
ウミガメ100万の巣が示す希望
夜明けの砂浜に広がる、100万個ものウミガメの巣を想像してみてください。 今、インド西海岸では、絶滅の危機を乗り越えたウミガメたちが驚くほどの生命力を謳歌しています。20年前と比較すると、その数はなんと10倍。
かつて「もう絶滅してしまうかも」とあきらめられていた状況を、人間の手による地道な保護活動が変えました。自然の再生力と、諦めない心が起こした「100万の奇跡」。今回は、その温かなストーリーをひも解いてみましょう。
“インド西海岸でウミガメの巣が20年前の10倍となる約100万個に増え、地道な保護活動によって絶滅の危機から大きく回復したことが明らかになりました。”
最近の報道によると、インド西海岸で確認されたウミガメの巣は約100万個に達したそうです。この数字は20年前と比較して10倍という驚異的な増加です。
「オリーブヒメウミガメ」は世界で最も個体数の多い種ですが、それでも国際自然保護連合(IUCN)によって「※危急種」に分類されています。赤ちゃんガメのうち成体まで生き残れるのは1000匹に1匹という厳しい現実があるため、個体数が多くても油断はできないのです。
※ このままの状態が続くと、絶滅してしまう恐れがある『絶滅危惧種』の一歩手前の状態のこと。
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赤ちゃんガメがつなぐ、希望のフェスティバル
インドのベラスで毎年開催される「ベラス・タートル・フェスティバル」では、昨年4月、数千人の観光客や地元住民が集まりました。赤ちゃんガメが次々とビーチを這い、転がり、よたよたと海に向かう姿を見守り、歓声を上げました。
このフェスティバルは、インドの海岸に巣を作るオリーブヒメウミガメの素晴らしさを広め、保護意識を高めるために、ウミガメを愛する人々によって企画されたものです。
“「ベラス・タートル・フェスティバル」は、ウミガメ保護への理解を広めるために開催され、年間を通した卵の保護や孵化支援の取り組みのもと、観光客と地元住民が赤ちゃんガメの海への旅立ちを見守るイベントです。”
保護活動は年間を通じて綿密に行われています。1月にメスのカメが巣を掘る場所をカメラで記録。その後、ボランティアや自然保護活動家たちが巣を掘り起こし、卵を大きな孵化場に移します。これは、鳥やトカゲ、犬などが海岸線から孵化前の卵を食べてしまうのを防ぐためです。
赤ちゃんガメが孵化して海へ向かう時が来ると、フェスティバルのチームが付き添い、すべての赤ちゃんガメが初めて鱗に塩水を感じ、波の音と観客の歓声に包まれながら海へと旅立っていきます。
現在の成功に至るまでの道のりは長いものでした。インドを代表するウミガメの専門家、カルティク・シャンカー氏は、20年前にはインド全海岸線で確認された巣は約10万個だったと語っています。この10万という数字は多いようにも聞こえますが、赤ちゃんガメの生存率を考えると、個体数の回復には不十分な数字でした。
“ベラスではウミガメ保護のために、巣の記録や卵の移送、海への誘導など年間を通じた取り組みが行われ、海岸開発の禁止や漁業規制、清掃活動などが導入された結果、20年前には10万個だった巣の数が現在では約100万個にまで回復しました。”
シャンカー氏らは、オリーブヒメウミガメがベラスの町から永遠に姿を消したと思っていました。しかし2000年、ビーチで1個だけ卵が発見されました。シャンカー氏は、これは海のどこかにカメがいて、いつかベラスに戻って巣を作ることを意味すると確信しました。
彼は町議会にこの事実を説明し、海岸の建設禁止を含む保護措置の実施を訴えました。この訴えが受け入れられ、ウミガメ保護への第一歩が踏み出されたのです。
海岸建設の禁止に続いて、季節的な漁業禁止、保護海岸区域の設定、そしてビーチをきれいに保つためにスタッフの配置が行われました。ウミガメがクラゲ(カメの大好物)と間違えて食べてしまうプラスチックゴミを海岸から取り除くことも重要でした。
「ある程度の保護措置が講じられたとき、オリーブヒメウミガメは回復しました」とシャンカー氏は話します。この冬の営巣シーズン中に、カメたちは「約100万個の巣を掘りました。これは信じられないほど多い数です」。
アオウミガメが見せた再生の力
この成功はインドだけの話ではありません。昨年10月、世界の国際保護機関であるIUCNは、アオウミガメがもはや「絶滅危惧種」ではないと発表しました。カリブ海からインド洋まで営巣するこれらの優雅な巨大ガメは、1970年代以降、着実に回復を続けています。
IUCNへの勧告を準備したチームの一員であるブライアン・ウォレス氏もこう話します。「私たちはアオウミガメの個体数について非常に心配していた状態から、過去数十年にわたって彼らの数が増加するのを見守ってきました。もちろん、まだ完全に安心できるわけではありませんが、報告書が示しているのは、一般的に言って、正しいことをすれば保護活動は効果を上げるということです」。
“気候変動やプラスチック汚染などの脅威は残るものの、地域住民・科学者・政府の協力により保全が実を結び、1個の卵から始まった希望が100万個の巣へと広がったことは、人間の行動が自然に大きな再生をもたらせることを示しています。”
海にどれだけの数のウミガメが存在するかを正確に知ることは困難です。保護活動家たちは、個体数の代用指標として巣の数を使うしかありません。でも、この巣の数の劇的な増加は、確実に個体数の回復を示しています。
ウミガメの回復は素晴らしいニュースですが、これで安心というわけではありません。気候変動、海洋プラスチック汚染、違法漁業など、ウミガメが直面する脅威は今も存在しています。
インドでの成功は、地域コミュニティ、科学者、ボランティア、そして政府の協力があってこそ実現しました。海岸建設の制限、漁業規制、清掃活動、そして地域住民の意識の向上――すべてが組み合わさって、ウミガメたちに第二のチャンスを与えたのです。
たった1個の卵から始まった希望が、今では100万個の巣へと成長しました。この物語は、諦めずに保護活動を続けることの大切さ、そして人間の行動が自然界にポジティブな変化をもたらせることを教えてくれています。

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。
出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。
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