ウェルビーイングに生きるために不可欠な要素とは?【島田恭子の自分学 vol.04】
最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉。「よりよく生きる」ために、私たちは自分のために何ができるでしょうか。他の誰でもない、自分のために、自分らしく生きて、自分自身が幸せを実感できる毎日へ。この連載では、精神保健学者の島田恭子さんに、自分軸でモノゴトを進めていく人生を送るために学びたい「自分学」について教えていただきます。
「よかったこと日記」始めました
効果のほども知っているのに、これまでやれていなかったこと・・・。私にとってその1つが「よかったこと日記」を書くことでした。
いろいろなやり方がありますが私の方法は、その日に
・よかった行動を1つ
・感謝すること1つ
を書くという、至ってシンプルなもの。
エクセル表で日付ごとに2つのセルをつくり、プリントアウトして手書きで記入しています。こんな感じです。
この日記のポイントは、とにかく簡単にできること、そして1日の終わりにその日のポジティブ行動や感謝を思い返せることにあります。
3つのいいことを書く、あえてネガティブなことも出してみる。などいろいろなやり方があり、その効果を検証した論文も複数あります。私は何事も「続ける」ことが苦手(=性格特性のマジメ度が低め)なので、まずは小さなステップから、毎日続けられることを優先にしました。口語体でいいし、誰にも見せない前提だから、どんなことでも書けます。自信たっぷりにステキと感謝を書き連ねたものを眺めてみると、にんまりしたりして・・・。「よかったこと日記」で、いつもは気付きづらい、何気ない毎日の感謝や良い行動に、目を向ける習慣がつくといいですよね。
自分にとって居心地のいい生き方
さて今回は、自分にとって居心地の良い生き方を模索する大切さについて考えてみます。
居心地の良い生き方。それは価値観とかウェルビーイングに置き換えられるかもしれませんが、それらは目に見えるものでもなく、きれいにタイプ別に分けられるものでもありません。100人いたら100通りで、時と共に変化もします。常に修正しバランスを取りながら、試行錯誤し自分で探していくものです。
でもよく「自分の価値観がわからない。何が好きで何がしたいのかわからない」とか「自分の価値観や好きなことがわかって、それを活かせている人なんてほんの一握り」なんて言いますよね。そうでしょうとも。それでいいんです。だからこそ私たちは試行錯誤しながら、自分がどうしたいのか、どうするのが心地よいのかを模索していく。時間をかけて少しずつ自分の価値観を探し当てていくものだと思います。
例えば私たちは「ジブン診断」をすることで、自分の特性や強み、改善点を知ることができました。
日常のささいな出来事や選択のタイミングごとに、社会やまわりの基準ではなく、自分がどうしたいかを優先することの大切さを認識できました。価値観やウェルビーイングは、このプロセスの繰り返しを通して徐々に見つけていけます。幸い私たちの毎日には、数限りない選択のタイミングがありますから、そのたびに自分軸を意識する訓練ができる、というわけです。
だからあきらめるのはもったいない。「自分にとって居心地の良い生き方は?」と常に意識し、それに近づくためにあきらめることなく動き続けることが大事なのです。
その際にヒントとなる、いくつかの心理学的な知見をご紹介しましょう。
「なんとかなる」と希望を持ち続けること
ナチス政権下でのユダヤ人大虐殺。長く過酷な抑留生活に耐えられた人とそうでない人の差は「希望」であったことを、精神科医ヴィクトール・E・フランクルは名著『夜と霧』にまとめています。ホロコーストとまでいかなくとも、私たちは誰しも、生きていれば本当につらく悲しい出来事があるもの。そんなとき、周りの力を借り、時間をかけて、現実を受け止め、「なんとかやっていける。このことにも意味があるのだ」と思えること。それが前に進む原動力となることを、心理学者Dr. アントノフスキーは長年の研究から明らかにしました。
どんなことがあってもあきらめずに「なんとかなる」と希望を持ち続けることが大切なのだと、この2つの研究は私たちに教えてくれます。
成長し続けたいという気持ち
私たちの居心地を考えるうえで大切な“心理的ウェルビーイング”という考え方は、実はその下に6つの要素を持っています。そのうちの1つが「人格的成長」というものです。例えばこんな感じです。
・これからも私はいろいろな面で成長し続けたいと思う
・新しいことに挑戦して、新たな自分を発見するのは楽しい
・自分らしさや個性を伸ばすために、新たな事に挑戦することは重要だと思う
・私は新しい経験を積み重ねるのが、楽しみである
どうでしょう。いくつになっても新たなことに挑戦し、経験を積み重ね、成長したい!と思い進むことが、ウェルビーイングと直結していることがよく分かります。
やってみよう&なんとかなる
また日本の研究者により検証された「幸せの4因子」というものがあります。慶応大学の前野隆司教授らは、ウェルビーイングの高い人の特徴を、以下4つの簡単な言葉で表しました。
1. やってみよう因子:ワクワクしながら主体的に自己実現に向けて成長すること
2. ありがとう因子 :人とのつながり、絆を実感し、感謝すること
3. なんとかなる因子:楽観的に失敗を恐れずチャレンジ精神をもつこと
4. ありのままに因子:周りの人の評価ではなく、自分の軸で自分らしく生きること
(※説明は、著者が平易に改変)
また同じようなキーワードが出てきましたね。「なんとかなるさ、やってみよう」と、力むことなく前進するイメージでしょうか。
これら4つの心理学知見を考え合わせると、「なんとかなる、と希望を持ち、いろんなことに挑戦、成長しながら、気負わず楽しんで前に進んでいく・・・」というマインドが、ウェルビーイングに生きるために不可欠な要素であることがわかります。ニワトリが先か卵が先か、という話にもなりますが、幸せになるのを待つのではなく、「私のウェルビーイングってどんな形?」と模索しながら、あきらめずに歩き続けることこそが、私たちをウェルビーイングにしてくれる、ということでしょう。
4回にわたりお伝えしてきた「自分を知る」ことの重要性、そしてウェルビーイングに生きるために必要なこと・・・。いかがでしたでしょうか。少しでも気付きがあったならば嬉しいです。
皆さんのこれからが、ますますウェルビーイングなものになりますよう願いを込めて。
Profile
島田恭子(しまだきょうこ)
精神保健学者。コンサル会社での人材育成を通して、心の健康の重要性を感じ、東京大学大学院にて予防医学とメンタルヘルスを学ぶ(保健学博士)。「人が、心豊かでその人らしく、健やかな人生を送れるように後押しすること」がライフワーク。一般社団法人ココロバランス研究所代表。
https://linktr.ee/kokorobalance
Instagram @kokorobalance
美しさのその先へ。ukaが伝えたい世界観【トップネイリスト渡邉季穂のIt’s My Story】
よい香りに包まれ、爪先を日常的にケアする。そんな画期的なネイルオイルを生み出し、次々とみんながときめくビューティアイテムを世に送りだしているuka(ウカ)。そんな唯一無二のブランドを率い、みずからもネイリストとして活動する渡邉季穂さんの想いとこだわりとは?
