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「骨密度」は40代から大きくダウン。症状ナシの「骨危機」を防ぐ、医師に聞く「体幹×骨」を鍛える「ゆる筋トレ&食事術」 【整形外科 かおるこHappyクリニックの伊藤薫子院長インタビュー】

Written by
堀江知子(ほりえ ともこ)

 

 

「なんだか最近、疲れやすくなった」「昔より体力が落ちた気がする」—40代を迎え、そんな小さな変化を感じていませんか?それは、閉経前後の女性ホルモンの変化に、体が一生懸命対応しようとしているサインかもしれません。

 

この時期の女性の体は、骨の健康において静かなターニングポイントを迎えています。でも、これは未来のあなたをもっと輝かせるための準備期間でもあります。今回は、ご自身の経験から「骨活」の大切さを知った整形外科医の伊藤薫子先生に、忙しい毎日でも無理なく続けられる、骨の健康によい習慣を伺いました。

 

この骨活が、実はシワやたるみといった美容のお悩みにもつながっているという意外な真実も。この機会に、未来の自分を支える土台を一緒に整えていきましょう!

 

 

ーー 伊藤先生が骨活を提唱されるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

 

私自身、元々は整形外科医として手術をやりたくてこの道に進みました。正直、骨粗しょう症は内科の範疇かなと思っていた時期もあります。

 

しかし、私が40歳の時、スキーで、すねの骨折をしてしまい、緊急手術を受けた際、先輩の先生から「ああ、もう骨粗しょう症でね、骨がつかないかもしれないね」と言われたんです。半分冗談だったと思いますが、40歳でそんなことを言われたら「え?」ってなりますよね。

 

それまで骨が折れやすいとか、骨がつかないということを全く意識していなかったのですが、この経験から「やはり骨は大事なんだ」と痛感しました。

 

特に女性は、閉経後3年から5年ほどの間に女性ホルモンの変化で骨密度が下がるという事実があります。症状は全くないのですが、この段階で予防をすれば、骨密度の低下を緩やかにすることができるのです。

 

これまでは、骨折をしてから病院で治療し、次の骨折を防ぐための対策を始めるという段階でしたが、今はもっと事前にその危険が分かります。だからこそ、皆さんにその情報を伝え、骨活についてしっかりお話させていただいています。

 

 

ーー 骨密度が下がっても症状がないというのは怖いですね。実際に、私たちはどのようなサインに気をつければ良いのでしょうか?

 

サインは残念ながらないですね。だからこそ、どんな方法でも構いませんので、骨密度を測ってもらって数値化することが一番大切なんです。

 

 

“骨密度検査は義務項目ではなく、自分で情報を得て受けに行く必要があるため、特に閉経前や40歳になったら一度は検査を受けてほしいと勧めている。”

 

 

 

ーー 骨密度の検査は、具体的にどうすれば受けられますか?

 

本来であれば、人間ドックや会社の特定健診、あるいは自治体の検診でも測れることがあるのですが、骨密度検査は義務的な項目に含まれていないことが多いです。

 

人間ドックでもオプションだったり、自治体によっては40歳から5年おきなどに測れるところが多いですが、自分で情報を取りに行かないと受けられないのが現状です。

 

内科、婦人内科、婦人科、整形外科など、どんなクリニックでも測れますし、自治体の検診でも可能です。とにかく、閉経前、40歳になったら一度は測っていただきたいと思っています。

 

 

ーー 自治体によっては5年ごとというところもあるようですが、先生としてはどれくらいの頻度で測るのが理想でしょうか?

 

日本人の閉経の平均は45歳から54歳です。まず、40歳になったら節目として一度検査をしていただきたいです

 

その後は、やはり閉経後5年までは、できれば毎年、1年に1回は測っていただくと良いと思います。

 

 

骨と女性ホルモンの関係

 

ーー 骨密度が下がる時に症状はないとのことでしたが、日常の疲労感などは骨密度低下と関連がありますか?

