「自分の身体を知り、人生を充実させるためのケアを」
鍼灸師・温活士 栗本夏帆先生に聞く腟ケアのすすめ
『うるおいの腟レッチ』の著者で、鍼灸師・温活士の栗本夏帆先生は女性のためのオンラインサロン『腟サロン』を主宰。鍼灸に基づく“未病治”(=病気になる前に対策をとり、健康を維持する)の考え方は、日々のセルフケアにも当てはまります。「腟まわりの“未病治”とは今はトラブルがなくても、最適なアイテムを使って日頃からケアしましょうということ」と栗本先生。今回は腟ケアやトレーニングの重要性、ケアを始める前に知っておきたいこと、フェムテックについて教えていただきました。
セルフメンテナンスを継続してトラブルを防ぐ
― 鍼灸院ではどのようなお悩みが多いですか。
鍼灸=肩こりや腰痛に効果的というイメージを持って来院される方がほとんどですが、お話を伺っていくと更年期や生理痛の悩みを抱えていらっしゃることも多いです。そういった症状に対して鍼灸が手助けできるということがなかなか知られていません。特に更年期の症状は疲れやすい、やる気が起きない、急に白髪が増えたなど、いくつもの症状が重なって現れます。症状が重いと仕事をやめなくてはならないなど、生活にも影響が出ることもあり、それだけ辛いのだなと痛感します。また20代、30代の女性に多いのは「妊活を始めているけれど、なかなか妊娠できない」という声。現代病でもありますが、慢性的な身体の冷えや基礎体温の低さによる影響も大きいと思います。
東洋医学の考え方である、病気にかかる前に治す“未病治”という概念を持って、身体のメンテナンスを行う施術が鍼灸です。一人ひとりの状態を見て、鍼やお灸を使いツボを刺激することで病気の治癒や予防を目指します。一時的に症状を緩和するのではなく、根本改善が目的なので更年期になる前に、妊活を始める前に、定期的なメンテナンスのために利用していただきたいです。鍼灸による症状の改善とともに、症状に適した病院をご提案することもあります。鍼灸院がお悩み相談所のようになると良いなと思っていて、著書『うるおいの腟レッチ』は、鍼灸師としてお悩みを抱える方と産婦人科の間に立つ気持ちで書かせていただきました。
― 鍼灸師である栗本さんがフェムケアやフェムテックに関心を持った経緯を教えてください。
小学生の頃から性に対して関心が高く、初めは「どうやって私は生まれたんだろう?」という疑問から性行為に関して母に聞いたり、女性の身体について調べるようになりました。性や身体について話すことがタブーという意識がまったくなかったので、学生時代には得た知識を友人や彼氏に話すことも。周囲の反応も興味津々という様子で、セミナーかのごとく話していましたし、相談を受けることも多かったです。
フェムテックとの出合いは学生時代。当時ストレス過多の状態でひどい肌荒れに悩んでいました。鍼灸師を目指し基礎的な医学の知識を得ていて、肌荒れには女性ホルモンの働きが影響していること、さらに腟が女性ホルモンや自律神経に関係することを知り、腟まわり専用ソープに出合ったことで本格的にケアを始めました。これが私には効果テキメンで、顔のスキンケアと腟まわりのケアによってだんだんと肌荒れが落ち着いてきました。
―腟まわりのケアを始める前に、知っておくべきことは何ですか。
自分の身体の構造、機能を知ると適切な扱い方が分かります。これからケアを始めるなら“今”の自分を知ってほしいので、まずは鏡で自分の腟まわりの状態を確かめてみてください。そしてケアによる変化を知ってほしいです。基本のケアとして専用ソープで洗った後に、保湿する習慣が身に付くと良いと思います。
― 初心者が取り入れやすいフェムテックを教えてください。
初心者の方はお風呂で身体を洗う延長で、腟まわり専用ソープを取り入れてみるのが良いと思います。通常のボディソープを腟まわりに使うと洗浄力が強く乾燥してしまうので、専用のソープか、デリケートゾーンのpH値に合わせたボディソープに切り替えていただくのが良いです。泡で出るポンプタイプがおすすめです。
鍼灸院では今、骨盤底筋群を鍛える機械の導入を検討しています。その機械はEMSのような要領で、磁気を利用して洋服を着たまま座るだけで鍛えられます。鍼灸治療を受けた後、その機械でトレーニングができるようにしたいと思っています。
― これから汗を掻き、デリケートゾーンのニオイなどが気になる季節になりますよね・・・。
最近はさまざまなアプローチのフェムテックが充実しているので、悩みを解決したいという想いをきっかけに、月経カップや吸水ショーツを試してみるのも良いと思います。ムレやニオイが気になるときはハイジーンシート(デリケートゾーン用ウェットシート)がおすすめ。手軽に持ち運べて、使用後はそのままトイレに流せるので便利ですよ。
― 腟まわりのケアは心や身体にどのような効果をもたらしますか。
トラブル防止になると同時に、メンタル面への効果が大きいと思います。腟まわりに限らず、自分を労わるセルフケアは心を穏やかに、前向きな気持ちにさせてくれます。
―『腟サロン』では、どのような情報を発信されているのでしょうか。
