
ひとりっ子として育った私は、誰かと自分の気持ちや体験を共有する機会がほとんどありませんでした。
母はとても厳しく、アメリカで育つ娘に日本的な「ルール」を強く求めました。
幼い私にとって、それはとても怖く、そして混乱に満ちた時間でした。
「二つの文化に属することは美しいこと」——そんな理解にたどり着くには幼すぎて、
6歳の私には、どちらの世界にも完全には馴染めないという、きゅうくつな感覚しかありませんでした。
霧のような混乱の中で、私は「わからないこと」に慣れ、何が起きても自分で解決しようとするスキルを身につけました。
何か辛いことや怖いことがあるたびに、私は心の中でこうつぶやいていました。
「大丈夫、わたしがなんとかする。」
子ども特有の繊細な心を守るため、私は懸命に強がりの壁を築き、“わかっているふり”をしていました。 今振り返れば、それは本当の強さではなく、どこか脆く、不安定な「なんちゃってレジリエンス」だったのです。
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レジリエンスとは何か
「レジリエンス」という言葉は、近年よく耳にするようになりました。
研究者であり作家のブレネー・ブラウンが著書『Rising Strong』の中で述べているように、
レジリエンスとは「うまく苦しむ力」——つまり、困難な感情と向き合い、失敗から学び、
意図と自己への思いやりを持って前に進む力を指します。
心理学的には、逆境やトラウマ、強いストレスに直面したときに、うまく適応し回復する力のこと。
それは困難を避けることではなく、しなやかさ・勇気・感情的な強さをもってそれを乗り越える力です。
ある論文ではレジリエンスを “ordinary magic(ありふれた魔法)” と呼んでおり、私はその表現がとても気に入っています。
私自身が好きなのは、レジリエンスを物ごとの性質として捉える考え方です。
つまり、「外からの圧力を受けても元の形に戻る力」「弾力性」や「エネルギーを吸収して放出する柔軟さ」。
別の論文では、この言葉の過剰使用に疑問を投げかけ、
「形を取り戻す前に、まず圧力の原因を取り除くことの大切さ」を説いていました。
この考えに触れたとき、ようやく腑に落ちたのです。
レジリエンスとは「無限に耐える力」ではなく、圧力に耐えたあと、きちんと回復する力。
そして硬くなることではなく、柔らかく戻る力こそが、本当のしなやかさなのだと。
レジリエンスの育て方
アメリカ心理学会(APA)は、次のように述べています。
「レジリエンスを高めるのは筋肉を鍛えるのと同じ。
時間と意識的な練習が必要です。
“つながり・ウェルネス・健全な思考・意味”の4つの要素を意識することで、
困難やトラウマから学び、乗り越える力を強化できます。」
つまり、レジリエンスは一夜にして身につくものではなく、
日々の小さな選択とセルフケアの積み重ねで育つもの。

私が誤解していた「強さ」と「しなやかさ」
私はずっと、レジリエンスを「耐える力」だと思っていました。
どんなにつらくても、倒れずに立ち続けること。
でも実際は、形を取り戻せていなかったのです。
完璧主義はやがて不安障害へと変わり、
「コンパートメンタライゼーション(心の分離)」という言葉を知ったとき、
まるで自分のことだと感じました。
感情を切り離し、見ないふりをすることが、私の生き延びる術でした。
しかしそれは、しなやかさではなく、硬さと分断を育てていたのです。
困難な環境を生き抜くための防衛反応は、
時間が経つとともに、自分を蝕む“古い鎧”になっていました。
本当のレジリエンスを育てるには、
外からの支えと、内側のやさしさの両方が必要なのだと、今ならわかります。
私の「レジリエンス・プラクティス」
大学時代、私にとってのレジリエンス練習は「癒しの時間」でした。
他の学生が自由や冒険を楽しむなか、私は静かに自分を整えていました。
- 朝のノート時間で心を整える
- 友人たちと笑い合う夜を楽しむ
- ジムで体を動かし、食事で自分を養う
- カウンセラーに話を聞いてもらう
こうした小さなセルフケアが、
私の中の「自己信頼」をゆっくりと取り戻してくれました。
大学を早期卒業した頃には、
「努力すること」よりも「自分を慈しむこと」が、
本当の強さだと気づくようになっていました。
大人になってからのレジリエンスの磨き方
40代の今、私は20代で築いたセルフケアをより深く実践しています。
- 批判的な内なる声に気づき、やさしく修正する
- 体・心・人間関係をバランスよく育てる
- 自分を追い詰めず、軽やかに挑戦する
- 真剣になりすぎず、「楽しむ力」を取り戻す
こうした実践が、心の弾力性=レジリエンスを支えています。
レジリエンスとは「痛みに耐える力」ではなく「喜びを感じる力」
レジリエンスとは、「強く立つこと」ではなく、「やわらかい自分に戻ること」。
それは、心が折れそうな瞬間に、自分をそっと抱きしめるような小さな選択の積み重ねです。
泣いても、止まっても、また立ち上がれる。
そんな“しなやかな強さ”こそが、これからの時代を生きる力なのだと思います。
—— Humming 編集部

ライター:プロフィール

インタビュー:條川純 (じょうかわじゅん)
日米両国で育った條川純は、インタビューでも独特の視点を披露する。彼女のモットーは、ハミングを通して、自分自身と他者への優しさと共感を広めること。