
乳がんは、今や日本人女性が最も多くかかるがんです。
近年では30代や40代での発症も増えており、「乳がん検診をいつから受ければよいのか」と不安を感じる人も少なくありません。
本記事では、乳がん検診の内容や年齢別の受け方、受けられる場所などについて解説します。
乳がん検診に関する正しい知識を身に着け、ご自身や大切な人の健康を守りましょう。
乳がんとは?
乳がん検診を受ける必要性を理解するには、まず乳がんという病気について知っておくことが大切です。
乳がんは女性にとってもっとも身近ながんの一つでありながら、その仕組みや特徴は意外と知られていません。
ここでは乳がんの種類や発症の特徴、日本での罹患状況などについて解説します。
乳がんの種類
乳がんは乳腺にできる悪性腫瘍で、大きく「乳管がん」と「小葉がん」に分類されます。
乳管は母乳を乳頭まで運ぶ管であり、ここに発生する乳管がんが全体の90%以上を占めます。
一方、小葉がんは乳腺の奥にある「小葉」と呼ばれる部分にできるがんです。
比較的まれですが、両側にできやすく、発見が難しい傾向があります。
また、がんの進行度によって「非浸潤がん」と「浸潤がん」にも分けられます。
この「浸潤」と「非浸潤」という分類は乳がんに限らず、すべてのがんに適用されます。
非浸潤がんはがん細胞が乳管内や小葉内にとどまっており、早期発見されやすい段階です。
浸潤がんになると、しこりができはじめ、転移のリスクも高まります。
さらに、がん細胞が持つ性質によって、以下の3つに分類されます。
- ホルモン受容体陽性
女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の影響を受けてがんが増殖するタイプで、比較的進行が緩やかです。 - HER2陽性
「ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)」というタンパク質が過剰に発現しているタイプで、がん細胞の増殖が活発になりやすい特徴があります。 - トリプルネガティブ
ホルモン受容体とHER2のいずれも持たないタイプで、進行が速く再発しやすい傾向があります。
これらの分類は、治療方針の決定にも大きく関わる重要な指標です。
日本人女性のがん罹患数トップ
国立がん研究センターの統計によると、乳がんは日本人女性がもっとも多くかかるがんで、年間9万人以上が診断されています。
生涯で乳がんにかかる確率は「9人に1人」とされ、今も患者数は増加傾向にあります。
発症にはホルモンバランスや初潮・閉経の時期、出産歴、生活習慣などが関係し、遺伝的要因も無視できません。
特に乳がんは比較的若い患者が多いのが特徴で、30代後半から患者数が増え始め、40〜60代にかけてピークを迎えるがんで、がんとしては比較的若い患者が多いです。
乳がんの進行スピード
乳がんの進行スピードはがんのタイプによって異なります。
ホルモン受容体陽性の乳がんは比較的ゆっくり進行しますが、トリプルネガティブやHER2陽性などは進行が早く、早期に転移するケースもあります。
また、若年層で発症する乳がんは進行が早い傾向にあるとされており、発見が遅れると治療が難しくなることも少なくありません。
そのため、定期的な検診が特に重要になります。
初期症状の特徴
乳がんは早期にはほとんど症状がないことが多く、自覚症状が出にくい病気です。
もっとも一般的な初期症状は「しこり」ですが、痛みがないことも多く、気づかないまま進行するケースがあります。
そのほかに、以下の症状などがみられることもあります。
- 乳頭からの分泌物
- 乳頭の陥没
- 皮膚のくぼみやただれ
上記の症状は、すべての人に共通して現れるわけではなく、症状が出た時点ですでに進行している場合もあるため、症状の有無にかかわらず定期的な検診が重要です。
ごく小さいしこりでも、気がついた時にはすぐに医療機関を受診しましょう。
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乳がん検診は何歳から受けるべき?
