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自宅出産は、本能に戻り、体・心に丁寧に向き合う豊かな時間【助産師でバースエデュケーターのNANAKOさんインタビュー】

Written by
堀江知子(ほりえ ともこ)

 

「自宅出産」と聞くと、どんなイメージが浮かぶでしょうか?特別な人だけが選ぶもの?少し怖い?それとも、どこか懐かしい響きがしますか?

 

100年前、日本では当たり前だったという「家で産む」という選択。いま改めて、出産を「自分のリズム」で、「自分の空間で」、「自分の力を信じて」迎えたいと望む女性が少しずつ増えています。

 

今回お話を聞いたのは、第一子から自宅での出産を選んだNANAKOさん。ご自身も助産師であるNANAKOさんが、出産をサポートしてくれた助産師との深い信頼関係や、本能を信じることの大切さ、自宅という安心できる場所だからこそ味わえた「気持ちいいお産」について語ってくれました。

 

インタビューを行ったのは、自身も自宅出産を経験したHumming編集長の永野舞麻。母として、女性として、心から共感しながら聞いたリアルな声には、自宅出産への先入観をやさしく解いてくれるヒントが詰まっています。

 

ーー出産って、マラソンみたいに感じます。妊娠前から準備に入り、トレーニングをして体を整えて、出産を迎えるという流れが。

 

私もそう思います。妊娠することで、今まで以上に、自分の体に目を向けるようになり自分にフォーカスできるようになります。それは、お腹に赤ちゃんがいて、赤ちゃんをしっかり育てるという責任が生まれるからですね。だから、自分を見つめ直して、これからの生活習慣にフォーカスを当てやすくなります。出産は、人生が大きくガラッと変わるきっかけになる、そんなフェーズだと思っています。

 

ーー私には、娘が3人いて一番上はもうすぐ13歳で生理を考える時期。でも13歳から生理のことを話すのは遅いと思っています。なぜ生理が来るのか、女性の体の神秘について、血が出ることは怖いことじゃない、生理がないと赤ちゃんが生まれてこない、そういう話をしながら、娘たちには生理を自然のこととして受け入れてほしいと考えています。

 

 

その考え方は素敵ですね。私の子供はまだ小さくて、そこまで考えたことなかったですが、生理のことは早ければ早いほど、自然に受けいれることができるでしょうね。

 

 

ーー出産を通じて女性が得られる精神的な成長変化についてどのように考えていますか?

 

出産って通過点なんですよね。出産の先にあるのが人生。出産も産後もすごく変化がある部分。自分の体の変化もそうだし、心の変化もそうだし、ドラマのように波があって、落ち込む時もあれば、楽しめる時もあります。

 

ここで大切なのは「自分が決断する」こと。自分が決断しなきゃいけないことが、お産にも産後の生活にもたくさんあります。だから、自分をどうやって信じて、変化に自分がどう対応していくか、自分のアイデンティティをどう形成していくか、そういうことを妊娠中に学ぶことが大事です。

 

自分に自信を持って何か決断をできたり、その変化を楽しめたり、潜在的な自分のマインドを育てることで、産後に同じような変化があった時もどう対応していけばいいかわかるようになり、自分にも優しくなれます。

 

妊娠中に、こういったマインドの整え方を知っていると、自分を責めすぎません。産後はうまくいかないことが当たり前ですが、その時にちゃんと自分に優しい言葉をかけてあげられるようになります。人生で大事になること、つまり、自分や自分の体との向き合い方を経験し構築していける期間が、妊娠・出産だと思っています。

 

安産だったら嬉しいというのは一般的だと思いますが、私の究極の目的はそこではないんです。どうやって自分と向かい合い、母となる自分の基盤作りができるか、それが大切だと思っています。

 

 

ーー私も共感します。子供を産んで、母親になっていくのは、人生で1番難しくて、でも言葉で表せないほどの喜びを味わわせてもらっているプロセスだなと感じますね。

 

丁寧に人生を生きるということですよね。妊娠して、出産して、子育て期に入って、丁寧に向き合うということを意識できるようになったことも、大きな変化だったと思います。

 

ーー私は3人目の時に自宅出産をしたいと思ったんですが、NANAKOさんは最初から自宅出産を選んでいますね。どうしてでしょうか?