子供だけでなく家族全員の幸せを考える。
悩める親の心を救う確かなメッセージ【保育士 てぃ先生のIt’s My Story】
保育園に勤めながら、その専門性を活かし、自身のSNSや講演活動などを通じて子育てや保育に役立つ情報を発信する現役保育士のてぃ先生。SNSの総フォロワー数は140万人を超え、子育て世代が抱えるさまざまな悩みを解決へと導いています。保育士を目指したきっかけや、子供たちとの生活で学ぶこと、「てぃ先生」としての活動に込める想いを聞きました。
地道な練習は、絶対に無駄にならない。覚悟を決めた先につながった日本記録【競泳選手 青木玲緒樹のIt’s My Story】
今年3月に東京辰巳国際水泳場で開催された「国際大会日本代表選手選考会」。100mと50mの平泳ぎで日本新記録を樹立し、優勝という快挙を成し遂げた青木玲緒樹(あおきれおな)選手をインタビュー。昨夏の東京オリンピック(五輪)では、予選落ちという結果を前に“引退”を考えるほど落ち込み、苦悩の日々を過ごしたという彼女が、そこからどのように再起を図り、圧倒的な泳ぎを見せるに至ったのかーー。輝かしい功績の舞台裏にあった、当時の葛藤や想いも伺いました。
私を変えられる?「じぶん診断」のトリセツ【島田恭子の自分学 vol.03】
最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉。「よりよく生きる」ために、私たちは自分のために何ができるでしょうか。他の誰でもない、自分のために、自分らしく生きて、自分自身が幸せを実感できる毎日へ。この連載では、精神保健学者の島田恭子さんに、自分軸でモノゴトを進めていく人生を送るために学びたい「自分学」について教えていただきます。
体と心はつながっている
散歩、始めました。
「歳のせいか、暑さのせいか、最近5時前に目が覚める~」とぼやいていたら、“朝ラン”を勧めてくれた友達。朝起きたらとりあえず、すっぴんにマスクで家を出て走り始めるのだと。
私と違い、ハマるときちんと続ける彼女。曰く、走るととにかく調子がいい。いろいろ良いけど一番は、気持ちがスッキリするのだと。
無心で走る。頭を巡らせながら走る。今日のTo Doを整理しながら走る。20~30分もすると、頭と心がめちゃくちゃスッキリ。1日の快適度も生産性も爆上がりとか。
確かに“運動”は予防医学とメンタルへルスにとって大事なキーワード。「運動している人にうつはいない」という人もいるくらい、体を動かすことと心の健康には関連があるとわかっています。
・・・とはいえ、キツい運動が嫌いな私は、走るのは無理。だから散歩で効果を検証。しかも朝が無理なときは昼でも夕でも夜でもいいことに。しかも本来散歩目的じゃない、用事の間の移動も、散歩と見なすことに。
これならちょっと続けられるかも。
仕事での行きづまり、プライベートのお悩み・・・頭を悩ますことは次から次に事欠きません。散歩はそんな私たちの頭と心を、お手軽にすっきりさせてくれそう。自分のペースで無理なく続けられたら、きっと調子づいてきそう。まずはシンプルに朝散歩。皆さんも試してみませんか?
「じぶん診断」をどうとらえるか
前回の記事では皆さんに、簡単な「じぶん診断」をやっていただきましたが、いかがでしたか?
大学の授業でもたまにやるのですが、学生さんの関心度ナンバーワンは、「人生で成功するのはどんな特性?」です。
成功の定義にもよりますが、5つのなかでは、「マジメ度」が高め、しかも頑張らなくとも、無理なく高水準を維持していることが、人生の良い結果につながる(例えば成績や地位が高い、など)傾向があることがわかっています。
無理なく、と言ったのは、頑張って「マジメ度」を上げているのではなく、そうしたいからそうしている、ということです。
例えば夏休みの宿題。ついつい先延ばしで一夜漬け、が王道パターンですが(笑)、そんななか「やらなきゃ後が大変になるし、そうなったらやっつけ仕事で質が下がるから、今のうちから少しずつやろう」と計画的に進められるのが、無理のないマジメさん。
「やらなきゃ! やらなきゃ!(焦)」と強迫的な“ねば”思考でマジメさを維持しているのとちょっと違いますね。日々の生活のなかで、小さいことでもできることを、少しずつ、少しずつ。後が大変になることを考えに入れ、不必要な羽目の外し方は極力避ける。・・・締め切りが過ぎてからこの原稿を書き、月に1、2回は二日酔いで悩まされている私からは、眩しすぎる特性です。
実はマジメさは長生きとも関連しているんです。「陽キャ度」が高いことや新しいもの好き、などは、陽気で元気なお年寄りを連想し、長生きしそうですよね。
でも実は、“若いころからのマジメさ”も、長寿と関連しています。確かに若いころからある程度のマジメさがあると、健康に気を遣うし、お酒やタバコもほどほどに、危険な行為(薬物、暴力、危険な運転や性行為など)からも距離を置けますね(セルフコントロール力と言います)。
こんなふうに、いいポイントがいっぱいのマジメさですが、高すぎるとそれはそれで、柔軟性を欠いてしまいます。例えば、「マジメ度」が高い×「おだやか度」が低いという組み合わせが極端になりすぎると、強迫的な完全主義につながる恐れがあります。
完全主義というのは、達成できないような高すぎる目標を完璧にこなそうと思い、できなかったらすべて失敗だ、と思ってしまうこと。
周りから見ると無理すぎる難題、本人だけではどうにもできない要素があるにもかかわらず、本人は自分を責め、落ち込んだり、病気になることすらあるんです。
私たちの性格はたくさんの面を持っている
「じぶん診断」の結果を「ふーん、ま、こんなもんだよね」と済ませてしまうのはもったいない。日々の生活や人との関わりのなかで、自分の性質を意識して、活用したいものです。
だからこれからこの連載でお伝えする、よりよく生きるヒントも、ご自分の性格を踏まえたうえで、取り入れていただくのがおすすめです。
とはいえ、「自分の性格、直視するの、結構キツいです」というコメントもよくいただきます。・・・わかります、わかります。
皆さんはご自分の録音した声にびっくりしたこと、あります? 自分の耳骨を通して聞こえる自分の声が、実は周りが聴いている本来の自分の声と違うことからくる現象だそうですが、最初に自分の声がこんな?と思って、私も驚愕しました。
