
卵巣がんは、女性特有のがんの中でも発見が遅れやすく、死亡率が高い病気の一つです。
初期にはほとんど症状がなく、腹部の膨満感や下腹部の違和感が現れたときには進行していることも少なくありません。
この記事では、卵巣がんの特徴や発見が遅れる理由、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。
Contents
卵巣がんとは
卵巣がんは、卵巣に発生する悪性腫瘍で、日本では年間約1万3千人が診断されています。
婦人科がんの中では比較的少ないものの、死亡率は高く、罹患すると2人に1人は死に至るのが特徴です。自覚症状がほとんどなく、発見された時点で進行しているケースが多く、“サイレントキラー”と呼ばれています。
卵巣がんは大きく分けて以下の種類があります。

- 上皮性腫瘍:卵巣がんの約90-95%を占め、卵巣の表面の細胞から発生します。
- 胚細胞腫瘍:卵子をつくる細胞から発生し、若い女性に多いタイプ。
- 性索間質腫瘍:ホルモンをつくる細胞から発生し、女性ホルモンや男性ホルモンを分泌するため、月経異常や体毛の変化が現れることがあります。
さらに、卵巣だけでなく卵管や腹膜に発生するがんも、卵巣がんとほぼ同じ性質を持つため、まとめて扱われることが一般的です。
卵巣がんの進行の程度は「ステージ」で表されます。
| ステージ | 進行の程度 |
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I期
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がんが卵巣の中にとどまっている |
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II期
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がんが骨盤内に広がっている |
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III期
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がんが腹腔内やリンパ節にまで広がっている |
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IV期
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がんが肝臓や肺など遠くの臓器に転移している |
卵巣がんの症状
卵巣がんは初期の段階ではほとんど症状がなく、自覚できることは少ない病気です。一般的には腫瘍がある程度大きくなってから不調が現れます。また、生理不順や不正出血が出ることは少ないため、見逃されやすい特徴があります。
代表的な症状としては次のようなものがあります。
- 下腹部の膨満感や張り(腫瘍が大きくなって腹部を圧迫するため)
- 食欲不振やすぐに満腹になる感覚(腫瘍や腹水が胃や腸を圧迫するため)
- 便秘や頻尿(腫瘍が腸や膀胱を圧迫するため)
これらの症状は、日常生活でよくある不調と区別がつきにくい点が特徴です。
さらに病気が進行すると、腹水がたまることでお腹が膨らみ、呼吸がしづらくなる場合もあります。
関連記事:乳がん検診は何歳から受けるべき?年齢別の必要性と検査内容
卵巣がんの原因・リスク因子
卵巣がんの明確な原因はまだ解明されていませんが、いくつかの要因がリスクを高めることがわかっています。
年齢と排卵回数
卵巣がんは年齢とともにリスクが高まります。
特に閉経後の女性に多く、初潮が早い、閉経が遅い、出産経験が少ないといった条件は排卵回数が増えることにつながり、リスク因子とされています。逆に、排卵を止める低用量ピル(低用量エストロゲンプロゲステロン(LEP)製剤や経口避妊薬など)の常用はリスクを下げます。
子宮内膜症からの癌化
子宮内膜症は卵巣がんのリスク因子のひとつです。特に、卵巣にできる「チョコレート嚢胞」は、数年〜数十年の経過でごく一部ががん化(悪性化)することがあります。
そのため、子宮内膜症がある方は定期的に婦人科で経過を確認し、嚢胞の大きさや変化をチェックすることが大切です。
遺伝的要因と家族歴
BRCA遺伝子(BRCA1・BRCA2)と呼ばれる遺伝子は、本来、細胞の中で壊れたDNAを修復する働きを持っています。ところが、BRCA遺伝子に異常があるとDNAの修復がうまくできず、細胞の傷が直らないまま蓄積してしまい、結果としてがんができやすい状態になります。
受精胚の段階からBRCA遺伝子に病的な変異がある場合、その変異は身体のすべての細胞に起こります。この状態は「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれ、一般の人に比べて、若い年齢でも卵巣がんや乳がんを発症するリスクが高くなります。
家族に若くして卵巣がんや乳がんを発症した人がいる場合は、同じ体質を受け継いでいる可能性があるため注意が必要です。このような遺伝性が確認された乳がん患者さんは、卵巣がんを発症する前に予防的に卵巣・卵管を内視鏡手術によって摘出しておくこともできます。
生活習慣や体質
肥満や糖尿病を抱えている場合、体内のホルモン量が普段より多くなります。
ホルモンは体を保つために必要ですが、多すぎると細胞が無理に働き続けるため、卵巣に負担がかかります。そのため、卵巣がんを発症するリスクが高くなると考えられています。
卵巣がんの検査・診断方法
卵巣がんは自覚症状が乏しく、また子宮頸がんのような“がん検診”もないため、見つけにくい病気です。婦人科を受診した際に内診や経腟超音波検査で偶然発見されることが多いです。
そのため、疑わしい症状や画像検査で異常が見つかった場合、詳しい検査を行って診断します。
画像検査
超音波検査(エコー)は、卵巣の腫れやしこりを確認する基本的な検査です。とくに内診で腟から行う経腟超音波検査が有用です。さらに、CTやMRIといった画像検査によって腫瘍の質(悪性か良性か)や広がりや転移の有無を調べます。
腫瘍マーカー
血液検査で測定する腫瘍マーカーは、卵巣がんの診断や治療の経過観察に用いられます。代表的なものがCA125です。
CA125は卵巣や子宮の表面から分泌される糖たんぱく質で、卵巣がんの患者で数値が高くなることがあります。ただし、子宮内膜症や月経、妊娠といった良性の状態でも上昇するため、単独では確定診断に使えません。
病理検査
最終的な診断は、手術で得られた組織を顕微鏡で調べる病理検査で確定します。そのため、卵巣腫瘍の診断を確定させるためには手術が必須です。画像検査はあくまでも推定であり、病理検査によって腫瘍の種類や悪性度を判定し、治療方針を決めます。
卵巣がんの治療方法
卵巣がんの治療は、がんの進行度(ステージ)、組織型、患者さんの年齢や妊娠の希望などを考慮して決められます。
標準的な治療の柱は手術と抗がん剤治療ですが、近年は新しい薬も導入されています。
手術療法
卵巣がんの基本的な治療は手術です。がんという診断を確定させるためにも手術による摘出が必須となります。また卵巣、卵管、腹膜のどこのがんなのかを決めるために手術による腹腔内所見が必要です。
卵巣や子宮、卵管に加えて、大網やリンパ節を切除し、がんをできる限り取り除きます。がんを完全に切除できるかどうかが、その後の予後に大きく影響します。
患者が妊娠を希望する場合は、条件が合えば卵巣や子宮を残す妊孕性(にんようせい)温存手術が検討されることもあります。
化学療法(抗がん剤治療)
手術後に行われることが多い治療で、再発を防ぐ目的があります。標準的には白金製剤とタキサン系抗がん剤を組み合わせて投与します。
がんが広く進行していて最初からすべてを取りきるのが難しい場合には、先に抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行うこともあります。
分子標的薬
近年は、がん細胞の性質を狙い撃ちする薬も使われるようになってきました。がんが新しい血管を作って広がるのを防ぐ「ベバシズマブ」や、DNAの修復がうまくできないがん細胞を狙って死滅しやすくする「PARP阻害薬」などが代表的です。ただし、これらの薬はすべての人に使えるわけではなく、患者の遺伝子や腫瘍の特徴によって適応が判断されます。
放射線治療
卵巣がんの一次治療で使われることはほとんどありませんが、再発や転移で痛みなどの症状が強い場合に、緩和的な目的で用いられることがあります。
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まとめ

