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私を変えられる?「じぶん診断」のトリセツ【島田恭子の自分学 vol.03】

最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉。「よりよく生きる」ために、私たちは自分のために何ができるでしょうか。他の誰でもない、自分のために、自分らしく生きて、自分自身が幸せを実感できる毎日へ。この連載では、精神保健学者の島田恭子さんに、自分軸でモノゴトを進めていく人生を送るために学びたい「自分学」について教えていただきます。


体と心はつながっている

shimada

散歩、始めました。

「歳のせいか、暑さのせいか、最近5時前に目が覚める~」とぼやいていたら、“朝ラン”を勧めてくれた友達。朝起きたらとりあえず、すっぴんにマスクで家を出て走り始めるのだと。

私と違い、ハマるときちんと続ける彼女。曰く、走るととにかく調子がいい。いろいろ良いけど一番は、気持ちがスッキリするのだと。

無心で走る。頭を巡らせながら走る。今日のTo Doを整理しながら走る。20~30分もすると、頭と心がめちゃくちゃスッキリ。1日の快適度も生産性も爆上がりとか。
確かに“運動”は予防医学とメンタルへルスにとって大事なキーワード。「運動している人にうつはいない」という人もいるくらい、体を動かすことと心の健康には関連があるとわかっています。

・・・とはいえ、キツい運動が嫌いな私は、走るのは無理。だから散歩で効果を検証。しかも朝が無理なときは昼でも夕でも夜でもいいことに。しかも本来散歩目的じゃない、用事の間の移動も、散歩と見なすことに。

これならちょっと続けられるかも。

仕事での行きづまり、プライベートのお悩み・・・頭を悩ますことは次から次に事欠きません。散歩はそんな私たちの頭と心を、お手軽にすっきりさせてくれそう。自分のペースで無理なく続けられたら、きっと調子づいてきそう。まずはシンプルに朝散歩。皆さんも試してみませんか?


「じぶん診断」をどうとらえるか

shimada

前回の記事では皆さんに、簡単な「じぶん診断」をやっていただきましたが、いかがでしたか?
大学の授業でもたまにやるのですが、学生さんの関心度ナンバーワンは、「人生で成功するのはどんな特性?」です。

成功の定義にもよりますが、5つのなかでは、「マジメ度」が高め、しかも頑張らなくとも、無理なく高水準を維持していることが、人生の良い結果につながる(例えば成績や地位が高い、など)傾向があることがわかっています。
無理なく、と言ったのは、頑張って「マジメ度」を上げているのではなく、そうしたいからそうしている、ということです。

例えば夏休みの宿題。ついつい先延ばしで一夜漬け、が王道パターンですが(笑)、そんななか「やらなきゃ後が大変になるし、そうなったらやっつけ仕事で質が下がるから、今のうちから少しずつやろう」と計画的に進められるのが、無理のないマジメさん。

「やらなきゃ! やらなきゃ!(焦)」と強迫的な“ねば”思考でマジメさを維持しているのとちょっと違いますね。日々の生活のなかで、小さいことでもできることを、少しずつ、少しずつ。後が大変になることを考えに入れ、不必要な羽目の外し方は極力避ける。・・・締め切りが過ぎてからこの原稿を書き、月に1、2回は二日酔いで悩まされている私からは、眩しすぎる特性です。

実はマジメさは長生きとも関連しているんです。「陽キャ度」が高いことや新しいもの好き、などは、陽気で元気なお年寄りを連想し、長生きしそうですよね。

でも実は、“若いころからのマジメさ”も、長寿と関連しています。確かに若いころからある程度のマジメさがあると、健康に気を遣うし、お酒やタバコもほどほどに、危険な行為(薬物、暴力、危険な運転や性行為など)からも距離を置けますね(セルフコントロール力と言います)。

こんなふうに、いいポイントがいっぱいのマジメさですが、高すぎるとそれはそれで、柔軟性を欠いてしまいます。例えば、「マジメ度」が高い×「おだやか度」が低いという組み合わせが極端になりすぎると、強迫的な完全主義につながる恐れがあります。

完全主義というのは、達成できないような高すぎる目標を完璧にこなそうと思い、できなかったらすべて失敗だ、と思ってしまうこと。

周りから見ると無理すぎる難題、本人だけではどうにもできない要素があるにもかかわらず、本人は自分を責め、落ち込んだり、病気になることすらあるんです。


私たちの性格はたくさんの面を持っている

shimada

「じぶん診断」の結果を「ふーん、ま、こんなもんだよね」と済ませてしまうのはもったいない。日々の生活や人との関わりのなかで、自分の性質を意識して、活用したいものです。

だからこれからこの連載でお伝えする、よりよく生きるヒントも、ご自分の性格を踏まえたうえで、取り入れていただくのがおすすめです。

とはいえ、「自分の性格、直視するの、結構キツいです」というコメントもよくいただきます。・・・わかります、わかります。

皆さんはご自分の録音した声にびっくりしたこと、あります? 自分の耳骨を通して聞こえる自分の声が、実は周りが聴いている本来の自分の声と違うことからくる現象だそうですが、最初に自分の声がこんな?と思って、私も驚愕しました。

写真や映像に映る自分が嫌い、というのもよくありますね。これも、自分が思っている自分像(往々にしてちょっと美化されている)と相手目線の画像が違うことからくる違和感です。

「じぶん診断」もこれと同じです。標準化された設問で自らの性格をとらえると、改めて「ここ直したいんだよなー」ってところが強調されたり、周りや他の誰かに比べて劣っている(と思われる)ところに目が向きやすい。写真と一緒ですね。

