Humming♪

太陽も海風も色になる、奄美大島の泥染め【現代美術家 山本愛子 / 植物と私が語るときvol.3】

染色を中心に自然素材や廃材を使い、ものの持つ土着性や記憶の在り処をテーマとした作品を制作する現代美術家、山本愛子さんの連載 。草木染の研究にいそしむ山本さんが、さまざまな土地を訪れ、そこで出合った植物についてつづっていきます。第3回目は奄美大島の泥染めをご紹介。


風土により培われる個性

先日、ずっと行ってみたかった奄美大島へ行ってきました。北方と南方を結ぶ交流の接点「海のシルクロード」とも呼ばれる奄美大島。大島紬、泥染めなどの染織でも有名です。今回の滞在では、染色工房「金井工芸」の金井さんに泥染めを教えていただきました。

金井工芸さんで泥染めをしている様子

はじめは「泥でどうやって染めるの?」というのが純粋な疑問でした。天然染色では、「藍染め」や「タマネギ染め」のように染料にする植物が染めの名称になります。しかし泥染めの場合は異なります。泥染めの泥は、染料を繊維に定着させる役割を果たしていて、繊維を染める染料は、車輪梅(シャリンバイ)という木から煮出した色素です。車輪梅にはタンニンが豊富で、泥の中の鉄分がタンニンと反応していくことで、深い色が布に定着していくそうです。

車輪梅(シャリンバイ)の染料。名前の由来は葉が枝先に車輪のように放射状に集まり、花が梅の花に似ていることから。

金井さんの「奄美は紫外線も強く海風が強いから、シャリンバイが自身を守るためにタンニンを豊富に生成している。奄美大島の風土で強く育ったシャリンバイだからこそ、泥染めにしたときに濃く染まる」というお話が印象的でした。風土と色彩の関係を、現地で日々感じ取っている金井さんの言葉は心に響きます。

シャリンバイのチップ。車輪梅の木を砕いてチップ状にして煮る。

煮出したばかりのシャリンバイの染料液。まろやかないい香り。

奄美大島を訪れ、私の肌も焼けました。海風が肌や髪に刺激を与え、ここに住んだら皮膚が強くなりそうだなと感じました(笑)。夜ご飯には地魚の美味しさが胃袋に染みました。植物も、私たち人間も、外の環境によって中身が培われていくのだなぁとひしひし感じます。「紫外線と海風が車輪梅のタンニンを増やしているんだ」と聞いたとき、目に見えないことでよく実感が湧かなかったけれど、染色によってそれが目に見える形になったときに、「あぁ、これが奄美の自然が生んだ色なんだな」と腑に落ちる瞬間があったのです。

染まったTシャツ。上半分が車輪梅のみで染めた色、下半分だけ泥に浸けて、泥染めにした色。

染色は私に旅をさせてくれます。作業をするために手を動かし、原料を見るために足を運び、さまざまな土地に向かわせる旅。そうして染まった色を見て、車輪梅、泥、紫外線、海風などの自然を感じる心の旅。
奄美大島にはこの秋にもう一度行き、さらに現地の染織と植物についてを深堀りしていくのでまたお付き合いよろしくお願いします!

今回の滞在先である放浪館からの奄美の風景。

 

Profile
山本愛子
(やまもとあいこ)
現代美術家。1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員として中国で研修。国内外のレジデンスや展覧会に参加。自身が畑で育てた植物や、国内外から収集した植物を用いて染料をつくり、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。主な展示に2021年「Under 35 2021」BankART KAIKO(横浜)、2019年「Pathos of Things」宝蔵巌国際芸術村(台北)、「交叉域」蘇州金鶏湖美術館(蘇州)など。
https://www.aikoyamamoto.net/
Instagram @aiko.yamamoto_


PHOTO = 山本愛子
TEXT = 山本愛子

関連記事