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ホルモン治療とは|月経不順・更年期・不妊に活用される目的と注意点を解説

Supervised by
日本大学医学部 産婦人科学系産婦人科学分野 主任教授 川名 敬先生

 

月経の周期が乱れている、顔のほてりや発汗が気になる、妊娠を希望しているが排卵に不安がある、生理痛がつらい、生理前の体調不良がある。そんな不調や悩みを抱えていませんか。

 

その背景には、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンのバランスの乱れが関わっている場合があります。

 

この記事では、ホルモン治療の基本的な仕組みをはじめ、月経不順・更年期障害・不妊治療・子宮内膜症・月経前症候群(PMS)に対して、どのような治療が行われるのかをわかりやすく紹介します。

 

ホルモン治療とは

ホルモン治療は、外部から必要なホルモンを補充したり、体内のホルモンの働きを調整したりすることで、特定の症状を改善する治療法です。

 

治療に使われる薬剤は、目的により異なり、低用量ピル、プロゲステロン製剤、排卵誘発剤、ゴナドトロピン製剤、ホルモン補充療法(HRT)などがあります。

 

女性の体内では、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモンが周期的に分泌され、月経や排卵、妊娠などを調整しています。

 

加齢やストレス、体重の急激な変化などにより、これらのホルモンの分泌が乱れるか減少してくると、月経不順や更年期の症状、不妊の原因となることがあります。そのようなときに、ホルモン治療が行われます。

 

ホルモン治療の種類と役割

ホルモン治療にはいくつかの種類があり、症状や目的に応じて使い分けられます。

 

主な治療法について、目的や適応される代表的な症状を以下にまとめます。

 

治療法

主な目的 使用されるケース

主な副作用
(頻度は薬剤により異なる)

低用量ピル
(エストロゲン+プロゲステロン)
・排卵抑制
・周期の安定化
・月経量・月経痛の軽減
・月経不順
・更年期
・不妊
・子宮内膜症
・PMS
・吐き気
・頭痛
・乳房の張り
・不正出血
・まれに静脈血栓塞栓症(VTE)
黄体ホルモン療法
(プロゲステロン製剤)
・排卵抑制
・月経周期の調整
・内膜増殖抑制
・子宮内膜の調整
・排卵後の黄体ホルモン補充
・子宮内膜症病変の縮小
・月経不順
・不妊
・子宮内膜症
・PMS
・無月経
・黄体機能不全
・不正出血
・むくみ
・気分変動
・倦怠感
・眠気
・吐き気
・頭痛
・乳房の張り
GnRHアナログ(アゴニスト・アンタゴニスト)製剤 一時的に閉経状態を作り内膜症や子宮筋腫の増殖を抑制 ・子宮内膜症
・子宮筋腫
・更年期様症状(のぼせ・発汗など)
・骨密度の低下
排卵誘発剤
(クロミフェン、レトロゾールなど)
・排卵の促進
・内因性エストロゲンの抑制
・排卵障害による不妊治療(PCOSなど) ・ほてり
・頭痛
・多胎妊娠
・(クロミフェンでは)子宮内膜が薄くなる可能性
ゴナドトロピン製剤
(hMG、FSH製剤など)
・卵巣刺激による卵胞発育 ・高度な不妊治療
・人工授精や体外受精など
・卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
・腹部膨満感
・下腹部痛
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン) ・卵胞成熟
・排卵誘発のトリガー
・卵胞発育後の最終排卵促進 ・卵巣過剰刺激症候群(OHSS)など
ホルモン補充療法
(HRT)
・更年期症状の緩和
・エストロゲン急低下による症状改善
・閉経前後のほてり
・発汗
・気分変化
・不眠など
・吐き気
・乳房の張り
・不正出血
・まれに血栓症(VTE)
・長期併用で乳がんリスク増加の可能性

ホルモン治療の選択は、体調や目的に合わせて慎重に行われます。

 

治療を始める際には、医師と十分に相談し、効果とリスクの両方を理解することが大切です。

 

子宮内膜症へのホルモン治療

子宮内膜症とは、本来子宮の内側にあるべき子宮内膜が、卵巣や腹腔内など別の場所に発生し、月経のたびに出血・炎症を起こす疾患です。

 

