「ママが自分を見てくれている」「聞いてくれている」。
子どもにそう感じてもらえる時間を、私たちはどれだけ持てているでしょうか。
今回は Humming編集部の舞麻(カリフォルニア在住・3姉妹の母)と沙織(東京在住・小学生2人を育てるワンオペママ)が、 “親子の信頼関係を育む10分間”について語り合いました。
編集部のリアルな子育て対談をお届けします。
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全力で子どもと向き合う10分間
舞麻:我が家では2021年頃から寝る前に子どもたちそれぞれと10分間を過ごすようにしています。
それまでは母親の愛を取り合って姉妹喧嘩が絶えませんでした。私がいない時の方が仲良く遊べるのに、私がいるとネガティブな行動で注目を浴びようとする子がいる。その姿を見て「きっと辛いだろうな」と感じ、対処法を探す中で出会ったのが「1日10分、その子だけの特別な時間をつくる」という考え方でした。
「10分ならできるかも」と思い、取り入れてみることにしました。
沙織:子どもが複数人いると、なかなか子ども一人ひとりと向き合う時間が取れないですよね。10分間はどうやって過ごすのですか?
舞麻:最初の8分は、100%受け身でその子のやりたいことを一緒にやります。色塗りをしたり、こちょこちょ遊びをしたり、一緒に本を読んだり。残りの2分は「バラとトゲ」というシェアの時間。今日悲しかったこと・辛かったこと・嫌だったことを“トゲ”として、嬉しかったことや楽しかったことを“バラ”として話すんです。
「ママのバラとトゲはなに?」と聞かれた時は、その子に関わる出来事を話しています。
沙織:お子さんたちからは、何をしたいとリクエストされることが多いですか?
舞麻:「Tickle Monster(くすぐりモンスター)」という、私がモンスターになってくすぐる遊びをリクエストされることが多いです。
私はくすぐられるのが大嫌いなので、全然共感できないけど(笑)、子どもたちがゲラゲラ笑っていると、つい私も笑ってしまう。子どもたちはママと一緒に笑える時間が嬉しいのかもしれません。
親は、どうしても子どもの健康や安全、将来のことを真剣に考える時間が多いから、子どもとゲラゲラ笑う機会は意外と少ないですよね。
沙織:私は笑うより、怒っていることの方が多いかも……。
舞麻:ある本で「フィジカルな遊びは子どもの心の安定に良い」と読んだことがあります。一緒に体を動かしたり、遊びながら会話したりする方が、子どもにとって記憶に残りやすいとも言われています。うちは親子で柔術を習っているので、技をかけ合ったりすることもありますよ。
沙織: 10分間の時間は、毎日欠かさず続けているんですか?
舞麻:コンサートに行ったり、外食したり、寝る準備が遅くなる日は「バラとトゲ」だけをやることもあります。
でも、子どもたちは「ママだけにシェアしたいこと」があるから、忙しい日でもなるべく時間をつくるように心がけています。
沙織:舞麻さんは3人お子さんがいるから、3人分やったら30分。これを毎日継続する。なかなかできないことですよね。
舞麻:もちろん「今日は疲れたし早く寝たいな」という日もあります。正直、精神力を使うから修行みたいに感じる時もあるくらい。でも、もう習慣になってしまったので、やらないと1日が終わった気がしなくて。まるで「歯を磨かずに寝ちゃった時の気持ち悪さ」みたいな感覚です。
沙織:我が家も兄妹喧嘩が多いから、子どもそれぞれとの10分間を取り入れたいな。でも、寝る前はいつもバタバタだし、下の娘が待てなさそうな……。
舞麻:寝る前の10分間が難しければ、昼間でも、朝でも、どのタイミングでも大丈夫です。娘たちも10分間を始めた頃は、なかなか待てなかったです。コンコンってノックしてみんな入ってきちゃう。そのたびに「今はスペシャルな時間だから、10分間だけ待っててね」と根気強く伝えました。最初は「また来た……」と思うこともあったけど(笑)。1年経った頃にはちゃんと待てるようになりました。
きっと娘たちにとって、この10分間は本当に大切な時間なんだと思います。だからこそ、自分以外の姉妹がその時間を過ごしている時も、「今は待とう」と尊重できるようになったのかもしれません。
沙織:舞麻さんの一番上のお姉ちゃんは今おいくつですか?
舞麻:中1になる歳です。
沙織:中学生は、思春期とか反抗期とか、難しい時期かと思いますが、そういうお年頃でも10分間は嫌がらないですか?
舞麻:私が読んだ専門家の本には「10歳くらいになると、子どもはだんだん親との特別な時間を欲しがらなくなる」と書かれていました。
でも、長女はいまだにこの10分間を大切にしてくれています。
子どもと“人”として向き合う
沙織:子どもたちそれぞれと10分間を過ごすようになってから、何か変化はありましたか?
舞麻:ママに振り向いてほしくて、わざと激しくぶつかり合うことはだいぶ減ったと思います。もちろん姉妹喧嘩がなくなったわけではないけれど。
それぞれが「必ずママと過ごせる時間がある」とわかっているからこそ、安心できるようになったのかもしれません。
沙織:舞麻さん自身にはどんな変化がありましたか?
舞麻:ひとりの人間として、子どもたちを愛おしく感じるようになりました。
「この子はこんなふうに物事を捉えるんだ」とか、「この言い方はユニークだな」とか。純粋に人として興味がわいて、毎日話を聞くのが楽しみです。
沙織:そういう気持ちになると、子どもたちへの接し方も変わりますか?
舞麻:より尊敬や尊重の気持ちを持って、子どもたちと向き合えるようになります。
