住みたい場所になる!渋谷区が本気で取り組む、新しい“まちづくり”
東京・渋谷と聞くとすぐに思い浮かぶのは、駅前のスクランブル交差点ではないでしょうか。世界からも注目を浴びる街で、駅前の再開発は着々と進んでいます。
そんな同じ区内に、ショッピングやエンターテイメントを楽しむ観光地とは違った顔を持つエリアがあります。それが、“ササハタハツ”と呼ばれる、笹塚・幡ヶ谷・初台。渋谷区民の約半数が暮らすこのエリアで、新しいまちづくりが始まっているとの情報をキャッチ。地域とのかかわりが希薄になっている時代。これからのコミュニティのありかたのヒントになりそうです。
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笹塚・幡ヶ谷・初台エリアでの暮らしの質の向上を目指す“ササハタハツまちラボ”とは
行政だけに頼らず、民間も一緒になって地域を盛り上げていきたいという思いから、渋谷区、京王電鉄、渋谷未来デザインによる官民一体の地域共創プロジェクト「ササハタハツまちラボ」が誕生しました。
“ササハタハツ”は、玉川上水旧水路緑道や水道道路を中心とした京王線笹塚・幡ヶ谷・初台駅周辺エリアのことです。戦前から長く暮らす人もいますが、アクセスのよさから一人暮らしをしている人も多く、多種多様な人たちが暮らす場所。緑道を中心に、歴史や文化を大切にしながら暮らしを豊かにできたら・・・。ササハタハツで暮らす人たちが地元を愛し、誇れるようなまちづくりを進めるためのプラットホームが“まちラボ”です。
そして、このエリアで生まれたプロジェクトや地域活動を支援する「ササハタハツピープルまちづくりサポート(通称ササハピ)」も創設されました。プロジェクト内容、情報発信、周知の相談が可能になる「登録」制度と、さらに金銭的サポートも受けられる「認定」制度があります。
現在、ササハピは15のプロジェクトを支援しながら、みんなでササハタハツエリアの活性化に向けて取り組んでいます。プロジェクトリーダーが集まり定期的に会議を開き、それぞれの活動の進捗状況を報告。意見を交換しながら、プロジェクトをよりよいものに発展させているところです。
まちラボのもう一つの取り組みとして、このエリアの将来像を描く「ササハタハツエリアビジョン」策定があります。検討委員会による会議や住民へのアンケート調査など、今後のまちづくりについて活発に活動しています。
最先端の田舎暮らしを“ササハタハツ”から発信したい
まちラボが今、力を入れているのが、約2.6㎞ある玉川上水旧水路の緑道を中心とした新しいコミュニティづくり。緑道の再整備コンセプトを地域の人たちに体感してほしいと、2021年11月7日に実験的なイベントが開かれました。
それが「388FARM β(ササハタハツファーム ベータ)」。
緑道でのマルシェやアート、教育を通じて地域住民の交流を促し、新しいコミュニティを発展させていくのが狙いです。ファミリー層も多い地域のため、この日は子供たちもたくさん集まり、楽しそうな声があちらこちらから聞こえてきました。
イベントの様子を一部ですが、ご紹介します。
まず、登場したのが、まちラボのメンバーであり、まちづくりコーディネーターの林匡宏さん。
「 “農(ファーム)”というコンセプトのもと、商店会、町内会など地域の皆さんと一緒になって緑道づくりを盛り上げていきたい。その第一歩となるのが『388FARM β』です」とイベントへの意気込みを語ってくれました。
続いて、渋谷区生まれの長谷部健区長からも、壮大なまちづくりプランについてスピーチがありました。
「渋谷区はこれまで恵比寿や代官山、渋谷駅周辺で再開発事業を行ってきました。まちの発展とともに新しい文化が生まれています。区民の約半数が暮らすササハタハツは、商業施設を中心とした再開発とは異なり、住民目線でのまちづくりを考えていかなければなりません。コミュニティとテクノロジーを融合して“最先端の田舎暮らし”を追求していきたいと思っています。
明治神宮の西参道からつながる緑道は、表参道に負けないくらいのストリートになりうる場所です。そのスタートが今日の『388FARM β』です。ファームは農業だけでなく、育成するという意味があります。コミュニティが育ち、都心で暮らすことの知見が広がる場所になることを願っています。主人公は、地域の皆さんです。緑道を愛し、育てていきましょう」
渋谷区からの発信だけでなく、住民みんなでつくる新しい緑道に期待が高まるお話でした。
心地いい音楽が流れる緑道をコーヒー片手にぶらり
区長からの挨拶が終わると、再び子供たちの笑い声と軽快な音楽が鳴り響き、緑道の活気が増していきます。
実験的な試みということで、この日は初台エリアの緑道を舞台に、マルシェが開かれ、まちラボがササハピとして認定・登録をしているプロジェクトも参加。
