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【ハミングが届けるポジティブニュース】 生きものたちが帰ってくる場所──世界のやさしい取り組み

Written by
堀江知子(ほりえ ともこ)

 

 

今年の夏は、気候変動の深刻さを感じずにはいられない暑さが続いていますね。私たちが暮らす地球では、環境破壊が続き、当たり前だと思っていた自然が少しずつ失われています。

 

 

ホッキョクグマやミツバチといった動物たちも、生きる場所を奪われ、絶滅の危機にさらされていると聞くと、胸が痛む方も多いのではないでしょうか。

 

 

「こんなニュースばかりで、正直もう気が滅入ってしまう」「未来に希望なんて持てるの?」そういった声が聞こえてきそうです。

 

 

でも実は今、世界のあちこちで、壊れてしまった自然を取り戻そうと粘り強く努力する人たちがいて、その成果が少しずつ現れているのをご存じでしょうか。

 

 

イギリスのケンブリッジで開かれた環境保全の会議では、そういった「破壊を食い止め、逆転させた」数々のストーリーが紹介されました。今回はその中から、未来への小さな希望を感じられる取り組みをいくつかご紹介します。

 

“猛暑が続き、地球規模で自然や動物たちが危機にさらされていますが、世界各地では自然を取り戻そうと努力する人々がいます。”

 

 

内戦で荒廃したモザンビークでゾウが復活

 

例えばアフリカのモザンビーク。1980年代の内戦では、地雷や密猟によってゾウやカバ、シマウマなどが壊滅的な打撃を受けました。しかし現在、複数の保護区域や緑地をつなげて動物の安全な移動経路を確保する取り組みなどの長期的プログラムのおかげで、野生動物の数は内戦前を上回るまでに回復しています。

 

この取り組みがうまくいった理由のひとつは、地域開発との連携です。女子生徒の教育プログラムなどを同時に進め、地域住民が「保護」に協力したいというモチベーションを高めました。野生動物の保護は、地域社会の発展とも結びつけられるのです。

 

 

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イギリスで広がる「野生に戻す」プロジェクト

 

イギリスもかなりの努力をしています。なんと、「イギリスにはマクドナルドより多くの自然保護区がある」のだそうです!

 

 

例えば、スコットランド高地は(アメリカの中でも人口が少ない州である)モンタナ州より人口密度が低く、大規模なリワイルディング(人間の開発や農業、都市化などで失われてしまった自然環境を、人ので「野生が息づく状態に戻す」試み)が進んでいる例です。農業的な生産性が高くない地域だからこそ、大胆な自然再生が可能なのです。

 

 

海でも起きている「静かな奇跡」

 

 

 

そして陸上だけでなく、海でも劇的な回復が起きています。

 

 

環境ジャーナリストのチャールズ・クローバー氏は、20年前には地球上には「終わりの物語」しかなかったと言います。例えば、彼が最初の書籍を出した2005年頃は、乱獲のせいで魚の資源はほとんど絶滅寸前でした。

 

 

しかし、NGOの圧力、漁業者たちの意識変化、そして珍しいことではありますが「政府の行動」がわわさり、状況は一変しました。クローバー氏の2022年の最新の著書は『海のリワイルディングする(Rewilding the Sea)』。その名の通り、今では海を「再び野生化」し、魚たちが戻りつつあるのです。

 

“かつて絶滅の危機にあった大西洋クロマグロやライム湾の海洋生態系は、科学的管理や底引き網禁止により魚の数が約4倍に増加しました。この成功事例は他地域にも広がり、タイやエンジェルシャークなども回復の兆しを見せています。”

 

 

マグロが400%増加し、「サンゴの庭」も回復

 

大西洋クロマグロは、かつて「最後の一匹まで獲り尽くされてしまう」とまで予測されていた魚ですが、科学的根拠に基づく漁獲管理の導入でマグロの数は400%増加しました。60年以上も見られなかった場所で再び姿を現しつつあるんです。

 

さらに、イギリス南西部に広がるライム湾。かつては「イングランドのサンゴの庭」と呼ばれた場所ですが、底引き網漁で海底は荒廃していました。16年前に底引き網を禁止した結果、魚の数は4倍に増えました。

 

 

このモデルケースは、イギリスやギリシャなどの別の地域でも導入され、同様に期待が持てる成果を上げています。かつて深刻に絶滅が危惧されていたタイやエンジェルシャークも回復の兆しを見せています。

 

 

「まだ終わりではない」けれど、希望は確かにある

 

もちろん、まだまだ課題はたくさんあります。世界中で続く大規模な漁業や開発が、今も多くの海や森を脅かしているのも事実です。

 

 

それでも、「もうだめだ」と思われた場所が、きちんと守り方を見直し、人や地域が力を合わせることで、少しずつ命を取り戻している例が増えています。

 

 

地雷原を越えて戻ってきた象の群れ、再び色を取り戻したサンゴの海、何十年ぶりに泳ぐマグロの群れ──どれも、科学の知恵や地域の暮らし、国境を越えた協力が生んだ希望の風景です

 

 

「もう終わりだ」と嘆きたくなる今のような時代だからこそ、こうした小さな回復の物語に目を向けてみませんか。

 

参考:
https://www.positive.news/environment/resurgent-tuna-and-rebounding-elephants-the-dogged-conservation-efforts-bearing-fruit/

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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