日常に潜むグルーミング被害|子どもだけでなく大人の被害も
私たち大人だけでなく、子どもであっても常に注意しなければならないのが「性被害」です。
ある日突然被害に遭うケースも多い一方で、親しいと思っていた間柄の人間が牙をむき、消えない傷を負わせる「グルーミング」も問題となっています。
子どもは十分に自分を守ることができないため、大人が性被害の実態とグルーミングについてしっかりと理解し、大切な我が子を守らなければなりません。
今回は幼い子どもをターゲットとする場合はもちろん、大人であっても被害を受けやすいグルーミングについて、具体例を交えながら理解を深めていきましょう。
子どもたちを守るためには一体どうしたら良いのか、私たちがとるべき行動についてもご紹介します。
Contents
グルーミングとは?
グルーミングとは、元々動物が行う毛繕いを指す言葉です。
猫が互いの体をなめ合ったり、猿がノミ・ダニを取ってあげたりする行為が該当し、本来悪い意味を持つ言葉ではありません。
彼らのグルーミングは仲間としての絆がそうさせるだけでなく、相手と円滑にコミュニケーションを築き、群れの中で過ごしやすくする目的でも行われています。
一方、今回ご紹介する人間のグルーミングは、正式にいえば「性的グルーミング」「チャイルドグルーミング」などと呼ばれるものです。
目についた子どもを急に襲うのではなく、まずは警戒心を解くために低姿勢で対応し、子どもが慣れてきた頃を見計らって性行為に及びます。
性行為までどれだけ時間をかけようと、親しくなる最終目的が性行為であるならば、それは性的グルーミングに当てはまるでしょう。
恐ろしいのは、自分にとってかけがえのない存在となった大人が、ある日突然不快な行動を迫ってくる点にあります。
子どもにとって信じていた大人に裏切られることは、直接傷をつけられるのと同様に苦しいものとなるでしょう。
中には「この人がやることならば間違いはないはず」と、性行為そのものを容認してしまう子もたくさんいます。
長い時間をかけ、特別な信頼関係を築いた加害者に対し、子どもは「この人を失いたくない」と思うようになります。
性行為に嫌な気持ちを覚えても、不満をいうことで加害者が悲しんでしまったらどうしよう、と考え、口をつぐんでしまう子も少なくありません。
こういった子どもの純粋な心を利用し、未成年に対し犯罪を犯すことこそが、性的グルーミングのもっともたる悪といえるでしょう。
また、性的グルーミングの対象となるのは幼い子どもだけではありません。
性行為を最終目標として被害者の心を懐柔しようと近づく行為は、青年であっても、大人であっても性的グルーミングに当てはまります。
「もう大人だから」と油断せず、自分に近づいてきた相手が何を目的としているのか、冷静な頭で判断しなければなりません。
さらに、性被害の対象となるのは「女性」だけではないことを覚えておきましょう。
幼い男児はもちろん、成人男性であっても被害に遭うケースが増え続けています。
加害者は女性であったり、同じ男性であったりとさまざまであるため、「自分には起こらないだろう」など他人事のように捉えてしまうのは危険です。
関連記事:マイノリティ・マジョリティとは? 多様な社会の理解を深めるために
性犯罪におけるグルーミング
性犯罪におけるグルーミング、すなわち性的グルーミングがどうして恐ろしいのか、さらに深堀りしてみましょう。
先程もご紹介したように、性的グルーミングの対象となるのは幼児から20代・30代の大人までさまざまです。
男性・女性に関わらず被害に遭いやすいため、全ての人が身を守る行動をとらなければなりません。
「自分だけは大丈夫」と安心せず、周りの人とコミュニケーションをしっかりととり、信頼できる相手かどうかの見極めを行いましょう。
近年性的グルーミングによる被害が増えているとはいっても、その数は被害全体のほんの一部だといわれています。
なぜなら、性的グルーミングは被害者自身が被害を受けていることに気が付かず、関係がダラダラと長引きやすいためです。
相手に嫌われたくない子どもが周りに被害を訴えないことも、相手が自分を好いてくれているがゆえの行為だと勘違いしてしまうことも、性的グルーミングが野放しになってしまう理由といえるでしょう。
また、性的グルーミングにおける被害者と加害者の関係は、周りから見ても違和感がなく、被害に気が付きにくいといった点も特徴の一つです。
