「地球温暖化が進み、南極の氷がどんどん溶けている」──私たちが耳にするのは、そんな不安をあおるニュースばかりではないでしょうか。
海面上昇や異常気象のリスクを考えると、確かに深刻な現実があります。しかし、今週世界の科学ニュースをにぎわせたのは、そんな予想とは逆の出来事でした。「南極の氷が増えている」というのです。
おすすめ記事 ▶ 【ハミングが届けるポジティブニュース】 今日も、誰かの優しさが世界を救っている──クレーン運転手が見せた奇跡の救出劇と心温まる贈り物
過去10年の常識を覆す観測結果
中国・同済大学の研究チーム(王巍博士、沈雲中教授ら)は、2021年から2023年にかけて、東南極のウィルクスランドとクイーンメアリーランド地域で、年間平均108ギガトンもの氷床が増加したと報告しました。
1ギガトンは10億トン。108ギガトンといえば、アメリカの空母およそ150万隻分もの重さに相当します。数字だけを見ても想像しにくいですが、それほど膨大な量の氷が新たに積み重なったということです。
従来の常識では、2010年から2020年の間に南極は平均して年間147ギガトンの氷を失っていたとされていました。だからこそ、この氷の増加は驚きをもって受け止められています。
“NASAとドイツ航空宇宙センターの衛星観測により、異常な降雪量の影響で南極の4つの氷河盆地で氷が増加し、年間0.3ミリ分の海面上昇を相殺する可能性があることがわかりました。”
どうやって氷の増減を測るのか?
研究チームは、NASAとドイツ航空宇宙センターが共同で進めている人工衛星「GRACE(重力回復衛星)」と「GRACE-FO」を使いました。この人工衛星は地球の重力の微妙な変化を測定し、その変化から氷の増減を割り出すことができます。
結果、トッテン氷河、モスクワ大学氷河、デンマン氷河、ビンセンス氷河という4つの氷河盆地で氷の増加が確認されたのです。
原因は「異例の降雪量」
氷が増えた背景には、異常に多かった降水量があるとされています。 つまり、雪として降った水分が氷床に厚く積もり、失われる氷の量を上回ったのです。
この結果、年間0.3ミリの海面上昇を打ち消す効果が見込まれるといいます。これは2010年代に観測された海面上昇の約4分の1に相当するインパクトです。
もちろん、科学者たちはこの結果を楽観視していません。観測データは2024年に入ると再び氷の減少が見られたからです。氷の増減は季節変動の影響を強く受けており、増えた年もあれば減った年もあります。その繰り返しの中で、今回のような「増加トレンド」がどこまで続くかは、まだわかっていません。
それでも重要なのは、「南極の氷が一方的に減り続けているわけではない」という事実が明らかになったことです。
地球が見せる「回復力」
南極とグリーンランドの氷床は、世界の淡水の大部分を占めており、海面上昇の最大の理由とされています。だからこそ「氷が増える」という事実は、本来なら海に流れ出して海面を押し上げるはずの水が氷として留まっているため、地球が持つ自然の回復力を示す希望の光ともいえそうです。
気候変動の議論では「残された時間はほとんどない」と言われることが多く、無力感を抱く人も少なくありません。でも、南極から届いた今回のニュースは、そんな私たちに「まだ希望はある」と教えてくれます。
前向きな未来を描くために
南極の氷が増えたのは一時的な現象かもしれません。それでも、このニュースは「自然の変化には想像以上の可能性がある」ことを示しました。私たちにできるのは、自然の力を信じつつ、人間としての努力を重ねること。
南極から届いた意外な朗報は、未来に対して悲観するばかりではなく、「ポジティブな変化を信じる力」を持とうと私たちに語りかけています。

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。
出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。
Xアカウントはこちら