ファッションも地消地産の時代へ!
スウェーデン発サステナブルウールブランド
ストックホルム在住のコーディネーター 大迫美樹さんが、北欧発のエシカルトピックスをレポート。「サステナビリティ」が世間に広まる前から浸透していた言葉「地産地消」。地元で作り消費、輸送も最小限のため環境負荷を低減する効果があることから、スウェーデンではサステナブルな取り組みとして再注目されています。今回は、エシカル消費の一つの形でもある地産地消にフォーカスしたスウェーデン産ウールブランドをご紹介します。
動物と地球に優しい、エコなサプライヤー
近年サステナブルな業態へと生まれ変わる試みがマストとなっているスウェーデンのファッション業界。そんななか徹底したサステナブルなものづくりで人気を集めているのが、スウェーデン産ウールに特化したファッションブランド「A NEW SWEDEN(ア・ニュー・スウェーデン)」です。
A NEW SWEDENは、2019年にLisa Bergstrand(リサ・バリストランド)とAnthony Lui(アンソニー・ルイ)の夫婦によりスタート。100%スウェーデン産の羊毛を使用したアイテムは、生産のほとんどをスウェーデン国内で行うことで環境への影響を可能な限り低減しています。
リサさんはセリーヌやサンローランなどのラグジュアリーブランドに15年以上勤めた経験の持ち主。しかしサステナブルと謳いながらも、環境のために熱心に取り組む企業が少ないと感じたことから、素材から生産過程のすべてにおいて真摯にサステナブルに取り組む自身のブランドを立ち上げました。「ローカルの天然素材の使用とローカル生産はマストです」とリサさん。
スウェーデン北部Jämtland地方などの農家をパートナーとするA NEW SWEDENでは、農家一軒一軒に足を運び、丁寧に羊の世話をする生産者からの羊毛のみを使用。またグリーンエネルギーを使い、環境に配慮する信頼のおける製造工房とのみ契約をしています。
原材料や生産プロセスの透明性も心がけており、ブランドのサイトではパートナーとして働く農家やサプライヤーすべてを紹介。羊たちがどんな環境で誰によって育てられているのか、どのように商品が作られているのかを、私たち消費者がチェックできるのはうれしいことですね。
農家へこだわる理由の一つに、世界中で羊毛をきれいに保つために化学薬品が使われ、多くの羊が悪環境で育てられているからだとか。メリノウールで有名な某国が使う手法にミュールシングがあります。これは子羊の陰部を切り取ることでハエの幼虫の寄生を防ぎ、美しい羊毛を保つという恐ろしい習慣です。
近年メディアで取り上げられたことから「ミュールシングフリーウール」を掲げている農家が増えたそうですが、代わりに化学薬品を羊に噴射したり化学浴をして害虫を駆除しているといいます。
しかしスウェーデンでは涼しい気候が幸いして害虫を自然と遠ざけてくれるため、ミュールシングや化学薬品を使う必要がないのだそう。A NEW SWEDENの契約農家たちは羊に一切の化学薬品を使わないのはもちろん、羊たちは広大な大地を自由に歩き回ることができ、より最善の方法で大切に育てているため、動物にも環境にも優しいのです。
街でも雪山でも着こなせる、長く愛用したいデイリーウェア
A NEW SWEDENのアイテムはエコなだけでなく、洗練されたデザインでタウンユースで着映えるところにも注目。さらに北極圏の寒さにも負けない本格的な防寒着としても着用できるという優れもの。季節の変わり目は羽織りものとして、またキャンプなどのアウトドアでも活躍してくれそうです。
リサさんはたくさんの資源とエネルギーが服の製造に費やされていることに着目し、環境を配慮してファッションのトレンドに左右されないアイテムを作っているところもポイント。
例えばコレクションのラインナップは、着回しやすいスウェットやジャケットなど数点で、全アイテムがユニセックス。長く愛用してもらえるように高品質でタイムレスなデザイン、しかも生涯無料のお直しサービスも提供しているという素晴らしさ! 気に入ったものはできれば長く着たいですよね。
素材は、天然、または天然由来のものを使っているためプラスチックフリー。世界で問題となっているマイクロプラスチックの汚染に寄与しません。さらにトナカイの角でできたボタンや、生地や糸まで100%コンポスト可能で、すべてのパッケージも生分解性でリサイクル可。服のすべてが栄養素として地球へ還る仕組みなのです。
そのほかCO2排出抑制のためカーボンニュートラルな輸送方法のみを使用し、ウールは乳製品の副産物が主成分となるノンケミカル洗剤で洗浄。染色をせずに黒と白のウールを混ぜることでグレーの色味を出すなど、極力地球を汚染しない方法やさまざまな工夫を凝らしています。
スウェーデン産ウールにこだわる理由
なぜスウェーデンウールなのか? スウェーデンの羊から毎年1800トンの羊毛が取れるのに、約50%が焼却、廃棄されているそう。なぜなら羊の大部分が食用として飼育されているから。同時にスウェーデン企業は他国からたくさんの羊毛製品を輸入しています。
A NEW SWEDENは国産羊毛の素晴らしさを伝え、さまざまな種類の羊毛の使用方法を企業や人々にシェアし、国内のロジスティックなどの仕組みを根本から変えていく努力をしています。
なによりもウールは天然素材で長持ちし、リサイクル可能なうえ、抗菌性を持つため匂いや汚れに強く頻繁に洗濯する必要がありません。
サステナブルな服作りが可能と証明するためにブランドを立ち上げたというリサさん。残念ながら、国内に大量のウールを紡績したり洗浄する工房がないなど、製造プロセスのすべてがスウェーデンでできない問題も残っているそう。現状を変えていけるように多くの企業や人々にインスピレーションを与え、今後も未来を見据えたさまざまな働きかけを継続していきたいとリサさんは話します。
エシカルライフのファーストステップに、国産のアイテムを、そして環境のために努力をするブランドのアイテムをチョイスしてみては。また、どこでどんなふうに作られ、長く愛用できそうな天然の素材なのか・・・など、購入前にちょっとだけ意識を傾けて、地球に優しい選択をしていきましょう。
A New Sweden
https://www.anewsweden.com
Profile
大迫美樹(おおさこみき)
コーディネーター・ライター。東京都出身。大学を卒業後、アパレル会社や広告制作会社勤務を経て、2007年スウェーデンのストックホルムへ移住。現在はフリーランスで雑誌や書籍、広告、日本企業の仕事を中心にコーディネート全般、執筆に携わる。
Instagram @mikikosmic