マイクロプラスチックは体内に蓄積する?人間への影響と最新研究まとめ
マイクロプラスチックが人体から見つかったという研究報告が、近年相次いで発表されています。
これまでは、海洋汚染や野生動物への影響が注目されていましたが、現在では私たち人間への影響も注目されるようになりました。
近年の調査では、微細なプラスチック粒子が体内に取り込まれている可能性が示唆されており、血液や肺、胎盤といった重要な部位から検出された事例も報告されています。
しかし、その詳細や健康への影響については、まだ十分に解明されていません。
本記事では、マイクロプラスチックがどのように体に取り込まれ、どのような健康リスクが考えられているのかを、最新の研究結果をもとにわかりやすく解説します。
Contents
マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックとは、直径5ミリメートル未満の非常に小さなプラスチック粒子の総称です。
主に「一次マイクロプラスチック」と「二次マイクロプラスチック」の2種類に分けられます。
一次マイクロプラスチックは、もともと微細な状態で製造されるもので、洗顔料やスクラブといった化粧品、研磨剤などに利用されてきました。
これらは製品の成分として意図的に添加されており、そのまま下水を通じて環境中に流出することがあります。
二次マイクロプラスチックは、大きなプラスチック製品が紫外線や摩耗、風雨といった物理的影響を受けて、徐々に細かく砕けることで生じる微粒子です。
ペットボトル、ビニール袋、衣類、建材など、身の回りのあらゆる製品が発生源となり得ます。
こうした粒子の中には、髪の毛よりも細く、肉眼では確認できないものも存在します。
そのため空気中に漂って吸い込まれたり、食品や水に含まれた状態で体内に取り込まれたりする可能性があるのです。
実際に、飲料水や魚介類、塩、野菜、果物といった食品からも、マイクロプラスチックが検出されたことが複数報告されています。
現代の生活環境には、目に見えないプラスチック粒子が広く存在している現実があり、体内への侵入経路は非常に多岐にわたります。
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食べ物よりも空気から多く取り込んでいる可能性
マイクロプラスチックの影響が初めて注目されたのは、海産物の中から検出されたことがきっかけでした。
特にムール貝のような二枚貝は丸ごと摂取するため、消化器官に含まれたマイクロプラスチックを摂取することになります。
2017年には、ベルギーの研究チームが「ムール貝を日常的に食べることで年間最大11,000個のプラスチック粒子を摂取している可能性がある」と発表し、大きな話題となりました。
しかしその後、イギリス・プリマス大学がスコットランドのムール貝に含まれるマイクロプラスチックの量と、家庭内の空気に漂うプラスチック粒子を比較しました。その結果、貝から摂取する量よりも、室内で吸い込んでいる繊維状プラスチックのほうが多いことが分かったのです。
室内に浮遊する繊維の多くは、衣類やカーペット、ソファなどから発生したものです。
こうしたことから、生活空間そのものが、マイクロプラスチックを体内に入り込む主要な経路のひとつと考えられます。そのため、食べ物だけでなく、空気を通じたマイクロプラスチックによる影響にも目を向ける必要があるでしょう。
血液や肺、胎盤からも検出されている
2020年、イタリアの研究チームによって、ヒトの胎盤からマイクロプラスチックが検出されたという報告が発表され、大きな注目を集めました。
これは、微細な粒子が母体を通じて胎児にまで届く可能性を示した初の研究例とされています。
続く2022年には、イギリス・ハル大学の研究チームが、外科手術を受けた患者の肺組織サンプルを用いてマイクロプラスチックの存在を調査しました。
その結果、13の肺組織サンプルのうち11からマイクロプラスチックが検出され、最大で2ミリメートルの繊維状粒子も確認されています。
特に注目されたのは、それらの粒子が肺の最も奥深い部分にまで到達していた点です。
空気中に漂う微細なプラスチックが、呼吸によって体内に取り込まれていることを示す重要な証拠とされています。
同年には、オランダの研究チームが健康な成人22人の血液サンプルを分析し、そのうち17人からマイクロプラスチックが検出されたことを発表しました。
これら一連の研究は、呼吸や食べ物を通じて体に取り込まれたマイクロプラスチックが、血液によって全身を巡り、体の深部にまで入り込んでいることを明らかにしています。
オランダ・フリイェ大学アムステルダムの名誉教授ディック・フェタアク氏は、「血液中にプラスチックがあるという事実そのものが警告だ」と述べました。
また、人が日常的に吸い込む花粉やほこり、排気ガスなどとあわせて、マイクロプラスチックが健康にどのような影響があるのかは、今後の研究によって明らかにされることが期待されています。
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健康への影響とその解明の難しさ
マイクロプラスチックはあらゆる環境で検出されています。今では、科学者たちは、マイクロプラスチックが人間の健康に与える影響について関心を寄せています。しかし、その影響を明確に証明することは簡単ではありません。
なぜなら、プラスチック製品には、柔軟性や耐久性を高めるためにさまざまな添加剤が使用されており、その数は10,000種類以上にも及ぶとされているからです。そのうち約2,400種は健康や環境への影響が懸念されている成分です。
2021年に、ノルウェー科学技術大学を中心とする研究チームが発表した研究では、日常的に使用されているプラスチック製品から最大8,681種類もの化学物質や添加剤が検出されたと報告されています。
