丁寧な手仕事を支える、暮らしの軸【料理家 麻生要一郎のお気に入りLIST】
その道のプロに聞く、今の自分に必要なお気に入りアイテム。今回は、料理家 麻生要一郎さんに3つの大切なアイテムを見せていただきました。
毎日の生活に欠かせない自分らしい流儀
じんわりと心にしみる、優しい味が人気を集める麻生要一郎さんのお弁当。屋号を付ける暇もなく、クチコミで広まっていったという撮影現場やイベントでのお弁当やケータリングに加え、インスタグラムで発信する毎日の食卓の様子もほのぼのと癒されます。みんなの心を惹きつける味わいはどこから生まれる? 麻生さんの日常や仕事を支えるエッセンシャルアイテムを拝見。
お弁当のお品書きに欠かせない筆記用具
ある日友人から「撮影があるからお弁当持ってきて」と頼まれ、作って持っていったことから、料理にまつわる仕事のすべてが始まったという麻生さん。そこで食べた人から次の現場のお弁当を依頼され、数珠つなぎにクチコミで広がっていったそう。
「お弁当作りを仕事にしようと始めたわけでなく、屋号もなかったんです」といい、頼んでくれた人がお弁当の中身を聞かれたとわからないと困るだろうな、という気遣いから始めたのが手書きのお品書きだといいます。筆ペンで丁寧に書かれたそれは、味のある存在感が評判となり、麻生さんのお弁当の象徴となっています。愛用しているのは、鳩居堂の便箋「鳩だより」と、くれ竹の筆ぺん「筆ここち」シリーズ。
「書き心地が快適で、“筆ここち”の太さ違いでたくさん持っています(笑)。届ける人のことを思い浮かべながら、書いている時間も好きなんですよ」と語る麻生さん。そんなお気に入りの仕事道具は、茨城のご実家から受け継いだ漆器のケースに大切に入れられています。
7年ほど続けている、自家製ぬか漬け
日々の暮らしの積み重ねを大事にし、パートナーとの食卓を毎晩インスタグラムにアップしている麻生さん。度々登場する漬物は、今の家に越してきた6~7年前から育て続けているぬか床によるものだそう。もともと味噌入れだった味わいのあるつぼ型の陶器に入った、白みそのようなきれいな色のぬかは丁寧に手入れされている様子がうかがえます。
「特にキュウリが好きで、わりとオーソドックな野菜を漬けています。あまり神経質でも続かないのですが、生き物を育てるように毎日手をいれてかき混ぜるのが日課になっていますね」
普段のご飯作り同様に、どうしてもおっくうになってしまいがちな行為も、麻生さんのなかでは自分の軸となる、大事な時間のようです。
「少しづつ、味は変わっているように思いますが、百貨店ででている漬物屋さんのぬかを買ってきて入れてみたり、たまに活性化しています」といい、変化する味わいを楽しんでいるようです。
ランダムに積み重ねられたお気に入りの器
キッチンカウンターの上に、積み重ねられたお皿。普段の食事は、料理を作り上げてから、即興で合いそうな器をセレクトして盛り付けることが多いそう。ご実家から受け継いだ洋風の食器や、数年前に自身が養子となり親子関係にある姉妹から頂いたというアンティークの器、旅先で出合った焼き物など、これまでの人生を物語るようなアイテムが集まっています。
「土器っぽい、厚みがあって丈夫な焼き物が好きですね。神経質になりすぎず、少々斜めに重なっても大丈夫なので(笑)」
器とは自然な出合いを大切にしていて、最近では青山のギャラリー、DEE’S HALLで見つけた東欧のアンティークのお皿を気に入っているほか、スケボーに乗って器の行商をしている友人「器 つか本」から益子焼を購入することも。
「こういう用途の器が欲しいと伝えると、要望に合わせた益子焼をいろいろと持ってきてくれるんだけど。小鉢が欲しいなと思ったのに、この器が麻生さんの食卓に合いそうで、なんて言われて最初の要望とは全然関係のない器を買ったり。彼の視点で新しい発見や出合いがあったりするのが、新鮮で楽しいんです」
普段ご飯を食べにくる友人たちも気負わない、リラックスできる空間は麻生さんのそんなラフでユニークなお皿選びからもつくり上げられているようです。
profile
麻生要一郎(あそうよういちろう)
料理家。家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月に発売した第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も好評。
Instagram @yoichiro_aso
PHOTO = 角田明子