自分を信じて進む先に、オリジナルな道がある【ヴィンテージバイヤー 荒木和の衣食住遊学】
いつも元気で幸せそうなひとは、自分の周りに“楽しいこと”を育てる種をまいています。そんな魅力的な方にHummingなライフスタイルのトピックスを伺うシリーズ記事「わたしの衣食住遊学」。今回登場するのは、イギリスでアンティークやヴィンテージのバイイングを行う傍ら、ネイリスト、刺繍作家としても活動中の荒木和さんです。
Contents
渡英の目的は点と点をつなげ、線にすること
大学卒業後、文具雑貨業界で雑貨やヴィンテージのバイイングなどに携わってきた荒木さん。6年前、語学留学で初めて訪れたイギリスには、荒木さんの感性をくすぐるものが溢れていました。個性豊かな花や植物が当たり前に街中に存在し、アンティークやヴィンテージマーケットでたった一つの宝物に出合い、無料開放された美術館で数々の芸術品をじっくりと堪能する・・・「30歳になるまでに絶対にまたここに戻ってくる」と心に誓い帰国したそう。
昨年夏にその想いが叶って念願の再渡英を果たし、現在はロンドン在住。バイヤー、ネイリスト、刺繍作家と幅広く活動し、興味や好奇心の赴くままに挑戦してきた経験をつなぎ、“唯一無二の仕事”を築くための通過点に立っています。
「衣」
周りの目を気にせず、心のままに装うこと
ロンドンは多くの人種で溢れ、さまざまな文化的背景を持つ人がいます。そういった点からなのか、何が「普通」であるということがかなり曖昧です。よく個人主義の国だといわれますが、必要以上に人に干渉することがないと感じます。ここでは「あなたの好きなように」という空気を感じるから、他人の目を気にせず、好きな服を好きなように着て自分らしく楽しんでいます。
行く先々でよく目にするのは、花柄ワンピースを着た女性たち。お出かけやデートとなると花柄ワンピースを選ぶ人が多いように感じます。特に春先のショップでは「こんなに花柄のバリエーションって存在するんだ!」と驚くほど種類豊富に展開されていました。
私も感化され、ピンク地に緑のハートとバラ模様というかなり派手なワンピースを買いました(笑)。イギリスには各地に「チャリティーショップ」と呼ばれるお店があります。慈善事業団体が運営していて、市民から寄付された中古の服や日用品、本などを販売しており、ショップスタッフの多くはボランティアで、売り上げは慈善事業活動に充てられます。日常の中でそういった活動への理解を深めながら、お金をかけずにおしゃれを楽しんでいる人が多い印象です。
定期的に蚤の市が開催されたり、アンティークショップも多く、ものを大切にして受け継ぐ習慣が根付いています。アンティークやヴィンテージの買い付けをしていると、素晴らしいジュエリーに出合います。特にアールデコ期のジュエリーが好きで、良いものを見つけるとつい自分のコレクションに。
「食」
食を彩る英国ヴィンテージ食器
イギリスに来てから食器に興味を持つようになりました。「ストーク=オン=トレント」といって17世紀から陶器産業が盛んな地方があり、ウェッジウッドやスポードなど名だたるブランドがここから生まれています。アンティークやヴィンテージに携わる仕事をしているため、自然と古い食器を目にすることが増え、販売するもの以外に自分用にも買うようになりました。金箔で豪華絢爛なバラ模様のティーカップなどもアンティークであるのですが、あまりにも私のライフスタイルとはかけ離れているので、素朴な花柄で現代の生活にも合うデザインのものをよく選んでいます。
そうして手に入れたお気に入りの食器でいただくおやつは格別。イギリスの定番お菓子、ヴィクトリアサンドウィッチを食べて以来、イギリスの焼き菓子に興味を持ち、自分でも時々焼くようになりました。イギリスの焼き菓子は簡単なのに素朴で美味しく、気軽にティータイムを楽しめるのが良いところ。甘いもの好きの人も多く、スーパーマーケットの菓子材料コーナーはかなり充実しています。特別な日は大好きなホテルやカフェのアフタヌーンティーに行くこともありますが、自分で好きなお菓子を手作りし、友人と共有する時間も大好きです。
「住」
癒しと楽しみをくれる街並み
ロンドンは世界有数の都市でありながら自然豊か。季節の移り変わりを肌で感じられ、仕事後や休日にどこか遠くに行かなくても近場でリフレッシュできる機会に恵まれています。テムズ川沿いは絶好のお散歩コースです。
