東京の渋谷といえば、大都会の象徴として知られていますが、その一角に、意外にも住民主体のまちづくりが進むエリアがあるのをご存じでしょうか。その名も「ササハタハツ」—笹塚・幡ヶ谷・初台駅周辺エリアからなるこの場所には、渋谷区民の約4割が暮らしています。ここで繰り広げられているのは、一般的な都会のイメージを覆すユニークなプロジェクトです。
アフターコロナで孤独感が増す人々が多い今、そしてオンラインで何でもできる時代に突入した今、そんなまちづくりがどのような役割を果たしているのか。ササハタハツまちラボの上田事務局長に、その取り組みについて詳しくお話を伺いました。
ーーササハタハツまちラボが2021年から行っている「388 FARM MARCHE」(ササハタハツファームマルシェ)。最近では、5月に行われましたね。
はい、5月12日に第6回目を開催しました。出店数が過去最高の29団体となり、当日は約 2500名が来場してくれました。大人から子供まで幅広い世代に来場していただきましたね。まちラボは、我々が活動をするというよりも、まちづくりをしたいというコミュニティの人たちのために、活動ができるように枠組みを作るなどの支援をしています。
ーー海外でよく見るフリーマーケット(屋外の蚤の市)では、地元の人が無農薬野菜や手作りジャムなんかを売ったりしていますが、「388 FARM MARCHE」も、そういったイベントでしょうか?
ご飯ものを売っている店もありますが、「388 FARM MARCHE」は少しユニークなところがあります。というのも、このイベントでは自分が住むこの地域でこれをやってみたいという人たちが集まり、プロジェクトを作っているからです。地域にこういう課題があるからその解決のための取り組みたいという人だったり、自身の趣味をもう少しつきつめて地域にも貢献したいという人たちの集まりでもあります。
ーーアフターコロナの今、孤独を感じる人が増えているという調査結果も出ています。まちラボの取り組みでは、孤立しやすい一人暮らしの人や高齢者をサポートすることも意識しているのでしょうか?
私たちがサポートしている団体で、特にそういった課題に一役買っていると感じる団体をいくつか紹介させていただきますね。「ママぷらキッズ&ベビー」さんは、妊産婦さんのための運動トレーナーの資格を持った方で構成された団体で、乳幼児親子のための取り組みを展開しています。去年は産後ママのために、赤ちゃんと一緒にできるレッスンや大学の先生を 監修につけて軽い運動プログラムを考案しています。他にも、放課後の子どもたちの居場所を提供したり、夏休み期間中の居場所も提供しています。コロナ禍も活発に活動していた団体で、大勢の方が参加しており地域に大きく貢献していると感じます。
ーー子育て世代のお母さんは、近所とのつながりがないと孤立しがちなので、こういった活動は助かりますね。
他には「ササハタハツ花コミュニティ」という6~7年活動しているところがあります。皆が集まれる場所づくりのためという目的で始まり仲間をどんどん増やしていきました。最近では、活動の規模も拡大し参加者はさらに増え、メンバーたちで様々な企画の担当者を巡回しています。主催者によれば、参加者同志が自然につながっていったとのことでした。この団体は、高齢者、ハンディキャップ持った方、そしてお子さん向けの活動を主に行っており、口コミで広まり人がどんどん増えていったそうです。私たちは、こういう団体が活動を幅広く実施・発信するためのお手伝いをしています。
ーーこういう地域のイベントは、楽しそうだと興味を持ちながらも地域に知り合いもいなく参加を躊躇する人もいるのかなと思います。そう感じている人たちは、まちラボの取り組みをどう活用できるでしょうか?
