そこに“LOVE”がある。レスリー・キーの写真が心を動かす秘密
世界的に活躍する写真家 レスリー・キーさんをフィーチャーするインタビュー第2回は、彼が取り組むSDGsプロジェクトについて。写真で誰かの人生を少しでも生きやすくすることができればーーそんな願いと愛が込められた活動を伺います。
「写真には人生を変える力がある」
11月某日、朝から羽田空港の「HANEDA ダイバーシティ&インクルージョン」のオープニングイベントへ、午後からはBMW主催の「FEEL THE iX / iX3 @SHIBUYA」のイベントステージに2回登壇して制作したアートポスターについて語り、その合間を縫って銀座のGapへ。ここでは、Gapとレスリーさんがコラボしたダイバーシティプロジェクト「This is Me ~Rainbow~」の展示が始まっていました。彼が手掛けたプロジェクトが続々と拡散された一日。でもレスリーさんが抱えるプロジェクトは、これだけではありません。
金沢21世紀美術館で開かれた「OUT IN JAPAN 1000人写真展」にて、パートナーのジョシュアさんと。
― レスリーさんがライフワークとして挙げている活動に「OUT IN JAPAN」がありますね。日本に住むセクシャルマイノリティの一般人を中心にポートレート撮影し、特設サイトのギャラリーでポートレートとコメントを公開するというプロジェクト。レスリーさんは6年間で3000人の人々を撮影してきました。この試みについて、あらためて教えてください。
「“写真”は、ひとの人生を変えられる。だから私は写真家になりたいと思ったのです。写真は人間の生き方、可能性を広げられるもの。たとえば、アーティストのいい写真が撮れたら、ファンがもっと増えて、そのアーティストの可能性がもっと広がるでしょう。これは一般の人においても、同じく可能なことだと思ったのです。
『OUT IN JAPAN』では、“カッコいい写真が撮れた”ということをきっかけに、自分自身についてをカミングアウトできればいいなと。
『親にもう嘘をつきたくない。レスリーさんが撮った写真をプリントして、LGBTであることを伝えます』って言ってくれた方がたくさんいます。50歳で初めてカミングアウトした男性もいるし、17歳でお母さんに告白した高校生、先生をしていたけれど学校では言えなくてリタイア後にカミングアウトしたとか・・・一つひとつのエピソードを覚えています。撮影中に泣いている方もいましたよ。写真の力で彼らの人生が少しでも楽になればいい。彼らの写真とインタビューを見たら、その先に存在する何千人の物語が見えてきて、気持ちをシェアできる。『OUT IN JAPAN』はそういうプラットフォームなのです」
OUT IN JAPAN
日本のLGBTQをはじめとするセクシュアルマイノリティにスポットライトを当て、市井の人々を含む多彩なポートレートをさまざまなフォトグラファーが撮影。個人、団体、企業、自治体などとの連携を通して、WEBサイト・展覧会・写真集などを展開し、身近な存在としてのセクシュアルマイノリティを可視化させ、正しい知識や理解を広げるきっかけとしていくことをコンセプトに展開中。
— 撮影のために、全国を飛び回っていると聞きました。
「最初は渋谷区と一緒に挑戦した取り組みだったのですが、反響が大きくて、全国に広がりました。せっかくなら、その町の市長と会える時間に合わせて市役所で撮影をして、市長に撮影を見てもらおうと。自分の町にLGBTのひとがこれだけたくさん住んでいて、しかも、みんなここで普通に暮らすひとなんだよと知ってもらおうと思ったのです。撮影を打診した市町村で、断られたことはありません。それぞれの町で100人ほどの撮影をしています」
「HANEDA ダイバーシティ&インクルージョン」では、写真展「WE ARE THE LOVE」が開催中。羽田空港第2ターミナルのフライトデッキトーキョーとスカイデッキ南北通路で12/20まで。
「世界はまだ『Imagine』できていない」
― 12月中旬には、写真集『WE ARE THE LOVE』が出版されます。幼い頃から憧れた松任谷由実さん、オノ・ヨーコさん、草間彌生さんなど、これまで撮影してきたセレブリティ500人分のポートレートを掲載されていて、ものすごい見応えですね。その売り上げは児童養護施設に寄付されるというチャリティ写真集であり、オノ・ヨーコとジョン・レノンの楽曲「Imagine」をトリビュートした一冊だそうですね。
