フェムケアという言葉が一般的になる前からこのカテゴリーの商品を手掛けてきたたかくら新産業。同社の挑戦は当時ほとんど知られていなかった経皮吸収という概念に着目したことに始まります。ハミングは今回、フェムケアの先駆者とも言える同社の社長、高倉健さんにインタビューしました。10年以上前からこの分野に取り組んできた高倉さんが、フェムケアを通じて伝えたいメッセージ、日本の女性たちがデリケートゾーンのケアを重視すべき理由をお聞きしました。
ーオーガニック商品を扱うたかくら新産業ですが、フェムケア商品も10年以上前から販売されていますね。どうしてこのフェムケアのアイテムを取り入れたのですか?
弊社はオーガニックのブランド始めて18年ぐらいになります。オーガニックを扱っていくなかで気づいたのは、ケミカル品を悪だと考える人がいるということです。私たちは、ものすごくストイックにオーガニックを追及していますけど、ケミカルが悪とは思っていません。それをちゃんと伝えたいと思いました。今では、経皮吸収という言葉をよく聞きますが、この言葉をを日本に普及させたのは私だと自負しています。なぜなら、私はまだこの言葉が日本で広まる前から経皮吸収に着目していたからです。
オーガニック原料が豊富なオーストラリアで商品を作ろうということになり、オーストラリアの工場に視察に訪れた時のことです。そこで妻が以前に乳がんになったという話をしたら、デオドラントに気をつけているかと聞かれました。「デオドラントに入っているアルミニウムで乳癌リスクが3倍高くなる」「脇はすごく吸収しやすい部位だから、脇に使うものは気を付けて」と教えてもらったんです。日本に戻り、オーストラリアで聞いた「吸収しやすい部位」について文献を探していたら、イギリスで行われた経皮吸収率の調査データを見つけました。
物質が皮膚を通してどのくらい吸収されるかを経皮吸収率と言いますが、これは身体の部位によって違います。腕の内側を1としたとき、頭皮が3.5倍、脇は3.6倍、下顎は14倍も吸収します。では、デリケートゾーンはどうなんだろうと調べたら42倍だったんです。その時にオーガニックに変えるべきなのは、経皮吸収率が一番高いデリケートゾーンでそのための商品を作らなければと思ったのです。
ーなるほど。そういう理由で、経皮吸収率が高い部位に使えるオーラルケアやデオドラント商品も扱っているのですね。
私の会社はフェイシャル商品は1個も作っていません。でも、フェイシャル商品はオーガニックにしても意味がないというわけではありません。ただ、私は人のまねが嫌なんです。誰もやってないことをやりたいですね。
ー「ピュビケア オーガニック」の最初の商品はイタリアで作られたとのことですが?
「ピュビケア オーガニック」がスタートしてから、ブランドのリニューアルは4回していますが、1番最初の商品は、デリケートゾーン商品の開発が進んでいたイタリアで製造しました。例えば、イタリアには、娘が生まれると母親がデリケートゾーンのアイテムの使い方を教えるという文化があるんですね。ある時イタリアの出張で泊まったホテルにあったトイレのビデの中にデリケートゾーン専用のソープが設置されていたのです。それなのに歯ブラシは置いていませんでした。イタリアは、歯ブラシよりもデリケートゾーンのケアの方が優先度が高いのか!と、とてもびっくりしました。翌日、工場でその話をしたら、イタリア人の従業員たちに「デリケートゾーン専門ソープなんて当たり前だよ」と言われました。日本人は身体の全ての部分をボディーソープで洗うと言ったら、「オーマイガッド!」と驚かれましたね。(笑)
ーイタリアでは、身体を同じソープで洗うことが驚かれてしまうことなんですね。
この体験から、デリケートゾーンを大切にするイタリアの習慣を日本にも伝えることが大事だと思いました。しかし、フェムケアアイテムは販売当初は全く日本では売れませんでした。なぜかというと、当時、デリケートゾーンの市場には生理用品しかなかったからです。デリケートゾーン用のソープもミルクもなく、そもそもそういうカテゴリーが存在しなかったので、日本人は誰も知らないわけですよね。そこで「デリケートゾーン・アンバサダー講座」を開催し、デリケートゾ―ンのケアが女性にとってどんなにメリットがあるかを伝えていきました。こういった試みを続けていくと、ケアすることのメリットを徐々に知ってもらえるようになり、フェムケア商品を手にする方が増えていきました。
ー「ピュビケア オーガニック」が他社のフェムケア商品とは違うところは?
