フェミニズムとは? 歴史、問題、そして解決策
男性は外で働き、女性は家事や育児・介護などを担うのが自然とされていたこれまでの日本。
時代が変わるにつれ、今や働きに出るのも家事や育児をするのも性別を問わず行うべきだとし、男性と女性の差を埋めるための思想が広まってきました。
男女平等を訴えるこの考えは「フェミニズム」と呼ばれ、さまざまなシーンで呼びかけられています。
今回はこのフェミニズムについて詳しく知るとともに、これまでどんな歴史を辿ってきたのかや今後の課題などをご紹介します。
Contents
フェミニズムとは?
「フェミニズム」という言葉を辞書で調べてみると、「女性と男性の権利を同等のものとするための主張や運動のこと」だとされています。
由来となったのは女性らしさといった意味を持つ「フェミニン(feminine)」であるため、女性が声を挙げて主張することだと思われがちですが、実はそれが全てではありません。
正しい意味を理解しないままに言葉だけが一人歩きしてしまうと、さまざまな場面でトラブルを生んでしまうでしょう。
フェミニズムが掲げるのはあくまでも「男女平等」であり、「男性軽視」ではありません。
これまで軽視の対象であった女性が声を挙げることで、男性の立場が追いやられるのではないかと思う人がいますが、本来の意味は性別を問わず人々がみな同じ土台に立つことです。
男性を追いやって女性がさまざまな権利を得ても、いずれ男性が声を挙げる時代が来て、問題が繰り返しになってしまうでしょう。
昔と比べると、現代は女性の立場が男性へ近づきつつあるといえます。
しかしそんな中でもフェミニズムの考えが重視されているのは、私たちが産まれたときから刷り込みのようにジェンダーに触れ、それが当たり前だと思ってしまっているためでしょう。
男の子なら青や緑が好きな子が多く、屋外で走り回って遊ぶ。
女の子ならピンクが好きで、おままごとやお絵描きをして遊ぶ、といったように、知らず知らずのうちに固定観念として刷り込みが行われているのです。
そんな固定観念は大人になっても頭を支配し続けるでしょう。
仕事と家事・育児の割合だけでなく、男性は昇進をしても女性は変わらないままであったり、一度産休をとると元のポストに戻れなかったりと職場内環境にも大きな影響を及ぼします。
「女性は男性よりも賃金が低いものだ」「産休をとっても良いように重要な仕事は任せない」といったナチュラルな差別は、現代になっても減ったとはいえません。
フェミニズムの考えは、一部の人が声を上げ続けているだけでは意味がありません。
男性・女性や年齢を問わず、全ての人が意識しなくても男女平等を掲げられるよう、フェミニズムについて深く理解しなければならないのです。
関連記事:マイノリティ・マジョリティとは? 多様な社会の理解を深めるために
フェミニズムの歴史
現代は男性・女性を問わずフェミニズムについて知っている人が増え、後は個人や企業がフェミニズムに対しどう考えていくかが問題となっています。
そんなフェミニズムの思想がいつ生まれ、現代までどのように変容してきたのか、詳しい歴史をご紹介します。
第一波フェミニズム
18世紀以前の世界では、政治に参加するのも、民衆を率いるのも全て男性でした。
女性は家業を手伝ったり、家事・育児をしたりして過ごしており、夢を持ったりいつもと違うことに挑戦したりする人はおらず、みな同じような人生を歩んでいたでしょう。
この頃の女性たちには男性に比べて教育が行き届いておらず、限られた知識の中で生きていました。
学校に行きたいと思っても、許されるのは土地や資産を持ったごくわずかな家の娘のみ。
一般家庭に生まれた娘たちは、自然と生まれた瞬間から生き方が決められてしまっていたのです。
ことの始まりは1789年8月に発表された「フランス人権宣言」。
「第1条 人は、自由かつ諸権利において平等なものとして生まれ、そして生存する。」から始まり、階級制度に悩んでいた人々にとって奇跡のような宣言でしたが、これが主に男性のみをターゲットとして作られていたことをご存じでしょうか。
自由や平等を謳っておきながら、男性と女性はこれまで通り顕著であり、女性は人権宣言後も男性の下で生活をしなければなりませんでした。
これに異議を唱える形で起こったのが「第一波フェミニズム」です。男性ばかりが自由を宣言し、どうして女性は自由に生きられないのかと考えた女性たちが、フランスを中心に抗議運動を開始したのです。
第一波フェミニズムでは女性にも参政権を与えることをメインに訴えが続けられ、20世紀にかけて女性が政治に参加する国が増えていきました。
このとき日本は明治時代であり、作家であり思想家の平塚らいてうらがフェミニズム運動を行っていました。
島国であるはずの日本が世界に取り残されることなく、同じ時代に女性の権利を求めるために声を挙げていたことは、その後の日本にとってかけがえのない一歩であったといえるでしょう。
第二波フェミニズム
長いフェミニズムに関する歴史の中で、第二波と呼ばれるのが1960年頃に起こった「ウーマン・リブ(女性解放運動)」です。
1945年に第二次世界大戦が終了してから、女性たちは男性との差を全て解消し、平等に生きることを目的として声を挙げ始めました。
これは性差によって起こる差別全てを対象としており、「男性だから」「女性だから」といった根本的な差を埋めるために行われたものです。
第二波フェミニズムの大きな特徴として挙げられるのは、フェミニズムと同時に「ウーマニズム」の考えが広まった点にあります。
女性らしさといった意味を持ち性差に関する差別をなくすフェミニズムに対し、ウーマニズムは「女性に対する差別全て」をなくすためのものです。
ウーマニズムの中には、性差による差別、人種による差別、年齢による差別など全ての不平等が盛り込まれていました。
この時期にスポットが当てられていたのは、女性が男性に比べて力が弱く、性的な問題においてはまだまだ弱者であったという点です。
