クラフトは私たちを癒してくれるのか? ──心理的な効果を探る
クラフトの世界が、今ふたたび注目されています。
編み物、刺繍、レザークラフト、キャンドル作り、ペーパークラフト、陶芸、ビーズアクセサリー…
クラフトにはさまざまな種類があり、どれも「手を動かす心地よさ」と「完成したときの達成感」が魅力です。
最近では、SNSや動画プラットフォームを通じて、クラフトのアイデアや作り方が気軽にシェアされるようになり、世代や国境を越えてクラフト人気が高まっています。おうち時間が増えたこともあり、「ちょっとやってみたい」と始めた人がその奥深さにはまってしまう…なんてことも珍しくありません。
道具を使って手を動かすうちに、無心になれたり、気分がすっきりしたりすることも。クラフトは、アートのように自由で、自分の「好き」をカタチにできる素敵な時間です。
今回は、そんなクラフトのさまざまな種類や魅力についてご紹介します。あなたにぴったりのクラフトがきっと見つかるはずです。
クラフトがもたらす心理的な効果とは?
Contents
1. クラフトは「今この瞬間」に集中することを助けてくれる
「クラフトは、瞑想的な活動にとても近いものです。何かを作っているとき、私たちはその作業に深く没頭し、目の前のことに集中している状態になります。つまり、“今ここ”にいるということなんです」と語るのは、ニュージャージー州とマサチューセッツ州を拠点とする心理療法士のエリース・ロビンソン氏。
今この瞬間に意識を向けることで、心が落ち着き、リラックスしやすくなります。「現代を生きる大人の多くは、常に何かしらのストレス反応の中にいます。つまり、体が常に“戦うか逃げるか”のモードになっているんです」とロビンソン氏は言います。このストレス反応により、ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されますが、クラフトに集中することでそのレベルを下げることができるほか、幸福感をもたらすホルモンであるドーパミンの分泌も促進されるのです。
不安やストレスを感じたとき、意識をそらす手段にもなる
「不安やストレスを感じていたり、頭の中で考えがぐるぐると止まらないときは、意識を別のところに向けることがとても効果的です。無理に瞑想しようとしてうまくいかないときは、代わりにペンを持って5分だけ落書きをしてみてください。たとえそれがただのグチャグチャな線でもいいんです」と語るのは、アーティストであり、アートとウェルネスの関係性に注目したディレクターのミーガン・マハフィー氏。
「その瞬間、脳は“ペンの動き”や“何を描いているか”に集中しているので、不安の症状に使われるエネルギーや時間が少なくなるんです。」
クラフトは、忙しく混乱した日常から一歩離れ、自分の時間に没頭するチャンスを与えてくれます。ストレスや不安、頭の中の雑音を一時的に横に置いて、作品作りに集中することで、私たちは“フロー状態”に近い感覚を得ることができるのです。
2. クラフトは、自信・自己への思いやり・レジリエンス(回復力)を育む
クラフトをしているとき、私たちはほとんど“何もない状態”から何かを生み出しています。たとえば、毛糸からセーターを編んだり、真っ白な紙に絵を描いたり、粘土の塊からマグカップを作ったり。こうして何もないところから形あるものを生み出すことで、「自己効力感(自分にはやり遂げる力があるという感覚)」が育まれると、心理療法士のロビンソン氏は言います。
「一般的に、自分自身や自分の能力を信じる力が強くなると、自分の“欠点”や“弱点”にばかり意識を向けなくなり、全体的なストレスも減っていくんです」と彼女は話します。
ロビンソン氏によると、自分をより思いやる気持ちやストレスへの反応が減ることで、自信が高まるのです。実際に、創造的な活動(クラフトを含む)に取り組むことで、感情を表現・調整するための貴重な手段が得られ、ストレスのかかる状況でも柔軟に対応できる力が高まると研究でも示されています。
「クラフトをすることで、“失敗しても大丈夫”という感覚が育ちます。人生ってそもそも混沌としていますから、それを受け入れる練習にもなります。物事を少し軽く受け止められるようになるんです」とロビンソン氏。「クラフトは、そういった心のスキルを、リスクの少ない形で自然と脳にインプットする方法なんです」。
さらに、クラフトは問題解決能力を鍛える実践の場でもあります。たとえば、新しい編み方を覚えたり、型紙を調整したりする必要が出てくることも。
「創造性を高めることは、問題解決能力や自己信頼、自尊心を育むことにつながります」と、アート・ガールの創設者であるマハフィー氏は言います。
3. クラフトは、人とつながるきっかけをつくってくれる
クラフトは、コミュニティとつながる素晴らしい方法でもあります。編み物サークルやクラフトクラブ、陶芸教室など、誰かと一緒に創作する機会を通じて、人との関係性が生まれていきます。
「何かを作るイベントに参加して、特に内省的なテーマに応じて作品を作るような場合、人と自然に深いつながりが生まれやすくなります」と、マハフィー氏は話します。「作品を通して自然と会話が生まれ、より深く、満たされたつながりにつながっていくんです」。
人とのつながりを感じることは、帰属意識、目的意識、そして支え合いの感覚を与えてくれます。現代ではコミュニティを見つけるのが難しいこともありますが、クラフトという共通の興味は、その第一歩を踏み出すきっかけになります。
クラフトは、私たちの人生にとって本質的に“いいことづくし”
クラフトは、心を落ち着け、自分自身を信じ、愛する力を育み、人とのつながりを築く手助けをしてくれます。そして何より、とても楽しいのです!
これらすべてが、創造性と自己表現に満ちた、健康で幸せな人生につながっていきます。
とはいえ、すぐに効果が実感できるものではないかもしれません。
「“クラフトを始めたのは先週なのに、まだ効果がない!”というように、すぐ結果が出るわけではないんです。でも、続けていくうちに、自己肯定感や自信、そして自己効力感が確実に育っていきます」とロビンソン氏は語ります。
マハフィー氏は、クラフトや創作を日常的なウェルネスの一部として「練習するもの」と捉えています。
彼女は、毎日のお絵かきのアイディアをシェアし、人々が創造性を日常に取り入れるサポートをしています。ただし、特別なスキルや道具が必要なわけではありません。どんなクラフトでもOKです。
「すべての人が、自分自身に自信を持ち、幸せだと感じる価値があると思います」とロビンソン氏は語ります。
「クラフトは、それを気づかせてくれる素晴らしい方法なんです。」
