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2022.02.26 障がいをオープンにして温かな社会を。親子のお守りとして愛をつなぐマーク

SDGsインタビュー企業の取り組み

「この子には障がいがあります」――まっすぐな言葉で障がいを持つことを伝えるタグ型マークが、多くの親子の心のよりどころになっています。このマークを制作したのは、障がい児の育児を支援する「パラリンビクス協会」代表理事の穐里明美(あきさとあけみ)さん。マークに込めた想い、そして一人ひとりが尊重される社会を目指して取り組んでいることとは?


誰もが気持ち良く出かけられるように

これまでに3000個(2021年12月末時点)をマークを必要とする家庭へ無料配布した。

「この子には障がいがありますマーク」を知っていますか? 制作者の穐里さんは、難聴や目の虹彩の色に特徴がある「ワーデンブルグ症候群」と「自閉症スペクトラム」という複雑な障がいを抱える長男・明ノ心君(9歳)と、次男(6歳)を育てています。2020年に会社を設立し、パラリンビクス協会の活動をスタート。このマークを制作・配布するほか、コロナ禍で孤立しがちなお母さんたちがつながりを感じられる場づくりに取り組んでいます。


「『この子には障がいがあります』には、『この子の周りに障害がある』という物理的な障害や、精神的な障壁を取り除きたいという意味を込めています。だから当事者だけでなく、周りの方々に知っていただかなければいけないと考えました。そこで、より多くの人が目にするクラウドファンディングを通して制作資金を集め、無料配布させていただきました。

この一連の取り組みを新聞やネットニュースに取り上げていただいたこともきっかけとなり、予想以上に問い合わせが殺到。1人につき3個までの配布で約730件のお申し込みがあり、今もお待ちいただいている方がいらっしゃいます。今後も継続配布できるように、個人や企業様に寄付を募るサイトをオープンしました」


実は制作者である穐里さん自身、マークを身に着けることに抵抗があったそう。


「自分で作ったものの、抵抗はありました。でも身に着けたことで得られた効果のほうが大きかったですし、皆さんのお役に立てたことを誇らしく感じます。マークを受け取ったお母さんたちから『お守りをつけているようで、外出しやすくなった』と言っていただけることが多いです。障がいがあることをオープンにすることで、お子さんに対する周囲の反応の変化だけでなく、お母さんたちがお子さんとの外出に対して前向きな気持ちになれたことはとても良かったなと感じています。今ではマークの存在がお母さんたちの口コミで広まり、時々地域ごとに集中的にお申し込みをいただくことも。今後も必要とされている親御さんの元に届けたいです」


発達障害や、グレーゾーン(発達障害の特性がいくつか見られるものの、診断基準をすべて満たさず、確定診断ができない状態)の人は外見からは分かりにくいケースも多く、その症状もさまざま。そのため、外出先でつらい経験や困難なシーンに直面することがあります。
明ノ心君には肢体不自由と呼ばれる症状もあり、身体を自由に動かすことができず、バギーを利用して出かけています。一見すると、障がいがあるようには見えない元気な男の子。駅のエレベーターで同乗していた年配の女性に「お子さんもう大きいんだから、歩いて階段で下りさせなさいよ」と言われた経験があるそう・・・。


2人のお子さんと過ごす時間はかけがえのないもの。

「そのときは驚きのあまり、何も言葉が出てきませんでした。息子は4歳でようやくつかまり立ちができるようになり、いまも長距離移動のときはバギーが必要です。数年前には息子をバギーに乗せ、満員電車に乗って通勤しなくてはならないこともあり、車両が混んでいるとバギーが入るのを嫌がられることもありましたし、私も周りの目が気になっていました。

そんなときに、息子が2歳の頃に病院でいただいた、障がいがあることを示すバッジの存在を思い出して。つけて出かけるようになると、特に公共機関を利用するときに、周りの反応ががらりと変わったんです。
バッジに気づいた方が『お手伝いできることはありますか?』と聞いてくださったり、『うちの孫も障害があってね・・・』など声をかけていただく機会が増えました。周りの方々が無関心なわけではないことがわかりましたし、バッジがコミュニケーションのきっかけを作ってくれたように思います。その後バッジが壊れてしまい、その頃には配布終了になっていて。新しいものを探しても理想的なものがなかったので、自分で作ることにしたんです」


外出先で障がいを持つ子供やその親に出会ったとき、どのように接するのが適切なのでしょう。


「私は子供のころから母に『国籍、障がいの有無にかかわらず、みんな同じ。だから特別視してはいけない』と教えられて育ちました。だから子供が生まれる前からその意識がありました。『障がいがある』と聞くと聞きにくいと感じることもあるかもしれませんが、私の場合は息子に対して無関心よりも、興味を持ってくださることのほうがうれしいので、いろいろと聞いてほしいです。

