「日本のSDGs達成は、どこまでできている?」
を知って、次の行動へ
SDGs(持続可能な開発目標)は、誰一人取り残さない社会をつくるために掲げた世界共通目標です。2015年9月の国連総会で採択され、2030年までに世界各国が協力して達成すべき目標なので、定期的に進捗状況が報告されています。
その中身は、世界中の注目の的。国別データに基づき、多くの分析もなされています。例えば、ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が毎年作成する「持続可能な開発報告書」は、国連に加盟する193ヵ国のSDGs進捗状況を評価し、データがある165ヵ国の達成状況について順位をつけています。日本はというとーー2021年は165ヵ国中18位。
日本でも、総理大臣を本部長とした「SDGs推進本部」のもと、行政や民間セクター、有識者、国際機関、各種団体などが集まり、日本での取り組みをまとめています。
7月に行われたハイレベル政治フォーラム(HLPF)において、「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成へ向けて~」を発表。その中身や、現在の日本の状況について東京大学総合文化研究科特任准教授 井筒節さんに話を伺いました。
日本のSDGs達成度は?
日本政府が2021年に国連に提出したレポート「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成へ向けて~」では、さまざま目標について、“どれだけ達成できているか”を示してくれていますので、見てみましょう。
まずは、ゴール1の「貧困をなくそう」。2018年の「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合)は、日本でも15.4%です。これは、6人に1人が貧困状態にあるということ。2015年時と比べ、0.3 ポイント改善されていますが、高い数字です。更に、新型コロナウイルス感染症の拡大が、多くの家庭に影響を与えており、今後の状況は悪化するかもしれません。
ゴール3「すべての人に健康と福祉を」については、日本国内での取り組みもちろんですが、日本は開発途上国で暮らす人々がワクチン接種できるようにするための国際枠組COVAX(コバックス)の創設や運営に大きな貢献をしています。
ゴール4「質の高い教育をみんなに」について、日本では、外国籍の児童・生徒のうち、6人に1人(約16%)が小学校・中学校に通えていません。
ゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」は、日本の弱点の一つ。一定の前進が見られるものの、日本のジェンダー・ギャップ指数の総合順位は156tヵ国中120位と先進国のなかでも最低レベル。また、政府は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、特に女性に強く表れているとしており、ゴール3のターゲットの一つである精神保健について、その指標ともなっている自殺率に関連し、2020年には11年ぶりに自殺者数が増加し、特に女性の自殺者数は前年と比べて935人増加したことを報告しています。
ゴール7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」について、日本の再エネ比率は18%(2019年)まで拡大。その導入量は、再エネ全体で世界6位(2018年)、太陽光発電は世界3位(2018年)となり、再エネの導入が進んでいます。これについて市民社会は、「SDGs実態調査」で90%以上の企業が脱炭素化に向けた取組みを進めているものの、再エネの大幅な増加にはほど遠いとして、更なる取り組みの必要性を強調しています。
ゴール13「気候変動に具体的な対策を」に深く関連する温室効果ガスの総排出量は、2014年以降、6年連続減少。菅前総理大臣は、温室効果ガスを、2030年には、2013年から46%削減し、2050年にはカーボンニュートラルを実現することを目指すことを発表しました。
地球環境に関わる動きとして、エシカルな洋服を着たり、海辺のごみでアクセサリーを作ったり・・・といった取り組みも素晴らしいことです。確かに、身近なところから文化を変えていくことは大切。しかし、それらだけでは具体的に示されている目標達成にはあまり結びつきません。
SDGsの目標は、地球規模で見たり、「誰一人取り残さない」視点で見たりしながら、もっと緊急性をもって取り組むべきものです。
日本でも6人に1人が貧困で、外国籍の子ども6人に1人が小中学校に通えず、温室効果ガスも約半分にしないと地球がもたない現状があります。開発途上国では、今も、ワクチンや医療にアクセスできずにコロナウイルス感染症で亡くなる人がたくさんいます。結果を出すためには、危機感を持って、迅速に、行政や企業、NPOなどが専門知識と技術を持ち寄って協力し、具体的なターゲットを目指して進めていくことが必要です。
SDGsは国連加盟国の共通目標ですし、ウイルスの変異株や原油価格が例であるように、世界の出来事は日本国内に、そして、日本国内の出来事は世界につながっています。そのため、世界各国と協力しながら、世界的視野をもって達成を目指すことが大切です。日本のみならず、世界でまだまだ達成できない目標はなんだろう、それに対して日本ができることは?と考えることがSDGsのやり方です。