次のような症状がみられることが多く、日常生活に支障をきたす場合もあります。

 

  • 月経痛(生理痛)が強くなる
  • 性交時や排便時に痛みを感じる
  • 月経量の増加や不正出血
  • 不妊の原因となることがある

 

子宮内膜症の進行や症状を抑えるため、以下のようなホルモン治療が行われます。

 

  • 低用量ピル(LEP):痛みの軽減や出血抑制に有効。ただし病変の進行抑制に関しては限定的
  • GnRHアナログ製剤(アゴニストとアンタゴニスト):一時的に閉経状態をつくることで症状を緩和
  • ジエノゲスト製剤:長期の痛み軽減や生活の質の改善、内膜症性嚢胞の縮小が報告されている

 

治療の選択は、年齢や妊娠希望の有無、症状の程度に応じて医師と相談のうえ決定されます。

 

月経前症候群(PMS)へのホルモン治療

PMS(月経前症候群)は、月経の3〜10日前から精神的・身体的不調が現れ、月経開始とともに軽快または消失する症状群です。以下のような症状が見られることが一般的です。

 

  • 抑うつ、不安感、イライラなどの精神症状
  • 頭痛、乳房の張り、むくみ、腹痛などの身体症状

 

症状が強く、日常生活に支障をきたす場合は、月経前不快気分障害(PMDD)と診断されることもあります。

 

ホルモン治療としては、低用量ピルを用いてホルモン変動を安定させ、心身の症状を緩和する方法が一般的です。また、精神症状が強い場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が併用されることもあります。

 

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月経不順へのホルモン治療

排卵やホルモン分泌の働きがうまく機能しないことで、月経不順が起こることがあります。

 

月経不順は、以下などに分類されます。

 

  • 周期が35日以上空く「希発月経」
  • 規則的だった人が3か月以上止まる、不規則だった人が6か月以上止まる「無月経」
  • 21日未満の周期で出血がある「頻発月経」

 

排卵やホルモンの分泌が乱れる原因として、急激な体重の変化や精神的なストレス、過度な運動、甲状腺機能の異常、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが挙げられるでしょう。

 

生活習慣の見直しで改善されることもありますが、医師の判断によりホルモン治療が選択されることがあります。

 

低用量ピルやプロゲステロン製剤などで、周期を整えます。

 

妊娠希望の場合は、様々なホルモン剤を組み合わせることがありますので、医師と十分な相談を行ってください。

 

更年期障害へのホルモン治療

閉経の前後には女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に低下し、更年期障害として自律神経の乱れや血管運動症状が現れやすくなります。

 

更年期障害には以下のような多様な症状があります。

 

  • 発汗やほてり
  • 気分の落ち込み
  • 集中力の低下
  • 不眠

 

こうした不調は、日常生活に支障をきたすこともあります。

 

症状の程度や持続期間には個人差があるため、医師による評価が重要です。

 

生活習慣の見直しやカウンセリングだけで十分に軽快するケースもありますが、ホルモンの変動が主な要因と判断された場合には、ホルモン補充療法(HRT)が検討されます。

 

HRTは低下したエストロゲンを補う治療で、子宮がある場合はプロゲスチンを併用して子宮内膜増殖症のリスクを抑えます。

 

ただし、経口エストロゲンは血栓症リスクを高め、長期の併用療法は乳がんリスク増加と関連するため、医師とリスク評価を行い、必要最小限の期間で使用します。

 

経皮パッチやジェルは血栓症リスクをやや低減できると言われています。

 

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不妊治療へのホルモン治療

不妊の原因には、排卵障害やホルモンの異常、卵巣機能の低下などが関係するとされており、ホルモン治療が第一選択となることもあります。

 

月経周期や排卵の有無を把握しながら、治療方針を検討することが重要です。

 

排卵障害の場合には、クロミフェンやレトロゾールなどの排卵誘発剤を用いて、内因性ホルモンをコントロールしながら排卵を促します。

 

反応不良や高度治療が必要な場合には、ゴナドトロピン製剤(hMG/FSH)で卵胞を育て、hCGで排卵を誘発することもあります。

 

排卵があっても黄体ホルモンの分泌が不十分な場合には、黄体機能不全と診断され、黄体ホルモンを補充する治療が行われます。

 