 

 

私が自宅出産を選んだ理由は、原点に戻りたいという気持ちがありました。私が持っている助産師さんのイメージは、「みんなの相談にのる町の産婆さん」「お産をする人はもちろん、若い女の子の恋の相談や、更年期の方の相談にのる産婆さん」でした。100年前は、ほぼ100パーセントの方が自宅出産をしていたということもあり、1番原点に戻れる場所は自宅なのではと思って、自宅出産を選びました。

 

ーー怖くないかったですか。現在だと、自宅出産につきものが恐怖だと思うんですが、NANAKOさんご自身はそういう恐怖はなかったですか?

 

 

恐怖はなかったですね。でも、病院で出産をするとしたら恐怖を感じていたかもしれないです。自宅出産の最大のメリットは、自分の本能をむき出しにできて自分がとりたい姿勢がとれることなど、自由なところです。自宅出産は本能に戻りやすいので、体が何をしたらいいかっていうのを伝えてくれるて、それに従えばいいんです。だから、自分をとことん解放できる自宅出産に、私は恐れはなかったですね。

 

自宅出産では妊娠中から同じ助産師さんがずっと付き添ってくれるんですよね。病院の妊婦検診とは全く違います。病院の妊婦検診は、長い時間待ち、先生と話せるのは5~10分ほど、必要なことだけ聞かれて、異常がないかのチェックをし、検診終わりということが多いと思うんです。私が受けた妊婦検診は、長い時だと3時間ぐらいあるんですよね。助産師さんが、私が出産する家の中で、赤ちゃんの状態だけではなく、私の体や心の状況を全部を見てくれるんです。

 

すごく印象に残ってることがあります。初めて助産師さんに会った時に、体を全身タッチされたんですね。頭からつま先まで触ってもらった時に、助産師さんは私をまるっと全部見てくれるんだと感じ、大きな安心感につながったんですよね。助産師さんとの関わり合いや、お産をサポ―トしてくれる人との信頼関係が築けているという感覚が、すごく印象に残っています。

 

ーーNANAKOさんが提唱している気持ち「気持ちいいお産」について教えてもらえますか。

 

 

ホルモンをいかに味方につけてお産を進めるかは、ポジティブなお産だったかどうかに関わってきます。一言で言うと、「フローに入る」ということ。自分がお産の世界にどっぷりはまっている時は、出てほしいホルモンがたくさん出て、逆に出てほしくないホルモンはきゅっと引っ込んでくれるんですよね。

 

みんながみんな自然にお産のゾーンに入れるかと言えば、残念ながらそうではないんですね。ただこのお産のゾーンは、自宅の方が入りやすいです。自分が安全でリラックスしている時に、このゾーンに入りやすくなるからです。病院やクリニックという環境は、自分のコントロールの範疇に入らないことがどうしても起きてしまうんですよね。

 

自分の感情と体はつながっているので、不安や緊張があると、体にも無意識に力が入ってしまいます。そうすると痛みを強く感じ、フローが生まれなくなってしまうんですね。フローに入るためには、まずは自分を信頼することです。自分の体と赤ちゃんとそのプロセスを信頼することで、不安が安心に変わり、陣痛を受け入れることができるんですよね。そうすると、体もリラックスするので、出てほしいホルモンもたくさん出てきます。自分が安心して陣痛を受け入れて、リラックスするという循環に入ることができるとお産のゾーンに入れます。

 

私もこのお産のゾーンに入ったんですが、とても不思議な感覚でした。ふわふわっと半分夢の中、半分現実みたいな感じでした。まるで酔っ払っているような感覚になってたんですよね。子宮口が全部開いてから、出産までには長い時間がかかったんですが、お産のゾーンに入っていたので、時間が長くかかっているとは感じなかったんです。

 

ゾーンに入ってる時は痛くなかったかと聞かれたら、もちろん痛みはあるけれど、それが苦しくて辛いかって言われたら、全っくそうではないんです。

 