また、障がいを持つ子供たちは、外で突然大きな奇声を発することがあります。息子は楽しくなるとテンションがあがって大きな声をあげます。そういうときは、ただ温かく笑顔で見守ってほしいというのが願いです」


泣いたり、悩み続けるのはやめました。

明るく穏やかな笑顔で話す穐里さん。

一筋縄ではいかないのが子育て。子供の成長とともにさまざまな壁にぶつかり、時には投げ出したくなるような気持ちになることもあるのではないでしょうか。


「少し強い表現になりますが、私は悩まないと決めています。一見どん底にいるように思ってしまうときも、悩みの裏側にあるものは何かを考えるようにしています。そうすると必ず光が見えて、突破口が見つかる。今までもそうして得られたことがあります。こう考えられるようになったのことも、子供が生まれたことが大きなきっかけですね。正直なところ、まさか障がいを持つ子供が生まれるとは思ってもいませんでした。でも彼が私の元に来てくれたおかげで、今の私がいて、いろいろな出会いに恵まれています」


ハツラツとした声でこう話す穐里さんにも、ネガティブな思考からポジティブに物事を捉え直すことを覚えるまで、涙を流した日々がありました。


「長男は生まれてからずっと目が開かず、指でまぶたを上げてみると眼の色はグレー、眼球が左右に小刻みに揺れる眼振が見られました。インターネットで調べて、障がいの可能性を知り、生後2ヵ月頃に大学病院で検査を行うと『ワーデンブルグ症候群』であることが明らかに。その後に両耳難聴であることもわかり、病院からの帰り道では頭が真っ白になりました。

息子が生まれて日々喜びを感じていたけれど、障がいがあるとわかった瞬間に悲しみに包まれた。でも翌朝、隣にいる息子を見ると生まれたときから知っている、いつもの彼がいたんです。

そんな息子を見ていて、障がいがあると分かってから一週間のうちに、私の考え方は180度変わりました。『なぜ私は泣いているのか』『いつまで泣き続けるのか』。根本的なところに立ち戻って思考を巡らせると、悲しみの理由は息子ではなく私自身の問題であることに気づいたんです。『この子をこういう幼稚園に入れたかった』とか、『生まれる前に準備していた100冊の絵本を読み聞かせたかった』とか。息子は何も変わらないのに、私だけがネガティブな考えにとらわれていると思ったら、彼に対して申し訳ない気持ちになりました。それ以降、ただ息子がそばにいてくれることに心から喜びを感じるようになりました」


不安や悩みから解放され、親も子も笑い合う場を

パラリンビクス協会では、障がいを持つ子供たちと、その家族のためのオンラインコミュニティ「パラリンっ子ひろば」や、障がいを持つ子供向けの運動プログラム「パラリンビクス」のインストラクター養成授業や講座も開催。支え合いの輪が広がっています。


「『パラリンっ子ひろば』では月1回のペースで、zoomでの座談会を実施し、情報や意見交換を行っています。親御さんのなかには、3年以上経っても子供の障がいを受け入れられないと悩んでいる方もたくさんいらっしゃるので、座談会や登録者様向けに配信しているメールマガジンでは私がどのように受け入れたかなど、私自身の考え方をお伝えする機会が多いです。今後は理学療法士さんなどゲストをお呼びして、対談や悩み相談室を開催したいと思っています。

パラリンビクス体操のオンラインレッスンの様子。

『パラリンビクス』は、私自身の25年以上にわたるフィットネス経験と、障がい児育児の実体験から考案しました。現在50種類の動きがあって、すべてに動物や植物、乗り物など子供に馴染みやすいネーミングをつけています。それらの動きを組み合わせて、自宅で1分からできるエクササイズを紹介しています。

つい先日、『パラリンビクス音頭』が完成しました! 作曲は歌手の愛田健二さん、作詞は公募により選定。Psycho le Cému(サイコ・ル・シェイム)というヴィジュアル系バンドのドラマー、YURAサマにボーカルを担当していただきました。実は彼は、私が代表を務めるフィットネスインストラクター養成校『Luce』の卒業生。そんなご縁もあり、『楽しいことができなくなるんじゃないか』という、障がいの暗く思われがちなイメージを払拭するためコラボレーションを試みました」


