あなたは普段、テレビやネットのニュースをどれくらいチェックしていますか?
最近では楽しい話題よりも、戦争や人道的な災難などの悲しい出来事が目立つように感じませんか?
こうした悲しいニュースを続けて見ることが、あなたにどのような影響を与えているでしょうか。
世界の動向を追いながらも、心の負担を軽減する方法について、アメリカでも議論が交わされています。
今回は、アメリカでかかれた記事を参考にして、どのように対処できるかをご紹介します。
Contents
ひどいニュースに心が張り裂ける日々
10月にイスラエルとハマスの戦争のニュースが流れ始めると、私はスマートフォンにくぎづけになりました。
次から次へと報道されるニュース記事を読みながら私は泣いていました。
誘拐されたり殺されたりした人たちの記事を読むたび、被害者が誰かの子どもであることを思い、その子の母親が今どうしているかを想像して泣いていたのです。
残念なことに、この重苦しさは、たまにだけ押し寄せる感情ではないのです。
学校での銃乱射事件であれ、自然災害であれ、戦争であれ、私たち人間の体験には、心が痛む瞬間があまりにも多いのです。
そして、こういうニュースによって、私たちは恐怖や不安、そして悲しみにおしつぶされそうになります。
ニュースを読むのをやめればいいのにと思いながら、世界で起きていることをしっかりと知っておきたい自分と葛藤をしています。
そんな私が一番疑問に感じていることは、マインドフルネスの観点です。
悲劇的な出来事が起こるとすぐにSNSなどで多くの情報を収集できる時代です。
そういった出来事にしっかりと目を向けることと、自分の心を守ることのバランスをどう取ればよいのでしょう。
そこで、臨床心理学者であり、セルフ・コンパッションの専門家でもあるテクラ・ブランダー・ロス(以後、テクラ博士)に聞いてみました。
悲しみを理解する
ニュースによって感じる恐怖、悲しみ、不安などの感情と向き合い、それを乗り越えるためには、この感情の性質を理解することが重要だとテクラ博士は指摘します。
ニュース記事を読んで感じる悲しみは、博士によれば「私たちの世界で起きている痛みや苦しみ全てに対する悲しみです。
こういう悲しみにどう対処するかの訓練を学校で受けた人はほとんどいないでしょう」。
しかし、自分の家族や友人がそのニュースの悲劇の影響を受けていないなら、私たちは誰のことを思って悲しんでいるのでしょう?
テクラ博士は苦しみを比較しないようにと念を押します。
「人と比較するのではなく、出来事をしっかりと認識することに努めましょう」と博士は言います。
誘拐された子どもの記事を読んで、その母親のことを思って悲しまずにいられないはずはありません。
自分の子どもが今どこにいるのかわからない苦悩を、想像せずにはいられません。
私が直接に体験していなくても、ニュースで読んだ事件の当事者について感情を強く揺さぶられることは普通でしょう。
どれだけニュースを摂取しているかに気づく
自分がニュースの第三者として行動することで「洞察力と気づき」を意識することができます。
テクラ博士によれば、洞察力と気づきは、幸福のために大切な2つのポイントであり、自分の人生にもっと積極的に参加するために大切なものです。
テクラ博士は、ニュースを読むのを止めるのではなく、私たちのニュースの消費のしかたにもっと気を配るようにと提案します。
あなたがニュースを見る前に、こういった質問を自分に投げかけてみましょう。
- あなたは今、新しい一日を始めるために目を開けたばかりですか?
- あなたは今、心身を休めるために目を閉じたばかりですか?
- あなたは今、仕事中であり、ストレスを感じていますか?
- あなたは今、身体が緊張したり、不快に感じたりしていませんか?