治療は基礎体温やホルモン値を確認しながら行い、卵巣が過剰に刺激され様々な症状を引き起こす副作用や多胎妊娠などのリスクに注意します。

 

ホルモン治療を始める前に知っておきたいこと

 

ホルモン治療は、ホルモン分泌の乱れに対して調整を行う有効な選択肢の一つです。

 

ただし、治療を受ける前には、身体の状態や生活背景をふまえて、医師と十分な相談を行う必要があります。

 

治療に先立って、血液検査や超音波検査などによって、現在のホルモンバランスや内臓機能を確認することが一般的です。また多くのホルモン剤は、血栓症(血液が血管内で固まりやすくなる)リスクが高くなります。特に年齢が40歳以降、肥満、血栓症の既往や家族歴がある場合は注意が必要です。

 

特に、乳がんや子宮体がんなど、ホルモン感受性腫瘍の既往歴がある場合には、慎重な判断が求められます。

 

また、ホルモン剤には内服薬、貼付剤、塗布剤、注射剤などさまざまな形態があり、それぞれ効果のあらわれ方や副作用に違いがあります。経皮的にホルモンを投与する貼付剤、塗布剤は一般に血栓症リスクは高くなりにくいです。

 

治療開始後は、定期的な診察を受けながら、体調の変化や副作用の有無を医師に伝え、必要に応じて調整することが大切です。

 

自分に適した方法を選ぶことで、より安全かつ継続的な治療につながるでしょう。

 

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まとめ|ホルモン治療を正しく理解し、医師と相談しながら進めることが大切

ホルモン治療は、月経不順・更年期障害・不妊治療など、さまざまな症状に対して有効とされる医療手段です。

 

治療法には多くの種類があり、目的や体質に応じて適切な方法が選択されます。

 

一方で、副作用のリスクや注意点もあるため、治療を始める前には医師と十分に相談し、メリット・デメリットを理解しておくことが重要です。

 

自身の体調やライフステージに合った方法を選び、無理なく取り入れることで、よりよい経過が期待できるでしょう。

監修者:プロフィール

略 歴

1993年 東北大学医学部医学科 卒業

1993年 東京大学医学部産科婦人科学 研修医、同医員

1996年 厚生労働省ヒューマンサイエンス振興財団 リサーチフェロー

(国立感染症研究所)

1998年 東京大学医学部産科婦人科学 助手

1999年 埼玉県立がんセンター婦人科 医員

2000年 東京大学医学部産科婦人科学 助手

2003年 米国ハーバード大学産婦人科リサーチフェロー

2005年 東京大学医学部産科婦人科学 助教

2011年 東京大学医学部産科婦人科学 講師

2013年 東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 准教授

2016年 日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野 主任教授

2020年 日本大学医学部附属板橋病院 副病院長

2021年 日本大学医学部附属板橋病院 病院長補佐

現在に至る

 

資格

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、産婦人科指導医

日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医、婦人科腫瘍指導医

日本臨床細胞学会 細胞診専門医

日本性感染症学会 性感染症認定医

母体保護法指定医

など

 

受賞等

2004年 米国生殖医学会(ASRM) 免疫部門優秀賞

2005年 米国産婦人科学会 基礎系(SGI) 会長賞

2008年 アジアオセアニア性感染症・腫瘍学会(AOGIN) 最優秀賞

2009年 日本産科婦人科学会 学術奨励賞

2010年 日本産科婦人科学会 グッドプレゼンテーション賞

2011年 日本癌治療学会(第49回) 優秀演題賞

2012年 日本医師会医学研究奨励賞

2015年 神澤医学賞 (神澤医学研究財団)

2015年 性の健康医学財団賞

2016年 東京都医師会医学研究奨励賞

2023年 日本癌治療学会(第61回)最優秀演題賞

 

学会活動・国際活動など

日本産科婦人科学会 常務理事(広報委員会委員長)

日本婦人科腫瘍学会 常務理事(専門医制度委員長)

日本産婦人科感染症学会 副理事長

日本産婦人科乳腺医学会 副理事長

日本性感染症学会  監事、評議員

日本思春期学会   常務理事

日本臨床細胞学会  理事、評議員

など


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