親子で“楽しい”という経験をしてほしいという穐里さん。プログラムを通して、家族が笑顔を交わす時間を生み出しています。


「息子は重度の知的障害があるので踊れません。でも私が踊っている様子を見て笑顔を見せてくれます。そういう効果があってもいいのではないかと感じています。パラリンビクス音頭をきっかけに、障がい児の育児をするなかで孤独を感じている親御さんに『ひとりじゃないんだよ』というメッセージを伝えたいです」


良いところに目を向けると、心にかかった雲が晴れる

物事を前向きにとらえることで、自然と笑顔も増える。

子育て中に落ち込んだり、不安になることは誰にでもあるはず。日々の生活にある小さな幸せに気づくことができれば、目の前に広がる景色が大きく変わります。


「息子は耳が聞こえないので、こちらは表情や身振り手振りで感情を伝えます。だから、なるべく悲しい顔は見せたくない。『あなたが生きる場所はこんなにハッピーな場所だよ』と伝えたい気持ちから、たとえ心のなかが曇っている日でも、泣きながらでも、怒るときをのぞいて、基本的には笑顔でいるように意識しています。

どうしても健常のお子さんと我が子を比べてしまい、そのたびに落ち込んでしまう、というお母さんからの声もいただきます。障がいの有無に関わらず、他人と比べてしまうことってよくあると思うんです。私も息子と療育に通っていたころ、息子と歳の近い子供を見て『あの子のほうがあんなことができている』と、ついつい比べてしまうことがありました。

でも、できる・できないは重要ではなくて、存在しているだけでパーフェクト。パラリンビクスでも、できないところに目を向けず、できることに目を向けて根詰めすぎないようにとお母さんたちに伝えています。息子の良いところだけを見るように心がけたら『なんてできる子なんだ!』と誇らしく感じることばかりです(笑)」


“障害”がなくなる未来へ

外出時だけでなく、障がいを持つ子供とその家族が直面する課題はほかにもあります。


「療育施設は必要な場所だと感じる一方で、予約が取りづらかったり、施設内での活動時間は15分程度なのに対して往復2時間かかってしまうなどの通いづらさを感じた経験があります。民間の療育施設は1回¥10,000と利用料が高く、障がい児用のプールは30分¥6,000で、週3回通うことを勧められても、それでは手が届かないと諦めたことも。コロナ禍で閉鎖している施設もありますし、そういう面でも、パラリンビクスをおうち療育として少しでも多くの親子に利用していただけたらうれしいです。

それから、家族間においてもさまざまな課題はあると思います。昨今、障がいを持つ子の健常の兄弟姉妹は『きょうだい児』とも呼ばれ、きょうだい児特有の悩みや葛藤を抱えやすいといわれています。我が家は2人の子供がいますが、長男に付きっきりにならないように注意して、それぞれに関わる時間を作るようにしています。まだ次男がこの先どう成長していくのかわかりませんが、一つだけ伝えたいのは『お兄ちゃんは決して弱い存在ではなく、一人の人間として尊敬すべき存在である』ということ。もちろん助けてもらうことはあるかもしれないけれど、次男にも彼の人生がある。お兄ちゃんを一生みてほしいと言うつもりはありません。

今の夢は息子のためのグループホームを立ち上げ、息子が得意なことが活かせるような就労支援をすること。私が死ぬまでに、息子が生きる世界をより良いものにできるよう注力したいです。障がい児育児って特別なことと思われがちですが、私のなかでは、男の子・女の子・障がい児くらいの感覚でとらえています。次男はお兄ちゃんが隣で奇声を発していても、気にせずテレビを観ています(笑)。そんなふうに、すべてのひとが当たり前に混ざり合える世の中になってほしいです」


SDGsは「誰一人取り残さない」を理念に、持続可能な開発目標が策定されました。「この子には障がいがありますマーク」が必要のない温かい社会のために手を取り合い、誰もが安心できる環境づくりに取り組んでいきたいですね。


穐里明美(あきさとあけみ)

1974年東京都生まれ。10代でエアロビクスに出会い、フィットネスの道へ。2019年まで世界最大のフィットネス教育団体協会に所属し、最年少で認定校教官となる。30歳で立教大学コミュニティ福祉学部入学。障がい者教育等について学び、2009年同学部卒業。大手フィットネスクラブの養成講師を務めたのち、2001年フィットネスインストラクター養成校LUCE(ルーチェ)を設立し、800人を超えるインストラクターを輩出。2020年5月、株式会社Fair Heartを設立。心・カラダのハンディを持つお子さんのためのフィットネス「パラリンビクス」をスタートし、パラリンビクス協会代表理事となる。
https://paralymbics.jp/


PHOTO = 植浩一
TEXT = Humming編集部

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