写真や映像に映る自分が嫌い、というのもよくありますね。これも、自分が思っている自分像(往々にしてちょっと美化されている)と相手目線の画像が違うことからくる違和感です。
「じぶん診断」もこれと同じです。標準化された設問で自らの性格をとらえると、改めて「ここ直したいんだよなー」ってところが強調されたり、周りや他の誰かに比べて劣っている(と思われる)ところに目が向きやすい。写真と一緒ですね。
「いやいや私、この性格めっちゃ気に入ってるから!」という幸運な人はさておき、できれば直視したくない!という私のような方がほとんどなのでは・・・? そんな気持ちを乗り越え、「じぶん診断」をしてくださったあなたに、「じぶん診断」に関するとっておきの3つのことをお伝えしておきましょう。
心に留めておきたい3つのこと
その1. なるようになっていく
前にお話ししたように、私たちの性格は半分くらいが生まれ持ったもので、残りは置かれた環境や年齢を経て少しずつ変わっていくことがわかっています。
ではどんな変わり方をしていくのかを全体の傾向で見ると、“いい感じに、なるようになっていく”ということです。極端に尖っているポイントがあってそれが悩みでも、それが少しずつ中庸に落ち着いて“いい感じ”になっていきます。
人生は選択の繰り返し。私たちは1日に数えきれないほど選択をして生きています。その選択の元になるのは、私たちの特性や価値基準です。だから知らず知らずのうちに、“居心地の良い選択”をしているんです。
その選択によって環境も周りの状況も変化し、またそれが自分の特性や選択の仕方を少しずつ変えていくーー。そんな有機的な関わりと年齢が重ねられ、いつしか心地よいポイントに収まり安定していく、というわけです。
確かに私の「マジメ度」も、20代に比べれば少しは上がってきたかも。「陽キャ度」も少し落ち着いてきたかも。
人間は成長する生き物です。生活するなかでの痛い思いや楽しい出来事を通して、“なるようになっていく”。
実は無理に変えようと、焦らなくてもいいのです。
その2. 人と比べてもあんまり意味はない
かけっこ、受験、年次評価・・・。幼いころから今まで、人と比べられる“相対評価”にさらされてきた私たち。ついつい誰かと比べることに、慣れてしまっています。
だから“性格は優劣じゃない”とわかっていてもつい、「〇〇ちゃんは、明るくていいわよね~、私なんか・・・」とか、「私、何でも小さいことを気にしてくよくよ悩む性格なんだけど、△△さんはあっけらかんとして、本当に羨ましいわ」「周りはみんな、仕事もお家もきちっとしてるのに、私のこのいい加減なとこ・・・ホント嫌になっちゃう!」といった感じで、何となく、周りの誰かと自分を比べてしまいがち。
でもそれにはあんまり意味がないんです。たかだか10の質問からなる「じぶん診断」でしたが、選択肢の数を考えると、なんと、なんと、2億8,247万5,249通りあることになります。・・・すごい数ですよね。
性格は多面体。誰かのほんの一部と自分を比べても意味がない。
意味があるとしたら、星の数ほどある他者との比較ではなく、昔の自分、昨日の自分との比較です。もしくはどうしても誰かが気になる場合、“比べるのではなく、なりたい自分の理想イメージのヒントにさせてもらうこと”。ーーそれならとってもGoodです。
その3. 環境と性格を味方につける
その1.で「人はなるようになっていく」とお伝えしましたが、そうはいっても「ここ、ちょっと変えたい」というときがあります。ここがこうなったらもう少し楽になるのに、とか・・・。
今後の連載で具体的な方法をお伝えしていきますが、まずは、そんなときに意識したいのが、“環境と性格を味方につける”ということ。性格は多面的だから、ほかの特性を活用するんです。
例えば私は、新しもの好きで、マジメさが極めて低い。理想からほど遠く足りていません(だから〆切過ぎてこの原稿を書いています)。
でもそんな私が無理にマジメさを上げようとすると大変です。四方八方に興味があり、いろんなことに手を出しつつ、それぞれをこつこつやりとげるなんて、なかなかハードルが高い。
でも私には“みんなとワイワイするのが好き”、という特性があります。だから仲間(環境)と自分の性格を味方につけて、チームで物事を進めると、とてもうまくいきます。どうしても必要な一人での仕事は、信頼できるビジネスパートナーに叱咤激励してもらいます。
一方このパートナーは、自律性が高く、一人で仕事に没頭できる環境を好みます。人間として成熟した彼女は、自分の特性や優先順位を熟知しているから、自分がより心地よい環境を味方につけています。都会的でも静かな場所で、好きな音楽やガジェット(と小鳥)に囲まれ、緑と風を感じて暮らす。
一人で没頭できるよう、直接よりもオンラインのほうが効率の良い種類の仕事を選んでいくことで、彼女の可能性はどんどん広がっているようです。
彼女のように、自分の特性を意識できると、それに応じた環境を味方につけられる。より心地良い生き方が選択できる。
「自分学」の目的は、自分にとって心地良い居場所や生き方を作っていくこと。そのために使えるヒントを与えてくれるのが、「じぶん診断」なのです。
次回からは、いよいよ自分学の真髄、“私たちの価値観”について、考えていきます。
次回をお届けするときは、第7波、少しおさまっていますように・・・。落ち着かない日々ですが、皆さんどうか、ご安心、ご安全に、お過ごしくださいね。
Profile
島田恭子(しまだきょうこ)
精神保健学者。コンサル会社での人材育成を通して、心の健康の重要性を感じ、東京大学大学院にて予防医学とメンタルヘルスを学ぶ(保健学博士)。「人が、心豊かでその人らしく、健やかな人生を送れるように後押しすること」がライフワーク。一般社団法人ココロバランス研究所代表。
https://linktr.ee/kokorobalance
Instagram @kokorobalance
写真だからできること。ポートレートに託されたメッセージとは?【写真家 宮本直孝のIt’s My Story】
多くの人が行き交う東京・表参道駅のコンコースを舞台に、社会的なメッセージを託した写真展をライフワークとして続けている写真家の宮本直孝さん。
ベネトンの広告シリーズなどで知られる世界的に著名な写真家、オリビエーロ・トスカーニに師事したのち帰国。
一流の写真とは何かーーを追い求めながら、たどり着いた今の想いとは?