加害者は頭を使って少しずつ被害者との関係を深めていくため、「急に距離が縮まり親しくなった」「過剰なスキンシップが行われている」といった不自然な点もなく、単に仲の良い関係性だと思われてしまいやすいのです。
性犯罪というと、無理やり行為に及ぶ姿であったり、電車内で痴漢を行ったりといった一方的なものを想像しやすいでしょう。
そのため、一見仲が良く見える性的グルーミングでは、「もしかして性犯罪ではないか」といった考えに及ばず、発見が遅れる可能性が高いのです。
大切なのは私たちが性的グルーミングについて正しい知識を得て、常に「もしかして」といった気持ちでいることです。
子ども、もしくは大切な人の変化にいち早く気が付くためにも、普段からコミュニケーションの習慣をしっかりとつけておきましょう。
グルーミング被害の例
続いて、子どもが対象となる性的グルーミングについて、具体的な例をご紹介します。
学校におけるグルーミング
学校における性的グルーミングでは、加害者となりやすい存在として「教師」が挙げられます。
子どもと距離が近くても周りが違和感に気が付きにくく、また子どもも教師を全面的に信頼しやすいため、時として性被害が起こる場合があります。
学校ではさまざまな子どもが生活しているため、その中からより従順で言いなりになりやすい子どもを選ぶことも容易です。
集団生活になじめず1人でいる子どもなどは標的になりやすく、周囲が気づいたときには既に手遅れであるケースも珍しくありません。
もちろん、学校には教師以外にも養護教諭・守衛・部活の監督やコーチなどさまざまな大人が働いています。
特別練習だといって呼び出したり、特定の生徒のみに声をかけていたりするケースも多いため、周りは注意して見守っていかなければなりません。
インターネットを利用したグルーミング
インターネット上で行われる性的グルーミングを「オンライングルーミング」と呼びます。
主にSNSなどを通じ、感情を吐露する投稿に目をつけ、共感したり寄り添ったりするところから始まります。
家族や友人との関係が上手くいっていない子や、希死念慮のある子などは、SNS上で出会った大人に心を開いてしまうケースが多いでしょう。
オンライングルーミングでは、実際に会って性行為に及ぶ前に、身体の写真を撮って送らせる・ビデオ通話で性的な行為を強要するといった犯罪も目立ちます。
写真や動画をインターネット上で流出されないよう、その後長い間言いなりになってしまう子も多いため、子どもたちにはネットリテラシーをしっかりと身に着けてもらわなければなりません。
地域活動などを利用したグルーミング
近所に親しくしている大人がいたり、よく訪れる公園で頻繁に会う大人がいたりする場合、これらが性的グルーミングに繋がっている可能性も考慮しなければなりません。
遊んでいる子どもに近づいて「何をしているの?」「一緒に遊ぼう」などと声をかける事案は後を絶ちませんが、毎日行く公園に同じ大人がいると、子どもも次第に心を開いてしまいやすいでしょう。
お菓子をくれる・車に乗せるといった行動だけでなく、単なる声掛けであっても子どもに注意を促す必要があります。
家庭内におけるグルーミング
親が子どもを守るのは当たり前のことだと思われていますが、中には家庭内で性的グルーミングが行われるケースもゼロではありません。
家庭内のことだからこそ、「まさかそんなことをしないだろう」といった考えが念頭にあり、被害に気が付くのが遅れる可能性があります。
家庭内での性的グルーミングでは、兄弟姉妹・従兄弟・祖父母・親戚などさまざまな関係性の大人もしくは年上の兄弟が加害者になり得ます。
中には親が直接子どもを懐柔し、性的な行為に及ぶケースもあるでしょう。
こういった実態は近年の日本で実際に行われているものであり、決して過去の出来事ではありません。
家庭内での性的グルーミングが悪質なのは、「子どもは何があっても親を信頼している」という点にあります。
成長した子どもが親を避けることはあれど、幼児や児童など親なしで生きていけない子どもたちは、親に何をされても文句を言わずに耐えてしまうでしょう。
性的グルーミングだけでなく、虐待や育児放棄なども、子どもの純粋さを利用した悪質な犯罪です。
関連記事:知らず知らずに起こっている?ハラスメントの種類や防止方法を紹介
子どもだけでなく、大人の被害は?
