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俳優・小林涼子さんが目指す明るい都市型農業。
サステナブルな食物生産の営みとは?

国内初の屋外型アクアポニックス栽培を行うAGRIKO FARM。俳優の小林涼子さんが生まれ育った東京・桜新町で開園した農福連携ファームです。農業を通して出合った新たな価値観や、今後の展望を聞きました。


いつでもリフレッシュできる癒しの場

魚が泳ぐ水槽の上で野菜が育つ循環型のアクアポニックス栽培。屋外だからこその良さと、栽培の難しさを感じているといいます。

アクアポニックス栽培の循環システム。

「ファームが完成したとき、青空の下、水が流れる音や魚が泳ぐ姿、心地よい風、美しい緑にとても癒されました。アクアポニックス栽培は主に閉鎖型の循環環境で行われるものなので、屋外で取り組むと一筋縄ではいきません。それでも自分が生まれ育った東京、世田谷区でファームを開園したかったこと、水族館であり植物園でもあるようなアクアポニックス栽培を行うこの場所を都会のオアシスにしたいという思いを優先しました」


〈写真左〉現在はリーフレタスやアカ水菜、ハーブ類などを主に栽培。〈右〉水槽を泳ぐイズミダイ。琵琶湖に生息する淡水魚のモロコの養殖も始まりました。


建物の1階には京都の老舗ロースター、小川珈琲のカフェ「OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町」があります。「AGRIKO FARM」で育てた野菜や魚は、カフェのランチコースの一部として提供され、朝収穫されたばかりの新鮮な素材がそのままテーブルに並ぶ、FARM to TABLEを都会で体験できます。

ランチコースは、仕入れ状況によって日々内容が変更になるとのこと。その日にどんな食材が使われているかも楽しみの一つに。
※「AGRIKO FARM」の収穫状況によって提供できかねる場合があります。

ランチコースの一例。

「不安もありましたが、カフェでお料理としていただいたとき、美味しさはもちろんのこと、これだけちゃんとお料理に使えるものを育てられたという嬉しさがこみ上げてきました! 
魚を育てる水槽にはヒーターやクーラーは極力使わず、自然環境に近い形で育成しています。野菜はサラダに使っていただけるような葉物野菜、エディブルフラワー、ハーブ、実ものの栽培を検討しています」


得意なこと、苦手なことは誰にでもある

AGRIKO FARMはバリアフリーな農業をコンセプトに、ファームの日々の手入れは障がいのある方が携わることで農福連携を目指しています。農業の担い手づくりと障がい者の社会参画をめざす農福連携の取り組みから見えてきたこととは―—。


「まず、より多くの人に農福連携という言葉を知っていただきたいです。農福連携に取り組むなかで大切にしているのは、出来ることにフォーカスして伸ばしていくということ。障がいではなく、みんなが得意なこと、苦手なことくらいの意識になればいいなと思います。

障害特性は均一ではなく、一人ひとり出来ることが異なります。よく考えたら私たちもそうなんですよね。私は中学生のころから俳優業をはじめて、俳優としての経験はありますが、役所で書類の出し方がわからないなど一般常識に欠ける部分があると自覚しています。誰にも出来ることもあれば、出来ないこともある。障がい者だから、健常者だからとは言い表せません」

以前は養殖中の魚が可愛くて手放せず、成長しすぎてしまったことも。「可愛くなってしまい出荷のタイミングを逃していたのですが、他の魚の成長を妨げてしまうので愛をこめて出荷しました」

今後も俳優業を続けながら二足のわらじで頑張っていきたいという小林さん。「本当に忙しくて毎日死にそうになっています」と話す彼女の目は、その言葉と裏腹にキラキラと輝いていました。

「起業とファーム開園を発表したとき、女優なのになぜこんなことをやるのかと冷たい視線を浴びることも覚悟していましたが、自分が思っていたよりも世の中は温かかったです。私のほうが構えていただけかも?と思いました。ありがたいことに、こうして取材に来ていただくことも増えています。

実はAGRIKOは社員はゼロ、約50名ほどが副業やサポートとして携わってくださっています。各方面のスペシャリストたちに支えられ今があります。ドラマなどの撮影の合間やお休みの日にファームを訪れたり、会社運営に取り組む生活は想像を遙かに超える忙しさですが、今が頑張りどき。日々学び成長していきたいです。まだまだ未熟ですが、いつの日か『情熱大陸』に出演できたら嬉しいです(笑)」


起業時にSDGsにコミットできる取り組みを熟考したという小林さん。ジェンダー平等の実現にも力を入れていきたいといいます。


「ジェンダーの平等と女性のエンパワ-メントは重要な課題です。女性の社会活動の推進はもちろんのこと、家事育児や介護などはお金が支払われる仕事と同じく大切な仕事であり評価されるべきものです。弊社では今もお子様を持つお母さんたちが活躍してくださっています。今後もよりお子様のいるお母さんたちの働きやすい環境を整えたり、障がい者のご家族向けに懇談会の開催を検討しています」

子供たちの学びの場として、地域の方の憩いの場として、ファームの一般開放も検討しているそう。AGRIKO FARMのような地域に根付いたファームが日本の都市に増えたら、私たちの日常の景色に美しい彩りが加わりそうです。


AGRIKO FARM
https://www.agriko.net/

OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町
東京都世田谷区新町3-23-8 エスカリエ桜新町 1F
03-6413-5252
https://www.oc-ogawa.co.jp/shop/

 


PHOTO = 阿萬泰明(ピースモンキー)
TEXT = Humming編集部

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