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布袋寅泰が見つめる未来「自分の可能性を追い続けるってことが、僕にとって“夢”」

各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”にこだわりを持つ生き方についてインタビュー。ギタリスト布袋寅泰さんをフィーチャーする2回目。自分自身の夢を追うために50歳でイギリス移住を決めた彼。それから10年、世界中からさまざまな人種が集うロンドンの街が、布袋さんの音楽と人生観をゆっくりと変えていったといいます。布袋さんがリアルに体感している多様性について、そして自分をケアして音楽を作っていくことの大切さを伺います。

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ジャケット¥253,000、シャツ¥61,600、パンツ¥116,600/すべてエトロ(エトロ ジャパン)

「今を生きていれば、若い世代とともに世界は変わっていける」

前回のインタビューでは、60歳のバースデーにリリースした新しいアルバムの話も伺いました。自身の出身地で書き上げたというアルバムは、現在イギリス在住の布袋さんにとって、“原点回帰”にこだわった一枚。 移住して10年、その決断は「グッドチョイスだった」と布袋さんは振り返ります。

ー 当時、布袋さんが渡英するというニュースを知って、とても驚いた記憶があります。ここからまた挑戦するんだ、すごいなという気持ちになりました。

「50歳のとき、冒険するにはまだ遅くないと思って決意しました。僕らのように夢を追いかけているかと問いかける立場の人間が、自分の夢をあきらめてはいけない。あの決断、そしてそこからの10年がギタリストとして、そして一人の男としても、僕を磨いてくれたと信じています。

ロンドンは世界中から人が集まってくる、カルチャーの豊かな人種のるつぼです。バスや地下鉄に乗っているとさまざまな言語が聞こえてきて、いろいろなカルチャーが見える。そこに身をおくと、改めて自分がアジア人だということ、そして日本人であるということを意識します。

けれど、そもそも世界は、さまざまな人種、カルチャーがレイヤードされてできているもの。多様性があることが当たり前なんです。日本でも、さまざまな国のアートや食を楽しむことができますが、実際にそれらの国の人と接する機会は少ないでしょう。だから僕の音楽を通してカラフルな文化、多様性、その色彩を伝えていきたいと思うようになりました」

― その多様性のなかで暮らすことで、今の世の中はどのように見えてくるのでしょうか?

「今、SDGsが声高に叫ばれるようになりましたが、考えてみれば環境問題を考えることも、多様性を認め周囲を思いやることも、人として当たり前のことですよね。今の若い世代はそれが当たり前にできていると思います。我々が長年使っていたストローやペットボトルもマイボトルを持ったりと、彼らは変えようとしている。むしろ大人の方が感覚が固まってしまって、追いつけていないようにすら感じますね。だから多様性とか、ジェンダーフリーとか、無理矢理言葉にせずとも、今を生きていれば、自然と若い世代とともに世界は変わっていける気がします。

それぞれが、もっとナチュラルにいるべきですよ。頭で考えるとろくなことがない。だって、ジェンダーとかそういう言葉でものごとを区切ってしまうと、せっかくの自由な部分も逆に意識をしすぎてしまうかもしれない。頭で考えると、人ってなぜか、気持ちと違う言葉や行動が出たりしますよね。例えば車椅子の人が道で困っているとして、手助けするべきか一瞬でも迷ってしまうと、なかなか手をさしのべられなくなってしまう。でも、それが友人や家族だったなら悩まず自然と行動できますよね。だから、僕らは、考えず常にナチュラルでいるべきだと思います」

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―イギリスでは2020年からロックダウンなどさまざまな規制がありました。さらに昨年は、コロナ禍のため予定していたロンドン-東京間の行き来をやめ、東京に留まる日々のなか、どんなことを癒しにされていたのでしょうか。

「大変でしたよね。インターネットや、いろんなものが、すべてがそこにあることが当たり前の時代のなかで、人と実際触れ合うことだけが当たり前でなくなってしまった。だからこれまで気にしていなかった小さなことが輝いて見えました。例に漏れず、僕もイギリスの家で、野菜や花を種から栽培したり、そんなこともしていましたよ。

日本に戻ってからは、昨年は制限があるなかでしたが、ツアーで全国を回りました。人と接することはできませんから、朝から一人で各地の城を巡ったり、自然のある場所を歩くようにしていました。東京でも、とにかくよく歩くようになったんですよ。自分のなかでルーティンをつくって、毎日同じ道を散歩するんです。

