルボックスの中身の約3割も清涼飲料水の容器(ビン・缶・ペットボトル)以外の異物が入っていたという結果も出ています(2018年12月東京都内調査)。飲み残しのカップが投入口を塞いでしまうこともあります。こうした問題を含め、啓発活動を行うことが大きな課題です。
―ゴミ箱と勘違いされないための工夫が必要かもしれませんね。
リサイクルステーションを設置したり、リサイクルボックスのパッケージを変えることで、お客様の行動変化が見られないかという実証実験は進んでいます。例えば、2020年に新機能のリサイクルボックスが開発されました。従来は上向きだった投入口を下向きにすることで、入れにくく、飲み残しのカップなどが投入できない仕様になりました。
―リサイクルペットボトルが出来るまでの具体的な流れを教えてください。
使用済みペットボトルは適切に分別・回収することで、元の素材と同等の品質に戻すことができます。 使用済みペットボトルを何度もペットボトルに循環させるリサイクルは「ボトルtoボトル」(リサイクルペットボトル)と呼ばれています。
まず、飲み終わったあとのペットボトルは回収され、リサイクル工場に運ばれます。工場で粉砕、洗浄をして高温かつ真空化で除染処理を行います。ここで汚れを取り除くことで、食品用の容器として使用可能な品質まで戻します。
すると再び原料として生まれ変わるので、包材メーカーや自社工場でペットボトルに成形をします。
―ペットボトル=資源という観点で、御社ではどのような取り組みをしているのでしょうか。
①集める、②つくる(リサイクルペットボトルをつくる)、③つかう(実際の商品にリサイクルペットボトルを使う)、④伝える
大きく分けてこの4つの取り組みをしています。そして「2R+B(Reduce・Recycle+Bio)」戦略として環境問題に取り組んでいます。
Reduce(リデュース)…ペットボトルを薄くすることで原材料(樹脂)使用量を削減して環境負荷を減らすこと、そしてつぶしやすくなることでリサイクルを推進。
Recycle(リサイクル)…2012年にメカニカルリサイクルとして日本の飲料メーカーで初めて、100%リサイクルペットボトルを導入。サントリー烏龍茶の2リットルボトルに採用し、現在ではサントリーの国内飲料の26%が100%リサイクルペットボトルを使用しています。
Bio(植物由来の資源を使う)…現在は1本あたり30%が植物由来原料、残り70%は石油由来原料を使用。植物由来原料は枯渇することがない再生可能な素材です。100%植物由来原料のペットボトルの開発にも取り組んでいます。
GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶は「やさしさの循環」というブランドコンセプトと、ボトルtoボトルの特徴との相性が良いことから、弊社飲料ブランドで初めて、650ml、600mlに関しては全商品が100%リサイクルペットボトルになりました。「またあえるボトル」と命名し、ペットボトルがサステナブルな資源であり、リサイクル活動を推進するきっかけにしたいと考えています。
―ペットボトルの軽量化により、あまり力を入れずにつぶせるので、“つぶしてから捨てる”ことがさらに定着するように感じます。開発の際に苦労したことはありますか。
つぶして捨てていただくことで、かさが減り、より多くのペットボトルの回収が可能になります。開発においては、軽量化により強度が低下し、持ちやすさや注ぎやすさなどといった利用時の品質が損なわれることが懸念点でした。そこで力学的にねじりを加えて成立させるようなノウハウをいかしたペットボトルづくりが行われました。
具体的な例としては、サントリー天然水(550mℓ)は国産最軽量(※)となる11.9gのペットボトルを採用しています。物流の段階で積み重ねて配送されることから、耐久性も大事なポイントになります。ねじりを加え、水が流れるようなデザインですが、これはデザインでありながら、上から荷重がかかったときに耐えるための工夫でもあります。
※国産ミネラルウォーターペットボトル(500mℓ~600mℓ)対象。自動販売機対応商品は除く。2020年11月現在
“ラベル&キャップをはずし、中をすすいて軽くつぶす”が基本
―どんな状態だとリサイクルできないのでしょうか。
まずは異物が入っているもの。タバコが入っていたり、飲み残しがあるとリサイクルができません。廃棄物業者で選別しています。また国内では無色透明のペットボトルしか製造しないガイドラインがあるので手にする機会は少ないかと思いますが、輸入品などで時折見かける色付きペットボトルは日本のリサイクル手法ではリサイクルできません。機械による色の選別はできないので工場で手動ではじいています。
