向かうべき場所へ、進む強さを持って【山口乃々華 / コトノハ日和 vol.08】
言葉があるから伝えられること、伝わること。そこから広がっていく思考、癒し、つながり、希望、愛情・・・深くて力強いもの。女優 山口乃々華が、心に舞い落ちてきた“コトノハ(言葉)”を拾い集めて、じっくりと見つめ、ゆっくりと味わい、思いのままに綴っていく連載。さあ、一緒に元気になりましょう。
顔をいつも太陽のほうにむけていて。影なんて見ていることはないわ。
9月が終わろうとしてる。私は今、ミュージカル『SERI〜ひとつのいのち』の絶賛稽古中である。10月6日から東京@博品館劇場にて、10月22日から大阪@松下IMPホールにて公演するミュージカルなのだが、私にとっては初の主演を務めさせていただく大事な大事な作品。
毎日、カンパニーのみなさんと心、声、体を合わせて、初日に向けて積み上げている。少しだけ作品について話をさせてもらうと、私が演じる千璃という役は、両眼性無眼球症と知的障害を抱えた女の子。そんな子供を授かった両親との家族3人の物語である。それ以外にもさまざまな問題があり、乗り越えなければならない壁がたくさんあるのだが・・・。
何よりもこの作品には原作があり、実話である。そのことを考えながら観ていただくと、あまりに大変な現実に、心がポキッと折れそうで、目を背けたくなるようなシーンもあると思う。毎日がジェットコースターのように不安定。止まりたくても止まれない。涙を流しながらも、絶対に目を逸らさずに家族みんなで進み続ける姿から、生きていく強さをきっと感じてもらえるはず。そんな運命を背負った家族の日々を体験してもらえるのではないか、と思う。ぜひ、劇場でお会いしましょう。しっかり宣伝(笑)。
今まで私は、「言葉」の力や「言葉」が教えてくれるものの多さに何度も助けられてきた。真夜中、友達との電話であーだこーだおしゃべりして悩みが軽くなっていくこと、背中を押されるような言葉をそっとかけてくれた人を大切に思ったり、大好きな漫画を何回も読んだり、集中すればするほど鮮明な物語を私に見せてくれた本など。どれをとってもたくさんの言葉たちがある。
今の私に響く「言葉」を思い浮かべると、顔を合わせて話していたことより、スマホを通して聴く友人の声や、活字になったメッセージを読んだり、何かを通して伝わってきたもののほうが、印象強く残っている気がする。
もしかしたら会って話しているときは何を言ってくれたかよりも、もっと他のことに気を取られていたのかもしれない。例えば、視線や仕草、服装とか、その場の空気も。あとは、何を食べているのか、飲んでいるか、とか。他のことを考えず、言葉だけに集中できたことってあんまりない。だから、「言葉」が「言葉」だけのまま伝わってくると、余計なものなく理解できるのかもしれない。
話は戻るが、千璃を演じているとき、目からの情報はほぼないに等しく、言葉を話すことなく、想いを言葉で伝えることもほぼしない。私が演じさせてもらう時間、それを役として生きるというのならば、千璃ちゃんの一生に比べたらほんの少しの間だけれど、その世界を生きさせてもらっている。普段の私よりも、どこか広く全身で捉えて湧き上がってくる想いには、無駄なものが入り込んでこないからか、心地よい。いつもより情報を得る手段は少ないのに、感じるものが多い。そんな自分の心を私は疑っていない。
その経験からか、五感すべてを当たり前に使いながら交わす言葉より、向こう側を想像し、言葉に集中する方がより心の深いところまで理解が行き届く気がしている。じっくりと自分に溶かしていこうとする感覚は嫌な言葉でない限り、すんなりと染みわたる。
久しぶりに会う友人と面と向かって話しているとき、いろいろなところに意識が散ってしまう。それは、話がつまらなくて飽きている・・・とかそういうことではなく、目に入った情報からついいろんなことを考え、思ってしまう。相手のふとした視線の動きから、考えを汲み取ってしまって、少しずつ神経が削れて、疲れる。その人や場に慣れるまで、以前よりも時間がかかるようになった気はする。それが良いのか悪いのかわからないけれど。
役を演じるにあたって勉強になるかもしれないな、と思って読んだヘレン・ケラーの自伝漫画があった。それは、小学校の図書室にあったようなもの。たぶん小学生のときに読んだ。
そんな、ヘレン・ケラーが残した言葉で、何かいいものないかなと思って調べてみたら、たくさんの素晴らしい言葉があった。
そのなかで、私の心に響いた2つの言葉。
「顔をいつも太陽のほうにむけていて。影なんて見ていることはないわ」
前向きに生きなさいよ!と背中を押してくれるようなこの言葉。ついつい、影・・・自分の心の落ち込みや後悔に飲み込まれ自信をなくしてしまうけれど、向かうべき場所へ、進む強さを持っていられそう。
太陽はいつも空高くにある。顔を上げて、堂々と進んでいく姿を写す影は、自分ではなく、他の誰かに見てもらえたら、それでいいのかもしれない。
「はじめはとても難しいことも、続けていけば簡単になります」
続けていけばいつかはきっと、簡単になる。と世界を努力で切り拓いていったヘレン・ケラーの言葉には、説得力がある。
私も、挑戦することをいつまでも恐れないでいたいと思う。
そんなにすぐに時は経たない。ぼーっとしていたら、夜になっているけど、頑張っているときは案外時間はゆっくり過ぎてくれるな、と感じている。「続ける」ということは「時間をかける」ということ。焦らずに一つひとつを十分に確かめながら続けていきたい。
・・・・・・
なんと、今回でこの連載「コトノハ日和」はおしまい。たったの8回でしたが、毎月自分と向き合ういい機会でした。
今年も残すところあと3ヵ月。これを読んでくださっているあなたも、そして私も毎日毎日、心がしっかりと動き、幸せだなと感じる日々でありますように。
うれしくて飛び跳ねるような気持ちの先に、暗闇のトンネルが思ったよりもながーくあったとしても、それも全部いいと思えるもんだな、と思う。
生きてるな、幸せだな、と。
なんて、今年を総括するにはまだ少し早いけれど、今日まで過ぎた日々を思うと、やっぱり満ちていた、と思う。
それではまた会う日まで。
山口乃々華
Profile
山口乃々華(やまぐちののか)
2014年からE-girls主演のオムニバスドラマ「恋文日和」第7話にて主演を務め女優業をスタート。映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画『HiGH & LOW』シリーズほか、2020年には『私がモテてどうすんだ』のヒロイン役など、数々の作品に出演。 2020年末までE-girlsとしての活動を経て、2021年より女優業として本格的に活動を開始。2021年3月、初のミュージカル『INTERVIEW~お願い、誰か助けて~』、同8月にはミュージカル『ジェイミー』、2022年3~4月はミュージカル『あなたの初恋探します』でヒロインを演じた。ドラマ「ビッ友×戦士 キラメキパワーズ」(テレビ東京系)に出演。書籍『ののペディア 心の記憶』(幻冬舎文庫)も好評で、文章を書くことも好き。2022年10月にはconSept Musical Drama #7『SERI〜ひとつのいのち』でミュージカル初主演を務める。
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