小さいころって、毎日同じ道を通って学校に行っていましたよね。毎日歩くからこそ、季節の移り変わりや空の色の変化も楽しむことができた。あれを再現しているんです。ルーティンを持つということを、若いころは嫌っていましたけど、年齢を重ねて、けっこういいなって思うようになったんです。今日も同じ道を歩いてきましたよ。小道をぐるぐる回って、わざと遠回りしながら、小さな神社にお参り。こうやってお伝えすると、なんだかジジくさいこと言ってる気もしますが(笑)」

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「ピュアであること、諦めないこと」

― 今、音楽が世界のためにできることは? そして布袋さんが音楽を通して実現したいことは何でしょう?

「音楽も頭で考えるものではありません。多様性という意味では音楽は一番自由、どんな音を出してもいい。僕が10代、20代のときに聴いていた音楽は、うちの母親に言わせれば『クレイジー』なものだったそうで(笑)、でもそういうものに夢中になったからこそ今があります。だから音楽が無味無臭にならず、カラフルなものであり続けることを願っています。僕自身の音楽は、これからは無責任に問題提起を投げかけるよりも、前向きになるようなサウンドを届けていきたいですね。

僕は本当にパラリンピックからいろいろなことを学びました。ピュアであること、諦めないこと。言葉にするのは簡単ですが、なかなかできることではありません。そんなことを彼らは、笑顔でやってのける。そこには凄まじい努力があります。人間って強いなって、つくづく思いましたよ。可能性を自分で制限するべきではない、無限の世界ってあるんだなってことを強く感じた。若い世代が、それを我々に教えてくれました。これからも、そうあって欲しいと期待しますね」

― 布袋さん最新作のアルバムタイトルは『Still Dreamin’』。布袋さんのこれまで追ってきた夢、そして今見ている夢を教えてください。

「これまで、夢をたくさん叶えたでしょうと言われれば、本当にそのとおりです。ザ・ローリング・ストーンズとの共演やパラリンピックといった大舞台は、想像を超えるものだったけど、夢に大きい小さいもない。自分のなかで新しい音をみつけた瞬間とか、それも夢の実現の一つなんです。

キャリアのなかで壁にぶちあたったことは何度もあるし、挫折したこともある。そのときは、この世の終わりくらい苦しいんだけど、過ぎてしまえば、自分が成長するために絶対的に必要だったと絶対に肯定できます。だから若い人にもまっすぐ進んでほしい。まぁ、もう一度20代、30代のころをやりなおせって言われたら、しんどいけど(笑)」

ー それほどに、全力でやってこられたからですね。

「これからも僕はまだまだ夢のなかにいたい。世界でどのくらいの枚数を売り上げるとかそういうことではなく、自分の可能性を追い続けるってことが、僕にとって“夢”ですね。それは実は20代30代のころと、あまり変わらないです。
具体的にやりたいことは、やっぱりワールドツアーですね。きっと世界は現状を乗り越えられるよ。だからそう遠くない未来に、実現できると思います」


エンターテインメントの世界でトップを走りながら、次々と夢を叶えてきた布袋さん。そんな激しく、華々しい日々のなかでも、自然に触れ、自身や周りの人を見つめることを忘れない。音楽を愛するピュアな気持ちが、今までも、そしてこれからも“可能性を追い続ける”ことの原動力。「今もなお、夢を見て生きているか?」大人になってもずっと、そう自分に問いかけ続けることの大切さを布袋さんは教えてくれました。


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『Still Dreamin’』〈通常盤〉/ユニバーサル ミュージック 60歳の誕生日に発売されたオリジナルアルバム。デヴッィド・ボウイのポートレイト撮影などでも有名な写真家 鋤田正義が担当。


Profile
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月1日生まれ、群馬県出身。‘81年にロックバンドBOØWYでデビュー。解散後はソロ活動に加えてCOMPLEXとして‘90年まで活動。2014年にザ・ローリング・ストーンズの公演に参加。世界を股にかけ活躍する。
https://jp.hotei.com/
Instagram @hotei_official
Twitter @Official_Hotei


SHOP LIST
エトロ ジャパン https://www.etro.com/jp-ja


PHOTO = 薄井一議
STYLING = 井嶋一雄(Balance)
HAIR & MAKE-UP = 原田忠(資生堂)
TEXT = 安井桃子

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