「更年期」という言葉に、漠然とした不安や、どこかネガティブなイメージを抱いていませんか?実は筆者の私自身もその1人です。多くの女性が経験する自然な体の変化であるにも関わらず、その実態や向き合い方については、あまり知られていないのが現状です。
今回は、更年期カウンセラーの斉藤さんをお迎えし、女性たちが抱える「更年期の悩み」に真正面から向き合います。なぜ更年期症状は起こるのか? そして、心と体が揺らぐこの時期を、どうしたら自分らしく乗り越えられるのか? 斉藤さんご自身の経験も交えながら、具体的なヒントと温かいエールをお届けします。あなたの「更年期」を「幸年期」に変えるためのヒントがありそうです。
ーー 更年期とは一般的に年齢ではいつ頃と考えられますか?
更年期の定義は決まっていまして、閉経を挟んで前5年、後ろ5年のあわせて10年を更年期と言います。最近の閉経の平均年齢が52歳ぐらいと言われていますので、だいたい45~47歳ぐらいから55~57歳ぐらいまでが更年期と考えたらいいかなと思います。
ーー斎藤さんご自身の更年期症状の体験について教えてください。どのような症状があり、どのように自覚されましたか?
私が更年期症状を自覚したのは42歳でした。当時、仕事とプライベートで大きなストレスが約1年間続いていた時期で、夜眠れない、気持ちが落ち込むといった症状を感じていました。ある時、仕事が終わってから一歩も動けなくなり、部屋が暗くなっても電気もつけずにソファに埋もれている状態になり、このままでは本当にうつ病になってしまうと危機感を覚えました。これが「おかしいぞ」と感じたきっかけです。
ーーその症状をどのように乗り越えられましたか?
周囲にいた婦人科の先生や美容家の方に相談したところ、「ホルモンが落ちてくる時期だから、ホルモンを安定させてみては?」とアドバイスされました。そこで低用量ピルを飲み始めたんです。低用量ピルは女性ホルモンを安定させる効果があるので、飲み始めてから体調が劇的に良くなりました。それまではうつ病やストレスだと思っていた症状が、低用量ピルでこんなにも安定し、元気になることができたので、これが更年期の入り口だったのかもしれないと感じました。
ーー更年期は誰にでも訪れるもの?
はい、更年期は思春期や成熟期、老年期があるのと同じように、誰にでも訪れる体のステージなんです。ただ、更年期症状が出るかどうか、どんな症状が出るかは、人それぞれなんですよ。
ーー更年期症状が出るのには、どんな理由があるんですか?
更年期症状が出るのには、大きく分けて3つの要因があるんです。
- 女性ホルモンの減少(卵巣の老化)
一番大きな要因は、女性ホルモンの減少です。卵巣の中に卵の赤ちゃんがたくさん詰まっているんですが、それがだんだん少なくなって、女性ホルモンが分泌されなくなるんです。これは、いわば卵巣の老化ですね。だいたい40代に入ると徐々に始まり、40代半ばくらいから一気に加速していく方が多いです。 - もともとの性格
二つ目は、その方のもともとの性格です。例えば、すごく生真面目で頑張り屋さん、「私がやらなきゃ!」と責任感が強く、抱え込んでしまうタイプの方は、更年期症状が出やすい傾向があります。 - 環境要因
三つ目は、その人の環境要因です。人間関係や生活環境の変化、大きなストレスが重なると、症状が出やすくなります。
よくあるご相談としては、お子さんの受験、夫婦関係の悩み、ご主人の転勤といった家庭の事情。あとは、ご自身のキャリアですね。40代半ばから50代前後で仕事の責任が重くなったり、部下を抱える立場になったりして、ストレスを抱える方も多いです。
これらの3つの要因が重なると、更年期症状が出やすくなるんです。
ーー更年期の症状には、どんなものがあるんですか?
更年期症状って、実は本当に多種多様で、最近は100も200も、いや300もあると言われているほどなんですよ。だから、「これって更年期症状なの?」とご自身では分かりにくいことが多いですし、更年期を受け入れること自体が難しいと感じる方もいらっしゃいます。
また、ストレスがかかっている最中は、それに一生懸命向き合っているから症状が出にくいこともあります。ストレスが落ち着いてから、例えば3ヶ月後とか半年後に、何かしらの不調が出てくるパターンも多いですね。夏の疲れが秋に出る、みたいな感覚に近いかもしれません。
ーー斉藤さんご自身も更年期症状を経験されたとのことですが、どんな変化がありましたか?