もしこれらの質問のどれかに「はい」と答えたなら、それは今、辛いニュースを見るのに最適なタイミングではないかもしれません。
立ち止まってみる
いったん立ち止まる、つまり今がニュースを見るタイミングではないと判断するという考えは、ただの自己満足に過ぎないと思う人もいるかもしれません。
これに対してテクラ博士は「世間では思いやりの気持ちを持つことが、ただの自己満足だという誤解があります。
しかし、自分と他者への思いやりとは、今この瞬間に感じていることにしっかりと気づいて、優しさや愛を表現することでもあります」。
私たちのように立ち止まる選択肢すらもない人が、この世界にはたくさんいることにも注意をしてみましょう。
何世紀にもわたる抑圧、不正、暴力の中を生きている人々にとって、ニュースは直接彼らの身に迫る脅威を示しています。
テクラ博士はこうアドバイスします。
「今度ニュースを見て、悲しんだり、怒りがこみあげてきた時には、いったん立ち止まり、その時の自分の感情を観察してください。
その痛みがどのように自分の身体に感じられるかに意識を向け、その痛みを感じるのは自分だけではないこと。
そして、その痛み自体もすぐに変化することを、自分に言い聞かせましょう」。
博士はまた、感情をコントロールしようとすることは、天気をコントロールしようとすることと同じだと指摘します。
「自分の経験をコントロールしたり否定したりするより、思いやりの気持ちを持って起きている事実をそのまま受け止めてみましょう」。
写真やビデオのない記事にとどめる
臨床心理学者でハーバード医学部の教授でもあるスパーリング氏は、音声や映像が非常にダイレクトに私たちの心に訴えるものであると強調します。
「誰かが苦しんでいるのを見たり聞いたりすることは、あなたの精神にダメージを与えます」。
写真や動画のないニュース記事のほうが、読者へのインパクトという観点では、より親しみやすいでしょう。
また、教授はニュースを見る回数を意識して制限することを勧めています。
ニュースを見る時間をあらかじめ決めておくことで、ネガティブな内容のニュースを見続けることを避けられるとスパーリング氏は言います。
マインドフルネスのためのシンプルな方法
見るのがつらいニュースを目にした時、なぜそのニュースを見ているのかを意識することも忘れないでください。
記事や動画をクリックする前に一度立ち止まって、テクラ博士がこれから提案する、マインドフルに前進するための方法を考えてみましょう。
まず、ニュースを見る前に、あなたがこれ以上の苦しみを受け入れることができる状態か自問してください。
もし苦しみを受け入れる余裕がないなら、どうすればその苦しみを認めることができるか、どうすれば自分にもっと優しくなれるか、どうすれば今この瞬間に仲間とつながることができるかを考えてみましょう。
つらいニュースを読みながら、両手を心臓に持っていき、今までトラウマになった体験を認めましょう。
地上とつながる(グラウンディング)ための呼吸をし、そのニュースを見て感じる悲しみをより深く認識しましょう。
ここで可能なら、身体を休めてください。他人の苦しみに寄り添う前に、自分自身をいたわってあげることを忘れないでください。
「私だって完璧ではないです。あなたはニュースを読むべきでない、なんて私が言う権利はありません。
大切なことは、いつ、どのようにして、あなたがニュースを消費しているかということです」とテクラ博士。
日々、あなたがどうやってニュースを見ているかにもっと意識を向けることで、心がおしつぶされるようなニュースへの反応を自分でコントロールできるでしょう。
例えば、朝起きてベッドに寝転がりながらスマートフォンに届いたニュースを見る前に、深呼吸をしてみましょう。
そしてあなたがニュースを読む準備ができているかどうかを自問する、そんな簡単なことからできるのです。
そして、その答えが「いいえ」である人がとても多いのです。
残念ながら、恐ろしいニュースはすぐにはこの世界から無くならないでしょう。
しかし、私たちがニュースをどうやって受け入れるかについてもっと意識することで、私たち自身や仲間をサポートすることができるでしょう。
※関連リンク:この記事はThe Good Tradeの英語版をはじめ、別の英語の記事を参照しています。各出典に対するリンクは以下になります。
ライター:プロフィール
著者:堀江知子(ほりえともこ)|タンザニア在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2022年からはタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。
noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。