 

疲労感や、手の関節の痛み、膝の痛みといった症状を、骨密度低下のサインではないか、とよく聞かれます。

 

しかし、これらの症状はどちらかというと、女性ホルモンが減ってきて不安定になっているサインなんです。つまり、女性ホルモンの変動があって少なくなっているということは、骨のバランスも悪くなっているというサインとイコールなんですね。

 

 

 

 

ーー 更年期の症状と骨密度の低下は連動しているということですね。

 

はい。更年期の症状というと、ホットフラッシュや気分の落ち込み、不眠などが知られていますが、実は300個ぐらい症状があると言われています。肩こりや腰痛の悪化、手の指のこわばりや痛み、五十肩、変形性膝関節症なども含まれます。

 

病院に行くほどではないけれど「つらいな」と感じる不定愁訴のほとんどが、女性ホルモンの変動に関係しています。

 

昔は平均寿命が50歳だったので、50歳で女性ホルモンが少なくなり寿命を迎える時代でしたが、今は50代以降も50年近く生きていきます。その「あと50年をどうやって元気に女性らしく生きるか」ということが、女性にとって最大の課題だと考えています。

 

 

筋トレと骨の健康

 

ーー 50代以降を元気に生きるために、私の周りでも40代の女性が筋トレを始める人が増えています。筋トレは骨の健康にも良い効果があるのでしょうか?

 

はい。骨が土台にあって、プラス筋肉。骨だけが強くても転んで骨折しますし、筋肉だけでも骨はカバーできません。

 

骨が弱くなるのが骨粗しょう症、筋肉が弱くなるのはサルコペニアと言われています。これらを防ぐことは、医療業界でも非常に重要視されていますので、筋力はつけてもらいたいです。

 

 

“女性ホルモンの減少期には筋力低下や代謝悪化が起こりやすく、無理な筋トレは関節や骨を痛める原因になるため、40代以降はストレッチやピラティスなど無理のない運動が勧められる。”

 

 

 

ーー 筋トレをする上で注意点はありますか?

 

女性ホルモンが少なくなると、筋力も低下しますし、代謝が悪くなるので太りやすくもなります。筋肉をつけることは良いことですが、間違った方法で無理をしてやると、かえって痛めてしまうことが多いんです。

 

女性ホルモンは関節をスムーズにする働きもあるため、急激に少なくなる時期に、今まで通り、あるいはさらに負荷をかけて筋トレをすると、痛みが出やすいんですね。

 

ですから、急に頑張るのではなく、状況を見ながら負荷をかけすぎずにやること、例えばストレッチやピラティスなどがお勧めです。急にバーベルを上げたりするような激しい筋トレは、骨折のリスクもありますので、特に40代からは注意が必要です

 

 

ーー 先生ご自身も骨折後に体幹の衰えを感じられたそうですね。

 

はい。骨折が治った後、駅の階段がうまく降りられなかったんです。骨も関節も悪くないのに、なぜだろうと思ったら、体幹のインナーマッスルが落ちていたんです。

 

背骨を支えるインナーマッスル(横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋)がしっかりしていないと、上手に歩けないし、重力に勝てないことが自分の実感としてよく分かりました。

 

骨活プログラムのエクササイズでは、ガチガチになった体を急に動かすのではなく、まず緩めてあげることを重視しています。特に現代の生活スタイルでは、スマホやパソコンで体が凝り固まっているので、その状態で急に筋トレをすると痛めてしまうからです。

 

 

骨を強くするための効果的な運動と食事

 

ーー 骨を強くするための効果的な運動としては、どのようなものがありますか?

 

骨に直接刺激を与えるという意味で、一番簡単なのはやはりウォーキング、つまり歩くことだと思っています。かかとなどに刺激が伝わることで、骨を作る細胞である骨芽細胞が全身で活性化されるんです。

 

 

 

 

ーー ウォーキングのポイントはありますか?

 

ただ「歩きましょう」と言っても、皆さんの歩き方は様々で、ただ1万歩、2万歩と頑張って歩いても、かえって体を痛めてしまう方もいます。

 

大切なのは、短い時間で良いので正しい姿勢で歩くことです。

 

目安としては、週に2回から3回、15分から30分程度(4,000歩から8,000歩程度)で十分です。姿勢としては、みぞおちとおへそを伸ばし、お腹とお尻をキュッと締めて、頭は上から釣られている感じ、目線は前で歩くのが理想です。

 

疲れてきて姿勢が悪くなるくらいなら、5分でも10分でも、きちんと意識して歩く方が効果的です。この歩き方なら、かかとに刺激があるだけでなく、体幹も意識するので、尿漏れ対策(膣トレ)にもなり、一石三鳥くらいの効果が期待できます。

 

 

ーー 忙しい方でも「ながら」でできる運動はありますか?

