あらためておさらい!SDGs(持続可能な開発目標)とは?
各自治体や、さまざまな企業がSDGsへの取り組みを発信していたり、メディアでも取り上げられることが多くなり、その認知度は上がってきています。
しかし、「SDGs」という言葉は知っていても、具体的にどんなことをすればいいのか、何を目的としているのか・・・まだ曖昧にしか理解できていない方が多いのではないでしょうか。
そこで、SDGsとは何か、なぜつくられたのか、何をすべきなのかについて、東京大学総合文化研究科特任准教授 井筒節さんに話を伺い、私たちが知っておくべきことをまとめました。
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「誰一人取り残さない社会 」をつくるための世界共通目標
「SDGs(エスディージーズ)」は、2015年に国連総会で全加盟国の賛成のもと採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という国連決議の一部です。貧困や飢餓、紛争、気候変動、環境汚染、感染症など世界中でさまざまな問題が起きていて、課題が山積みです。その問題を解決するために具体的な目標を立てたのが「SDGs」。
一つしかない地球で、これから先も世界中の人々が暮らし続けられるようにするために、2030年までに実現したいことと、そのための新しいアプローチを示した、私たちの行動計画ともいえます。地球の未来をよくするために、世界193カ国が力を合わせて達成すべき目標(ゴール)なのです。
SDGsの前には、2000年の国連で採択された「MDGs(ミレニアム開発目標)」があり、8つの目標を掲げていました。貧困人口や、5歳までに亡くなる子どもの数が大幅に減少し、初等教育の就学率も改善されるなど大きな成果がありました。
SDGsでは、MDGsの経験に基づき、都市部と農村部、貧困層と富裕層の間の大きな格差に取り組むことの重要性、そして、最も苦しい状況にある人々への対応からはじめることにフォーカスしています。格差は経済面だけでなく、環境やジェンダーなど生活するうえで生じる“差”はたくさんあります。
違いを尊重し合い、格差をなくすためにこれまで後まわしにされてきた人たちや、最も遅れているところに手をのばす努力をし、「誰一人取り残さない社会」を目指すのがSDGsの基本的な考えです。
17個の目標がクローズアップされがちですが、ぜひ「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文を読んでください。そこに、SDGsを理解するための原則が書かれています。子どもにもわかりやすいようにまとめられている日本ユニセフ協会の「SDGs CLUB」でも確認できます。
17個あるゴールすべてを達成することに意味がある
SDGsは「Sustainable Development Goals」を略したもので、日本語訳は「持続可能な開発目標」です。最後の「s」は目標(ゴール)が17個あるので複数形になっています。
17個の目標を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
貧困をなくそう、人や国の不平等をなくそう、海の豊かさを守ろう・・・。
日本ではスローガンのような扱いになっていますが、目標(ゴール)なので具体的な数値が示されていて、それを達成することを目指すのがSDGsです。
17個の目標のもとにはそれに紐づく169のターゲットがあり、さらにその下には232の指標があります。SDGsは3階建てになっているのです。
ここで、「3.すべての人に健康と福祉を」のターゲットを見てみましょう。
- 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人あたり70人未満に削減する。
- すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
- 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びそのほかの感染症に対処する。
- 2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
- 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
- 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
- 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
- すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。
- 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
- すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
- 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
- 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
- すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子の管理のための能力を強化する。
「健康と福祉」と言われても幅が広くピンとこないかもしれませんが、このターゲットを読むと何をすべきかが見えてきませんか?
と同時に、私たち一人ひとりの力だけでは達成できないこともわかります。
もちろん、意識を持つこと、行動を起こすことは大切なのですが、この目標は政府や国連に与えられたもの。実現するために、企業や個人個人が協力をしましょうという行動指針です。
ゴールを示したアイコンが一塊に並べられているのは、コロナ禍で保健と経済のバランスが議論されたように、何かに取り組む際には、他の分野にも影響があるため、さまざまな分野のことを同時に考慮する必要があるからです。
例えば、「3.すべての人に健康と福祉を」に取り組むには、「8.働きがいも経済成長も」や「5.ジェンダー平等を実現しよう」、「4.質の高い教育をみんなに」など他の目標も関連してきます。残業が多く、産休がとりにくい状況では、心身の健康を保つのが難しくなりますし、学校で給食を食べたり、予防接種を受けたりすることで、健康を保つことができます。その際、障害のある方、日本語が苦手な方、介護をしている方など、さまざまな方々がアクセスできない状況がないかをチェックし、誰一人取り残されないようにするのがSDGsです。
一つの事柄だけではなく、関連性とバランスに気をつけながら、多角的な視点で考え行動していくことで、誰一人取り残さない社会が実現できるのです。
ターゲットはこちらから確認できます。
自分の得意分野、興味のある分野から相互理解を深める
17個の目標に、169のターゲット、232の指標と聞くとその数に尻込みしてしまう方もいるかもしれません。すべてを覚えることは難しいですし、一度に考えることはできません。
まずは今、自分が関わっていること、得意なこと、興味があることに着目してみましょう。
福祉に興味があるなら、「3.すべての人に健康と福祉を」のターゲットと指標をチェックし、自分が関われることはあるか、できているかを確認していきます。具体的な目標に対して的外れなことをしていても、達成はできません。ゴールに結びつく行動ができているか再確認するために、ターゲットや指標を読み込むといいでしょう。
次に、他の目標との結びつきを考えます。健康に暮らすためには安全な飲み水が必要です。そう「6.安全な水とトイレを世界中に」につながります。5歳までに命を失う子どもの数を減らすには、栄養も必要なので「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロに」にも関係します。
自分ごととして考え、自分を軸に周りを見渡すだけでも、できることが増えていきますし、違う立場の人たちを知ることができます。また、自分の活動が、他の分野にネガティブな影響を与えていないか、悲しむ人はいないか、未来に悪影響を与えていないかを考えることも大切です。
SDGsは期限が決められています。
2030年までに17個の目標を達成するためには、一人の力では叶えることができません。得意なことを活かし、みんなの力を集結させて取り組んでいくパートナーシップが必要です。世界中の人と手を取り合い、誰一人取り残さない社会を目指したいですね。
Profile:井筒節(いづつたかし)
東京大学総合文化研究所・教養学部特任准教授。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野保健学博士。国連人口基金専門分析官、国連本部精神保健・障害チーフ、世界銀行上級知識管理官、国連世界防災会議障害を包摂した防災フォーラム議長、国連障害と開発報告書精神障害タスクチーム共同議長などを経て現職。劇団四季やディズニー作品の翻訳、解説も担当。
TEXT = 岩淵美樹