ちょっとその様子を覗いてみましょう。
緑の芝生に座って楽しそうに音楽を聴いている人たちの姿が。ここは「北渋プロジェクト」のブース。
北渋とは、渋谷区の北西部に位置するまさに“ササハタハツ”エリアのこと。初台には新国立劇場やオペラシティがあり、エンターテイメントの発信地でもあります。幡ヶ谷、笹塚にはかつては小劇場や、声優養成所などがあり、音楽や芸術が身近にある街でもあります。
北渋プロジェクトは、オペラ通りを中心に音楽や芸術で北渋を盛り上げていきたいという思いで活動しています。
常に音楽が流れ、アーティストが育つ街にするための一歩として計画したのが「北渋フェス」。
実は、「388FARM β」が行われる数週間前に、地元企業や地域の小中学生たちの協力を得て、ライブやワークショップが楽しめる「第1回北渋フェス」を予定していました。しかし、悪天候により、残念ながら中止に。
少しでも自分たちの活動を知ってもらいたいと、「388FARM β」に参加。気軽に音楽にふれてほしいと、地元企業であるカシオの電子ピアノを人工芝の上に設置しました。
「時間をかけて計画していたフェスが中止になったのは残念でしたが、僕らが目指す日常になじむ音楽は、今日のようにマルシェに集まった人たちが気軽に楽しめるのが本来の姿なのではと感じました。特別な場所をつくるのではなく、いつでも音楽や芸術に触れられ、そこから活気が生まれる街にできるよう活動していきたいですね」(北渋プロジェクト代表・清水有さん)
これから探検に出かけるようないでたちの人たちがいます。ここは「まち遺産探検隊」のブース。
ササハタハツの歴史を知ることで、愛着と誇りを共有し、次世代にまち遺産をつないでいこうという活動です。実際にまちを歩いて歴史建造物や、魅力的な場所を探しオリジナルのマップを制作。
「388FARM β」に集まった人たちからも思い出の地や自分にとってのまち遺産を教えてもらい、新しいマップを作っていました。
緑道の再整備計画に地域の思いを反映させるために立ち上げられたプロジェクト「TPT(ティーパーティ)」。緑道でお茶会をしながら、何が必要か、どんな緑道にしたいかを話し合いながら渋谷区と協力。コミュニケーションの場となる移動式屋台を計画中。今日はおいしいコーヒーとお弁当を用意して参加。
生産者と消費者をつなぐマルシェ「ベジンジャーズベジ」も参加していました。ベジンジャーズは、ヴィーガンアスリートで構成されたアスリート組織のこと。
生産者の負担を減らすために、マルシェでお店に立つのはボランティアスタッフで、生産物の魅力を伝えるのもボランティアの仕事。全生産物は買い取りで、残ったものはレストランに提供し、売れ残りを出さない仕組みになっています。
めずらしい野菜が並び、イベントを目指して訪れた人も、たまたま通りかかった住民の皆さんも興味津々。
住んでいる街が好きになる。いざというときに助け合えるコミュニティを目指したい
長谷部区長に「338FARM β」のこれからについて伺いました。
「初めての試みでしたが、たくさんの人が集まってくれて、いいスタートがきれました。2.6㎞と長い緑道ですから、笹塚・幡ヶ谷・初台とそれぞれの地域の特色をいかしながら、育てていきたいと思っています。甲州街道、水道道路、緑道と東西の道だけでなく、路地も多いエリアです。大きな道を見直すだけでなく、クロスする道も含めてどうつなげていくかは課題の一つでしょう。
お子さんがいるファミリーは、コミュニティを築きやすいのですが、若い人や高齢者など一人暮らしも多いエリアです。その人たちにどうアプローチするかもこれからの課題となりますね。人と人とのつながりをつくるうえで、テクノロジーが必要になってくると考えています。テクノロジーを活用し、“最先端の田舎暮らし”を目指すことで、さまざまな人が関われる新たなコミュニティが生まれると思います。
若い世代には、自分が住んでいるまちを楽しんでほしいですね。緑道沿いに行きつけのカフェをつくるとか、ふらりと散歩に出かけるでもいいと思います。日本は災害が多い国ですので、いざというときに孤立しないようにということは考えておいてほしいと思います。そのためにもコミュニティを大切に、まちづくりを進めていきたいです。渋谷区民であるシティプライドを持っていただけるように、僕らも頑張りますので、皆さんもどんどん声をあげてください」
渋谷区と企業、そして住民が手を組んで築いていく未来。これからササハタハツがどう変わっていくのか、どんな街になるのか、とても楽しみです。
ササハタハツまちラボホームページ
https://www.sasahatahatsu.jp/
ササハタハツまちラボFacebookページ
https://www.facebook.com/388machilab/
TEXT = 岩淵美樹