心や感情が動く、そんなきっかけになる作品を届ける【ペイントアーティスト 佐々木香菜子のIt’s My Story】
柔らかいタッチで描かれた人物や植物などのイラストレーションや水彩画が、広告や商品パッケージ、アパレルブランドの洋服のテキスタイルに採用されるなど、さまざまなジャンルで活躍する佐々木香菜子さん。
一方で、自分と向き合い生み出される抽象画、アート活動も精力的に手掛ける今の想い、そして未来に向けて計画中のプロジェクトについて伺いました。
Contents
思考を止めたくないという気持ちが、抽象画を手掛ける原動力に
ダイナミックでいて静寂さも感じる独自のタッチで、生命力にあふれた心情が描かれた佐々木香菜子さんの抽象画アート。
ここ2~3年ほど手掛ける、青を主体にした「REBORN」シリーズは細胞分裂がテーマ。さまざまなものがはじけて新しいものが創出されていく様子を表現しているそう。
新しい生活様式や固定概念が覆るようなダイナミックなそのビジュアルは、まるで今の時代の状況を切りとったようにも感じます。
「いろいろなものが変化して新しいものへ生まれ変わる。コロナ禍を経験して特に“思考を止めたくない”という気持ちが強くなりました。観る人によって感じ方は違うし、日によっても違うはずですが、ドキドキしたりウキウキしたり、嫌な気持ちやうれしい気持ちなど見つめることで立ち止まらない、“心を動かす”ということをテーマに作品を作っています」
原点はイラストレーターへの憧れから。上京して夢をつかむまで
昨年は観客の前でパフォーマンスを行いながら仕上げるライブペインティングも多く行い、アーティストとしての活動が増えている佐々木さん。彼女のルーツはイラストだといいます。
「母がイラストレーターだったこともあり、自然とイラストレーションを描くお仕事がしたいな、と夢見ていました」。
大学は地元、宮城県の東北工業大学に通いながら、当時全盛だったモード誌などの最前線の世界を経験したい、という思いが強くなり卒業後に上京。
グラフィックデザインの会社に就職し、デザイナーとしてファッション関連のポスターや冊子などを制作。経験を積み、1年半ほどしたとき転機が訪れます。
「大学時代に作っていたイラストレーションの作品をまとめたポートフォリオを、いろいろなところに送っていたのですが、それがアーティストのマネージメント事務所の目に留まって、いきなりアパレルブランドとのコラボレーションが決まったんです」
その後、上記のマネージメント事務所の専属になり、イラストレーターとして活動が本格的にスタートしました。
妄想植物図鑑シリーズ「in a DAZE」。
2020年の自粛期間に、煩悩の数だけ108個、毎日描きインスタグラムにアップした。
10年ほど所属したというマネージメント会社では、「とにかく何でもやります!」という意気込みで挑んだ日々だったそう。
「毎日ラフを出して、毎日納品するというスケジュールで本当に数多くの仕事を手掛けました。布地や切り絵を使ったりと、タッチや手法などあらゆる可能性を試したことも」
その修行のような経験が、仕事をするうえでの度胸や人とのつながりのベースとなったのだとか。「今頑張っていられるのはこの時期があったからだな、と思いますね」と振り返ります。
2015年の独立後は、ディスプレイや商品パッケージ、多くのアパレルブランドへのアートワーク提供やアート絵本など、多岐にわたるコマーシャルワークと並行して、自身の作品作りにも取り組むように。
架空の植物を描いた〈妄想植物図鑑〉や人物の抽象的なポートレートなどをシリーズ化して発表しています。
『まきのまきのレター』(2019年制作のアート絵本) 2023年連続テレビ小説『らんまん』のモデルであり、植物学の父「牧野富太郎」の偉業と植物の美しさが綴られる。彼の生誕160年の記念イベントとして、4/9に練馬区立「牧野記念庭園記念館」にてライブペインティングも予定!
「人と会っておしゃべりするのが好きなのですが、そのときの気持ちの高まりと、内にこもるアート制作とのギャップが好きなんです。アート活動とコマーシャルワークの両輪が自分にはちょうどよい。バランスをとりながら常にやりたいことに素直に行動していきたいですね」
>>自分を認める方法|認める難しさや自己肯定感との関係性を解説
4~6月は東京、韓国、仙台で個展を開催。人生のテーマ“青”で地元へ凱旋
そんな彼女の作品に出合える場がこの春、続々と出現します。
東京では5年ぶりとなる個展「存在 / existence」が開催中(六本木ヒルズ A/Dギャラリーにて4/1~4/24)で、抽象画のREBORNシリーズとmosaicシリーズの新作を展示。
5月には韓国釜山でのアートフェア「ART BUSAN 2022」にて、新シリーズもお披露目予定だとか。
さらに6月には地元仙台で凱旋展を! 仙台メディアテークにて6月17日から青い世界を全面に展開予定です。
実は人生のテーマが「青」だという佐々木さん。「青に執着した理由は、母親の存在が大きいです。
自分のなかでは子宮が青いイメージで。母親に褒められたい、認められたいという気持ちが大きいのかもしれません」と分析します。
イラストレーターであり絵の師匠でもあるお母様からは、なかなか認められることがなく、実は抽象画については直接見てもらう機会がこれまでなかったそう。
「地元で個展をするのが夢だったので、6月に叶うことになりました。母親に見てもらうことで、青に対する執着がやっと解けるかもしれないですし、逆に一生残るかもしれないし。とにかく、青のテーマに全身全霊で取り組む予定です」
自分の原点と向き合い、精力的にアート活動にいそしむ佐々木さん。
未来への展望を聞くと、自分のアートワークの場を広げていくのはもちろんのこと、と前置きしたうえで「子供たちに表現することの楽しさを伝えるサロンみたいなものをしたい」という意外な答えが返ってききました。
「子供の育成にも興味があって、塗り方を教えるといったことでなく固定概念に縛られないような、自由な感性を育てる教室をやりたいな、と考えているんです」
“面白い”や“きれい”の可能性、子供が本来持つ自由な表現を伸ばしていくこと。
変化が激しい時代を生き抜くための、健やかな心を育む試み。
それはとても大切で夢があり、ぜひ実現させてほしい未来です。
しなやかに自分の夢を形にしていくアーティスト、佐々木さん。
そんな彼女の作品に出合うことで何を感じることができるのか。
自分の感情の変化を味わうためにも、彼女の創り出す世界に足を踏み入れてみませんか。
>>感情の起伏が激しい人や少ない人の特徴|上手にコントロールする方法とは
Profile
佐々木香菜子(ささきかなこ)
ペイントアーティスト、イラストレーター。1983年宮城県仙台市生まれ。
ファッションを主軸に広告、商品パッケージ、テキスタイルのアートワークほか、企業とのコラボレーションなども幅広く手掛ける。
近年では抽象画を精力的に制作、個展やグループ展、アートフェアなどにも参加。ライブペイントにも力を入れ、『BMW Japan 40TH ANNIVERSARY』『hueLe Museum』など、ユニークなシチュエーションでアート作品を完成させ、話題を呼ぶ。
2016年より写真家 植村忠透氏とともにアートユニット「CAT BUNNY CLUB」を主宰する。
https://www.sasakikanako.com/
Instagram @kanako_elhd
PHOTO = 枦木功