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【ハミングが届けるポジティブニュース】スイスの奇跡:かつて汚染された川が、ヨーロッパで最も美しい都市の遊泳スポットに!

Written by
堀江知子(ほりえ ともこ)

 

 

「地球に優しい取り組みは、未来を確かに変えていく」——そんな希望に満ちたストーリーが、スイスから届きました。

 

不安や問題が絶えないように感じる現代。でも、そんな今だからこそ、世界のどこかで生まれている「静かで確かな前進」に目を向けてみませんか。ハミングでは、そんな「ポジティブなニュース」を大切に届けていきたいと考えています。

 

今日は、“汚染の川”が“真っ青な美しい川”に変わった、スイスの取り組みをご紹介します。

 

スイスでは過去数十年にわたり水質改善が行われてきました。その成果はまさに驚くべきもの。現在では、スイスの川や湖はヨーロッパでも指折りの「都市型スイミングスポット」として注目され、多くの人々が水辺でのひとときを楽しんでいます。

 

ただ、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。

 

汚染と病気に苦しんだ1960年代

 

1960年代のスイスでは、水質汚染が深刻な社会問題でした。当時は下水処理への投資が少なく、多くの都市や村では生活排水がそのまま川や湖に流されていたのです。美しいはずのジュネーブ湖も、藻が一面に広がり、魚が浮かんで死んでいる——そんな光景が日常でした。

 

極めつけは、1963年に(スイス南部の村)ツェルマットで発生した腸チフスの集団感染。原因は未処理の下水が飲料水に混入したこと。複数の死者が出て、数百人が病気になりました。この悲劇がきっかけとなり、国を挙げた水質改善プロジェクトが始まったのです。

 

Soldiers arriving in Zermatt to help out with the typhoid epidemic in 1963. Photograph: Ullstein bild/Getty Images

 

未来のための投資と市民の声

 

それからというもの、スイス政府は巨額の資金を下水処理と水質保全に投入。1965年には、下水処理施設につながっている人口はわずか14%でしたが、今ではなんと98%の人々がきちんとした処理を受けた水環境に暮らしています

 

「スイスの人々にとって、水の質はとても大切なものです」と語るのは、環境工学会社ホリンガーの廃水処理責任者ミヒャエル・マトル氏。「私たちは、スイスを流れる水を汚さないように細心の注意を払っています」。

 

現在、スイスは一人当たり年間191ユーロ(約3万円)を水質浄化に使っています。これは例えばイギリスの98ユーロと比べても、実に2倍近い額です。スイスは、国として「きれいな水」を守ることに本気であることがわかります。

 

「薬剤」まで除去する次世代の処理技術

2016年からは、人体から排出される薬剤(抗うつ剤、糖尿病治療薬や抗生物質など)による水質汚染にも注目が集まっています。これらは従来の下水処理では除去が難しいため、スイスでは「活性炭フィルター」を使った新技術が導入され、なんと80%もの薬剤を除去することが可能に。

この技術を支えているのは、まるで人間の胃腸のように「バクテリアの力」で水中の有機物を分解する高度な施設です。それでも、メディアで「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFASなどは、依然として残ってしまうのが課題。そのためスイスは現在、こうした残留物質に対する法整備に取り組んでいます。

 

 

世界各国がスイスから学ぶ時代へ

 

こうしたスイスの取り組みは、隣国にも大きなインパクトを与えています。ヨーロッパ諸国は、スイスの先進技術と運用体制に注目しており、現在では10,000人以上が暮らす地域の下水処理施設に「薬剤除去」の義務化を検討中。スイスが実現した「きれいな水」のビジョンが、いまやヨーロッパ全体に広がろうとしています。

 

 

 

“水辺のある暮らし”が、未来を変える

 

そして今、スイスの川や湖では、春先の冷たい時期から人々が水辺で楽しむ風景が広がっています。通勤前のひと泳ぎ、家族連れの週末ピクニック、年配のご夫婦の水中ウォーキングなど、それぞれのスタイルで水辺の暮らしを楽しむ姿は、まさに「自然と共に生きるライフスタイル」のお手本です

 

この変化は、ひとつの技術革新や政策だけで起きたわけではありません。住民の声、政治の意志、専門家の知恵、そして「未来のためにできることを今やろう」という市民の想いが、長い年月をかけて形になったといえるでしょう。

 

地球に優しい行動は、決して遠い話ではありません。スイスの川が教えてくれるのは、「環境の奇跡」は、今日から私たちにも始められる、ということだと感じます。

 

今回ご紹介したトピックは、小さな希望の光のようなもの。

世界にはまだまだ素敵な出来事がたくさんあるのだと、改めて感じさせてくれます。

これからもハミングは、そんな前向きなニュースを丁寧に拾い集めていきます。

 

参照記事:https://www.theguardian.com/environment/2025/mar/17/from-sewage-and-scum-to-swimming-in-blue-gold-how-switzerland-transformed-its-waterways-aoe?utm_term=67dfcda5f324cd8f0de1daab781f9366&utm_campaign=TheUpside&utm_source=esp&utm_medium=Email&CMP=upside_email

 

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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