イギリスには新しく建物を建てるのにも、例え自分の家の庭に生えている木であっても許可なく切ってはいけないなど、自然を保護するため厳しいルールがあります。そのためロンドンの47%は緑地なのだそう。野生のリスやキツネを見かけることもしばしば。そんな自然に近いイギリスでは、花を飾る習慣が根付いていて、お店のショーウィンドウに季節の花が飾られていたり、街中にフラワーボウルが吊るされていたりと、いつでも目を楽しませてくれます。
私も自室の窓際を飾るようになりました。ロンドンは家賃がとても高く、シェアハウスが一般的。家具が備え付けのところが多いため、必ずしも自分の趣味ではない部屋をどのようにして居心地良くするか工夫をしながら暮らしています。昨年は窓際に季節の花とヴィンテージやカードを組みあわせてハロウィンには飾りかぼちゃ、クリスマスにはヤドリギを吊るしてイルミネーションを施したり、刺繍作品を飾って楽しみました。
「遊」
“遊び”ながら磨かれる刺繍
学生時代に刺繍に目覚め、独学でスキルを磨いてきた刺繍。きっかけは大学一年生の頃、芸術祭で刺繍のブローチを販売したことでした。そのときが刺繍をするのは初めてで、図書館で初心者向けの本を借りて見よう見まねでステッチを覚えて制作したのですが、嬉しいことに評判がとても良かったのです。
その後も刺繍で絵本を作ったり、スタンプワークという立体刺繍の技法を習い、百貨店などで刺繍のアクセサリーを販売したりと制作活動を続け、数をこなしていくうちにスキルアップしていきました。今振り返ると自分の表現方法を早いうちから見つけられたのだと思います。小さくて細かいものが好きなこと、一針一針コツコツ縫った線が絵になり形になる楽しさ。刺繍を始めて10年以上経ちますが、つくづく自分の性分に合っているなと感じます。
イギリスはインスピレーションを得るのに絶好の国だと感じています。私の作品は植物やフルーツ、野菜などの自然物をモチーフにすることが多いですが、美術館や本屋さん、アンティークショップや古い建築、植物園などに遊びに行くと「次はこんなモチーフを作ってみよう」とひらめきます。ほとんどの美術館は入館無料のため、休日は美術館巡りを楽しんでいます。お気に入りは、リチャード・ウォレス卿などによって収集された15世紀から19世紀にかけての芸術作品などが展示されている「ウォレス・コレクション」、イギリスの建築家 ジョン・ソーンズ氏の私邸博物館「サー・ジョン・ソーンズ博物館」。
ロンドンは見るところが多く、行きたい場所リストは常に更新され、週末はどこへ行こうかと探す必要はないほど。例え近場であっても隠れた場所に素敵なイングリッシュガーデンを見つけたり、面白いアールデコの建築があったりと探検する甲斐があります。
「学」
オリジナルな仕事を見つける学びの旅
6年前、ロンドンで半年間の語学留学をしました。その半年間はいろいろな国籍の友達が集まる小さな世界地図のような空間で、言葉に言い表せないほど濃密な時間を過ごしました。彼らから刺激を受けたり、限られた時間のなかで美術館や歴史的価値のある場所を旅したりと、忘れられない思い出が詰まった日々です。帰国後は渡英前から働いていた文具雑貨の会社に戻り経験を積み、昨年、目標としていた30歳で渡英するチャンスを掴みました。
再渡英後の一年間は英語を学び直し、仕事を見つけることから始まり、行ったことのなかった場所を巡ったりインプットの日々でした。季節を一周したここからはこれまでの経験を「私にしかできない仕事にする」という目標に向かって邁進していくターンだと感じています。今年5月にはイギリスで買い付けたヴィンテージ食器やジュエリーを販売する自身のオンラインショップをスタート。刺繍はよりイギリスらしいデザインを探求しながら制作しています。
自然を心から愛し、長い歴史のなかで受け継がれてきたものを大切にするイギリスの地で、自分自身と向き合い、たくさんのことを吸収して形にしていきたいです。
Profile
荒木和(あらきなごみ)
2014年武蔵野美術大学卒業。在学中に刺繍を始め、展覧会や百貨店などで刺繍作品やアクセサリーを販売。文具雑貨業界に入り、店長、雑貨やヴィンテージのバイヤーを経験。2021年7月よりロンドン在住。現在はアンティーク販売のオンラインショップにてアシスタント、ネイリストとして働く傍ら、ヴィンテージオンラインショップ「SUGARY VINTAGE」を運営。「nanny embroidery」としてイギリスならではのモチーフを刺繍し、SNSで発信中。
Instagram @nanny_embroidery、@sugaryvintage