「履き心地抜群で、デザインもおしゃれ!」──2年前、そんな声がHumming編集部で広がったのが、環境に優しい靴のブランド『Öffen(オッフェン)』です。今回、オッフェンの裏側にあるストーリーを深く掘り下げるため、プロデューサー兼デザイナーの日坂さとみさんにインタビューをさせていただきました。
ファッション業界で長く活躍してきた日坂さんが、なぜ今、環境に優しいフラットシューズ作りに注力するのか? オッフェンの靴に込められた女性へのメッセージ、そして忙しい日々の中でもどうやって「環境に優しい生活」を実現できるのか――日坂さんの想いを伺いました。
ーー何がきっかけで環境に優しい靴を作りたいと考えるようになったのですか?
私には子供が1人いるんですが、子育てが始まった時、生まれたばかりの赤ちゃんが使える安全なものはどうやって探したらいいんだろうと、すごく心配になったんですね。世の中で売られているもので、本当に安全なものがどれかという情報がないなということ、そして私自身が今までそういうことをあまり 気にしていなかったことにも気づきました。長くファッション業界にいて、発信をする立場でしたが、「環境」と視点を考慮していなかったことにハッとしたんです。
ーーお子さんが生まれたことがきっかけの1つだんたんですね。
はい。そこで、「エシカル・コンシェルジュ講座」というコースを受けたんです。そこでは「ゼロ・ウェイスト(浪費・ゴミをなくすという意味)」について学び、人間が多くのゴミを作ってきたことや私たちの営みがどれだけ地球の負担になっているかを知り、大きな衝撃を受けました。日常生活でも仕事でも、地球に負担をかけながら作りたいものを作る、そういうモノづくりはしたくないと感じたんです。そうやって、オッフェンは生まれました。
ーー使用済みペットボトルの糸を使ってできた靴ということですが、このプラスチックがどうやって靴になるんですか?
オッフェンはニットのシューズなのですが、そのニット素材が、生活の中から出てくる資源ゴミであるペットボトルから作られた糸から出来ています。それを熱処理して、再生PET糸に生まれ変わっています。オッフェンの靴を1足作るのに、だいたい8本分のペットボトルが使われています。
ーーペットボトルの糸は、環境に優しい商品にはよく使われる素材なんですか?
はい。ペットボトルからの糸を使ったニット靴は割とあるんです。オッフェンの靴の特徴は、ぺットボトルが素材であるということよりは、靴を製造する工程でどれだけゴミや二酸化炭素を出さないようにミニマムにしているかという点なんです。さらに、靴を作る時の部品もなるべく減らして、あまり材料を使わないやり方にしています。
ーー靴の製造工程でゴミを出さないようにしているとのことですが、その開発に時間を要したそうですね。
はい。従来の靴の作り方なら、 正直、とても簡単に作れていたのかもしれないんですが、 私たちはできるだけ材料を省いていくということを重視しました。そのため、靴に仕上げるまでの製造過程の開発に2年ちょっと時間を要してしまいました。なるべく 人間と地球に対して、有害物質が出ない素材を使ったりという細かいところを突き詰めながら作っていきましたね。
ーーお店で靴を買うお客さんからは、エコな商品であることはわかりますが、実はその裏で環境に優しい工程で靴を作っているところが、他とは違うのですね。
商品として店頭に並ぶと、その靴がどうやって作られてるのかは見えづらいですが、私たちは見えない部分もきちっと、お客様に説明ができるようにしたいんです。人間が作りたいものを都合よい手法で作るなら、今までの環境への負担は何も変わりません。ですから、負担をかけない材質だったり、工程をシンプルにしていますが、これは作っていただく工員さんの労働時間の短縮にもつながります。地球環境にも人にも優しいモノづくりを追求している、そういうブランドです。
ーーオッフェンはフラットシューズだけを作っていますが、それはどうしてですか?
オッフェンがこだわっているのは、履き心地です。これには私が子育てで感じたことが反映されています。子育てをする前はヒール靴を履くことが多かったんですが、子育て中は、スニーカーやフラットシューズばかりを履いていました。 その一方で、おしゃれをしたいなという気持ちもあり、子供が走り出してもちゃんと追いかけていけるような、子育て女性にも喜ばれる靴があったらいいなと思っていたんです。
オッフェンの靴はフラットシューズの中に、バウンドするクッション性の高い中敷きを起用しているという特徴があります。スニーカーのような履き心地なのに、外から見たらすごくエレガントな靴なんですね。多くの女性に、ファッションを楽しむ気持ちを我慢しないでほしいと思い、その結果、履き心地とデザインの両方を重視したオッフェンの靴が生まれました。
ーーファンの方からは、フラット以外も作ってほしいというリクエストがありますか?