「愛と平和のインスピレーションを、私はいつもジョンとヨーコがつくった『Imagine』という曲からもらっています。この曲は1971年につくられたのですが、実は私も1971年生まれ。初めてこの曲を聴いて、この曲と自分が同じ歳だと知ったときには運命を感じました。いつか、この曲のオマージュをしたいとずっと考えていました。そして今年2021年で、『Imagine』も私も50歳。人生が100年だとしたなら、私は今半分です。原点に戻って、今こそ実現したいと思ったのです」
— 「This is Me 〜Rainbow~」というタイトルでGapとコラボレーションし、「Imagine」をトリビュートした楽曲を制作、そのミュージックビデオもレスリーさんが手がけられましたね。
「考えてみてください、50年も前にジョンとヨーコが伝えている『想像してみよう』を、世界はまだまだできていない。差別もあり、貧困も戦争もある。今もう一度伝えないと! 楽曲は平原綾香さんなど素晴らしいアーティストが歌ってくれました。映像も感動的に出来上がりましたよ。私のミュージックビデオの見本は、永遠に大好きな『We are the world』なのです。きっと何本作っても『We are the world』になってしまうと思います(笑)」
11月初旬に発表したダイバーシティプロジェクト「This is Me ~Rainbow~」は、Gapとレスリーさんがコラボレーション。日米総勢80名が参加したオリジナルテーマソングも公開されました。レスリーさんとパートナーのジョシュアさんもポートレート写真に参加。
「全部が“LOVE”ありき」
― 昨年、パートナーのジョシュアさんと結婚式を挙げ、渋谷区でパートナーシップ証明書を取得されました。すべてにおいて“LOVE”が土台になっていて、“LOVE”でつながっていますね。
「そう、全部が“LOVE”ありきだからね。パートナーと初めて出会ったのは2017年の11月3日。そして2020年の11月に渋谷で結婚式を挙げました。さらに今年の11月には『WE ARE THE LOVE』の展覧会を開いたこと、来年2022年の11月には子供たちのためのアート施設が完成する。個人的には、ここまで全部を『WE ARE THE LOVE』プロジェクトだと思っています」
―『We are the world』のように、個と個の大切なつながりを写真というものを使って綴り続けているレスリーさん。そして今、写真を軸に育てたその大きなつながりを携えて『WE ARE THE LOVE』が描く先を見据えて、力強く進み続けているように思います。
「パートナーと出会ったのも『OUT IN JAPAN』の撮影がきっかけ。ワーキングホリデーを利用して4ヵ月だけ日本にいたジョシュアが、たまたま広島での撮影を知って参加してくれた。彼はアメリカのオハイオ州出身で大家族のなかで育ちました。お母さんが四姉妹で、それぞれの従兄弟たちと子供がいて、合計34人もいるんですよ! みんなものすごく愛情深くて、彼のおかげで、この歳になって初めて家族というものの温かさを味わえました。
私はパートナーと出会ってから、自分の作品にジョシュアに登場してもらうことが多くなりました。これは今までの自分にはなかったこと。大昔から、ヨーロッパの画家たちは、自分の大切なひとの絵を描いて作品として残しています。その気持ちがわかりました」
誰かと、みんなと、つながること。そこから広がった先には、想像もつかないような新しくて美しい世界があるのだと。レスリー・キーという写真家が、彼の生み出す写真が、発信されるメッセージが、それを信じさせてくれるのです。すべては“LOVE”からはじまっているから。
>>インタビューvol.1 あふれる情熱と夢。レスリー・キーの写真に“未来”を感じる理由
Profile
レスリー・キー(Leslie Kee)
写真家、映像監督。1971年シンガポール生まれ。ポートレート、ファッション、アート、広告の写真撮影、短編映画やミュージックビデオの監督も務めるほか、数々のプロジェクトを立ち上げ写真展を開催。セレブリティを撮影した『Super Stars』の売り上げをスマトラ沖地震の被災地へ、200人の女性を撮影した『LOVE&HOPE』の売り上げを東日本大震災の被災者へ寄付するほか、数々のチャリティ活動を積極的に行なっている。持続可能な開発目標(SDGs)の推進にも熱心に取り組み、東京の国際連合広報センターとの協業や、国連によるSDGsの広報活動にも関与している。Gapとのコラボレーションでは多様性を推進しSDGsをサポートするオリジナルテーマソング「This is Me ~ Rainbow ~」を監修し、2021年11月に全世界で正式にリリース。
https://signo-tokyo.co.jp/artists/leslie-kee/
Instagram:@lesliekeesuper
TEXT = 安井桃子