2つめはキャップが付いたままのもの。キャップがついている=飲み残しがある可能性が高いということにもなりますし、キャップがついているとつぶれません。ゴミ収集車の爪でもつぶしにくいため、1台あたりの回収量が減ってしまいます。
それからラベルを剥がしてください。分別のしやすさの向上や、リサイクル工程の効率化や品質向上のため、今年ラベル用の接着糊を新規開発しました。ペットボトルとラベルの接着強度はそのままに、従来糊よりもラベルの剥離性が向上し、ペットボトルに糊が残りません。
―最近はラベルレス商品も増えていますよね。
主にECサイトでラベルレス商品を販売しています。ラベルレスはプラスチックごみの削減につながるだけでなく、処分時にはがす手間も省けます。
数ある商品の中でも、伊右衛門は一部コンビニエンスストアやスーパーでラベル付きと、タックシールのみを貼付したラベルレスの両方を並べて販売しています。伊右衛門は中身の液色にも注目していただきたいのでこのような取り組みをしており、ラベル裏面におみくじを印刷して、ラベルをはがす楽しさも考えました。
循環型ものづくりのために、私たちが今できること
―ボトルtoボトルを推進するために、家庭内で私たちが意識すべきことは何でしょうか。
ご家庭でのペットボトルの取り扱いは地域ごとのルールに従っていただくことで、正しい分別と回収が進んでいます。しかし、野外ではご家庭と同様の取り扱いをされている方は限定的だと思います。
いま日本では88.5 %のペットボトルがペットボトルや食品トレー、繊維としてリサイクルされています。ボトルtoボトルは10年ほど前に動き出した取り組みで、まだまだ分別啓発を強化していく必要があります。
まずキレイな状態で回収しないと実現できません。0.5cmほど底に飲み残しがあると、ボトルtoボトルとしてのリサイクルはできないのです。野外で中をすすげない場合も、しっかりと飲み切り、飲み残しゼロを意識することはリサイクルを可能とするための大きなポイントになります。
―個人はもちろん、企業や教育機関などでの知識共有も大切ですよね。外部に向けて分別やリサイクル活動のレクチャーを行う機会はありますか。
企業様から分別を通してSDGsに関する社の意識を高めたいというお問い合わせをいただいたり、小・中・高等学校での授業を始めています。
また弊社は早稲田大学と連携協定を結んでおり、学生に対して啓発活動の一環でSDGsの説明やペットボトルの取り扱いについてお話する機会があります。先日お話した大学生の皆さんのなかには、ペットボトルが環境に悪影響を及ぼしていると捉えている方もいらっしゃいました。実際の分別の現場やリサイクル商品を見ていただくことで、ペットボトルに対する意識変化やボトルtoボトルに関心を持っていただくきっかけになっています。
―業界内でリサイクル技術が進むとどのような効果が考えられますか。
正しいリサイクルは、飲料メーカーやリサイクル業者のみで改善できる話ではありません。国や自治体、地域、お客様一人ひとりと一緒に取り組んでいくことで、広がっていくと思います。同時に弊社が打ち出している、ボトルtoボトルのような水平リサイクルは飲料業界だけではなく、他の業界でも注目されています。たとえばユニ・チャームさんはおむつを、ユニクロさんは衣料の水平リサイクルに取り組まれています。水平リサイクルが社会に定着すると、石油由来の資源を使わずにものづくりができ、まさに循環型社会の実現が期待できます。
―2030年までの御社のビジョンを教えてください。
2050年までの目標として、水のサステナビリティと気候変動対策を掲げています。ペットボトルは、製造時のCO2排出など、気候変動対策に関わってきます。
弊社では2019年にプラスチック基本方針を設けました。そこで2030年までにペットボトルをグローバルで100%リサイクル素材または植物由来素材を使用したペットボトルに切り替えていく方針を示しました。それにより、石油のような化石由来原料を新たに使用しないことを目標としています。
「街中のリサイクルボックスの正しい認識と活用が定着すると、質の高いペットボトルの回収が目指せます」と佐藤さん。ボトルtoボトル(水平リサイクル)を加速させ、持続可能な社会を実現させるためには、私たち一人ひとりが正しい分別に協力することが不可欠です。私たちの行動は、良くも悪くも地球環境に大きな影響を与えますが、身近な物の製造背景を知ることや、リサイクルなどの再生資源を有効利用するなど、日々の行動を通して地球環境を改善させることもできるのです。
物より心の豊かさを選択する。頭の片隅に、ほんの少しでもそんな意識を置くことで経済・社会・環境面でバランスの取れた社会に近づけるのではないでしょうか。
サントリー
https://www.suntory.co.jp/
ILLUSTRATION = Kanna