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藍の庭からひろがる世界【現代美術家 山本愛子 / 植物と私が語るときvol.1】

染色を中心に自然素材や廃材を使い、ものの持つ土着性や記憶の在り処をテーマとした作品を制作する現代美術家、山本愛子さんの連載がスタート!  草木染の研究にいそしむ山本さんが、さまざまな土地を訪れ、そこで出合った植物についてつづっていきます。第一回目は『藍』にまつわるのお話。


vol.1『藍』がつなぐ輪

このコラムを「植物と私が語るとき」と名付けてみました。草木染をしていると、植物の新たな一面に気付きます。普段は目に見えない葉や枝の内側に潜んでいた色素が染めの工程で現れたり、その色素に含まれる抗菌効果や保温効果などの効能を体感したり。染めを通した視点から植物を見つめてみると、今まで見えてこなかった色や力、風土など、さまざまな背景が見えきます。見えていなかったものが見えてくるとき、それが「植物と私が語るとき」だと思うのです。

さて、これから私は、北は北海道美瑛町、南は奄美大島まで、植物のリサーチにむかう予定です。いろいろな土地からこのコラムをお届けしたいと思っていますが、第一回目はまず私の庭のお話から始めたいと思います。

庭のタデ藍

2020年春、自然豊かな土地へ引っ越したことをきっかけに自宅の庭で菜園をはじめました。普段の生活で食べる野菜と一緒に、自身の制作に使用する染料となる原料も自給自足をしてみようと思い、藍染めの原料になる「藍」を育ててみることにしました。

藍で染めた布

「藍」の神秘。「藍」は、ある特定の植物ではなく、世界に何種類もの「藍」が存在するのです。どういうこと?と思うかもしれません。普通、タマネギ染めなら「タマネギ」が原料ですし、ヨモギ染めなら「ヨモギ」が原料です。どちらもある特定の植物です。しかし藍染めに使用する「藍」は、タデ科の藍もあれば、アブラナ科の藍、マメ科の藍、キツネノマゴ科の藍など、科も形もまったく異なる藍色の成分をもつ植物の総称です藍染め独特の不思議な在り方だと思います。藍染めが世界中で重宝される理由の一つは、たくさんの科で藍染めが可能なため、あらゆる風土に適応できるということにあるかもしれません。日本では、インド洋から6世紀頃に伝来した「タデ藍」が多く栽培されています。

近隣の方を招いて藍染会を行なっています。

庭ではこのタデ藍を育てています。春に種を蒔き、夏には近隣の皆さんと藍染めを楽しみます。秋に種を収穫し、冬の間に土を整えておきます。使いきれないほどたくさんの種が穫れるので、欲しい方にはお裾分けをすることも。庭から獲れた種が人から人へ渡って旅をして、今では北海道の広大な土地や、東京港区という都心ど真ん中のプランターや、伊豆の離島の畑など、たくさんの場所で、それぞれの環境で、藍が育てられています。なんというか、自分の庭が拡張されていくような、自分の風土と世界の風土がつながっていく感覚。この感じがとても好きです。それは、私と他人の境界が滲むような感覚でもあり、とても愛おしい感覚です。

乾燥した藍。ここから種を収穫します。

藍の種

次回は、私の庭の種が育てられている北海道美瑛町からお届けします。

Profile
山本愛子
(やまもとあいこ)
現代美術家。1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員として中国で研修。国内外のレジデンスや展覧会に参加。自身が畑で育てた植物や、国内外から収集した植物を用いて染料をつくり、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。主な展示に2021年「Under 35 2021」BankART KAIKO(横浜)、2019年「Pathos of Things」宝蔵巌国際芸術村(台北)、「交叉域」蘇州金鶏湖美術館(蘇州)など。
https://www.aikoyamamoto.net/
Instagram @aiko.yamamoto_


PHOTO = 山本愛子
TEXT = 山本愛子

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