そうですね。それまでは特に大きな病気をしたこともなく、メンタルもそんなに弱くないと思っていましたし、仕事も楽しんでいました。でも、不調が出たことで、自分の健康との向き合い方、体との向き合い方を学ぶ大きなきっかけになりましたね。「このままじゃいけないな」と気づかされた感じです。
肌や髪のお手入れももちろんそうですが、私の場合、特にうつ症状が出たことが大きかったです。これまでの心の揺らぎの根本にある、自分のアイデンティティみたいなものをもう一度深く考えるきっかけになりました。これまでの生き方や物事の捉え方、両親や家族との関係など、普段あまり考えなかったことと向き合う時間になったんです。
ーー更年期って、人生の大きな節目のようですね。
まさにそうですね。よく転職や人生の大きな節目に「人生の棚卸し」をすると言いますが、更年期はまさにそのくらいの大きな機会なんです。
私自身、子どもがいないのですが、更年期を迎えた時に「もう子どもを産むことはないんだな」ということを改めて感じました。そして、「あの時違う選択をしていたら、子どもを持てたのかな?」とか、「自分が選んできた人生で今ここにいるけれど、もし違う選択をしていたらどうなっていたんだろう?」なんて、これまでの人生を振り返って、深く考えるようになりました。
今は、女性の生き方って本当に多様ですよね。子どもを持つか持たないか、仕事をするかキャリアを積むかなど、選択肢はたくさんあります。でも、選んだ人生はこれしかないわけです。そう考えた時に、更年期以降の人生、まだ人生の半分くらいしか来ていないから、あと半分どう生きていこうかなって、真剣に考えるようになりました。まさに「第二の人生」とか「セカンドステージ」の始まりだと感じています。
実際、うつ症状が出たことで、カウンセリングに行ったりして、もう一度自分を見つめ直す時間をかなり持ちましたね。
ーー更年期はつらい時期というイメージが強いですが、今後の生き方を考えるきっかけにもなるんですね。
そうなんです。女性の体は、閉経までは女性ホルモンによって守られているんです。病気もしにくいようにできています。毎月生理のたびに心も体も揺らぐ大変さはあるけれど、それがあって人生の半分まで来ました。そして、それがなくなることのちょっとした「解放感」のようなものも感じるんです。
ただ、心も体を守ってくれていた女性ホルモンがなくなることで、今度は「自分の健康をどうやって自分で作っていくか、育てていくか、守っていくか」を考える時期になるんです。
だから、更年期って悪いことばかりじゃないんですよ。私は、人として成熟して、この先さらに良い人生を歩んでいくための準備期間であり、きっかけを与えてくれている場所だと考えています。今年60歳になりますが、そう考えると、これから更年期を迎える方たちには「全然無理じゃないよ!」って心から伝えたいですね。
ーー閉経後に現れる不調や老化を緩やかにするために、40代からやっておくと良いことはありますか?
たくさんありますよ!もちろん「たくさんある」って言うと、ちょっとプレッシャーに感じるかもしれませんが(笑)。
一番大切なのは、本当に基本的なこと、食事と運動と休養を見直すことです。これは、すべての人にとって生活の基盤になる部分ですからね。
1. 食事について:
栄養バランスと「食べ方」が重要です。毎日完璧なバランスの食事を作るのは大変ですが、できるだけ彩り豊かにしたり、加工食品の裏の表示を見て添加物が少ないものを選んだりする意識を持つと良いでしょう。
更年期以降は、太りやすくなったり、コレステロール値が上がってきたりと、体の自然な変化があります。動物性脂肪の摂りすぎには注意したり、自分の体に負担になるようなものはできるだけ避けるように心がけてください。
若い頃と違って、更年期以降は食べてもなかなか身にならない(栄養が吸収されにくい)と感じることもありますし、カロリーだけを見て食事をするのも良くありません。極端なダイエットも体に負担をかけるので、無理なくバランスよく、基本通りの食事を心がけるのがおすすめです。例えば、甘いものの摂りすぎは良くない、というのは言われていますよね。
2. セルフケアについて:
40代になったら、これまで以上にセルフケアをしっかり行う必要があります。今までと同じだと、後から不調が出てきやすくなるかもしれません。
そしてもう一つ、大切なのは自分の弱点を知ることです。例えば、もともと偏頭痛がある方は、生理前のPMSがひどかったり、更年期に入ると偏頭痛がひどくなる傾向があります。そういった自分の弱点を早めに知り、対処しておくことが大事です。免疫も落ちてくるので、自分の体の声に耳を傾けてあげましょう。
ーー斉藤さんご自身が実践されている、おすすめのセルフケアはありますか?
