現代アートの“感じ方”を教えてくれた事典です【小泉里子 / 未来に続くBOOKリスト vol.7】
あなたの本棚には、これからの人生で何度も読み返したい本が何冊ありますか? モデル 小泉里子さんの連載エッセイ「未来に続くBOOKリスト」。読書好きの里子さんが、出合ってきた本のなかから“ずっと本棚に置いておきたい本”をセレクトしてご紹介します。
BOOK LIST_07
『現代アーティスト事典』
ジャンル=アート 美術手帳 編/美術出版社
事典と聞くと分厚くて重い参考書的なものを思い浮かべるかもしれませんが、今回紹介するのは、持ち歩くことができ、気軽に読める現代アーティストを紹介した事典です。
私と現代アートの出合いは、かれこれ15年前くらい。友⼈のマツこと松⼭智⼀⽒との出会いから始まりました。
NYで暮らす彼が東京で個展を開催すると聞いて、そこに訪れたのがきっかけ。以来プライベートでも家族ぐるみのお付き合いになりました。NYのマツのスタジオに遊びにいっては、テストの紙に⾊を塗らせてもらったり、たくさんのアシスタントが壁⼀⾯ほどの⼤きさの作品を制作したりを間近で⾒て、現代アートという未知の世界に⼀気に引き込まれました。
ある日、そんな私をマツ夫婦があの歴史あるオークションハウスSothebyʼs (サザビーズ)に誘ってくれたのです。マンハッタンの71 丁⽬とヨークアベニューが交差する角にあるサザビーズのビルでは、オークション前にビューイングといって、出品作品を品定めができる期間があって、しかも誰でも無料で入場でき、アート作品を間近で観ることができるんです。
っと! まーそんな説明を受けながら、そのときはさっぱり理解出来ないくらいにまだまだアートの世界に疎かった私。⾔われるがまま待ち合わせの場所に⾏き、初めてサザビーズを訪れたわけですが、⼊⼝からして異様な空気を感じずにはいられませんでした。
アベニュー沿いには⾼級⾞がずらりと並び、世界の富豪を顧客に持つアートアドバイザーたちが、すごい勢いで出たり⼊ったりしている回転ドアで、私は⼀⽣グルグルと回り続けてしまいそうなくらい圧倒されてしまいました。今や現代アートは巨額なビジネスになっていますが、そのパワーを実感。数⽇後には、ここで数⼗億、数百億が動く・・・そんな世界を垣間⾒れるワクワクが⽌まりませんでした。
いざ、作品を観始めると、マツは⼀つひとつ丁寧に作品やアーティストについて教えてくれました。まだまだ無知だった私にとって、ほぼほぼ初めて聞く名前や作品でしたが、今振り返ってみると、そうそうたるメンバーの作品を⽬にしました。
この本の表紙にもなっているJeff Koons(ジェフ・クーンズ)やDamien Hirst(ダミアン・ハースト)、Jean-Michel Basquiat(ジャン=ミシェル・バスキア)など。今でも⼀気にこれだけの作品を観ることが出来たのはこのときだけ。この⽇を境に点と点を結ぶように、この本を読みながらアーティストと作品を覚えていくのですが、会場では初めて観る作品を⽬の前に、⼩さく横に書かれた落札予想⾦額にも度肝を抜かれ、ビルを出たとき、しばらく現実社会に戻るのに時間がかかりましたよ(笑)。
⼀番印象的だったのは、キャンバスをただカッターで斜めに切った作品が⾼額な予想⾦額をつけていたこと。「これは⼀体・・・」という気持ちが無意識に声に出てしまったほど、謎すぎました。そして、私でもできる!と⾃信を持ってしまいました(笑)。
マツ夫婦に「謎すぎる〜」と連発していたら、「アートはやったもん勝ちだからね」と⾔われ、後⽇、私にもできる“今までにないもの”を考えてみたけれど、凡⼈にはそんな閃きは皆無でした・・・。
そんな「やったもん勝ち」と⾔ってしまっていいのかわからないけれど、現代アートって、それぞれのアーティストの世界に招待されている感覚で、それをなんで?と問う⽅が違和感で。私がその作品がもたらす意味とか考えても無駄なのかなと思います。
作品の前に⽴ち、ただただ受け⼊れる。
それが私の現代アートとの関わり⽅。この本をきっかけに、そんなふうに現代アートを感じるようになりました。
どんなアーティストがいるのか、現代アートがどのように変化してきたのかを知れるアート⼊⾨としては、最適な⼀冊。まずは、たくさんのアーティストを知ること! かつての私のようにアート初心者の方、ここから始めてみませんか?
『現代アーティスト事典 クーンズ、ハーストから村上隆までーー1980年代以後のアート入門』(げんだいあーてぃすとじてん)
1980年代以後の現代アートの流れを、わかりやすく丁寧に解説。アーティストやその代表作品についてだけでなく、各時代背景やその解釈まで学べる“永久保存版”。オールカラーで写真も豊富。眺めているだけでも楽しく、美術展にも携帯したい一冊です。
Profile
小泉里子(こいずみさとこ)
15 歳でモデルデビュー。数々のファッション誌で表紙モデルを務め、絶大な人気を誇り、広告やテレビ番組でも活躍。着こなすファッションはもちろん、ナチュラルでポジティブな生き方が同世代の熱い支持を得ている。2021年2月には第1子となる男児を出産し、同5月より生活の拠点をドバイに移す。ドバイでの生活や子育てにもさらに注目が集まっている。仕事、プライベート、ドバイでの生活を綴った著書『トップモデルと呼ばれたその後に』(小学館)をリリース。
http://tencarat-plume.jp/
Instagram @satokokoizum1
PHOTO = 取田和衣