圧倒的なパワーを放つポートレート写真を通して、独自の活動を続ける原動力について迫ります。
泣き出す瞬間をとらえた、心揺さぶられる撮影での一コマ
「STOP WAR」と手書きしたボードを掲げて泣き出しそうな表情の女性、平和の象徴である鳩の絵を持ち、静かに怒りを表す人ーー。
去る2022年4月、東京メトロ表参道駅のコンコースで、日本在住のウクライナ人23名のポートレート写真展『STAND WITH UKRAINE』を行った写真家、宮本直孝さん。
観る者の心に強く訴えかけてくる、被写体の内面をも切り取ったような写真に、多くの人が足を止め、目を奪われ、話題となりました。
「これまで何度かオープンスペースで写真展をしてきましたが、撮っていてここまで心が動かされるような体験は初めてでしたね」と語る、宮本さん。
一人の女性のことが特に印象に残っているそう。
「最初は怒った顔をしていたんだけど、『Think about your family』といった途端、泣き出しそうになって懸命に涙をこらえる表情に変わったんです。通常、セッションを通してそのままの姿を切り取ることに徹し、感情移入せず客観的に向き合うのですが、さすがに心を揺さぶられました」
今回は、“デモに行くつもりで自分の思いを表現して”とリクエストし、一人ひとりがそれぞれの想いを抱えて参加。
民族衣装をまとったりプラカードを持ったりと、カメラの前で感情を隠さずに今の気持ちを表現してくれたといいます。
>>感情の起伏が激しい人や少ない人の特徴|上手にコントロールする方法とは
写真展『STAND WITH UKRAINE』より。
大変だったのは人選で、なかなか協力してくれる人が見つからず、知り合いのNGO団体を介してウクライナ大使館につながり、SNSでの募集を経て何とか人数が集まったのが納品の10日前。
「何度かあきらめようと思いましたが、逃げるのは好きじゃない。あと数日頑張れば、と自分を鼓舞して続けました。展示スペースの管理会社から、納品の締め切り前夜にコンプライアンス上の理由で7点ほど展示NGと言われたときは、さすがに心が折れて、中止しようかと迷いました。でも協力してくれたウクライナ人の想いを届けなくては、という使命感もあり、レタッチで修正して何とか開催にこぎつけました。」
何度も立ちはだかった厳しい壁を乗り越え、奇跡的に実現したという舞台裏を教えてくれました。
>>自己肯定感が低い子供の特徴や言動とは|注意すべき親の発言や行動
社会問題に切り込む、オープンスペースで続けてきた数々の写真展
宮本さんの写真展はテーマ選定から、人選、交渉、会場費などの費用も含め、すべて彼が一人で手掛ける自主企画。
ロンドンパラリンピックに合わせ2012年に開催した『ロンドンパラリンピック選手写真展』に始まり、2017年『母の日』(ダウン症の子供とその母親のポートレート)、2019年『いい夫婦の日』(アザやアルビノなど顔や身体に外見でわかる症状を持つ人とパートナーの肖像)、コロナ禍に見舞われた2020年には『医療従事者21名のポートレート展』を開催するなど、これまでも表参道駅構内のオープンスペースで、マイノリティや社会的な問題に切り込む企画を精力的に展開してきました。
その原動力はどこからくるのでしょうか?
「そもそもオープンスペースでの写真展の魅力に気付いたのは、自分のプロモーションとして始めたモデルたちのポートレート写真展『Cover Girls』からなんです」
2010年、スパイラルで行った写真展『Cover Girls』より。
きっかけは、自身のプロモーションでの経験から
写真展『Cover Girls』は、杏さんや山田優さん、SHIHOさんなど32人のカバーガールたちの普段は見せない素顔を切り取ったもので、同時に発売した写真集は売上の全額を国連世界食糧計画(WFP)に寄付するプロジェクトでした。
想定以上の評判となり、多くの人に観てもらったこともあり、それが『WFPチャリティ写真展 Fill the Cup with Hope』にもつながったのだそう。
「ただ、SNSで『きれいなだけじゃん』というつぶやきもあって。モデルではないいわゆる一般の人を素敵に撮ってやろうという気持ちになり、僕自身興味があったパラリンピックの選手に行きつきました」
そこから、メッセージ性を強めた宮本さんスタイルの写真展が出来上がっていったといいます。
>>愛してるよりも愛が伝わる愛情表現の言葉とは?伝え方も紹介
いい写真とは何か?について答えをもらえた、セバスチャン・サルガドの写真集『THE CHILDREN』。
師匠オリビエーロ・トスカーニから受け継いだもの、撮り続ける意味
ミニマルなポートレートでありながら、強烈なメッセージを伝えてくるインパクトある写真。
社会問題の提起は、宮本さんが渡伊し師事した写真家オリビエーロ・トスカーニから受け継いだスピリットを感じます。
「トスカーナの彼の家に住み込み、朝から晩まで一緒の濃厚な日々を過ごしましたが、本当にさまざまな経験をしました」
HIVや人種差別、戦争、死刑制度などの社会問題をテーマにした広告写真を撮り続けていた師匠と行動を共にした日々が、あっと目を引くような発想力や、ゼロから精力的に動く活力の源になっている様子。
そして、ここまで被写体と向き合い、写真展を続けてきた道のりは、宮本さんにとって「一流の写真とは何か?」その答えをずっと探し続けてきた葛藤の時間でもあるのです。
「世界トップ30人の写真家とその下のグループとの違いは何だろう?と、ずっと考えていて。ある日テレビで流れていたセバスチャン・サルガドの写真展の子供の写真を見て気付いたんです。これだ!って」
それは、難民キャンプやスラム街の子供たちのポートレートで、相当につらい経験をしてきた彼らから感じる“知的さ”に目が釘付けになったのだとか。
彼らと向き合い、その内面を覗き、見過ごさず、温かく、真剣に、真摯に。そうしてこそ見えてくる本質であり、真実。
「彼らの奥底にあるその部分を引き出し、すくい取るーー。これがいい写真なんだなと自分のなかで腑に落ちたんです」
>>【自己受容】弱くてダメな自分を認めて受け入れるトレーニング方法
自身が納得できる“一流の写真”を追い求めて、人と向き合いシャッターを切る宮本さん。