生理や性器の仕組み、ピルについてなど、女性の身体にまつわる基本的な知識を得られるお話しをしています。また最近は講師の方を招きより専門的な分野のセミナーを行う機会も増やしていて、セルフプレジャーアイテム「iroha」の担当者の方に開発経緯や使用方法を伺うようなセミナーも予定しています。
性に関するテーマの回は参加者の方も多く、皆さん関心があるのだなと実感します。女性限定の真面目に話し合える場なので、参加者の皆さんもご自身の体験や気持ちを赤裸々に話してくださるので、深いお話ができています。
オーガズムが得られないというお悩みは多いですが、オーガズムがすべてではありません。クリトリスの構造や仕組みを知ると相手との会話が変わり、性行為の仕方や自分自身の意識や行動が変わると思います。どこを触られると、どんなふうに気持ちいいと思うのかを相手と探ることでコミュニケーションを深めたり、自分で自分の身体に触れることで自分の身体や気持ちを知ることが大切です。
― 栗本さんが実践されている「腟レッチ」とはどのようなものでしょうか。
「腟レッチ」は腟まわりをはじめ、全身のストレッチを取り入れた骨盤底筋群を鍛える運動です。私は学生時代にバスケットボールに打ち込み、体幹やインナーマッスルを鍛えていたので自然と骨盤底筋群も鍛えられていたと思うんです。けれど引退してしばらく経った頃、初めて残尿感や尿切れの悪さを感じ、骨盤底筋群を鍛える重要性を実感しました。
骨盤底筋群は恥骨、尾骨および坐骨の間にあり、子宮、膣、膀胱、尿道、直腸といった臓器を支えています。日常生活の動きのなかで使う筋肉ではないので鍛えにくいのですが、意識的に鍛えることが大切です。出産や加齢などによって筋力が緩み、尿漏れに悩まれている女性の声をよく聞きます。日々継続して骨盤底筋群を鍛えることで尿漏れなどの予防や改善が期待できると思います。
― 性へのタブー意識の改革や、女性特有の悩みを話しやすくするためには何が必要だと考えますか。
幼少期からの性教育が大切だと考えます。子供から大人に疑問を投げかけたときに、ごまかされたりすると「性の話をしてはいけないんだ」と感じる可能性があります。子供に対しての性教育が不十分だと、知識のないまま性行為にいたり、人工妊娠中絶や性感染症の増加を招きます。大人がきちんと知識をつけて、子供に話すことが当たり前にならないといけないと思います。
― 現代女性の健康課題として特に懸念されていることは何ですか。
身体の冷えですね。昔に比べて現代人は生活が便利になった分、動かなくなったことで基礎体温が低く、冷えが女性ホルモンや自律神経の乱れによる不調を招いたり、妊娠しづらくなったり、35℃以下は癌になるリスクも高まります。理想的な基礎体温は男女ともに36.5℃。鍼治療によって血液の循環をよくすることも、冷え症の予防改善につながります。
毎日の食事に身体を温める食べ物を取り入れるのも効果的です。生姜、よもぎ、シナモンなどじんわりと温めてくれる食べ物がおすすめ。お味噌汁に生姜を少し足すだけでも良いです。よもぎはお灸の原料でもあり、止血作用によって身体の内外の不正出血を和らげたり、抗酸化作用もあります。統括院長を務める鍼灸院のグラン治療院では和洋菓子店とともに「食べるお灸」(よもぎスイーツ)の開発・販売を行っています。
― 今後の目標や計画があれば教えてください。
「フェムテックとアート、そして自分自身」という“フェムアート”のプロジェクトを新たに企画中です。五感で学ぶ心と身体というコンセプトのもと、第一回目はアーティストの梵美(ぼんみ)さんとコラボし、彼女の作品の1つでもある、紙粘土で作られたヴァギナをモチーフに、参加者全員で各々のヴァギナを紙粘土で作るワークショップを開催しました。みんな違っていて当たり前という気持ちの部分と、腟の構造や役割について、知識をお伝えしながら、参加者の方は手も動かすというイベントです。今後もさまざまな企画を通して、自分の身体を知るきっかけを提供していきたいと思っています。
栗本先生が取り組む、自分の身体に対する“無関心”を“関心”に変える活動。自分の身体や肌、心の状態を観察することは、自らの不調や変化にいち早く気づき、予防・対策がとれるようになるため健康維持にもつながります。腟まわりのケアをはじめ、日常的なセルフメンテナンスによって心身ともに充実したより良い状態を目指しましょう。
『うるおいの腟レッチ』
栗本夏帆 著 ¥1,760/光文社
Profile
栗本夏帆(くりもとかほ)
鍼灸師、温活士、鍼灸院『グラン』統括院長。(一社)日本鍼灸協会理事、(一社)日本フェムテック協会常任理事なども務める。女性だけのオンラインサロン『女性を幸せにする膣サロン』を主宰し、女性の心と身体の健康のための学びや相談の場を提供している。アドバイザーとしてフェムテック関連の商品開発やメディアへの出演を通してフェムテックの啓発を積極的に行っている。
https://biyoshinkyu.net/
Instagram @kaho_kurimoto