暮らしのなかで物語を育む、エターナルな愛用品【森岡書店 店主 森岡督行のお気に入りLIST】
その道のプロに聞く、今の自分に必要なお気に入りアイテム。今回は、森岡書店 店主 森岡督行さんに3つの大切なアイテムを見せていただきました。
時の流れを慈しむ、独自の審美眼
「一冊の本を売る本屋」というユニークなコンセプトで、銀座に店を構える森岡督行さん。昭和初期の歴史ある建造物にある店内では週替わりで一冊の本と、その本にまつわるギャラリーを展開、人と情報が集まる場として進化を続けています。そんな文化発信地の中心にいる森岡さんが、ずっと変わらず大事にしているアイテムとは?
家族の歴史が刻まれた、三谷龍二さんの木のスプーン
無駄のない、磨きあげられた美しさ。折に触れて買い集めているという木工作家 三谷龍二さんの木のスプーンは、森岡さんにとって思い入れのあるアイテム。
「娘が3、4歳と小さかったころ、ヨーグルトがあまり好きではなかったんですが、あるときこのスプーンをだしたら、パクパク食べたんです」
どうしたの?と聞いたら、「好きな絵本に出てきた木のスプーンと一緒だったから食べたくなった」と言って食べ始めたのだとか。
「しかも『美味しい』と言って食べていて、味が変わるはずはないのですがすごいことだな、と。スプーンにはそんな思い出とともに娘ががりがりと噛んだ跡もついています(笑)」
暮らしのなかで長年使っていると個人や家族の思い出が反映されて、カトラリーは“ 道具”という概念を超えて“家族のアルバム”になる。ーーそんな三谷さんのモノづくりの精神に、森岡さんはとても共感していて「まさに自分もその体験ができたな、と思って。そういう視点ってこれからとても大事なことだな、と感動したんです」。
山形・寒河江市発、唯一無二のハイゲージニット
森岡さんの出身地、山形県寒河江市のニットメーカー、佐藤繊維が手がけるオリジナルブランド「991」。そのサステナブルなコンセプトに共鳴し、2020年にコラボレーションして作ったのがこちらのラウンドネックのニット。
「このとろけるような目の細かいハイゲージは、他になく、カットソーのように4シーズン着られて重宝しています。佐藤繊維さんのオリジナルの糸から作られていて、すべて地元産という背景も素晴らしいんです」
“RaYS(レイズ)”というオリジナルの糸は、有害物質を使うことなく独自技術の有機物でウォッシャブルを実現し、ニットに仕立てるまでのすべてを山形で製造しているのだとか。
「寒河江市でGEAというセレクトショップやオーベルジュを運営、羊にとってストレスフリーな環境を維持する牧場と取引するなど、地産地消や環境に配慮した新しい取り組みをされていて常に刺激を受けています」
長く愛用できるベーシックなニットは、今年の秋にコラボレーション第2弾の新作を販売予定とのことなので、ぜひ注目して!
アイコニックな定番! 褒められメガネを拝見
森岡さんの端正な佇まいを印象付けているメガネがこちら。土屋潤氏によるハンドメイドコレクション「“12” homemade(トゥエルブ ホームメイド)」のアイテムです。
「5年ほど前に日本橋のコンティニュエで購入し、愛用しています。“そのメガネ素敵ですね、どこのですか?”など街でよく声をかけられるんです」
すべての工程を職人である土屋さんが一人で行っているそうで、月間の生産本数も50本前後と限られている貴重なものだとか。ハンドメイドでしか作りだすことのできない深い艶や曲線は、ぱっと見でもその上質さが伝わり目を引くのかもしれません。
「土屋さんは名古屋のアトリエを拠点にされているのですが、以前修理していただいたことがあって、すごくきれいに戻ってきて。そのモノづくりの姿勢がメガネにすべて表れているのですが、ほれ込んでいます」
アイテムが作られる背景や人まで含めたストーリーに共感して自分のモノにする森岡さん。その精神は本業にも生かされているようです。
Profile
森岡督行(もりおかよしゆき)
1974年山形県生まれ。森岡書店代表。著書に『荒野の古本屋』(小学館文庫)、『800日間銀座一週』(文春文庫)などがある。共著の絵本『ライオンごうのたび』(あかね書房)が全国学校図書館協議会が選ぶ「2022えほん50」に選ばれた。現在、小学館「小説丸」オンラインにて『銀座で一番小さな書店』を、資生堂『花椿』オンラインにて『銀座バラード』を連載中。森岡製菓の名で「ジャム百珍」プロジェクトも始動、第1弾となる夏みかんパウンドケーキが発売中。
https://moriokaseika.base.shop/
Instagram @moriokashoten
PHOTO = 角田明子