「歳を重ねたからか、こんなことやって何の意味があるんだろう、と正直むなしくこともあるんですが、一つだけやりたいテーマがあるんですよ」と教えてくれました。
それは、緩和ケアの患者さんと向き合うこと。
「仕事で知り合った代理店の女性に、死が近い父親を撮ってほしいと頼まれたことがあるんです。やはり苦しい表情をされていて、正直、うーん、撮れたかな、と思って最後に家族のために『笑顔をください』って言ったら、泣き出してしまったんです」
「笑顔をください」が引き金になって、あふれ出した彼の感情。
それは、表面からは見えないところに包み込まれていた、言葉にならない真実。
「コロナ禍でしばらくは難しそうだけど、必ず誰もが通る死というものについて、向き合ってみたい」という想いにつながりました。
「僕のやっていることは、全部思いつきですよ」と笑う宮本さんですが、その行動力は簡単に真似ることはできません。
これからも独自のテーマを見つけ、人と向き合い、その人だけが持つ真実を写真にという形にして人々に伝えていくー-宮本さんのライフワークは続きます。
リアリティのある美しいポートレート写真は、静謐でありながら雄弁。
いつかまた街のどこかで見かけたら、その前で立ち止まり、写真が語りかけてくる真実の物語に、どうぞ耳を澄ませてみてください。
profile
宮本直孝(みやもとなおたか)
写真家。ファッションフォトグラファーを目指し、1990~91年、イタリアの世界的な写真家、オリビエーロ・トスカーニに師事。帰国後、雑誌・広告等で活躍。
2010年スパイラルで開催した写真展『Cover Girls』をきっかけに、オープンスペースでの写真展を企画。
2012年『ロンドンパラリンピック選手写真展』 、2016年『Portraits of Refugees in Japan‐難民はここにいます。』 、2017年『母の日 – I’m a mother of a child with Down syndrome』、2019年『11月22日はいい夫婦の日』、2020年『医療従事者ポートレート』などを表参道のコンコースで開催する。
自分の人生に対してオーナーシップを持つ。
それが他者理解につながるから【ゲスト 井上英之さん / 編集長インタビュー 02】
Humming 編集長 荻原正子が、知りたいこと、気になること、会いたいひとにフォーカス。「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」共同発起人の井上英之さんのインタビュー第二回目は、井上さんが携わる“マイプロジェクト”について、そして社会起業家の育成についてお話を伺いました。
“やってみる機会”を自分にあげる
― 前回、社会を変えていくためには、個人個人がまず自分のことを知っていくことが大事、というお話を伺いました。そのために、いのさん(井上さん)が行っているのが「マイプロジェクト」という学びの手法ですね。これはどういったものなのでしょうか?
「最初は、慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で学生たちに取り組んでもらっていたものでした。現在は、例えば、カタリバというNPOの主催で高校生向けに『全国高校生マイプロジェクトアワード』として展開するなど、若者たちをはじめ、地域の人たちやママたち、企業や自治体の人たちまで、全国に広がっています。『全国高校生マイプロアワード」では、今年は、366校、約17000人のエントリー、マイプロ実施者数は約7万人だったそうです。
まずは、何でもいいんです、自分がずっとやってみたかったこと、今、気になることをプロジェクトの形にしてもらう。身近にある気になることでいい。世の中や地域のことでもいい。それを“やってみる機会”を自分にあげる。
そのプロセスで、いろんな自分に出会い、気付きます。何より、他者にも出会っていきます。実際の経験のなかから、自分が本当に欲しい未来は、こういうことだったんだと気付いて、プロジェクトを変更することもよくあります。やってみるなかから、やり方も進化していきます。
『マイプロジェクト』は、プロジェクトそのものの成功だけが目的ではありません。プロジェクトを通じて、自己理解を深め、そこから他者や社会への理解をすすめ、自分の人生や社会に対して、地に足のついたオーナーシップを感じ取ってもらう。
前回もお話したとおり、プロジェクトを始めると、誰もが必ず転びます。そんなプロセスをメンバーで定期的にシェアしあいます。話をしてみると、必要なリソースや情報を、他の人が持っているかもしれないし、誰かの問いかけで、新しい理解や大切な気付きも生まれます。何より、そんなそれぞれの背景や紆余曲折を知ってくれている、大切な「場」が生まれます。
『ソーシャルイノベーション』は、自分の日常にその縮図があることに気付くことがとても大切です。どんな身近なことを扱ったプロジェクトでも、そこには“代表性”があるんですよね。たとえば親子関係に悩む人は、世界にすごい数いますよね。新しい方法を見つけたら、世界を変えられるかもしれない。変化の可能性って、僕たちの足元にあるんです」
「実現したい未来」に投資する考え方
― いのさんは、対学生だけでなく、「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」という団体で、社会起業家の育成も行っていますが、こちらについても詳しく教えてください。
「2003年頃に僕が始めたソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京という団体では、社会にイノベーションを生み出そうというプロジェクトや団体に投資をしています。集まった人たちがパートナー(会員)として集まり、お金の投資に加えて、自分のスキルや経験を通じた“時間”の貢献をしています。そして、毎年、投資先を公募して決定をするのですが、その選考方法がちょっと変わっています。
まず、書類選考を通過した団体とは、SVPのメンバーのうち、この時点で応援したい人たちがチームとなって、2次選考に向けて一緒に準備を進めます。いったん、選考する側が味方になって、協働してみる。ここで、やってみるなかから互いの理解をすすめます。また、チームに入ったメンバーは、どうしたら、他のSVPのメンバーたちを動かすことができるか真剣に考えます。そして、その後の2次選考では、プレゼンの後、全メンバーによる投資先決定の投票をします。