そうですね。実際、ヒールやパンプスが欲しいという声もいただいています。ただ、できるだけパーツを減らしてシンプルな工程で作りたいという軸があるので、ヒールをつけると、新しい素材を使わないといけなくなってしまいます。ですからフラットでもおしゃれなスタイリングにしています。
ーーオッフェンの靴は他にどんな特徴があるのでしょう。
オッフェンの靴はシーンに分けて揃えなくてもいいようにできています。例えば、子供の入学式の時にしか履かない靴とか、皆さんあると思います。普段は靴箱にしまっている靴とか。オッフェンの靴は、入学式にも職場にも履いていけて、休日のお出かけでも履ける。そういうシーン分けをしなくてもいつでも履けるように、生活の一部として、毎日履ける靴がいいなと思っていたんです。私はフラットシューズ推しですね。(笑)
ーー日坂さんがオッフェンの靴のデザインをしながら、こんな女性が増えたらいいなという願いやビジョンはありますか?
今は、活躍する女性がかなり増えていると感じます。「良い靴は、履き主を良い場所へ連れて行ってくれる」という言葉もありますが、オッフェンはそんな靴であってほしいなと思います。オッフェンを履いてくださるお客さんには子育て中の方もたくさんいますね。
今の時代は働き方も変わり、女性が外で活躍しています。そんな時にどこでも駆け回れるように、オッフェンの靴を履いていろんな場面で活躍してほしい、そんなの想いをこめています。自分の今おかれた生活や環境を、自分自身でコントロールしながら働いていきたい、そう考える女性たちを応援する存在の靴でありたいなと思います。私自身も、今までキャリアを積み、いったん子育てをして、また復帰するという時に、また頑張ろうと助走をかけながらやってきました。ですから、多くの女性にとってそんな風に背中を押してくれるような靴になってほしいですね。
ーー日坂さんは、日々忙しい中でも環境のことを考えてお仕事されてると思います。頭では環境に優しくすることが大切だとわかっているけれど、環境のために行動することができないと感じる方は、どうしたら環境問題がもっと身近になるのでしょう。
あんまり難しく考えないことが大切かなと思います。私の場合、自分の生活範囲の中で無理がないようにしていますし、特別なことをする、ということではないと思います。 ペットボトル1つでもきちっとリサイクルできるように、正しいゴミの出し方をすることもすごく大事なことです。
私はもともと、もったいない精神を昔から教育されてきたので、例えばご飯1つ作っても、残さないということを子供に教えています。生活する中でたくさんヒントがあると思うんですよね。 新しいものを買う前に、本当に必要なものかを考えたり、こういうことも、立派な環境のためのアクションだと思います。
世の中便利になっているので、当たり前に思ってることでもできることがたくさんあります。例えば、できるだけ車に乗らず歩くことだったり、待機充電を使わず自分で体を動かして掃除をするとか、そういったことも大事だと思いますね。
ーーオッフェンのブランドを通じて、社会にどういった変化を起こしたいですか?
オッフェンは、「小さな1歩でも 大きく変わることができる」ということを信念として活動しています。今の世の中、たくさんの情報がありすぎて、何が本当に良いものなのかわからないという状況です。例えば化粧品もいろいろありますが、専門的な成分の知識がなければ何を選んだらいいかわかりません。こういう生活者の疑問を解決していくために、オッフェンはファッションの分野で、明確に正しい情報を発信していく責任があると考えます。生活者の方にも、正しい情報をキャッチし何が本当に必要なのかということを考えていって欲しいですね。
ーー新しい試み?
オッフェンでは、新しい取り組みとして、靴のリサイクルプロジェクトを進めています。靴は多くのパーツで作られているため、リサイクルが難しいとされていますが、私は靴にも「捨てる」以外の方法があるはずだと感じていました。そこで、靴を廃棄するのではなく、次の持ち主に受け渡す仕組みを作ることにしました。このプロジェクトでは、10月から靴の回収を始め、修理や洗浄を行い、古着として再販する予定です。販売開始は11月から12月を予定しています。
日坂 さとみ (SATOMI HISAKA) / オッフェンプロデューサー
関西在住。20代から10年以上にわたり人気セレクトショップのバイヤー/デザイナー/VMDを手掛けるクリエイティブディレクターとして活動していましたが、現在では1児の母として育児と仕事をしながら、自然と触れ合う事を大切にゼロウェイストの生活を送っています。2020年 、一般社団法人エシカル協会が主宰する「エシカル・コンシェルジュ・オンライン講座」修了。
公式サイト:
ライター:プロフィール
著者:堀江知子(ほりえともこ)|タンザニア在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2022年からはタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。
noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。