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感動の子育て。教え込むより導く、
という方法【Editor’s Letter vol.02】

Hummingの編集長 永野舞麻がカリフォルニアから配信する「Editor’s Letter 」。日々の暮らしで見つけたこと、感じたこと、考えたことをシェアします。

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共感できる教育法を探して

私たちが、カリフォルニア州北部にあるこの町に住むことを決めた理由の一つに、とても素敵な学校がたくさんあった、ということがあります。

まだ日本に住んでいたときのことですが、長女が1歳半になったころ、お友達に出会えるようにと保育園探しを始めました。夫がアメリカ人ということもあり、インターナショナルスクールもたくさんあたってみましたし、“モンテッソーリ教育”の学校、日本の保育園などなど、十数校回ってみました。

そのなかで、一校だけ、二人の記憶に鮮明に残った学校がありました。その学校の見学時間内に気がついたことは、子供たちは子供たちらしく遊んでいるのですが、どこか落ち着きが感じられ、何か不思議な安定感があり、先生たちも、声を張り上げて子供たちに言うことを聞かせようとしていないのです。

帰り道、夫と私は同時に「この学校しか考えられないね」と直感で決めた保育園が、“シュタイナー教育”に基づいた方針の高輪シュタイナー子ども園でした。
私自身、保育園をモンテッソーリ教育のところに通わせてもらっていたため、モンテッソーリについては少し知識がありましたが、シュタイナー教育についてはまったく認識がなく、一から本などを買い集めて読んでみました。

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「からだ」と「こころ」と「あたま」

シュタイナー教育では7歳ごろまでは「からだ」を、14歳ごろまでは「こころ」を、21歳ごろまでには「あたま」を、この順序に沿って育てるのが大切だと提唱しています。

大人になったときに、子供たちにどんな人になって欲しいかーーを、常々、一緒に話している私たち夫婦にとっては、ぴったりな教育方針だと思いました。
相手の気持ちを汲み取れて、責任感があり、自由な心を持ち、地に足が着いていて、想像力に長けた、自立したひと。子供たちが、そんなひとに育っていってくれたらいいなと思っています。

何歳までに自転車が乗れる乗れない、何歳なのにお行儀が良い悪い、学校での勉強ができるできないということよりも、長い目で見た“子供に対するビジョン”をしっかり持って接していくことを心がけています。

身体だけ発達しすぎるのも、感情的になりすぎるのも、頭でっかちになりすぎるのもよくなく、大人になったときに「体と心と頭がバランスのとれていることが大切だ」とシュタイナー教育は考えます。

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知能を発達させるのは早ければ早いほどいい、という考え方もあります。私も、以前はそう考えていたこともありました。

幼い子どもに対して、机に座った教育をしようとすると、子供たちは一ヵ所にじっとしていられません。そんなとき、大人たちはーー「ここに座りなさい、これを書きなさい、これを読みなさい」と、段々と命令口調になっていってしまいます。
強制させられた環境で、脳は効率よく学ぶことはできません。

7歳くらいまでの子供たちは、常に体の一部を動かして、何かを触って、肌で感じて「自分はここにいる、地球にいる」という感覚を最大限に感じたい生き物なのだと、三姉妹を育てながら感じています。
何時間もじっとしろ、お行儀よくしろ、座っていろ・・・などと言うのは、「からだ」を一番に育てたい時期には逆効果。幼い子供たちは晴れでも雨でも嵐でも、外に出て肌で痛いほど世界を感じることが、一番大切なのです。

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そのため、シュタイナー教育ではテレビ・ビデオ・CDなどは極力見せない、聴かせないようにします。
見ている間、せっかくの「からだ」を育てる時間を「あたま」ばかりを使う時間にしてしまうのと、映像などで頭に入ってきた情報は刺激が強過ぎて、子供たちの限りない想像力に限界を与えてしまうからです。

「子供は模倣の生き物」。これはシュタイナーの先生たちがよく言うことなのです

子供たちに外で遊んで欲しけれは、自分がまず外へ行く。
本を読んで欲しければ、自分が本を読む。
歯磨きをして欲しければ、自分がまず歯磨きをして見せてみる。

自分自身が実際に行動して見せてみるだけで、幼い子供たちを促し、実際に行動に移す様子をみることができると、まるで魔法のような感覚を覚えます。
「親の背を見て子は育つ」というのは本当だと感じます。


なので、私たちの家にはテレビを置いていません。私たちがついついテレビを見てしまっていたら、子供たちもきっと同じようにテレビを見たがるでしょう。携帯電話も、できる限り子供たちの前では使わないようにしています。

極端なように思えるかもしれませんが、これくらいの決意と姿勢が子供には理解しやすいと思っています。

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焦らない子育て

私も夫も、シュタイナー教育で娘を育てはじめてから、どんなに周りの同じ歳の子供たちが字を読めても、焦らないようにしました。そして、娘に無理に字を読ませたり、覚えさせたりしようとはしませんでした。
子供が一番不安になるのは、親が不安になっているとき。どんなときもどっしり構えていようと、心に決めていました。

「興味のあることには時間もかけられるし、集中できる」ということは、大人も子供も同じだと思います。
子供の学びたい気持ちが満杯になったときに起こる、乾いたスポンジがものすごい勢いで水を吸収していくような、その学びたくて仕方のない様は、隣で見ていて気持ちがいいものです。

長女は6歳、7歳、8歳が過ぎても赤ちゃん用の本しか読めなかったけれど、毎晩一緒に本を読むことだけは続けて、決して他のメインストリームの学校に通っている子供たちと比べませんでした。
少しずつ興味が出てきた段階では、標識を読んだり、レストランごっこでメニューを書いてみたり、妹たちに本を読んでみたりしてはいましたが、スラスラ読み書きできるところまでは今一歩進まず、私が一緒に練習してもすぐに飽きてしまうようでした。

9歳になり、コロナ禍で始めたホームスクーリング(学校に通学せず、家庭で学習を行うこと)で出会った先生に恵まれたこともあり、一気に花が開くように文字を読み出しました。

なぜ?どうして?もっと教えて!もっと知りたい!ーー内側から出てくるどうしようもないほどの抑えきれない衝動をうまく使って、学びにつなげていく。それをするのが、親と先生の役目だと感じます。
今では、もう誰が止めても止まりせん(笑)。つい2、3ヵ月前まで絵本を読んでいた子が、今では『ハリー・ポッター』を読んでいる姿には感動を覚えます。

「教え込む」よりも「子供たちの興味が導く方向へ、ベストなタイミングで大人たちが誘導する」
これは、最近私たちが親として目の当たりにした、何にも変えがたい体験でした。

編集長永野舞麻



Profile
永野舞麻(ながのまあさ)
Humming編集長、一般社団法人ハミングバード代表理事。カリフォルニア在住。高校時代、スイスに住んでいたときに自然の偉大さに触れ、地球環境保全について学び始める。アメリカの美術大学でテキスタイル科を専攻。今でも古い着物の生地などを使って、子育ての合間に作品を制作し続けている。


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