その投票には2種類の票があります。『S票』と『V票』です。S票は、「投資してもいいと思うよ、でも、自分は、実際の協働チームには入れない」(お金だけ)という票で、V票は、「投資に賛成するし、協働チームに入ります」(お金とコミットメント)という意思表示です。そして、S票が何票あっても、一定数以上のV票がないと正式な投資先になれないことになっています。大切なことを動かすには、温度のある当事者が必要ですよね。この投票は、主観というものの存在を、客観的に扱っていく一つのやり方だと考えています。
この投資のいちばんのリターンは、客観情報に加えて、自分の感じていることも大切にする練習と、欲しい未来のために、自分自身や周囲の人たち、組織、社会のなかにすでにあるキャピタル(資産)の活かし方なのかもしれません」
― 欧米では投資家たちが、貧困などの社会的な課題解決を考えている団体に対して資金を提供する「インパクトインベストメント」が活発ですが、日本ではあまり盛んではない印象でした。けれど今のお話を聞いていると、しっかりと取り組んでいる方たちがいるのですね。
「はい、課題はどの国でも多いですが、日本でも育ちつつあると思っています。
少し前の話になりますが、ろうの子供たちのフリースクールを運営していたSVPの投資・協働先の団体が、学校法人として認可を受けて、私立の小学校を始める資金調達キャンペーンを行ったことがあります。必要な数千万が集まる素晴らしいプロジェクトになりました。
これをリードしていた、SVPのチームメンバーたちは、これを機に、その後に日本ファンドレイジング協会を立ち上げるなど、素晴らしい活躍をしています。制度や慣習の困難はあっても、それを一歩ずつ動かしている人たちは、増えていると実感しています」
― 素晴らしいですね。その一方で、社会的企業や活動する団体への投資は、一般の投資家側からみると「すぐに直接的なリターンを得ることは難しい」と考えられている面もあるようですが・・・。
「投資に対してリターンが少ないと、本当に言えるでしょうか。
まず、営利と非営利事業の違いは、大きくは一点だと思っています。直接の顧客に支払い能力があるかどうか。営利のビジネスですと、美味しいコーヒーを購入した人が、リターンとして直接にお金を支払う。それが、非営利が扱う多くの分野では、例えば、子どもや森林は、サービスを受ける顧客として、直接にお金を支払えない。その代わりに、彼らがハッピーになることで喜ぶ、『第二の顧客』と呼ばれる、寄付者や企業・財団、政府などがスポンサーになって支払う。森林が保全されるインパクトが、投資額に対して効果的であればよい投資となる。これって、視聴者がお金を払うわけではないテレビ局と、近いビジネスモデルですよね。インパクトでも資金を集めるという点では、一部のネット系の企業からヒントを学ぶ点があるのかもしれません」
自己理解は他者理解につながる
― いのさんはこれまでにもさまざまな活動をされてきましたが、『THE BIG ISSUE』のビッグイシュー基金で理事もされていたこともありますね。
「はい、この『ビッグイシュー』との関わりは、僕にとって貴重なものでした。これはホームレスの状態にある人たちが、路上での雑誌販売を通じて、自立に向かっていく事業です。彼らが、『ビッグイシュー』を駅前などで売ることで、2つの変化が始まります。
まずは経済的な収入です。毎月、一定数の雑誌が売れれば、部屋を借りる資金となり、住所が手に入ります。そうすれば、就職活動もぐっとしやすくなります。もう1つが人との関係性です。常連さんができたり、『いつもあなたがここで売ってるの見ているよ』と言ってくれる人が現れる。自分の人生に“目撃者”が誕生する。他者との関係性を失ってホームレスの状態になる人が多いのですが、世の中に居場所ができます。これは大変な変化です。
一方で、これを他地域に展開するなかで、うまくいく場合とそうでない場合があります。例えば、彼らを“支援する“とか”助けるべき“対象と見て、支援者マインドで取り組む場合は、うまくいかないようです。逆に、彼らを『駅前に店舗を持っている経営者なんですよ』と、一人ひとりをみて協働する場合、よりよい結果に近づきます。
実際、販売員たちで集まってもらい、『うまくいった売り方』の情報交換をしてもらうー-などすると、互いに教え合い、学び合える。“自分のやり方”も見つかる。マニュアルどおりにやらせようとするよりも、力を発揮し始めることがあります」
― つまり・・・「マイプロジェクト」で意見を交換している学生さんと同じことのようですね。
「そうですね。ホームレスという状況は、さまざまな課題が重なって起きている超複合課題なので、一概には言えないところもあります。けれどインタビューの1回目でもお話したとおり、大統領でなくてもスーパーヒーローでなくても、一人ひとりがこの世界の貴重なリソースであることを理解する。一人ひとりの力は大きい。そのことは社会を大きく変えます」
― いのさんが、何度もおっしゃっている「自分を知ると社会が変わる」ということですね。
「はい。自己理解は他者理解につながります。たとえば“寂しい”という気持ちがあったとして、それに蓋をしないで、“寂しい”と感じている自分に少し寄り添ってみてください。
“転職したばかりで新しい環境で”、“しかも引っ越しもして、知らない町に住んでいるし・・・”と理解を進めて、“この状況ならそう感じるよね”って、自分を責める前に理解を示してみる。そうすると、同じような寂しさを持った人のことも理解できるし、つながることもできる。さらには、海外から移住した人たちの気持ち、職場における女性や、マイノリティの人の気持ちもぐっと高い画素数で見えるようになる。自分への理解を進めることで、自分自身の代表性や、世界とのつながりに気付くこともできるんです」
― 他者の気持ちを思いやるためには、自分から湧き上がるものを無視せず、きちんと見つめることが必要なんですね。2回にわたり、とても大切なお話をありがとうございました!
俳優・小林涼子さんが目指す明るい都市型農業。
サステナブルな食物生産の営みとは?
