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松本まりかの情熱「自分の“好き”を信じ続けるということ」

私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも負けない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”を大切にする生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。ここから3回にわたり、今、唯一無二の存在感に注目が集まる俳優 松本まりかさんをフィーチャーします。

marika
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「誰からも必要とされない・・・そんな気持ちで過ごしていた時代がありました」

テレビドラマ『ホリデイラブ』でのあざと可愛い演技が大きな反響を呼び話題に。その後は、刑事役からド派手なヤンキー役まで、変幻自在に演じ分ける“怪優”に。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの最旬女優、松本まりかさん。実は22年の芸歴をもつ彼女には、長い下積み時代がありました

― 俳優デビューは2000年。名作として話題を呼んだ『六番目の小夜子』で、鮮烈な印象を残しました。

「当時15歳、実はそれが私のピークでした。若さ特有の感性のおかげで奇跡的につかんだビギナーズラックだったなと思っています。

私は両親が離婚していて、子供ながらに隠したいコンプレックスを抱えていました。それがようやく芸能という場で注目を浴びて、『これからは何でもできる!』そんな根拠のない自信を胸に、ようやく未来への扉が開いた・・・と思いきや、現実はそんなに甘いものではなかったんです。

15歳をピークに、残念ながら私の人生はガクッと下降線をたどりました。『あれ? できると思ったのに違った・・・』『またダメだった・・・』その繰り返し。社会という荒波に飲まれて、キラキラの野望を何度も打ち砕かれてきたかんじです。

でも、私は演技が好きで。もし誰かに批判されたり興味がないと言われても、“好き”という気持ちまでは奪えないはずだと強く信じて。その領域だけは守りつつも、誰からも求められることがないまま、どこへ行けばいいのか・・・何をすればいいのか・・・模索し続けていたらデビューから約20年が経っていました」

― 日の目を見なかった時期に、やめようと思ったことはありませんでしたか?

「それが・・・なかったんですよね。『あなたには無理』という他人の目よりも、自分の“好き”に従ったと言えばいいのかな。まずは勉強する、レッスンする、本を読む、映画を観る・・・そうやって自分の無能さや無知さを埋めなければと、そこに時間を費やしてきました。

人の目を気にして生き方を曲げてしまうのか、自分の気持ちを貫くのか。やはり私は“やりたいこと”をやって生きていきたい。長い時間のなかで、そう気付くことができました」

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― その厳しい時代にまりかさんを支えたものは、いったい何だったのでしょう?

「自分で自分を嫌いにならない生き方がしたいな、と。その想いが私を支えてきた気がします。ズルをしない、嫌がらせをしない、足を引っ張らない、もしそうされても決してやり返さないこと。

それを守って、自分を好きでいることができたら、きっとそんな私を誰かが見てくれているはず。ズルをして前に出ても、それは一時的なもので終わってしまうだろうし。

もちろん、私自身も清廉潔白の人生だなんて言えません。でも自分が決めた大切にしたい領域だけは、守ってきたつもりです」

― 熾烈な芸能の世界で、さまざまな落とし穴や誘いもあったのではないでしょうか?

「そうですね、決して美しくはない世界だったからこそ、自分がそこに陥らないように気を付けていました。ここは私がいたい世界ではないなーーそう思うたびに、私が憧れるのはどんな世界なのだろうか、そこで活躍し、輝いているひとはどんな生き方をしているのか。・・・そんなことを想像して、そこに近づきたいなと思っていました。

何だか“きれいごと”のように聞こえるかもしれませんよね(笑)。でもそういう生き方を目指すことって、素直に気持ちがいいんですよ。もしパラレルワールドがあったとして、私が目指す美しい世界に行けたなら、そこですぐに能力を発揮できるような自分でありたい。そんなふうに、志は高く持つことで、前に進めた気がします」

「願う方向に進むために。このタイミングで、少し休むことにします」

― そして2018年『ホリデイラブ』の里奈役で、大ブレイク。急激に注目を浴びることになります。

「環境だけが突然変わって、そのことに自分がまったくついていけていない状況でした。驚きと戸惑いのなかにいて、でも待ったなしで周囲が変わっていくー-。

だからこそ変化しなくちゃ、進化しなくちゃ、慣れなくちゃと焦るばかりの日々でした。ずっと目指していた場所にやっと足を踏み入れたのだから、本当はその感動を思い切り味わいたい。でもあまりに忙しくて、目の前の仕事をやり遂げるだけで精一杯で。気付けばいつからか心に余裕がなくなり、感動の気持ちが心をすり抜けるようになってしまったんです」

― 2020年は8本のドラマに出演し、2021年は主演作がなんと6本。今年も続々と映画公開が控えています。

「この数年はほとんど休みもなく、毎日分刻みのスケジュールで。でもそれが嫌だったわけではなく。それを選んだのは、私ですから。あんなに暇だったのだから、仕事が欲しかったのだから、今やらなくてどうする、って。

でも『5分後に次の取材入ります』『あと3分で話してください』というような取材が続いたある日、すごく残念そうに帰っていく取材スタッフの方を見て『何かが違う』と感じ始めました。

現場でも自分の芝居に満足できないことがあり、ようやくクランクアップを迎えても喜びに浸る間もなく次の作品に進む日々で。『このままではいけない』『突き進んだら道を誤る』本能的にそう感じて、休むべきだなと思ったんです」


― 今年の2月26日に、Instagramで「わたし、休みます」と投稿。心の底から驚きました! 人気絶頂の今、休むことに不安はありませんでしたか?