 

はい、かかとの上げ下ろしです。地味で高齢者がやるイメージがあるかもしれませんが、とても効果的です

 

私がお勧めしているのは、トイレに行ったついでにやることです。洗面台などに手を添えて、真上に上がって、トンと降りるのを1回とします。これを10回を5セット、1日合計50回行います。トイレに5回ほど行けば達成できる回数です。

 

この時もウォーキングと同じで、体幹を意識し、前のめりにならずに真上に上がることを意識してください。マンションなどで音が気になる方もいるかもしれませんが、歩くのと同じくらいの体重のかけ方でトンと刺激を与えるだけで大丈夫です。

 

 

ーー 毎日の食事で意識した方が良い栄養素や食材はありますか?

 

骨イコールカルシウムというイメージが定着していますが、実は日本人は3食召し上がっていれば、一応1日の必要量(一般は600mg、骨粗鬆症予備軍は800mg)に近いカルシウムは摂れています。

 

ただし、カルシウムは腸からの吸収率が3割程度と低いんです。
そこで重要なのが、カルシウムの吸収率を上げるためのビタミンDと、骨の材料となるタンパク質です。

 

ビタミンD:日本人の女性の8〜9割が不足していると言われています。カルシウムの吸収を良くするだけでなく、認知症予防や免疫力アップにも注目されています。

 

    • 食材:鮭、サバ缶などの青魚、きのこ類
    • 対策:食事から摂るのが難しい場合は、サプリメントを利用したり、ビタミンD入りの卵などの食品を選ぶのも良いでしょう。

 

タンパク質:骨の材料です。一日に手のひら分くらいのタンパク質を摂ることをお勧めします。肉、魚、卵など何でも良いですが、特に40代以降の女性は吸収しづらいので、積極的に摂りましょう。

 

 

ーー 食事の工夫としてはどのようなものがありますか?

 

カルシウムと何かを一緒に組み合わせて摂ることが大事です。

 

具だくさんのお味噌汁:

 

    • 煮干しをだしにしてそのまま具として食べる(カルシウムが摂れます)。
    • 木綿豆腐などの大豆製品(タンパク質、骨密度アップに良いとされるエクオールの材料)を入れる。
    • カブの葉や大根の葉など(カルシウムが摂れます)。

 

骨ブロススープ(ボーンブロススープ):

 

    • 鶏手羽先などに塩と水、玉ねぎ、人参などを入れてひたすら煮込んだスープです。タンパク質や骨からの栄養が摂れます。
    • 冷凍して作り置きしランチなどに食べるのも簡単で良いですよ。

 

柑橘類との組み合わせ:

 

    • クエン酸やレモン、カボスなどの酸味を一緒に摂ると、カルシウムの吸収率が上がります。例えば、お味噌汁にカボスを一切れ入れたり、小魚を食べるときにレモンをかけたりするのがおすすめです。

 

 

骨密度低下のメカニズムと予防策

 

ーー 閉経前後で骨密度が下がりやすいのは、女性ホルモンが急激に下がってくるからということですが、改めてホルモンと骨の関係を教えていただけますか?

 

女性ホルモンは、骨を壊す細胞(破骨細胞)と骨を作る細胞(骨芽細胞)のバランスを保っています。閉経後、女性ホルモン(エストロゲン)が約10分の1ぐらいにまで減ってしまうと、このバランスが崩れ、骨を壊す細胞ばかりが働き、作る細胞が間に合わなくなってしまうんです。

 

その結果、骨密度が下がります。

 

また、「閉経後3年から5年」で骨密度が下がりやすいと言われるのは、全身の骨が全て入れ替わるのに3年から5年かかると言われているからです。ホルモンが減った状態で骨の入れ替えが進むと、気付いた時には骨密度が下がっている、というイメージですね。

 

 

“閉経後にエストロゲンが急減すると、骨を壊す細胞が優位になり骨密度が低下しやすく、特に閉経後3〜5年は骨の入れ替え周期により急激に減少しやすい時期とされている。”

 

 

日常生活での「骨活」と美容への影響

 

ーー 忙しい40代の女性が、日常生活で「これは実践できる」という骨活、運動、食事面での工夫を改めて教えていただけますか?