国内初の屋外型アクアポニックス栽培を行うAGRIKO FARM。俳優の小林涼子さんが生まれ育った東京・桜新町で開園した農福連携ファームです。農業を通して出合った新たな価値観や、今後の展望を聞きました。
いつでもリフレッシュできる癒しの場
魚が泳ぐ水槽の上で野菜が育つ循環型のアクアポニックス栽培。屋外だからこその良さと、栽培の難しさを感じているといいます。

アクアポニックス栽培の循環システム。
「ファームが完成したとき、青空の下、水が流れる音や魚が泳ぐ姿、心地よい風、美しい緑にとても癒されました。アクアポニックス栽培は主に閉鎖型の循環環境で行われるものなので、屋外で取り組むと一筋縄ではいきません。それでも自分が生まれ育った東京、世田谷区でファームを開園したかったこと、水族館であり植物園でもあるようなアクアポニックス栽培を行うこの場所を都会のオアシスにしたいという思いを優先しました」
思い描く道へ。自分のチカラで切り拓く人生を【女優 中西悠綺のIt’s My Story】
世界で活躍する女優を夢見て、中国に渡った中西悠綺さん。現地の演劇大学に入学するも、何のつてもなく、映画の制作会社を一人でまわってチャンスを探す日々ーー。そんな中西さんの情熱が伝わったのか、中国での初仕事が映画の主演! しかも日本人女優が中国映画で主演を務めるのは前例のない快挙です。女優を目指すきっかけや、なぜ世界のなかで中国を選んだのか。これまでのキャリアと今後の展望を聞きました。
3分で診断できる「私ってどんな人?」【島田恭子の自分学 vol.02】
最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉。「よりよく生きる」ために、私たちは自分のために何ができるでしょうか。他の誰でもない、自分のために、自分らしく生きて、自分自身が幸せを実感できる毎日へ。この連載では、予防精神医学者の島田恭子さんに、自分軸でモノゴトを進めていく人生を送るために学びたい「自分学」について教えていただきます。
今あるものをありがたいと思えたら
皆さんこんにちは。
日々“健やかで、心豊かな人生を送るために必要なこと”について研究している島田恭子です。
毎日毎日、本当に暑いですね。私が以前に住んでいた鹿児島の真夏よりも、最近の東京のほうが数段ホットな気がします。温暖化のせい? それとも歳とともに、自分の限界点が低くなってきたせいでしょうか?
でも実は私、暑いの嫌いじゃないんです。ギラギラ太陽の下、水をがぶがぶと飲みながら「いやー暑いね、アツい!!」と言いながら、汗だくになっているの、結構好きです。
なぜ好きなのか?
その理由はただ一つ。
暑ければ暑いほど、そのあとの快感が爆増するからです。
冷たいシャワーで汗を流す喜び。エアコンの効いた空間に入ったときのありがたさ。冷たいスイカの美味しさ。
「気持ちいぃ~」「涼しい~~」「最高~」と感じられるのは、その前に「うぅー、暑い・・・」があるゆえの喜びですよね。
このメカニズム、私の研究領域でも同じことがあると気付きました。
たとえば「漸近的筋弛緩法」というもの。
これは心がストレスで凝り固まっているときに、ほぐしやすい“体”のほうにアプローチする療法なのですが、これがまさに同じ原理です。
筋肉をいったん “ぎゅーっ”と縮こませることで、そのあとの弛緩状態を効果的につくり出す。まさに「炎天下からの冷たいシャワー」と同じですね。
考えてみればいろんなことが当たり前すぎて、今あるもの、持っているものになかなか気付けない私たち。戦争が起きたことで平和の尊さに気付く。病気になって健康のありがたさが身に染みる。激アツだからこそ、エアコンもシャワーもめちゃくちゃありがたい存在になる・・・。この日差しに眉をしかめたくなるけれど、私たちには、スイカもエアコンもうちわもシャワーもかき氷も冷たいビールもあるじゃないか!
今あるものをありがたい、と思えたらいいんだ・・・と、暑さで朦朧としながら、考えた午後でした。
さてさて、前置きが長くなりました。
先月から始まった“自分学”。
ついつい「わりといい子ちゃん」を目指してしまいがちな私たち女性の思考を解き明かし、「ねば」から「したい」の人生にシフトチェンジするのを応援するシリーズ連載です。
前回の記事は、「自分を知ることはなぜ大事なの?」というお話でした。
私たちはそれぞれの立場でいろんな人に関わって生きているから、どうしても“しがらみ”が四方八方から、つたのようにのびてきて、がんじがらめになっています。
長らくそれに慣れてしまい「ホントに自分のしたいこと」を言えないどころか、自分でもわからなくなってさえいる今日この頃。だから自分を知り、自分について考え、「これでいいんだ」と今の自分に価値をおいたり、自分を少しだけアップデートしたり。そんなことを考えるきっかけになるといいな、と思っています。
占いより当たる!? 3分でできるじぶん診断
まずは気軽に自分を知る方法から見ていきましょう。
突然ですが、あなたは占い、お好きですか? 占い師さんに、自分の性格をズバリ言い当てられて、ドキッとしたことありますか?
今回はちまたの占いより信憑性のある、じぶん診断をご紹介します。心理学研究の結果、私たちの性格はこれからご紹介する5つの言葉で表わされることがわかっています。
とりあえずやってみましょう!
これからとてもかんたんな10の質問をします。
考えこまずに、あなたにとって一番しっくりくる答えを、直感で選んでみてください。携帯のメモ機能や手帳など、何かにメモしてあとで見返せるものをご用意くださいね。
これから2問ひと区切りで、5つのボックスが出てきます。ボックスごとにあなたの点数を合計したものをメモっておきましょう。それではスタート!