「大きな波に乗れた今だからこそ、波に身を任せてしまうのではなく、今後の進む方向を見極めるためにも休むことが必要だと思いました。この数年、死に物狂いで働いてわかったのは、私が本当にやりたいのは、一つの役にしっかり向き合って、共演者の方と心を通わせて、じっくり作品をつくり上げるということ。でもこのままではそれが叶わないのではと。

今、恵まれた環境にいてとても有難いと思う一方で、売れない時代を経験している私は、絶好調に思えるときこそ、その好調に浸らず、地に足をつけていくことが大事だと肌で感じるのです。今ここにいる自分が本当に見るべき、考えるべきことは何か、本質を見極めていくことを間違えないようにしたい。

今のこの状況は〈これまで頑張ったで賞〉をいただけたようなもので、いわば“過去の遺産”というか、過去の頑張りがあって得ることができたもの。私、浮かれることのできない性分なのかもしれませんが(笑)、“未来”は“今”をいかにクリエイトし続けていくかの結果だと思うので、だからこそ“今”を“過去の遺産”に甘んじる時間にはしたくないなと思いました。

無自覚に波に乗ってどこかに運ばれていくのではなく、目をしっかり見開いて波を乗りこなし、行きたい場所を目指してコントロールするぐらいの気持ちで臨むこと。このタイミングだからこそ休む、意思をもって立ち止まる、そして次はどんな波に乗るのかを、自分のチカラで選択できる自分でありたいです」

marika

「『ああ、生きてる!』それが私にとってのお芝居です」

― それほど深く芝居を愛するまりかさん。「演じる」とはいったい何でしょうか?

「私は私の人生しか生きられないけれど、他者の人生を演じることで、想像力が養われるんですよね。たとえば母親による子供の虐待事件があったとして、世間は彼女を断罪するけれど、それでは犯罪はなくならない。母親の生い立ちは? そこに至った経緯は? 周囲との関係性は? その事情を知って、思考をなぞって、さらに演じることで、喜びと悲しみを学ぶことができます。結果、実生活でひとに優しくできたり、許すことができたり。生きるうえで本当に大切なことを教えてくれる。それが『演じる』ことの醍醐味だと思います。

さらにもう一つ、会ってまだ日が浅い相手でも、芝居では心がスッと通じ合えることがあるんですよね。それもかなり深い部分で共鳴できたとき、私は、感動してしまいます。その心のキャッチボールは、私に『ああ、生きてる!』という実感を与えてくれるんです」

― 芝居とは、まりかさんにとって人生を膨らませる手段なのかもしれませんね。

「私のことを知ってくださる方が少しずつ増えて、多くの方から有難い反応をいただくようになりました。私が私のためにやっているともいえる仕事が、結果、誰かの心を動かしていて、それがまた私の生きるエネルギーに還元されている。

年齢を重ねて、ひとは自分のためだけに生きられないのではと感じている今、その大いなる循環がうれしくてうれしくてたまらないんです。これが私の生きていきたい道だなと。デビューからを振り返ればいろんなことがあったけれど、“今まで”を糧に、優しく穏やかな想いを携えて“これから”を歩いていきたいです」


長い下積みの時期を、自ら「負け続けた日々」と表現したまりかさん。ようやく今の場所にたどり着いた彼女は、この数年間、自分の精一杯を発揮して、生きるすべてを仕事に注いできました。そして現在、さらに次のステージへと駒を進めるため、能動的に休むことを選択したのです。久しぶりの休息の日々をどう過ごすのかー-気になるお話は次回にたっぷりお伝えします。

vol.2では、休み中の計画、人生に欠かせない旅について、さらに恋愛観、結婚観まで伺います。


Profile
松本まりか(まつもとまりか)
1984年東京都生まれ。2000年、NHKドラマ『六番目の小夜子』でデビュー。2018年、ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で注目を集める。Amazon Prime Videoにて配信中の『雨に叫べば』にて主演を務める。土曜ナイトドラマ『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』が放送中。今年6月、映画『妖怪シェアハウス』『極主夫道 ザ・シネマ』が公開予定。
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Twitter @marika_2000
Instagram @marika_matsumoto


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PHOTO = 嘉茂雅之
STYLING = 豊島優子
HAIR & MAKE-UP = 木部明美(PEACE MONKEY)
TEXT = 本庄真穂

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