この世の恋をしたことがあるみんなに【山口乃々華 / コトノハ日和 vol.07】
言葉があるから伝えられること、伝わること。そこから広がっていく思考、癒し、つながり、希望、愛情・・・深くて力強いもの。女優 山口乃々華が、心に舞い落ちてきた“コトノハ(言葉)”を拾い集めて、じっくりと見つめ、ゆっくりと味わい、思いのままに綴っていく連載。さあ、一緒に元気になりましょう。
君は僕に愛されたという事実を 金ピカのバッジにして胸にはって 歩いていくんだよ
「この場所から」(詩集『わかりやすい恋』銀色夏生 著) より一部抜粋
叔母が住んでいた埃っぽい部屋の中。
本棚に収まりきらず山積みになった本が、狭い部屋で足の踏み場をなくしている。それに加えて暑い。蒸し暑い。「夏生さんの詩集、ここにあるよ〜」と叔母が紹介してくれた。
適当に何冊か選んで手に取ってみた。どれも表紙は色褪せて、古びていて、もう何十年もそこに眠っていたかのような(実際そうだった)・・・なんて言ったら怒られるのだが、本当にちゃんと時間が経っているのを感じて、この詩集たちをまだ少女だった叔母が読んでいたんだなぁと思うと、ちょっとかわいくて面白い。
そんな“銀色夏生コーナー”の中から、選んだこの詩集。
『わかりやすい恋』。
これは思春期のことを指しているのだろうか? 気持ちを隠すことができないほど、心も脳みそも慌ただしく騒いでしまう恋を、私は想う。うーん。私の恋もまだ“わかりやすい”に入るのだろうか。
それとも、経験とともにどんどん“わかりやすい”が増えていく、ということなのだろうか。だとしたら、このタイトルの意味は思春期ではないことになる。もしかして、“わかりやすい恋をする人”ということなのだろうか。なんて、考えた。
「この場所から」はこの詩集に収められた一篇。
私の心に留まったフレーズの、「君は僕に」というその”僕”が、私にとって、大好きでこの世から居なくなったらたまらなく苦しい大事な人だと想像する。
「愛されたという事実」。それは空想でも、妄想でも、眠っているときに見る夢でもなく、事実。
事実は時にむなしいこともある。
けれど、恋をしていたあの時間を思い返す今となっては、そんな記憶なんて、とっくに放り投げていた。
そっと目を瞑って心臓に手を当てれば、当たり前のようにあの時間が蘇ってくる。呼吸、鼓動、体温、匂い。ふわっと柔らかい笑顔に、奥が深い瞳。
火照った心と、安心が一緒になることなんてあるんだと知った“事実”。
それから、詩の中に出てくる「金ピカのバッジ」。
きっと、私にしか見えていない、みんなには秘密のバッジなのだ。誇り高き金ピカのバッジ。
私は嬉しくて何度も何度も見つめるだろう。
それにしても、”僕”はすごいなぁと思う。
金ピカのバッジで私を簡単支配できてしまうのだから。
言葉に特別な魔法をかけるのなんて、きっと彼にとっては朝飯前。何てことないのだ。
“僕”には、いつだって追いつけない。
でも、追いつけないままでいいのかもしれない。
愛されたことを誇りに思い、そんな人に出会えたことを嬉しく感じている。
そんな幸せを想像した詩だった。
自分の生命の終わりよりも、大切な人の生命が終わる方がずっとこわいと感じる日々のなかで、胸にはる、金ピカバッジが、この世の恋をしたことがあるみんなに必要だなぁ、と私は思う。
山口乃々華(やまぐちののか)
2014年からE-girls主演のオムニバスドラマ「恋文日和」第7話にて主演を務め女優業をスタート。映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画『HiGH & LOW』シリーズほか、2020年には『私がモテてどうすんだ』のヒロイン役など、数々の作品に出演。 2020年末までE-girlsとしての活動を経て、2021年より女優業として本格的に活動を開始。2021年3月、初のミュージカル『INTERVIEW~お願い、誰か助けて~』、同8月にはミュージカル『ジェイミー』、2022年3~4月はミュージカル『あなたの初恋探します』でヒロインを演じた。ドラマ「ビッ友×戦士 キラメキパワーズ」(テレビ東京系)に出演。書籍『ののペディア 心の記憶』(幻冬舎文庫)も好評で、文章を書くことも好き。2022年10月にはconSept Musical Drama #7『SERI〜ひとつのいのち』でミュージカル初主演を務める。
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