夫はもともと「子どもだから」ではなく、“人”として接する人なんです。例えば、子どもが「やりたくない」と言うと、「どうしてやりたくないと思うの?」と丁寧に理由を聞く。頭ごなしに「やりなさい」とは言いません。
一方で私は「親の言うことは絶対」という環境で育ったので、「なんでそこで理由を聞くの?」「もっと厳しくした方がいいんじゃない?」と以前は思っていました。でも、10分間を積み重ねるうちに、夫の接し方が理解できるようになりました。
私と沙織さんだって、最初は何も知らない他人。でも、知り合って話を重ねるうちに、お互いのことを発見し合い、少しずつ分かり合えるようになってきましたよね。それと同じで、我が子に対しても「親だから分かっている」と思い込むのではなく、会話を重ねながら関係を築いていく必要があると思います。
“10分間”は未来への先行投資
沙織:確かにそうですよね。知っているつもりになってしまうけれど、我が子だって自分とは違う人間。大人同士が会話を通じて関係を築いていくように、子どもともちゃんと向き合わないと分からないことがたくさんありますよね。
舞麻:そうそう。子どもがシェアしてくれないと気がつけないことが実はいっぱいあるんです。
以前、娘がひとりで寝てくれない時期があって、困ったことがありました。
ある日、娘が「私、眠りに落ちる時にまるで死んでしまうみたいに感じて、ひとりで寝るのが怖いの」と話してくれたんです。その話を聞いた瞬間、「もっと早く言ってよ。一緒に寝ようよ」と思いました。
他にも、寝る前に長女が私の携帯で下の子に何かを見せていたので、「もう寝る時間なのに、どうしてママの携帯を勝手にいじってるの?」と、頭ごなしに怒ってしまったことがあって。
でもその夜の10分間で、長女が話してくれました。「寝なきゃいけないのはわかっていたけど、妹に写真見せる約束をしていたの。ママが嫌がるのはわかっていたけど、妹との約束を守る方が私には大事だったの。ごめんね」と。
その時、ハッとしました。娘は一生懸命考えて行動していたんだって。シェアできるタイミングが来ないと、本音を言えない時があるんですよね。
沙織:子どもだっていろんな思いや考えがあって行動しているのに、つい頭ごなしに叱ってしまうこと、私にもあります。友達や周りの人にはそんなこと言わないのに、どうして我が子にだけ強く言っちゃうんだろうって……。舞麻さんの話を聞きながら、反省ばかりです。
舞麻:私も毎日反省ばかりです。でも、親だって与えられた環境の中で精一杯やっているのだから、必要以上に自分を責める必要はありません。むしろ「私は私のままでいい」と自分を受け入れている姿を見せることこそ、子どもにとって大切な学びになるのだと思います。
だから私は毎日瞑想をして「自分をそのまま受け入れる」練習をしています。
沙織:子育てをしていると、「ちゃんと育てなきゃ」というプレッシャーを定期的に感じます。「子どもが怒りっぽいのは私のせいかな」と不安になることもあって。でも、自分を責めるのではなく、まず自分を認めてあげることが大切ですね。
子どもとの対話の時間を意識して持つこと、私もやってみたいと思います。
舞麻:いきなり毎日は難しいから、週1回からでもいいと思います。今までゼロだったのを1にする、1を2にする……。そうやって少しずつでも大丈夫。例えば「週末の金曜と土曜だけやる」とか、「週1回だから、15分にしよう」とか。
私はこの10分間を、娘たちとの絆を深める“先行投資”だと考えています。将来、娘たちが大きくなったときに「うちの子たち、何を考えているのかわからない……」という状況は避けたい。いつでも「ママに相談できる」と思える関係を築いておきたいです。
人生には、誰にでも予期せぬ困難が訪れます。どうしようもなく辛さを感じたとき、頼れる相手がいる。ひとりで抱え込まなくていい。そう思えるだけで、人は前を向いて生きていけるはず。
娘たちとの10分間の対話は、そのための“生涯続く絆”を育む大切な時間だと信じています。
沙織:子どもたちとの絆を深める“先行投資”!深い!子どもに限らず、夫婦とか身近な人。自分のやりたいことに付き合ってくれる、叶えてくれるってすごく嬉しいですよね。
舞麻:相手の好きなことに寄り添うと、自然と関係が深まるんですよね。夫は古いマニュアル車が大好き。私は車に興味がなく「目的地に着けば何でもいい」タイプなんですが(笑)、あえて「教えて」とお願いして、一緒に運転することもあります。
沙織:子どもに対しても、夫婦でも、「その人のためだけの時間」をつくることって本当に大切ですね。
舞麻:相手のやりたいことに寄り添い、心から耳を傾けて言葉を受け止める。その小さな積み重ねが、信頼関係を育てていくのだと思います。

ライター:プロフィール

1987年東京生まれ。
大学卒業後、損害保険会社の営業事務を6年間経験。
その後、夫の海外赴任に帯同するため退職し、1年間インド・ムンバイにて海外生活をおくる。
帰国後は、「おうちで働く」を一つの軸に、ベビーマッサージの先生、Webデザインの勉強、物販のお手伝い、ブログ運営、様々なことに挑戦しながら、最終的に「ライター」の仕事に巡り逢う。
興味のある分野は、人の働き方・生き方、マインドフルネス、教育。推しはBE:FIRST。プライベートでは2児の母。

Humming編集長、一般社団法人ハミングバード代表理事。カリフォルニア在住。
高校時代、スイスに住んでいたときに自然の偉大さに触れ、地球環境保全について学び始める。アメリカの美術大学でテキスタイル科を専攻。
今でも古い着物の生地などを使って、子育ての合間に作品を制作し続けている。