 

ーー私も陣痛の時に、自分の中でマントラがありました。「ふうー、強かった。もう1回ください」というもので、何回も自分に言っていました。出産体験を「痛い、もういや!」で終わらせたくなかったので、陣痛の波に乗る気持ちで行っていました。

 

 

永野さんのそういう体験をぜひ日本中のこれからお産する女性にも聞いてほしいですね。出産のポジティブな体験って耳に入ってきにくいんです。日本は特にそういう環境だと思っています。テレビや映画で見た出産のシーンが凄まじくて「出産は怖い」と心の奥底に刷り込まれてしまっています。

 

人工促進剤を使った時の陣痛と自然分娩の陣痛が違うことは科学的にもわかっています。決定的に違うのは、お産を進める人工の促進剤を使った時は、痛みを和らげてくれるエンドルフィンやオキシトシンというホルモンが出にくくなってしまうんですよね。つまり、体にかかる痛みを直接感じやすくなってしまうんです。体から出るホルモンとマインドはつながっているので、促進剤を使ったお産の場合は、特にマインドと体の繋がりを忘れずに意識することがとても大切になっていきます。

 

ただ、人工的な促進剤を使ったらポジティブなお産ができないかって言ったら、そういうことではないんです。妊娠中から出産の準備をすることで、促進剤を使ったお産も、無痛分娩でも、帝王切開でも、ポジティブなお産はできると思っています。

 

 

ーー 私は1人目のお産で挫折感を味わったんです。出産後に家族のみんなに「ごめんなさい」と謝っていたんです。それを見た助産師さんが「どうやって赤ちゃんを産むかが大事なんじゃない。今日からあなたはお母さんになった。この子と生きてくと覚悟を決めることが大事なのよ」と言われて涙が出ました。その人の言葉は今も心の中に残っています。

 

 

本当にそうですよね。やっぱりお産はあくまで通過点。妊娠・出産で自分が何を得られたか、それが一番大事だと感じました。

 

どんな出産でも、私がひとつ伝えておきたいのは、プランBをいつも考えておくことです。私自身も、「自宅出産でこれとこれをやりたい」と考えていましたが、実際できなかったこともありました。自宅出産ができなかった、無痛分娩ができなかった、促進剤を使った、だから失敗だと考るのでなく、お産の知識が備わっていれば、この時に促進剤を使ったのは私と赤ちゃんを守るためだったんだと受け入れることができるようになります。「出産は自分が思った通りにいかなくてもいいんだよ」と私は思っています。

 

ーー自宅出産の場合、緊急の事態の時に、助産師さんはどう対応してくれるのでしょう?

 

全部のお産にリスクはあるものですが、自宅出産だとリスクが劇的に上がるかというと、私は出産自体のリスクは逆に減ると思っています。自然な本能をむき出しのお産ほど安全なお産はないと思っているので、リスクはむしろ減っていくと思うんです。ただ、自宅出産では緊急時に病院への移動など、どうしてもタイムラグが大きくなるというのはあります。

 

ただ、自宅出産では病院には行かないということではなく、妊婦検診も何回かクリニックであったり、助産助産院さんと提携するクリニックで科学的なチェックもしてもらいます。出産で何かあった時すぐに搬送できるように準備をしてくれているし、自宅出産をする助産師さんたちは、緊急事態に対応するスキルを持っています。緊急時の対応も周知している助産師さんがついていてくれるので、そこは安心してほしいところです。

 

 

ーー私の自宅出産では、ドゥーラがいてくれて良かったと思います。自宅出産のメリットとして産後直後のケアが個人的には良かったと思いますが、NANAKOさんのご経験からどうですか?