私の場合、もはや「何が特別なの?」って聞かれても分からないくらい、日々の生活に溶け込んでしまっています(笑)。
食事については、昔はローフードを試したり、動物性のものを抜いたり、いろいろな食事方法を試しました。今はとりあえず3食はしっかり食べます。
朝食は、最近はだいたい決まっていますね。最初に野菜サラダ、次にヨーグルトにバナナを入れたもの、そして小さいパンを1個と卵1個、コーヒーです。その日の気分で適当にアレンジしています。和食ももちろん良いと思いますが、私の場合、朝にご飯とお味噌汁だとちょっと重たく感じてしまうので、このスタイルに落ち着きました。
お昼はご飯とお味噌汁と納豆、夜は野菜のおかずと肉か魚、海藻やキノコ類などを食べます。ご飯は食べてもお茶碗半分くらいです。
何を気をつけているかというと、一番最初に野菜を食べること。そして、いきなり炭水化物を摂らないようにしています。朝パンを食べる日は、お昼や夜にパスタなど、炭水化物が重なるものは避けるようにしていますね。
あと、これは私の体の「取扱説明書」のようなものなのですが、ご飯を食べないと便秘になるんです。昔は便秘で何日も出なくても平気だったんですが、50代に入って更年期になってからは、便秘になると本当に苦しくて。どうして便秘になるのかを自分なりに検証した結果、「ご飯」が私には必要だと分かったんです。なので、お米は朝昼晩のどこかで必ず摂るようにしています。だいたいお昼ですね。
それから、オリーブオイルを大さじ1杯は必ずどこかの食事のタイミングで摂るようにしています。そうすると、私の場合は便秘が解消されるんです。
この「ご飯とオリーブオイルと、最初に野菜を食べる」という自分なりのルールのおかげか、20年前、30年前の服が今でも全部着られるんですよ。スカートでもデニムでも。だから、体をキープする意味では、多分間違ってないんじゃないかなと思っています。
ーーご自身の「取扱説明書」を作られているんですね!
そうですね。きっと、更年期はネガティブになることももちろん多いし、自分を「ダメだダメだ」と思ってしまうことも本当によくあります。そんな時は、「どうやって気持ちを切り替えようか」「どうやったら自分の気持ちがちょっと晴れるか」ということを考えるようになりました。例えば、何も考えずにさっさとウォーキングすると、気分転換になったりしますね。
自分の心が何をしたら喜ぶかな?ちゃんと整うかな?ということを考えるのが大事だと思います。自分の取扱説明書を作るというのは、つまり自分をちゃんと観察してあげることなんです。
「私、今どういう気持ちでいるかな?」「私の体がどうして欲しいと思ってるかな?」といったことを、客観的に見てあげられるようになると良いですね。
あと、私は仕事柄、化粧品やサプリメントなど、いろいろなものを試す機会があるので、試した時に「なんかいいな」という気持ちになれるかどうかを大切にしています。皆さんも、いろんな情報をたくさん持っているけれど、それを試した時に「あ、なんかいいな」という自分の声が聞けなくなっていることがあるんじゃないかと思うんです。「口コミに書いてあったから良いはずだ」とかではなく、自分が試した時にどう感じるか、ピンとくるかこないか、というちょっとした感覚をもっともっと大事に拾ってあげることが重要なんじゃないかなと思います。
ーー更年期に差し掛かる前から、ご自身の体と向き合われていたんですか?
いえいえ、そんなことはないと思います。本当に40代に入るまでは、「私がやらなきゃ」とか、世間体や外の目ばかり気にしていました。今思えば、自分らしさみたいなものは本当になかったかな。自分のことは後回しでしたね。
でも、今のように「何かいいな」と自分が好きなことを感じられるようになったのは、まさに更年期のあたりから、もっと自分に目を向けるようになってからです。
「自分を大切にできるのは、自分しかいない」
セルフケアは自分しかできないこと。それに気づいた時に、本当に「自分ファースト」で行こうと思いました。もちろん、環境や状況によっては、なかなかそうはいかない方もたくさんいらっしゃると思います。でも、できる範囲で良いので、周りの人の助けを借りながら、それでも自分をちゃんとケアする「自分ファースト」を少しでも実行できたら良いんじゃないかなと思います。
これはね、訓練なんだと思いますよ。いつも自分を見てあげて、自分の気持ちや心が動く瞬間を見逃さずにキャッチしてあげることです。
ーー「ラマーナ」にいらっしゃるお客様は、更年期に関するどんな悩みを抱えていることが多いですか?