質問1:しっかりしていて自分に厳しいと思う。
まったく違う(1点)
おおよそ違う(2点)
少し違う(3点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(5点)
まあまあそう思う(6点)
強くそう思う(7点)
質問2:だらしなく、うっかりしていると思う。
まったく違う(7点)
おおよそ違う(6点)
少し違う(5点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(3点)
まあまあそう思う(2点)
強くそう思う(1点)
※質問1と質問2の合計点数 = あなたのマジメ度得点
質問3:新しいことが好きで、変わった考えをもつと思う。
まったく違う(1点)
おおよそ違う(2点)
少し違う(3点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(5点)
まあまあそう思う(6点)
強くそう思う(7点)
質問4:発想力に欠けた、平凡な人間だと思う。
まったく違う(7点)
おおよそ違う(6点)
少し違う(5点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(3点)
まあまあそう思う(2点)
強くそう思う(1点)
※質問3と質問4の合計点数 = あなたの新しもの好き度得点
質問5:活発で、社交的だと思う。
まったく違う(1点)
おおよそ違う(2点)
少し違う(3点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(5点)
まあまあそう思う(6点)
強くそう思う(7点)
質問6:ひかえめで、おとなしいと思う。
まったく違う(7点)
おおよそ違う(6点)
少し違う(5点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(3点)
まあまあそう思う(2点)
強くそう思う(1点)
※質問5と質問6の合計点数 = あなたの陽キャ度得点
質問7:人に気をつかう、やさしい人間だと思う。
まったく違う(1点)
おおよそ違う(2点)
少し違う(3点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(5点)
まあまあそう思う(6点)
強くそう思う(7点)
質問8:他人に不満をもち、もめごとを起こしやすいと思う。
まったく違う(7点)
おおよそ違う(6点)
少し違う(5点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(3点)
まあまあそう思う(2点)
強くそう思う(1点)
※質問7と質問8の合計点数 = あなたの優しさ度得点
質問9:冷静で、気分が安定していると思う。
まったく違う(1点)
おおよそ違う(2点)
少し違う(3点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(5点)
まあまあそう思う(6点)
強くそう思う(7点)
質問10:心配性でうろたえやすいと思う。
まったく違う(7点)
おおよそ違う(6点)
少し違う(5点)
どちらでもない(4点)
少しそう思う(3点)
まあまあそう思う(2点)
強くそう思う(1点)
※質問9と質問10の合計点数 = あなたのおだやか度得点
いかがでしたか? どれが高くて、どれが低いでしょうか?
今あなたの手元には、下の表のような5つの得点が並んでいるでしょう。
手帳などに下のような簡単なレーダーチャートを作って、自分の5つの点数を入れてみてもいいですね。

Illustration = Mizue Someya @kokorobalance.lab
最近本屋さんやセミナーなどで、“性格特性”とか“ビッグファイブ”という言葉を目にすることがあるかもしれません。
私たちの性格を科学的に見える化するものは他にもありますが、今回はこの5つの言葉で見ていくことにしましょう。
(研究では質問や評価のしかたが厳しく決まっているのですが、ここでは分かりやすさ優先です)

Illustration = Mizue Someya @kokorobalance.lab
私たちの性格は
・マジメ度
・新しもの好き度
・陽キャ度
・優しさ度
・おだやか度
がどれくらいかによって形づくられると言われています。
どれも何となく、点数が高い方がいい性格のように思いませんか?
でも実は、どれも“高いから良い、低いから悪い”ということはなく、いい面あり、悪い面あり、なのです。

Illustration = Mizue Someya @kokorobalance.lab
例えば、「マジメ度」が高いことは、勤勉で物事を誠実に対応できるから、仕事や学業で成功するし、健康にも気遣うから長生きする人が多い、というデータがあります。その一方で、度が過ぎると融通が利かず完全主義で自分を苦しめてしまうことにもつながりかねません。
「陽キャ度」だって、活発でポジティブなのはいいのですが、あまりに外向性が高過ぎると、常に強い刺激を求め、いろんな方向に手を広げ過ぎて、窮地に陥いることだってあります。陰キャな方が、一人でコツコツ集中する仕事には向いている、ということもありますよね。
そして「おだやか度」の点数が高い方。きっと気分の浮き沈みが少なく情緒が安定していているから、おおらかで通常のストレスは少な目でしょう。これだけ聞くと良さそうですが、あまりに低すぎると、不安や怖れといった“ネガティブ感情”を持ちづらいので、危機感が少なく、トラブルや有事の際には乗り遅れてしまう危険性が出てきます(それは大変ですね)。
自分の望む人生のために、「じぶん診断」を活用する
このように、「どの得点がどのくらいであれば良い/悪い」ということはないし、「まわりと比べて、私はどのくらい・・・」と比較するのもあまり意味がありません。そもそも私たちの性格は、だいたい半分くらいが生まれもったものであり、残りの半分は、環境や歳を取るにつれて、少しずつ変わっていくと言われています。
今日の結果も、数年後には変わっている可能性だって十分あるでしょう。しかも朗報なのは、無理に変えようとしなくても、歳を経て(だいたい50歳をすぎる頃に)、より自分の望む方向に収束してくる、つまり、“なるようになっていく”、ことを示す研究もあるんですよ。
じゃあこの「じぶん診断」、どのように使っていくのが良いでしょうか。
それは、「人生のさまざまな段階や人との関係で、自分の特性がどんなふうに影響するのか、特性に合った環境はどんなものかを検討する“ものさし”にしていく」ことです。
例えば自分の特性をきちんと知って、それに合った仕事選びやパートナー選択、人生設計をしていくことは、自分がより心地よく、望む人生を送ることにつながります。また、自分の特性を尊重するべく、たまのお休みなら友達に誘われても一人で静かに過ごす選択肢をとることもできます。さらには自分の望む人生を叶えるために、現在の特性を把握したうえで少し軌道修正する必要がある場合に、有効な指標として活用できるでしょう。
本来であれば、皆さん一人ひとりの特性や組み合わせ状況に応じた対処法や具体的な活用法を一緒に分析していきたいところです。が、膨大なスペースが必要なため、残念ながらここではご紹介しきれません(今後、私共の研究所にて、活用できるコンテンツをご案内しますので、どうぞご期待ください)。
この連載では、「ふーん、わたしはこんな性格なのね」で終わりにするのではなく、この結果をうまく活用し、より良く生きるヒントを得ていただきたいと思っています。
そこで次回は、ちょっと軌道修正したい場合のヒントについて、一緒に考えることにしましょう。
暑い日が続きますが、みなさまどうぞご自愛くださいね。
※次回予告
「わたしの性格を知る」←今回はココ
「変えたいところがあるときのヒント」←次回(連載3回目)
「わたしの価値観」←次々回(連載4回目)
と続きます。