 

さきほど、自宅出産では、妊婦検診にすごく時間をとってくれたと話しましたが産後も一緒なんです。産後のほうが長かったかな。子宮の回復状況や傷が治っているかなど目に見えるところだけでなく、赤ちゃんと家でどう生活をしているかとか心のケアなど、全部をひっくるめて助産師さんにケアしてもらえました。自分が暮らしているそのままの状態を見てもらい、さりげなく足りないところを補ってもらえたんです。

 

 

ーー NANAKOさんはドゥーラをお願いしましたか。

 

ドゥーラはいなかったです。日本は、「産後ドゥーラ」という存在はありますが、「出産ドゥーラ」になる資格などがまだないんです。特に病院やクリニックで出産する場合は、ドゥーラが出産に付き添うシステムがないんですよね。

 

ーー日本でも病院出産をしても、病院付きそいのドゥーラがいたら心強いかなと思いますね。

 

日本にも出産ドゥーラの存在が認められ、広く認知されて、ドゥーラを連れて病院で出産することができたらいいのにと思います。守り神のように、特別な知識がある人がいつも一緒にいてくれることで、不必要な医療介入がもし行われようとしても「ちょっと待って。ちゃんと考えよう」と守ってくれると思います。

 

ーー女性のこと、体のこと、赤ちゃんのこと最優先に一緒に考えてくれるドゥーラがいると心強いですね。

 

はい。そうしたら、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても「優しい」お産が増えるだろうと思います。沖縄でドゥーラさんたちとお話する機会がありましたが、すごく頑張っていらっしゃって、日本もドゥーラが大活躍する時代がやってくるんじゃないかと期待しています。

 

 

ーー私は、出産の実体験について話すことにヒーリング効果があると感じます。自分のお産の経験は、話さない方も多いと思いますが、誰かに話したり、誰かの話を聞くことで、トラウマだった傷が柔らかくなったりする場所があったらいいなと思っています。

 

トラウマ的な感情があって、フタをしていた方が、少しそのフタを開けて解消できるような、そんな機会があったらいいし、お産のことを話すのが恥ずかしいことでないというのが当たり前になる、そんな風潮があればいいなと思います。

 

ーー最後にNANAKOさんの提供されてる、「あと100回したくなるお産 “ポジティブバースプログラム”」について教えてください。

 

私は助産師として、現場でいろんなお産を目にしてきました。

 

「戦うぞ」という表情で病院にやってきて、ずっと陣痛と戦っているようなお母さんも、お産のゾーンに入りマインドが変わった瞬間に、劇的にお産がハーモニーを育てたように進んでいくところを見てきました。ポジティブなお産をするのに、マインドがキーになるというのを現場で感じてきました。

 

どうやったらみんながリラックスして病院に来てくれるんだろう、妊娠中に質のいい準備をすることができるだろうと考えた時に、このポジティブバースプログラムの構想が始まりました。私自身がお産をして、あと100回お産をしたいって思うぐらい、幸せだったんですよね。

 

私が知っている幸せなお産をするレシピを広めたいと思い、自分が出産をして大切だと思ったことをとりいれて作り上げたのがこのプログラムです。出産だけがゴールではなく、産後のその先も、自分が自信を持って生きていけるようなプログラムを作り上げました。

 

私はヨガの講師をしてるっていうこともあって、体の相談を受けることがあります。お産の後から体型が変わった、尿漏れでパッドが手放せない、垂れたお腹が治らないなど、お産に関わる体のトラブルを聞いてきました。お産に携わっている身として、自分がサポートするお産で女性の体にダメージを与えたくないと思い、骨盤底筋に関する勉強もしプログラムにとりいれています。

 

一生付き合う体だから、お産がきっかけで、「不具合があるけど産後だからしょうがないよね」と、それが当たり前にならないでほしいと思っています。産後だからこそ輝いて、スポットライトが当たらない部分のケアや、自分の体に優しいお産、そういうところを学べるプログラムです。

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ダルボワ南菜子

助産師 ヨガ講師(RYT200) バースエデュケーター ペリネケアアドバイザー

全てのライフステージにいる女性とその家族を支えることを目的にしたプラットホームSANBAROOM創設者。現役助産師としてクリニックで勤務する傍ら、妊娠・出産・産後に関連したワークショップの開催や、ヨガ講師としてマタニティヨガ・産後ヨガの知識を広める活動など行っている。2024年3月に第一子を出産。海とサーフィンと食べることが大好きな新米ママ。

 

インスタグラム:@sanbaroom

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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