「いやいや私、この性格めっちゃ気に入ってるから!」という幸運な人はさておき、できれば直視したくない!という私のような方がほとんどなのでは・・・? そんな気持ちを乗り越え、「じぶん診断」をしてくださったあなたに、「じぶん診断」に関するとっておきの3つのことをお伝えしておきましょう。


心に留めておきたい3つのこと

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その1. なるようになっていく

前にお話ししたように、私たちの性格は半分くらいが生まれ持ったもので、残りは置かれた環境や年齢を経て少しずつ変わっていくことがわかっています。

ではどんな変わり方をしていくのかを全体の傾向で見ると、“いい感じに、なるようになっていく”ということです。極端に尖っているポイントがあってそれが悩みでも、それが少しずつ中庸に落ち着いて“いい感じ”になっていきます。

人生は選択の繰り返し。私たちは1日に数えきれないほど選択をして生きています。その選択の元になるのは、私たちの特性や価値基準です。だから知らず知らずのうちに、“居心地の良い選択”をしているんです。

その選択によって環境も周りの状況も変化し、またそれが自分の特性や選択の仕方を少しずつ変えていくーー。そんな有機的な関わりと年齢が重ねられ、いつしか心地よいポイントに収まり安定していく、というわけです。

確かに私の「マジメ度」も、20代に比べれば少しは上がってきたかも。「陽キャ度」も少し落ち着いてきたかも。
人間は成長する生き物です。生活するなかでの痛い思いや楽しい出来事を通して、“なるようになっていく”。
実は無理に変えようと、焦らなくてもいいのです。


その2. 人と比べてもあんまり意味はない

かけっこ、受験、年次評価・・・。幼いころから今まで、人と比べられる“相対評価”にさらされてきた私たち。ついつい誰かと比べることに、慣れてしまっています。

だから“性格は優劣じゃない”とわかっていてもつい、「〇〇ちゃんは、明るくていいわよね~、私なんか・・・」とか、「私、何でも小さいことを気にしてくよくよ悩む性格なんだけど、△△さんはあっけらかんとして、本当に羨ましいわ」「周りはみんな、仕事もお家もきちっとしてるのに、私のこのいい加減なとこ・・・ホント嫌になっちゃう!」といった感じで、何となく、周りの誰かと自分を比べてしまいがち。

でもそれにはあんまり意味がないんです。たかだか10の質問からなる「じぶん診断」でしたが、選択肢の数を考えると、なんと、なんと、2億8,247万5,249通りあることになります。・・・すごい数ですよね。

性格は多面体。誰かのほんの一部と自分を比べても意味がない。
意味があるとしたら、星の数ほどある他者との比較ではなく、昔の自分、昨日の自分との比較です。もしくはどうしても誰かが気になる場合、“比べるのではなく、なりたい自分の理想イメージのヒントにさせてもらうこと”。ーーそれならとってもGoodです。


その3. 環境と性格を味方につける

その1.で「人はなるようになっていく」とお伝えしましたが、そうはいっても「ここ、ちょっと変えたい」というときがあります。ここがこうなったらもう少し楽になるのに、とか・・・。

今後の連載で具体的な方法をお伝えしていきますが、まずは、そんなときに意識したいのが、“環境と性格を味方につける”ということ。性格は多面的だから、ほかの特性を活用するんです。

例えば私は、新しもの好きで、マジメさが極めて低い。理想からほど遠く足りていません(だから〆切過ぎてこの原稿を書いています)。
でもそんな私が無理にマジメさを上げようとすると大変です。四方八方に興味があり、いろんなことに手を出しつつ、それぞれをこつこつやりとげるなんて、なかなかハードルが高い。

でも私には“みんなとワイワイするのが好き”、という特性があります。だから仲間(環境)と自分の性格を味方につけて、チームで物事を進めると、とてもうまくいきます。どうしても必要な一人での仕事は、信頼できるビジネスパートナーに叱咤激励してもらいます。

一方このパートナーは、自律性が高く、一人で仕事に没頭できる環境を好みます。人間として成熟した彼女は、自分の特性や優先順位を熟知しているから、自分がより心地よい環境を味方につけています。都会的でも静かな場所で、好きな音楽やガジェット(と小鳥)に囲まれ、緑と風を感じて暮らす。
一人で没頭できるよう、直接よりもオンラインのほうが効率の良い種類の仕事を選んでいくことで、彼女の可能性はどんどん広がっているようです。

彼女のように、自分の特性を意識できると、それに応じた環境を味方につけられる。より心地良い生き方が選択できる。

「自分学」の目的は、自分にとって心地良い居場所や生き方を作っていくこと。そのために使えるヒントを与えてくれるのが、「じぶん診断」なのです。


次回からは、いよいよ自分学の真髄、“私たちの価値観”について、考えていきます。

次回をお届けするときは、第7波、少しおさまっていますように・・・。落ち着かない日々ですが、皆さんどうか、ご安心、ご安全に、お過ごしくださいね。


shimada


Profile
島田恭子(しまだきょうこ)
精神保健学者。コンサル会社での人材育成を通して、心の健康の重要性を感じ、東京大学大学院にて予防医学とメンタルヘルスを学ぶ(保健学博士)。「人が、心豊かでその人らしく、健やかな人生を送れるように後押しすること」がライフワーク。一般社団法人ココロバランス研究所代表。
https://linktr.ee/kokorobalance
Instagram @kokorobalance


TEXT = 島田恭子

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