ジェンダー平等の実現など、日本の優先課題は8つ
「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成へ向けて~」では、8つの優先課題が定められています。
1.あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
2.健康・長寿の達成
3.成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
4.持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
5.省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
6.生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
7.平和と安全・安心社会の実現
8.SDGs実施推進の体制と手段
これらは、日本がSDGsの実施において重視する活動分野といえるでしょう。自発的国家レビューは外務省のHPに掲載されています。概要だけでも目を通してみましょう。日本の現状や今後の取り組み方針について知ることができます。
併せて、SDGsの「本体」である国連決議 「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015)に2030年に向けた「行動計画」、すなわち取り組むべき課題として挙げられている6点も見てみましょう。この短い6つの文章の中に、「平等」が2回、「包摂」も2回、そして「共有」などの言葉が出てくることに注目です。これらがSDGsの土台であることが日本では忘れられがちです。しかし、それこそがこれまでのやり方を「変革する」SDGsのきもであることを意識することが大事です。
1.貧困と飢餓に終止符を打つ
2.国内的・国際的な不平等と戦う
3.平和で、公正かつ包摂的な社会をうち立てる
4.人権を保護しジェンダー平等と女性・女児の能力強化を進める
5.地球と天然資源の永続的な保護を確保する
6.持続可能で包摂的で持続的な経済成長、繁栄の共有と働きがいある人間らしい仕事のための条件を、各国の発展段階・能力の違いを考慮に入れて作り出す
新型コロナウイルス感染症拡大により、目標達成への動きは停滞中
コロナ禍において企業の倒産や失業など、暗いニュースが多く聞かれます。世界的に見ても新型コロナウイルス感染症によって、極度の貧困がこの数十年で初めて増加しました。
子どもが搾取されるリスクが高まり、児童労働はこの20年間で初めて増加し、1億6000万人に。さらに医療従事者の不足など、保健分野での不平等も拡大している状況です。
世界のSDGsの進捗状況をまとめた国連のSDGs報告2021はこちらで確認できます。
日本のSNSではコロナ対策についてたくさんの声があがっていますが、本当に困っている人の声はそこにはないかもしれません。テレビやネット環境がなかったり、情報がアクセシブルでないために情報を得られず、サービスも届いていない人がいるかもしれません。そんな声をあげられない人、声をあげない人、そして、小さな声にも耳を傾け、そこから始めるのが「誰一人取り残さない社会」の実現につながります。
果たして、私たちはできているでしょうか。
未知のウイルスに対してさまざまな意見が飛び交っていますが、自分とは違った意見に対して批判や中傷をしていませんか? 多様性は、意見や生き方全般にいえることです。自分とは違っても、他者のあり方を尊重することが包摂です。日本に紛争はないけれど、いじめや誹謗中傷が横行する社会は平和でしょうか。
第2代国連事務総長のダグ・ハマーショルドの「国連は、人を天国に誘うためではなく、人を地獄から救うために創設された」という言葉を私はいつも心に留めています。
よりよいものを、より幸せを望むことは悪いことではありませんが、満ち足りた状態にいると苦しい立場の人に目が向きにくくなるものです。
どの分野においても困難な状況にある人達に目を向け、まず最初に手をのばす努力をして改善するのがSDGsの目的です。
コロナ禍で多角的にものを見る大切さも浮き彫りになりました。経済、保健、環境、福祉・・・あらゆる角度から取り組んでいくことの必要性を感じたのではないでしょうか。SDGsも分野を超えて考えていくことが大切です。日本国内だけにとどまらず、報告書を見ながら世界に目を向け、日本が世界各国にできること、世界各国から影響を受けることを考えていきましょう。
SDGsの期限である2030年まであと9年。私たちにはどんなことができるのか、何からはじめたらいいのかについては次回お話したいと思います。
Profile
井筒節(いづつたかし)
東京大学総合文化研究所・教養学部特任准教授。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野保健学博士。国連人口基金専門分析官、国連本部精神保健・障害チーフ、世界銀行上級知識管理官、国連世界防災会議障害を包摂した防災フォーラム議長、国連障害と開発報告書精神障害タスクチーム共同議長などを経て現職。劇団四季やディズニー作品の翻訳、解説も担当。
TEXT = 岩淵美樹