乳がん検診は、国の指針により「40歳以上の女性を対象に、2年に1回マンモグラフィを実施すること」が推奨されています。
これは、40代から乳がんの発症率が急激に上昇し、検診による早期発見で死亡率を下げられることが科学的に確認されているためです。
多くの自治体では、40歳以上を対象に無料クーポンや補助制度を提供しており、この年齢をきっかけに初めて検診を受ける人が少なくありません。
また、職場の健康診断や健保組合を通じて乳がん検診の機会が設けられている場合もあります。
35歳や40歳といった節目年齢を設定しているケースも多く、これらの制度を活用することで、費用の負担を抑えながら乳がん検診を受けることが可能です。
このように、乳がん検診を始める年齢の基本的な目安は40歳とされていますが、すべての人に当てはまるわけではありません。
年齢に応じた検診の考え方や、例外的に早期の検診が必要とされるケースについては、次の章で詳しく解説していきます。
年代別に見る乳がん検診
乳がんの発症傾向や検査方法の有効性は年代によって異なります。
そのため、何歳でどのような検診を受けるべきかは、一律には語れません。
この章では、20代から高齢者まで、それぞれの年代における乳がん検診の考え方を整理して紹介します。
20〜30代は要経過観察と超音波(エコー)検査
20代や30代では、乳がんの発症率はまだ低いものの、ゼロではありません。
特に家族に乳がんの既往がある場合や、遺伝性乳がんのリスクがある場合は、医師と相談のうえ早めの検診が必要とされます。
この年代は乳腺が発達しており、マンモグラフィではがんを見つけにくいことがあります。
そのため、超音波(エコー)検査が推奨されるケースが多く、自覚症状の有無に関わらず一度は医師の診察を受けておくと安心です。
40代は検診効果が最も高い時期
40代は乳がんの発症率が急上昇し始める年代であり、検診による死亡率低下の効果がもっとも大きい層とされています。
ただし、40代では乳腺の密度が高い方もおり、マンモグラフィだけではがんの影が見えにくい場合もあります。
必要に応じて超音波(エコー)検査を併用するなど、医療機関と相談しながら柔軟に検診内容を選ぶことが大切です。
50代以降は検査精度が向上
50代〜60代にかけては乳腺が脂肪に置き換わり始め、マンモグラフィでがんを検出しやすくなります。
このため、検査の精度が高まり、乳がんを早期に見つけやすくなる時期ともいえます。
この年代では乳がんの発症率も依然として高いため、引き続き定期的な検診を受ける意義は大きいです。
閉経後は生活習慣やホルモン環境も変化するため、定期的なチェックによって自分の体の変化を把握しやすくなります。
高齢者は体調に合わせた判断を
70代以降になると、乳がん検診を継続するかどうかは個々の健康状態や生活の質を考慮して判断する必要があります。
年齢を重ねると、心臓病や脳卒中など他の病気のリスクも高まるため、乳がん検診の必要性や優先度についても慎重に判断する必要があります。
医師と相談しながら「今、検診を受けることが本当に自分にとって必要かどうか」を考えることが大切です。
元気に日常生活を送っている場合は、引き続き定期的に受診することで安心感につながります。
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乳がん検診で行われる主な検査

乳がん検診では、がんの有無や進行度を早期に見つけるために、複数の検査が行われます。
どの検査が適しているかは、年齢や乳腺の状態、自覚症状の有無などをふまえて医師が判断します。
ここでは、代表的な4つの検査の特徴を見ていきましょう。
触診
医師が手で乳房や脇の下に触れ、しこりや腫れの有無を確認します。
この検査は医療機関や集団検診で行われ、自覚症状に気づくきっかけとなることもあるでしょう。
ただし、早期の乳がんは触診だけで見つけるのは難しく、画像検査との併用が勧められています。
超音波(エコー)検査
高周波の音波を使って乳房の内部を画像化する検査であり、特に乳腺の密度が高い若年層や妊娠中の人などに適しています。
放射線を使用しないため身体への負担が少なく、しこりの性状や血流の有無なども把握できます。
ただし、石灰化の検出は苦手なため、マンモグラフィと組み合わせるのが一般的です。
マンモグラフィ
乳房を圧迫してX線撮影を行う検査で、微細な石灰化などの早期のがん兆候を画像で確認できます。