卵巣がんは、初期には症状がほとんどなく、進行してから見つかることが多いため注意が必要ながんです。実際、5年相対生存率はⅠ期では約93%である一方、Ⅳ期では約28%と大きな差があり、早期発見が予後を左右することがわかっています。完全に予防することは難しい病気ですが、生活習慣を整えることや、自分や家族の体質を知ること、そのために婦人科で健診をうけることは進行がんのリスクを減らす一助になります。
卵巣がんは手術や抗がん剤治療に加えて、新しい薬の導入により治療の選択肢が拡大されています。気になる症状がある場合には、ためらわず婦人科医や、婦人科がんの専門医に相談し、早めの診断と適切な治療につなげていきましょう。

監修者:プロフィール

略 歴
1993年 東北大学医学部医学科 卒業
1993年 東京大学医学部産科婦人科学 研修医、同医員
1996年 厚生労働省ヒューマンサイエンス振興財団 リサーチフェロー
(国立感染症研究所)
1998年 東京大学医学部産科婦人科学 助手
1999年 埼玉県立がんセンター婦人科 医員
2000年 東京大学医学部産科婦人科学 助手
2003年 米国ハーバード大学産婦人科リサーチフェロー
2005年 東京大学医学部産科婦人科学 助教
2011年 東京大学医学部産科婦人科学 講師
2013年 東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 准教授
2016年 日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野 主任教授
2020年 日本大学医学部附属板橋病院 副病院長
2021年 日本大学医学部附属板橋病院 病院長補佐
現在に至る
資格
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、産婦人科指導医
日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医、婦人科腫瘍指導医
日本臨床細胞学会 細胞診専門医
日本性感染症学会 性感染症認定医
母体保護法指定医
など
受賞等
2004年 米国生殖医学会(ASRM) 免疫部門優秀賞
2005年 米国産婦人科学会 基礎系(SGI) 会長賞
2008年 アジアオセアニア性感染症・腫瘍学会(AOGIN) 最優秀賞
2009年 日本産科婦人科学会 学術奨励賞
2010年 日本産科婦人科学会 グッドプレゼンテーション賞
2011年 日本癌治療学会(第49回) 優秀演題賞
2012年 日本医師会医学研究奨励賞
2015年 神澤医学賞 (神澤医学研究財団)
2015年 性の健康医学財団賞
2016年 東京都医師会医学研究奨励賞
2023年 日本癌治療学会(第61回)最優秀演題賞
学会活動・国際活動など
日本産科婦人科学会 常務理事(広報委員会委員長)
日本婦人科腫瘍学会 常務理事(専門医制度委員長)
日本産婦人科感染症学会 副理事長
日本産婦人科乳腺医学会 副理事長
日本性感染症学会 監事、評議員
日本思春期学会 常務理事
日本臨床細胞学会 理事、評議員
など