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自然と共存して生きること。ドキュメンタリー映画『ビッグ・リトル・ファーム』 レビュー

Writing by
條川純 (じょうかわ じゅん)

 

Humming編集部からお届けする映画レビュー。今回ご紹介するのは、世界中の映画祭で観客賞を受賞したドキュメンタリー映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』。この映画から私が得た気づきや感動を共有します。

 

ジョンとモリーは、カリフォルニア州サンタモニカの小さなアパートに住む若い夫婦。彼らには、「伝統的な方法で作物を育てる農場を持ちたい」という大きな夢がありました。シェフであるモリーは、栄養豊富な食材を育てる鍵は土壌にあると気がついたからです。個人で農場を持つという夢は遠く感じられるものの、状況を一変させたのは、トッドという犬との出会いでした。

 

トッドはよく吠える犬で、ジョンとモリーは騒音による苦情を受け、アパートを退去せざるを得なくなりました。新たな住まいを探している中、彼らは荒れ果てた234エーカー(東京ドーム約17個分)の農場に出会います。ここから、彼らの新しい物語が始まるのです。

 

このドキュメンタリーを見て、私は地球の持つ驚異的な回復力と自然の仕組みの精巧さに圧倒されました。たとえば、鶏がコヨーテに襲われた際、農場の犬が自然と鶏を守るようになり、コヨーテはゴーファー(ジリス)という害獣を駆除する存在へと変わっていきます。また、果樹が豊かになると、大量のカタツムリの発生に悩まされましたが、調査を進めるうちに、鶏がカタツムリを好んで食べることを発見。作物が害虫の被害にあった際も、化学薬品に頼らず、テントウムシが害虫を食べてくれるのをじっと待つ。自然のプロセスに耳を傾けて尊重することで、すべての問題が解決されていったのです。

 

農業に関する知識がほとんどなかったジョンとモリーに「自然の調和を信じて、忍耐強く見守ること」を教えてくれたのは、アランという農夫です。彼は自然の美しさを詩的に語る人で、「自然の調和を信じ、忍耐強く見守ることで、『共存の繊細なダンス』が始まり、命が互いに支え合う網の目が形成される。この過程は10億年以上にわたって続いている」と教えてくれました。アランの話を最初は半信半疑で聞いていたジョンは、時が経つにつれ、アランが語った内容が現実となっていく様子を目の当たりにするのです。

 

アランが癌で亡くなったり、彼らが大切に育てていた鶏がコヨーテに食べられたり、この物語は「死」についても描かれています。死んだ鶏を手に取ったジョンは、悲しみと苛立ちの中で「意思だけでは(問題を)解決できない」と語ります。しかし、自然界は弱肉強食の世界。生き残るために命をかけて狩りをする姿を、責めることはできません。

 

「シンプルであることは、必ずしも簡単ではない」「失敗から得られる小さな気づきが、生態系を作り上げるエンジンになる」とジョンは言います。数々の困難に直面しながらも、彼らは自然の力を信じ続け、多様な生き物たちが共存できる自然の生態系を築き上げました。多様な生き物の中にはきっと私たち人間も含まれているでしょう。

 

 

ジョンとモリーが農場で仲間を増やしていったように、私たちも夢や目標に向かって一歩踏み出すことで、同じ志を持つ人々と出会い、互いに影響しながら成長していくのだと思います。自然界では生態系。人間界ではコミュニティ。それらを築いていくことは、世界をより良くするために必要不可欠だと強く感じました。このドキュメンタリーには、農場の外での出来事はあまり描かれていません。欲を言えば、予算が底をついた時にどのように資金を調達したのか、農場の卵が市場で大ヒットした時に彼らの想いがどのように広がっていったのか、人間が創りだすコミュニティについてももっと知りたかったです。

 

この映画を通して、地球がどのように機能しているのか、また調和と混沌が共存する自然の美しさを垣間見れた気がします。私たちは飽食の時代に生き、便利さを追い求めるあまり、ファストフードや加工食品に頼りがちです。しかし、これからは自然の中で育った食材を味わう喜びをもっと感じたいと思いました。また、失敗を繰り返しても諦めず、理想の農場を追い続けるジョンとモリーの姿勢に、深く心を打たれました。

 

現在、ジョンとモリーが作ったアプリコット・レーン・ファームは繁栄し、自然の生態系について学べるツアーも行っているとのことです。「自然と調和して生きるということは、自然の不快さとともに生きるということだ」とジョンが映画の終わりに語った言葉は、人生そのものを象徴するメッセージだと感じました。

 

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ライター:プロフィール

インタビュー:條川純 (じょうかわじゅん)

日米両国で育った條川純は、インタビューでも独特の視点を披露する。彼女のモットーは、ハミングを通して、自分自身と他者への優しさと共感を広めること。


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