特に40歳以上では有効性が高く、死亡率を下げる効果も科学的に示されています。
ただし、乳腺密度が高い場合はがんが見えにくいこともあり、補完的に超音波(エコー)検査を組み合わせることが重要です。
MRI検査
磁気を利用して体内の断層画像を撮影する検査で、遺伝性乳がんのリスクが高いとされる人に使われることがあります。
非常に高感度で、マンモグラフィや超音波(エコー)検査で見えにくい病変も検出可能ですが、費用が高く、通常の検診としてはあまり一般的ではありません。
乳がん検診のメリットとリスク
乳がん検診には多くのメリットがありますが、一方で受診によって生じるリスクも存在します。
この章では、検診を受ける際に知っておきたい「メリット」と「リスク」の両面について詳しく解説します。
乳がん検診のメリット
乳がん検診を受けることで、以下のようなメリットがあります。
- 早期発見につながり生存率が高くなる可能性がある
- 早期治療で身体的・経済的な負担を軽減できる可能性がある
- 安心感や生活の質の維持につながる
早期に乳がんを発見できれば、治療の選択肢が広がり、生存率も高く保たれる可能性があります。
また、進行してから治療する場合と比べて、手術や薬の負担、費用面での軽減が見込めます。
何より「異常なし」という結果は、安心感につながり、生活の質を保つうえでも重要な要素となるでしょう。
乳がん検診のリスク
乳がん検診には多くのメリットがある一方で、以下のようなリスクや注意点もあります。
- 偽陽性による不安や追加検査の負担
- 偽陰性による安心感の過信
- 過剰診断と不要な治療の可能性
- 検診にともなう精神的なストレス
検診で「異常あり」と判定されても、実際にはがんではないことがあります。
これを偽陽性と呼び、精密検査が必要になるなど、身体的・心理的な負担がかかります。
一方で、検査結果に異常が見られなかったとしても、実際には乳がんが存在していたという偽陰性の可能性も否定できません。
この場合、発見が遅れることで治療のタイミングを逃してしまうリスクがあります。
さらに、進行しないごく初期のがんを過剰に診断してしまい、必要のない治療につながる可能性もあります。
がん検診では、すべてのがんを発見できるとは限りません。健診で「異常なし」と言われても、気になる症状がある場合は医療機関を受診しましょう。
検診そのものがストレスになる方もいるため、受け方や頻度については自分に合った方法を医師と相談しながら進めていくことが大切です。
乳がん検診を受けられる場所
乳がん検診を受ける場所や自治体によって、検査の内容や環境、費用負担に違いがあります。特に、職場健診は、健保組合や職場の方針で、時にいい加減な検査法や結果を出してくる場合もあります。
それぞれの特徴を理解し、自分に合った受診先を選ぶことが大切です。
自治体の集団検診
多くの自治体では、40歳以上の女性を対象とした乳がん検診を実施しています。
保健センターや指定された医療機関で行われることが多く、受診券や案内が郵送で届くのが一般的です。
費用は一部助成されることが多いため、経済的な負担が軽減されます。また、自治体が実施するがん検診は、国やがんセンターが作成した指針に従って行われているため、システムの精度が管理されており、信頼度が高いです。
ただし、実施時期が限られており、予約が必要な点には注意が必要です。
医療機関での個別検診
乳腺外科や婦人科など、乳がん検診に対応している医療機関では、個別に検査を受けることができます。
希望する日時で予約しやすく、他の診療とあわせて相談することも可能です。
とくに自覚症状がある場合や、再検査を指示された場合には、こうした医療機関での受診が推奨されます。
専門クリニックでの受診
乳がん検診に特化したクリニックでは、乳房専用の画像機器や女性技師の在籍など、検査に配慮した環境が整っています。
検査の精度が高く、結果の説明も丁寧に行われることが多いため、初めて検診を受ける方にも安心感があります。
デリケートな検査だからこそ、リラックスして受診できる場所を選ぶことが重要です。
まとめ
乳がん検診は、乳がんの予防ではなく、早期発見によって治療の負担や生活への影響を減らすことを目的としています。
年齢や乳腺の状態に応じて適切な検査を選び、定期的に受診することが大切です。
また、乳がんの発症リスクには生活習慣も関係しているため、食事や運動、飲酒・喫煙などを見直すことも一つの対策となります。
検診とあわせて、できることから日常を整えていく意識が重要です。
参考文献