望まぬ妊娠をしても中絶する権利が認められていなかったり、繰り返す性生活の中で身体を壊しても病気だと認められなかったりと、女性たちはさまざまな不平等の上で生活をしていました。
第二波フェミニズムによって女性たちは、徐々に中絶の権利や避妊の権利が与えられ、男性と同じく自分を大切にしながら性を意識できるようになっていくのです。
第三波フェミニズム
圧倒的な不平等の元、男性との差を埋めるために行われてきた第一波・第二波フェミニズム活動。
一方の第三波フェミニズムは1990年代に始まり、「女性とはこういうものである」といった固定観念から脱却するための活動として広まりました。
過激なロックバンドが「女性」という枠を超えて活動し始めると、一般人たちも次々に自分たちの手法で「ありのままの自分」を表現するようになったのです。
第三波フェミニズムの波は世界各国に広まり、現在までその考えが色濃く受け継がれています。
「女性は男性の三歩後ろをつつましく歩くべきだ」といったステレオタイプを捨て、どのような夢を追っても、どのような生き方をしても良いのだとする考えは、女性だけでなく男性にも大きな影響を及ぼすものでした。
フェミニズムの影では「男性は常に家を空けて仕事に勤しむべき」「男性は弱音を吐くべきではない」といった固定観念に苦しんでいた男性も多かったのです。
現在
現在の世界は、フェーズでいえば第四波フェミニズムの中にあります。
長い歴史をもつフェミニズムの考え方ですが、今もなお男女の差が完全になくなったわけではありません。
近年はスマートフォンの普及率も高水準をキープしており、若い世代を中心にSNSで考えを共有するシーンが増えました。
職場で男性との扱いに差を感じて嫌な思いをしたり、性暴力をふるわれた経験があったりと、これまで女性たちが自分の中に秘めていた悩みを匿名で打ち明けられるようになったのです。
世界のどこかに自分と同じ経験をした人がいたり、気持ちに寄り添ってくれる人がいたりするだけでも、抱え込んでいた辛さがふっと楽になるでしょう。
第四波フェミニズムでは、SNSにて「#MeToo運動」が行われました。
これはSNS上で性暴力の被害を訴え、隠された実態を明らかにすることで、社会全体でトラブルを防ぐ目的で行われたものです。
さらには日本国内で「#KuToo運動」なるものも始まり、出勤時にハイヒールを履くことを義務付けられるのはおかしい、といった考えも広まりました。
これまでのフェミニズムと異なるのは、芸能人など声の大きい存在だけでなく、一般人からこのような考えが広まるケースがある、といった点です。
私たちの誰もがフェミニズムに関係があり、辛い思いを発信することで団結力が生まれます。一人で悩まずに同じ悩みをもった人を見つけることで、社会全体の抑止力に繋がるでしょう。
関連記事:社内で円滑にコミュニケーションをとるコツや成功事例を紹介
フェミニズムの抱える問題
フェミニズムを語る上でもっとも注意しなければならないのは、ある「誤解」についてです。
これは一部の過激派に属する人々が、「男女平等」ではなく「女性重視・男性軽視」を訴えているためだといえます。
女性優先車両に間違えて乗ってしまった男性を袋叩きにして追い出したり、何もしていないのに痴漢の容疑をかけられた男性に対し「男性だから仕方ない」と批判してみたりと、さまざまな場面でフェミニズムを履き違えた男性軽視が行われています。
この側面だけを見てしまった人々は、フェミニズムの正しい意味を理解できず、「やっかいな人々」だと勘違いしてしまうことも多いのです。
2024年にSNS上で話題となったのは、「男児は何歳まで女性用トイレを使って良いのか」といった内容です。
防犯上幼い子どもが母親と一緒に女性用トイレを使うシーンも多い中、何歳であっても男性であることには変わりないため、女性用トイレに入ることを禁じてほしいといった声が上がっていました。
中には1人で歩けない乳児であっても男児であれば女性用トイレに入るべきではない、といった声もあり、賛否両論を生んでいます。
繰り返しになりますが、フェミニズムとは男女が平等な立場で生きられる世界を求める考え方です。
女性ばかりが優遇され、男性が損をする社会は平等ではありません。
大切なのは一部だけを見て「アンチ・フェミニズム」になるのではなく、正しい方法で平等を目指すことにあるのではないでしょうか。
関連記事:夫婦仲が悪い原因は?子供に与える影響や改善する方法をご紹介
フェミニズムの正しい知識を身につけよう
フェミニズム運動について正しく知るためには、まず識者の執筆した本を読むことから始めましょう。
先程も触れたように、SNSで一部の人の声ばかりを見ていると、考えが偏る原因となります。
フェミニズムの考え方も人によって細かく異なるため、根底となる知識を得た後、自分なりにフェミニズムについて考えてみるのが大切です。
また、フェミニズムを自分と関係のないことだと考えず、「自分ならどうするか」を考えるのも良いでしょう。
あなたが女性であれば、これまでに性差が理由で差別された経験や、そのときに感じたモヤモヤした気持ちについて振り返ります。
あなたが男性であれば、妻・兄弟・友人・母親など身近なところにいる女性にどう対応しているのかを振り返りましょう。
フェミニズムの考えを正しく広めるためには、女性だけでなく男性の力も必要不可欠です。
まずは自分の属する小さなコミュニティの中で、男性・女性にとっての差別が起きていないか考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ
さまざまな歴史の中で現代まで発展してきたフェミニズム。
社会全体という大きなコミュニティを変える前に、身の回りからできることを始めましょう。
男性だから、女性だからといった考えを捨てるとともに、未来を生きる子供たちがより過ごしやすい社会づくりが必要です。