「これって更年期?」というご相談がすごく多いですね。ご自身に起きている症状や不調が、本当に更年期なのかどうかの確認だったり。
あとは、「つらい症状があるけれど、どうしたら改善できるの?」という具体的なご相談も多いです。体の不調よりも、どちらかというとやっぱりメンタル面ですね。気持ちが落ち込んでやる気が起きないとか、ひどい疲労感が抜けないとか、うつ症状、集中力がないといったメンタルのご相談が多いです。
確かに、素人目には「これは更年期障害な気がするけれど、もしかしたら別の症状かもしれない」と判断が難しいですよね。だから、そういう悩みを相談できる場所があるのは心強いと思います。
ーー婦人科での治療についても相談できるんですか?
はい、もちろんできますよ。婦人科での更年期症状や更年期障害の治療についてのお話もよくします。
「婦人科でこういう治療があるよ」「治療にはこういう方法があるよ」といった情報提供ですね。例えば、ホルモン補充療法は婦人科の保険診療で受けられますし、漢方薬も保険で処方してもらえます。あとはプラセンタ注射も更年期治療で保険が適用される場合もあります。
そういった情報を、その方の状態に合わせてお伝えしています。
ーーラマーナでは、どんなサポートをされているんですか?
当サロンにいらっしゃるお客様は、フェイシャルやボディのマッサージといったトリートメントを受けながら、私との会話の中で「最近こういうことがあってね」といったお話をしてくださいます。
そこで、「それ、更年期かもしれないからちょっとチェックしてみましょうか」と、更年期チェックリストでご自身の状態を確認してもらったりします。定期的に来てくださる方には、毎回「最近どう?」と体調を聞きながら、おすすめのサプリメントや生活習慣についてアドバイスしたり、本当に必要そうだと感じたら、「かかりつけの婦人科を持った方がいいよ」と、婦人科のかかり方や選び方についても具体的にアドバイスすることもあります。
ーー友達と話すだけでは終わらない、次のステップが見えるサポートは心強いですね。
これは皆さん、本当によくおっしゃいますね。「友達同士では『更年期だよね、そうかもね』って話すけど、結局何も解決しないんだよね」って(笑)。
もちろん、話すことはとても大切ですよ。女性はコミュニケーションをとってストレスを発散したり、ハハハと笑って免疫を上げたりします。女性ホルモンって、ニコニコ、ウキウキ、ワクワクするホルモンなので、そういう時間を持つことは女性ホルモンの活性にもつながります。
それはすごく良いことなんですが、その先に「更年期に対してどうしたら良いか」という具体的な選択肢が示されるかどうかで、その後の対処が変わってくると思うんです。まさに「取扱説明書」の作り方に関わってくることなので。
治療もあれば、アロマセラピーやハーブ、呼吸法といったセルフケアの仕方もあります。何か一つだけで劇的に良くなるというわけではないから、いろんなものを組み合わせて自分をサポートしていく、持ち上げていくという考え方が大切なんですよね。
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斉藤万奈
証券会社で役員秘書として10年間勤務した後、ジュリークショップ青山、新宿伊勢丹BPQCジュリークショップ店長を経て、2002年二子玉川にてエステティックとリラクゼーションのサロン「ラマーナ」をオープン。これまでに15000人の女性の美と健康をサポートしてきた中で、更年期を軽やかに乗り越えることの大切さを実感し、近年は施術やカウンセリングなど更年期ケアに注力している。
2014年より女性ライフクリニック新宿にてメノポーズカウンセリングを担当。
・CIDESCO認定エステティシャン
・IFA認定アロマセラピスト
・NPO法人更年期と加齢のヘルスケア認定メノポーズカウンセラー メノポーズカウンセラーオブザイヤー2022受賞
エステサロン「ラマ―ナ」HP | https://la-marna.jp/ | Instagram

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。
出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。
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