研究者のひとりであるスコット・コフィン氏(カリフォルニア州水資源管理委員会)によれば、一部の化学物質は食品包装への使用が禁止されている地域もあるけれど、多くは十分に規制されていないのが現状だといいます。
また、同じ研究では、プラスチックが水や太陽光にさらされた場合、含まれる化学物質の最大88%が環境中に溶け出す可能性があることも明らかになりました。
私たちは空気や食品、日用品など、無数の化学物質に日々触れているためマイクロプラスチックが、どの条件下で、どのようにして体に害を及ぼすのかを特定するのは容易ではありません。
業界団体による反論と研究の取り組み
マイクロプラスチックの健康影響に関する懸念に対し、アメリカ化学工業協会(ACC)は異なる立場を示しています。
たとえば、2020年に、ユタ州立大学のジャニス・ブラフニー准教授が発表した研究では、「アメリカ西部では、大気中から年間1,000トン以上のマイクロプラスチックが降下している」と報告されています。
これに対し、アメリカ化学工業協会(ACC)は、「調査で観測された粒子の大多数はマイクロプラスチックではなく、鉱物、土壌、花粉などの自然由来の粒子だった」と反論しました。
また、ACCはマイクロプラスチックに関する科学的理解を深めるために、独自の研究プログラムを立ち上げています。
この研究では、大学や研究機関、企業などと連携し、マイクロプラスチックが自然の中でどう広がり、人の体にどんな経路で入り込むのか、そして潜在的な健康リスクについて体系的に調査を進めています。
動物への影響と研究事例
マイクロプラスチックによる影響は、人間よりも先に動物で確認されてきました。
きっかけは約40年前、海鳥の食性を調べていた海洋生物学者たちが、鳥の胃の中にプラスチック片を発見したことでした。
これを皮切りに、海洋生物への影響が注目され始め、研究の対象は魚類や海洋哺乳類、さらにネズミやウズラといった陸上動物にも広がっています。
2012年には、国連の生物多様性条約(CBD)が「世界のすべてのウミガメ種、45%の海洋哺乳類種、21%の海鳥種が、プラスチックの摂取または絡まりによる被害を受けている」と発表しました。
同年、科学者10人が最も有害なプラスチックを「有害物質」として正式に指定するよう各国政府に提言しましたが、国際的な規制には至っていません。
それ以降、被害の範囲はさらに広がっており、2020年代に入ってからは700種を超える野生動物がプラスチックの影響を受けているとされます。
すでに一部の海鳥では、個体数の減少がプラスチックに含まれる内分泌かく乱物質によって引き起こされている可能性があると指摘されています。
2013年には、アメリカのカリフォルニア大学デービス校などの研究チームが、マイクロプラスチックを摂取したメダカを用いた実験を実施しています。
研究を主導したチェルシー・ロックマン准教授らは、プラスチックに付着した有害化学物質が魚体内に移行し、肝臓に脂肪変性や壊死といった病理学的変化を引き起こすことを報告しました。
一方、2019年にオーストラリアの研究チームが行った実験では、日本ウズラのヒナにマイクロプラスチックを含む飼料を与えたところ、死亡率や生殖能力には有意な影響が見られなかったと報告されています。ただし、成長がわずかに遅れるといった軽微な影響は確認されており、「無害」と断言できるものではありません。
この研究に携わった研究者の一人、デニス・ハーデスティ氏は、「マイクロプラスチックの影響は単純に測れるものではない」と述べています。
つまり、ある研究で悪影響が見られなくても、別の条件では違う結果が出る可能性があるということです。
人体への影響と研究の現状
現時点では、マイクロプラスチックが人体にどのような影響を与えるのか、明確な因果関係は証明されていません。
しかし近年の研究では、いくつかの疾患との関連を示唆する結果が報告されつつあります。
たとえば、2025年に発表された研究では、超加工食品(UPFs)に含まれるマイクロプラスチックが血液脳関門を通過し、脳内に蓄積する可能性が指摘されました。
この研究では、プラスチック粒子が脳内の炎症や神経伝達物質の機能障害を引き起こし、うつ病や不安障害、睡眠の質の低下といった精神的健康リスクとの関連が懸念されています。
また、同年に米国心臓病学会(ACC)で発表された報告では、マイクロプラスチックが体内で慢性的な炎症や酸化ストレスを引き起こし、心血管疾患・高血圧・糖尿病などの引き金になり得ると指摘しています。
こうした研究はまだ初期段階にあり、科学的に明確な結論が出ているわけではありません。しかし、これまで環境汚染物質と見なされていたマイクロプラスチックが、人体にも影響を及ぼす可能性があるという視点は、今後の研究において重要な検討課題となるでしょう。
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まとめ:今後の展望と求められる対応
マイクロプラスチックは、現在では海洋や大気をはじめ、あらゆる環境に広がっています。私たちの健康への影響は、明確な因果関係は立証されていませんが、マイクロプラスチックが血液、肺、さらには胎盤にまで到達していることは様々な研究によって確認されています。
現時点では、「体内にマイクロプラスチックが入り込んでいる」という事実を踏まえ、その影響を正しく理解し、将来に備えてできる対策を取り入れていく姿勢が重要です。
たとえば、プラスチック製品の使用を見直したり、身につけるものの素材を気にしてみたり、室内の空気環境を清潔に保つ工夫をしたり。小さな取り組みを続けることで、健康リスクを軽減できるかもしれません。
参考文献
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