“自分”を考える時間にも。アール・ブリュットの制作風景をおさめた写真展@湖のスコーレ
今、世界的にも高く評価されている日本の「アール・ブリュット(art brut)」をご存じでしょうか?「生の芸術」を意味するフランス語で、専門的な芸術教育を受けていない方々が制作するアートのことです。専門的な教育を受けていないからこそ、“生”のその人の個性が存分に発揮されたアートが生み出されるということ。今回はそんな日本のアール・ブリュットをもっと身近に感じられそうな写真展をご紹介します。
未来のアーティストがのびのびと表現する場所から
アール・ブリュットの才能が集う場所として注目を集めている滋賀県甲賀市にあるアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」。開設は1986年。現在は陶芸や絵画、刺繍など、5つのグループに分かれて創作活動が行われているそう。利用者それぞれが自分の思うままに素材や表現方法を選び、精力的に作品に取り組んでいます。
その才能とエネルギーあふれる作品たちは多方面から注目を集め、これまでに数多くの展覧会を開催。また企業との共同プロジェクトやファッションブランドとのコラボレーションも手掛け話題に。2018年には、やまなみ工房での創作活動をフィーチャーしたドキュメンタリー映画『地蔵とリビドー』が全国各地で公開されるなど、アートを軸に各方面へと彼らの活動が広がっています。
やまなみ工房の日々に寄り添った、川内倫子さんの写真展が開催中
現在開催中の『川内倫子写真展 やまなみ一自分が自分であるだけでいい場所』は写真家 川内倫子さんが「やまなみ工房」に通い続けて日常の風景を撮影。3年をかけて完成させた最新写真集 『やまなみ』(信陽堂)からの作品約30点を展示しています。
やまなみ工房の日々の様子だけでなく、国内外から評価を集めるアール・ブリュット作品の制作風景が捉えられています。
この写真展は、川内さんの写真だけでなく、やまなみ工房で制作された作品も併せて展示。 透明感のある写真から伝わる、その温かなまなざし。そして一心に作品へと向き合う作り手たちの横顔、その情景を捉えた写真に、思わず足を止めて見入ってしまうはず。彼らの芸術活動を知るだけでなく、さまざまな属性や個性をもつ人間同士の共生やインクルーシブな社会の実現について考えるきっかけにもなりそうです。
会場は豊かな自然が心地いい湖のほとり
今回、さらに注目すべきは写真展の開催場所。会場となっているのは、2021年末にオープンしたばかりの滋賀県長浜市にある商業文化施設 「湖(うみ) のスコーレ」。“対岸の人を思う、すこやかな暮らしの学び”をコンセプトに、 「ストア」「ギャラリー」「醸造室」 「チーズ製造室」 「喫茶室」 「図書印刷室」などから構成されている新感覚の施設です。
地元では琵琶湖のことを親しみと敬意を込めて「うみ」と呼ぶそう。そんな湖を有するこの土地ならではの暮らしの知恵、楽しみ方を学ぶ場所としてその名が広まっています。
長浜のこの土地が選ばれた理由は、琵琶湖を中心とした豊かな自然と、そこでものを作る生産者との距離が近いということ。施設の中に味噌や甘酒作りを行える醸造室やチーズの製造室があったりして、なんともユニーク! 醸造過程の見学や試食、ワークショップが行われていて、スタッフ自身が作り手という視点も交え、ものの良さをリアルに伝えくれます。地域や福祉施設との連携も、とても大事にしている様子が伝わってきます。
写真展が行われているのは、施設の2階にあるギャラリー。常設でやまなみ工房のアート作品の展示販売を行うなど、やまなみ工房とはゆかりの深いスペースとなっています。
やまなみ工房のアーティストたちは、他人と自分を比較したり、競争をしないといいます。それは、彼らが自分自身に満足し、作品作りそのものが「これをすることが幸せである」という自分の世界を自分の力で築くための表現だから(やまなみ工房HPより)。
私たち自身、日々の暮らしなかでつい忘れがちな“自身に忠実であること”や“自分を大切にすること”に気付かせてくれるーーこの写真展はそんな機会にもなりそうです。
写真展は5月8日まで開催中。新しいアーティストや作品との出会い、そしてアール・ブリュットへの知見を深めるきっかけにぜひ訪れてほしいです。
『川内倫子写真展 やまなみー自分が自分であるだけでいい場所』
会期:開催中~2022年5月8日(月)まで ※火曜定休日
会場:湖のスコーレ 文化棟2階ギャラリー(滋賀県長浜市元浜町13-29)
主催:湖のスコーレ
協力:川内倫子事務所、やまなみ工房、信陽堂
https://www.umi-no-schole.jp/