 

伊藤先生:

 

  1. ウォーキング:15分から30分を週に2〜3回。正しい姿勢を意識し、お腹とお尻を締めて歩く。
  2. かかと落とし:トイレに行ったついでに10回。洗面台などに手を添え、真上に上がってトンと降りる。
  3. 食事の工夫:カルシウム、ビタミンD、タンパク質を意識して摂り、特にカルシウムの吸収率を上げる食べ方(酸味と合わせるなど)を工夫する。
  4. 日光浴:1日15分程度の紫外線を浴びることで、必要なビタミンDの約8割を作ることができます。日傘をさしていても、手のひらなど日焼け止めを塗らない部分だけでも太陽に当てましょう。
  5. 体のケア:デスクワークの合間に、鎖骨の下や肋骨の間をほぐしてあげたり、深い呼吸を意識して行ったりすることで、凝り固まった体を緩め、インナーマッスルを使いやすくします。

 

 

 

 

ーー 日に当たるのも骨に良いのですね。

 

はい。ビタミンDを作るためには、食事以外に皮膚から紫外線(日光浴)で合成する必要があるんです。ただし、シミやシワ、がんなどのリスクもあるので、顔などは日焼け止めを塗って守ってくださいね。

 

 

ーー 骨活は美容にも関係するのでしょうか?

 

伊藤先生: はい、実は深く関係しています。骨密度が下がると、頭蓋骨も骨なので萎縮して(縮んで)きます。そうすると、その上に乗っている筋肉や皮膚がたるんできて、シワやたるみの原因になることが分かっているんです。

 

骨が元気でなくなると、目の周りのしわや輪っかが大きくなって目がくぼんできたり、顎が小さくなってたるみができたりと、美容面での影響も大きいんです。

 

ーー 体の健康だけでなく、美容にも繋がるというのは非常に興味深いです。

 

伊藤先生: ええ。骨が元気になれば、全体的に元気に綺麗になるということなんです。女性がいくつになっても背筋を伸ばして綺麗で元気でいるために、骨活は欠かせないと思っています。

 

 

“骨粗しょう症で最も危険なのは背骨や大腿骨の骨折で、命に関わる合併症を招く恐れがあるため、症状がなくても骨密度検査や日常的な「骨活」で早めの予防が重要とされている。”

 

 

 

骨粗しょう症の怖い現実

 

ーー 最後に、骨活がどれほど大切かお聞かせください。

 

骨粗しょう症になって一番怖いのは、背骨の圧迫骨折と、足の大腿骨の骨折です。

 

特に大腿骨の骨折は、高齢者の場合、骨折後1年以内に10%の方が亡くなるという現実があります。手術をしても、肺炎や尿路感染などの合併症で命に関わるケースが少なくないんです。

 

また、背骨の圧迫骨折は、骨が潰れてそのまま固まってしまうことで、背骨が曲がり、姿勢が悪くなってしまいます。姿勢が悪いだけではなく、飲み込みが悪くなって逆流性食道炎や誤嚥性肺炎を起こしたりする原因にもなります。

 

「いつのまにか骨折」といって、痛みを感じないまま背骨が潰れ、身長が2〜4センチも低くなることもあります。

 

症状がないからこそ、皆さんに関心を持ってもらうのは難しいのですが、骨密度を測ること、そして日常のちょっとした意識でできる「骨活」は、将来の生活や命に関わる大切な予防策なんです。

 

 

ーー 貴重なお話をありがとうございました。症状がない中で対策するのは難しいと思っていましたが、ウォーキングやかかと落としなど、今日から取り入れられる具体的なアイデアをたくさん伺えました。

 

無理せず続けられることが大事です。骨だけでなく、女性の体に必要な必須要素なので、続けていれば元気に綺麗になれると思いますよ。

 

 

 

 

プロフィール:

伊藤薫子

かおるこHappyクリニック院長
⽇本整形外科学会専⾨医
⽇本整形外科学会認定脊椎脊髄病医

2002年東京女子医科大学卒業、同年慶應義塾大学整形外科入局。関連病院勤務を経てアメリカ Cleveland Clinic留学。帰国後、慶應義塾大学病院骨粗しょう症外来担当。2021年7月「いくつになっても背筋を伸ばしてハイヒール」をモットーに「女性のための整形外科 かおるこHappyクリニック」を帝国ホテル東京にて開業。骨粗しょう症の予防として『骨活プログラム』を主宰。全国、海外からも骨密度検査や予防、治療に通院されている患者さんが多数。

 

HP: https://kaoruko-happyclinic.com/

インスタグラム:https://www.instagram.com/kaorukohappyclinic/

Dr.クロワッサン 一生歩くための骨活。 (MAGAZINE HOUSE MOOK) ムック – 2024/10/7

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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