まずは、徹底的にエビデンスと安心面にこだわっているところですね。我々は徹底的にオーガニックのものを使っています。例えば、膣の中には善玉菌と悪玉菌がいて、善玉菌がたくさんいると膣内環境が良くなり生理痛もひどくなかったり様々なトラブルになりにくいのです。でも、この膣をゴシゴシと化学品の入ったせっけんで洗うと善玉菌を殺してしまうんです。だから私たちは徹底的な天然成分、オーガニック原料にこだわっています。
また、ソープの泡にもかなりこだわっています。女性のデリケートゾーンの3大悩みは、かゆみ、かぶれ、匂いと言わますが、その半分が雑菌によるものです。さらにアンダーヘアがあると、どうしても雑菌が付着しやすくその状況で、織物シートや生理ナプキンでフタをしているとまさに雑菌パラダイスの状況です。ですから弱酸性の優しい成分で、優しく洗うことが大事です。これが私たちが泡に徹底的にこだわる理由です。
2023年の「ピュビケア オーガニック」のリニューアルでは、世界で初めて、カンジダを予防する商品を出しました。カンジダを性感染症だと思っている方が多いんですが、実はセックスをしてうつるのではなく、カンジダは常在菌でほとんどの人が身体に持っている菌なんです。それがストレスや食事が原因で発症しますが、今まではこのカンジダを予防する方法がありませんでした。
そこで注目されたのがナマコ由来の「ホロトキシン」という成分です。約10年前から研究開発をしている先生とご縁があり、膣カンジダの患者にも効くのではないかということで共同研究をすることになりました。その結果「ホロトキシン入り」のデリケートゾーン用ソープが誕生しました。膣カンジダの症状が出た患者さんにこのソープを使ってもらったところ、88%が継続して使いたいと答え、70%以上がカンジダのかゆみが減ったと答えました。
ー膣カンジダにアプローチするソープが生まれるまでには、長い道のりがあったんですね。
私たちは「ケアからキュア」を目指しています。ただケアしてきれいにするのではなく、キュアという治療に近いこともしていきたいんです。私たちは、デリケートゾーンのパイオニアとして、いつもトップを走っていたい。トップを走るためには、同じような商品を作っていても仕方ないので、病気が治る「キュア」という意識をもってものを作っています。他社とは次元が違う商品を作っています。
ーフェムケアについて男性の高倉さんがこんなにオープンに話してくれることに驚きました。日本では男性が触れにくいトピックだと思うのですが、どうして高倉さんはこれほど率直に話せるのでしょうか?
日本でデリケートゾーンのことをこんなに語れる男性は私くらいでしょう。(笑)女性向けのセミナーでもよく話しますが、男性の私が登壇して最初はびっくりされます。でも私自身は恥ずかしいという意識が全くなく話すので、聞いている女性たちも最後にはたくさんの質問をしてくれます。ものづくりをする時に私が一番大事にしてる言葉を紹介させてください。それは「ミーニング(意味、意義)」という言葉です。私はミーニングがないものは作りたくないし売りたくないと考えています。デリケートゾーンが流行っているから、デリケートゾーンが儲かると思って売るというようなことはミ―ニングがないと考えます。
だからしっかりとしたエビデンスがあり、お客様に納得して喜んで使ってもらえるものを作りたいと思っています。そういう思いで、産婦人科の先生、助産師さんたちとも話をする中で、女性の気持ちを聞いて、女性にとって1番良いものを作ろうという気持ちでやってきたので、 男性であることは自分にとってそんなに特殊なものだとは思っていません。
ー女性の性や、女性の性器を含めた身体と心のウェルビーングに対しての意識改革について日本の社会にどのような変化が必要だと思いますか?
男性のデリケートゾーンは『息子』と親近感のある名前で呼ばれる一方で、女性は『あそこ』と言われる。これは日本でデリケートゾーンの話をすることがタブー視されてきたことを示しています。でも、女性にしか赤ちゃんが産めない、そんなとても大事な場所なのにタブー視されているのはおかしくないですか?だから普通にオープンに語れる世の中になった方がいいと思っていて、そういう社会を作るためにいろんなことを少しずつやっています。
ー「ピュビケア オーガニック」商品を世に出すことで、日本の女性に送りたいメッセージとは?
女性は自分のことをもっと大事にしてほしいというメッセ―ジですね。女性は母性が強いのでどうしても他人優先になりがちです。結婚していたら旦那さん優先、恋人だったら彼氏優先、子供がいたら子供優先というふうに、自分のことをほったらかしでケアできていない方が多いと思うんです。デリケートゾーンはとても大事な場所なのに、見たこともないという女性が多いですよね。産婦人科の先生とよくお話をするんですが、デリケートゾーンに恥垢が溜まっていたりとケアができていない女性が多いそうです。それは自分のデリケートゾーンをしっかりと見ていないからなんですよね。膣はとても大事な臓器の1つなので、外見などの表面上だけではなく、しっかりと自分をケアして愛してほしいですですね。
ーたかくら新産業がこれから挑戦しようとしていることはありますか?海外進出なども視野に?
日本だけでなく世界中の方に幸せになって欲しいので、海外に商品を輸出する海外展開を考えています。ここ5~6年で食品の開発もしてきました。外側にだけ良いものを使っても身体の中は変わらないので、まずは中から変えていかないといけないんです。だから、食べ物に関しても世の中をひっくり返そうと思っていて、ホールフードつまり一物全体食という良い原料をそのまま摂るということを推奨した商品を作っています。人間が何千年も食べているような自然なものを食べていれば副作用もないでしょう。現代は、便利という名のもとに保存料がてんこ盛りに入った加工食品ばかりを食べてきたから病気やうつ、または睡眠障害のある人が多いのです。こういった状況を変えるためにホールフードの食品を作っていきたいです。日本には、こういうものをを作っている人がまだほとんどいないので、なかなか広がりませんが、セミナーを開催したりして日本でもっともっと広げていけたらと考えています。
Profile
高倉健(たかくらけん)
1964年京都府生まれ。たかくら新産業代表取締役社長。西武百貨店渋谷店SEED館の企画担当を経て独立。世界中の化粧品や雑貨ブランドの輸入販売を経て、たかくら新産業を発足。オーガニックブランド「メイドオブオーガニクス」を立ち上げる。
takakura.co.jp/
ライター:プロフィール
著者:堀江知子(ほりえともこ)|タンザニア在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2022年からはタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。
noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。