我々の課題でもあるのですが、「388 FARM MARCHE」をやっていると、少し見るだけでそのまま通り過ぎる人もいます。忙しくて時間がないということもあるかもしれませんが、今後は、より外へ開かれたイベント空間の作り方・オープンな雰囲気醸成が必要なのかもしれません。 ですから、イベントに気軽に立ち寄ってもらうための仕掛けづくりは、今の課題ですね。
一部の人たちだけのイベントではないと理解してもらうための新しい取り組みに「ササハピゼミ」があります。これは、地域で活動をしてみたいけれど具体的にどうやったらいいかわからないという人を対象に、地域で活動した経験のある人たちを講師として迎えた講義と地域のまちづくり活動に実験的にチャレンジするプログラムです。活動のための手段などのアドバイスを行い、地域の新陳代謝を促すためのこの取り組みを、今年度から新しくスタートしました。
ーーアフターコロナとなってオンラインで人と接する機会が増え、パソコン一台あれば人とコミュニケーションがとれます。オンラインで誰とでも会える今の時代に、まちラボの活動がコミュニティに歓迎されるのはなぜでしょう?
我々も「対面がベストだ」とは考えていません。その場に行かないと体験できないこともある一方で、多くの人に気軽に参加してもらいたいという理由で、オンライン形式にしているイベントもあります。対面とオンラインのどちらかを選ぶということではなく、その人の生活スタイルにあった形で、参加しやすいものを選んでいけばいいのではないでしょうか。
ーまちラボがサポートしている対面ならではという活動はありますか?
リアルならではということですと、渋谷区緑道・道路構造物課の事業で玉川上水旧水路緑道に設置した「仮設FARM」というコミュニティ農園があります。これは、緑道にプランターを置き、公募で選ばれた利用者(キャスト)70名が運営しているものです。キャストの人たちが水やりや栽培などの手入れをしている時に、ふらっと立ち寄った犬の散歩をしている人がひと声かけてくれたり、散歩をしている幼稚園の子どもたちが通り過ぎて、実際に野菜を触ってもらえたり、そういうコミュニティが生まれています。そういう場面を見ると農園というリアルの場があってこそ生まれるコミュニティがあるなと感じます。このあたりがリアルで行うことの意義ですね。
ーー日本全国にコミュニティのつながりを強めるための取り組みありますが、ササハタハツまちラボのユニーク性や強みというと、どういうところがあります か?
渋谷区にあるササハタハツのエリアは、渋谷区内の人口の約4割が住んでいる地域です。住宅街でありながら、新宿駅にも近くアクセスしやすい場所にあります。そういったところは強みであり特徴ですね。
また、まちラボが発足する前の2017年度~2019年度にかけて、「ササハタハツまちづくりフューチャーセッション」という多様な人々が集まり、お互いの強みを引き出すためのワークショップや対話を行ってきました。当時の「地域のために何かしたい」「活動したい」といった想いが活動となり、活動同士が繋がり、相乗的にこのエリアのまちの価値を高めています。まちラボのプロジェクトが活発に動いているのも、地域の皆さんが自発的に自分ごととして、これをやりたいと感じている人が多いからです。
ーー前回のインタビューでは、ササハタハツは若い人や高齢者など一人暮らしが多いエリアのため、そういう人たちへのアプローチが課題とのことでしたが、この2~3年で進展はありましたか?
まちづくりの活動の間口はもっと広げていきたいと考えており、去年度から「388 Area Makers(ササハタハツエリアメイカーズ)」という枠組みを作っています。ここでは、すでに活動している人、まちまちづくりに興味がある住民の方など、誰でも参加できるミートアップを開催しています。今後さらに多くの人にも参加してもらえるような機会をどんどん作っています。まちづくりは、住民が積極的に自分ごととして関わることで初めて、継続していけるものだと思います。まちラボは、今後も、地元の皆さんのまちづくりの活動を支援していきます。
ササハタハツまちラボ事務局長として、ササハタハツに関わる全てのみなさんがワクワク・イキイキとやりたいことに取り組めるよう、まちラボ事務局を運営していきます。
前回のインタビュー記事:https://humming-earth.com/mirai/shibuyaku-report/
ライター:プロフィール
著者:堀江知子(ほりえともこ)|タンザニア在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2022年からはタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。
noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。