性的グルーミングは子どもだけでなく大人も被害に遭う可能性があります。
大人も子どもと同じく、自分が被害に遭っているのに気が付きにくいのが特徴です。
性的グルーミングは一種の「洗脳」であるため、被害者自身がどう行動するかだけでなく、周りがいち早く気が付いてあげることが必要不可欠です。
また、大人の場合は「性的グルーミング」ではなく、洗脳によるさまざまなグルーミングにも注意しなければなりません。
今回ご紹介する具体的なグルーミングの例を参考に、周りの友人や同僚を少し気にかけながら生活してみると良いでしょう。
職場におけるグルーミング
大人の性的グルーミングで多いのが、職場内で起こるものです。
上司が特定の部下だけを贔屓していたり、ミスをすると必ず助けてくれる同僚がいたりと、一見良いことのように思える環境が性的グルーミングに繋がる場合があります。
「あの時助けてもらったから」といった恩があると、いざ性行為が行われそうになっても断り切れず、ダラダラと関係が続きやすいのも特徴です。
また、職場におけるグルーミングの中には、パワハラのようなケースも見られます。
「あの人は良くしてくれるから残業を強制されても仕方ない」「あの時助けてくれたから仕事をしっかり教えてもらえなくても仕方ない」など、理不尽な対応を関係の深さで黙らせようとするのです。
自分が周りとは異なる対応をされていると感じた場合、その人との関係がどうであろうと周りに相談することをおすすめします。
オンライン詐欺
インターネット上で行われる性的グルーミングも、子どもだけのものではありません。
大人の場合は出会い系サイトなどを通じて知り合い、関係を深めながら最終的に性行為へと繋がっていくケースが多く見られます。
また、性的ではないグルーミングの一種として、仲良くなったと思った相手から詐欺へ加担するよう指示されたり、実際に自分が詐欺に巻き込まれたりするケースもあるようです。
「友達を作りたいといって近づいてきたにもかかわらず高額なブレスレットを買わされそうになった」「心配していると見せかけて高額な保険に入らされそうになった」など、さまざまな詐欺に巻き込まれないよう注意が必要です。
洗脳
純粋な人や周りに裏切られた経験のない方などは、自分に良くしてくれた相手が悪いことをするはずがない、と思ってしまいがちです。
優しい心を持った人であれば、違和感を覚えつつも「信じてあげなければ可哀想だ」と傍に居続けてしまうこともあるでしょう。
こういった良心につけ込むことの上手い加害者は、次第に被害者を洗脳し、自分の言うことを聞くように変えてしまいます。
不都合なことでも黙って従い、言われるがままにお金を出したり性行為に及んだりする存在を作るべく、さまざまな手法で近寄ってくるでしょう。
恋愛詐欺
大人のグルーミングに多いのが「恋愛詐欺」です。
あたかも本当に自分のことが好きであるかのように対応しながら、実はお金目当てであったり、性行為が目的であったりと被害者の気持ちを弄ぶ行為が問題視されています。
中には「恋愛詐欺マニュアル」と題し、相手を言葉巧みに騙す方法をまとめて販売する手口もあるようです。
恋愛詐欺もまた、被害者は加害者に恋をしてしまっており、自分から距離を置くのが難しいという特徴があります。
金銭のやり取りや性行為はあれど、自分に寄り添うような言葉やお金のかからないデートなどがほとんどない場合は、グルーミングを疑うと良いでしょう。
お金を取るだけ取って音信不通になったり、妊娠後に姿をくらませてしまったりする悪質な手口も存在します。
長期間付き合っていても結婚の話題が出なかったり、しっかりと避妊をしてくれなかったりする場合も、今後のお付き合いを冷静に検討することをおすすめします。
グルーミングから子どもたちを守るためにできること
大人のグルーミングは自己防衛が鍵となりますが、子どもたちは十分に自分を守ることができません。
まずは子どもとコミュニケーションをとる機会を大切にし、お互いが何でも言い合える関係を目指しましょう。
具体的な被害について相談してもらえなくても、ほんの少しの変化や違和感で被害が判明する場合もあります。
また、子どもと普段近しい関係にある大人は誰なのか、親がしっかりと把握しておくことも大切です。
子どもだけで訪れた公園で知らない人と交流していないか、ネット上で知らない人とやり取りしていないか、逐一チェックしておきましょう。
インターネットの場合は適宜制限をかけるなどして、不特定多数の人と関われないように工夫しておくことも大切です。
このような対策は、時々子どもに「ウザい」と思われてしまうことがあります。
やはり大切なのは、コミュニケーションをとるのが当たり前の毎日を作っておくこと。
過干渉・過保護だと思われないために、子どもが自分の方から1日の出来事を話してくれるようにしておくことが重要です。
関連記事:自己肯定感が低い子供の特徴とは|注意すべき親の発言や行動
まとめ
幼い子どもからティーンエイジャー、大人まで幅広く対象とした悪質なグルーミング。
特に子どもの場合、一度の被害で心が壊れ、精神状態が不安定になってしまうケースも珍しくありません。
親はもちろん周りの大人が一体となり、悪質な犯罪から子どもを守りましょう。