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本当に美しいものをつくることで、よい循環ができる【HASUNA代表 白木夏子のIt’s My Story】

仕事もプライベートも、自分らしく充実させるための方法は? 各フィールドで活躍する注目のひとにフォーカスするシリーズ連載vol.2は、ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」代表であり社会企業家の白木夏子さん。本物の美しさやラグジュアリーの定義、価値観が大きく変化している昨今、「社会を変えたい」という純粋な気持ちから立ち上げたエシカルなジュエリーブランドの価値が高まっています。白木さんが考える美しいもの、よりよい未来に向けて考えていることとは?

白木夏子

留学時代に見た南インドの採掘場の光景

突き動かされたのは、ロンドン留学時に見た南インドでの鉱山・採掘場の光景でした。

「大学では貧困問題を勉強していて、夏休みにNGOのインターンで南インドの村を回りました。そのときに見たのが、気温40度を超える劣悪な環境で、子どもから大人までヘルメットや防護服もなく、ほぼ裸足で働く姿でした」

宝石や化粧品、電化製品など先進国が消費する豊かなものを作るために、犠牲になっている人達がいるという現実。その矛盾を突きつけられ、卒業後、国連のインターンや投資会社などを経て、エシカルなジュエリーブランド「HASUNA」を創業した白木さん。

「国際協力や援助など、私ができることをいろいろ模索した結果、自分でジュエリーブランドを作り、エシカル(倫理的、道徳的)な方法でジュエリーができることを示すことが、業界や社会が変わる一端になるはず!という結論に至りました」

白木夏子

時代が追いついたエシカルな思想。本当に美しいジュエリーって何だろう?

作るひとも使うひともみんなが幸せになるジュエリーブランドへーーそんな熱い志を持ち、2009年に創業したHASUNAは、今年13年目を迎えました。創業時まったく浸透していなかったエシカルというワードも、時代の変遷とともにサステナビリティ、SDGsとともに聞かない日はないくらいに人々の意識も変化しています。

「これまで続けてこられたのはチームあってのことですが、最近は“本当に美しいジュエリーって何だろう?”と考え、素材の出所や働くひと、採掘するひとのことまで考えて作りたい、という優秀なスタッフが集まってきて。お客様も含め、本当に美意識が変わってきたのを実感していますね」

白木夏子
〈上〉ベリーズでとれるウィルクス貝、〈下〉愛媛県産のあこやパールをモダンなデザインに昇華。

パキスタンのフンザ地方で採掘、現地の女性たちにより研磨されたアクアマリンやトパーズなどの天然石。カリブ海に面した南米のベリーズのみでとれるモノトーン柄の「ウィルクス貝」は創業時からHASUNAのアイコニックなジュエリーとして人気ですが、一番苦労したのがこの素材集めだったとか。

「創業当時、宝石はトレーサビリティとは真逆のブラックボックスで、どこでとられているのかを聞いても誰も答えられない状況。留学や国連時代の友人やつてをたどり、情報が入ると直接現地へ行き交渉することを繰り返し、少しづつルートを広げていきました」

ペルーの山奥で採掘される金、アフリカのルワンダのコルネ(牛の角)、前述のパキスタンの天然石などは、貧困層の女性たちの生活支援、元ストリートチルドレンの自活への支援にもなっています。

「今、力を入れているのは日本の職人さんたちへのサポート。愛媛県・西予市でとれるあこやパールや九州産のサンゴなど国内産の素材にも注目し、日本のジュエリー産業の活性化に寄与できたらと思っています」

 

白木夏子
メレダイヤを配した、繊細なハスナのリング。中指のオパールのリングは「祖母から受け継いだお守りです」。

鎌倉移住で、ライフワークも充実させたい

ファッションやジュエリーが子どものころから身近にあり、憧れを持っていたという白木さんは、「ファッションデザイナーをしていた母の影響や、繊維産業が盛んな愛知県の一宮市で育ったことも大きいですね。化石掘りや貝殻でネックレスを作ったり、小物づくりも好きでした」と振り返ります。そんな美しいものへの憧れが、社会貢献というアプローチから巡り巡ってジュエリーという解を導き出したのかもしれません。

プライベートでは、コロナ禍をきっかけに昨年、自然豊かな鎌倉へ移住。今年5月には次女を出産し、ライフスタイルも変化したそう。

「もともと長女出産の際に、働き方はミニマルに効率化していたのですが、リモートワークが増え、体が自然を求めるように。家の裏に山がある環境なので、インスピレーションをもらえるし、気持ちが全然違いますね」

そんな鎌倉の自宅から、今春より音声配信voicyで毎日情報発信しているほか、起業家の育成や支援にも力をいれ、来年4月からは武蔵野大学EMC(アントレプレナーシップ学部)で教鞭もとるそう。

もともと国際協力、社会貢献を志していただけあって、広い視野で行動を続ける白木さん。見た目やデザインはもちろん、手に届く瞬間までのストーリーすべてが偽りなく美しいもの。ジュエリーに限らず、本当の意味で“美しい”ことの意味を考え、選択していくことは、世の中をよくする一歩かもしないと、教えてくれました。

白木夏子

Profile
白木夏子(しらきなつこ)
ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」代表。2009年の創業以来、エシカルジュエリーの先駆者として、“未来へと永続的に受け継がれるジュエリー”を目指し、進化を続ける。
次世代の起業家育成のため、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教員、研究所客員研究員ほか女性起業家育成プログラム「NAGOYA WOMEN STARTUP LAB」(名古屋女性スタートアップ研究会)にディレクターとして参画。SDGsやブランディング、女性の働き方などをテーマに国内外での講演活動も行っている。


TEXT = 菅原絢子
PHOTO = 加瀬健太郎

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